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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第13話 祭前夜

飯テロ?注意です。前話の口直しに

 隆慶(りゅうけい)三年 永禄(えいろく)十二年六月 真三郎九歳


 金武御殿(うどぅん) 二番座


朝公(ちょうこう)様、こちらが試作の品になります」

 真三郎達の前に工房(らぼ)勤務の文子(てぃごく)(下級役人)の一人が盆に乗せた怪しげな固まりと、壺や升を次々と並べはじめた。


「おおっ!これは形になってるじゃないか?ん?」

 嬉々として盆に載せられた品を手にとった瞬間、真三郎の顔が醜く歪む。


「申し訳ありません。そちらの盆に乗せたものは、山猪(やまし)の脂に、いくつかの灰汁(あく)を組み合わせたものになりますが……まず、お感じの通り、悪臭がかなり……灰は草木、何れを掛け合わせて作って見ても似たような出来にございました」

 様々な色が着いた塊を差し出す。

「試みに、香りの良い月桃(げっとう)、よもぎ、シークヮーサー等を加えてみましたが、山猪のきつい獣臭はいかんとも……」


「確かにちと匂うが、性能に問題はないのでは?」

 慣れてきたのか、再度鼻を近づけてみる、


「それからこちらは、名護(なご)間切から大漁であったイルカ(ひーとぅ)の脂が安く入ったもので……」


「うっ、いや、これは余計臭い」

(イルカは緑豆(ぐりーんまめ)とかいろいろと不味いしなぁ。まてよ?確かあいつらもこの時代?もうちょい後なら太平洋沖まで来て捕鯨とかして脂をとってたんだっけ?)


「はい」


「やはり、脂が問題かと思い、次は胡麻、椿、菜種の油を使用しましたが……」


「今度は固まらぬか?」


「はい、臭いは少なく、少しは泡立ちますが、上手く固まりません。灰の材料を変えてみたり、混ぜる量、火にかける等試みております」

 壺や升から小量の液体を嗅いだり、とろみやねばつきを指先で触れて確めてみる。

櫨蝋(はぜろう)や、蜜蝋を混ぜると固まりましたが、元値が高くなりすぎまして」


「それで、泡は立って使えるか?」


「獣の脂は臭いますが、下帯等の汚れ物なら問題はないでしょう。逆に獣皮の(なめ)し等には使えそうかと」


「革の鞣しねぇ、こっちでレザーは暑いか」

(いや、まてよ、こっちに体が慣れたのか、雪も降らないけど、冬は寒いしなぁ)


「レイザァ?」


「いや、なんでもない。で、」


「櫨蝋や、蜜蝋は、蝋燭(ろうそく)の材料に必要ですし、先日山に植えた櫨か採れるようになるには少なくとも5年はかかるでしょう。そもそも、明から運ばれる蝋燭では高価すぎて使えません」


「わかった、わかった。チート石鹸は絶対売れるから、そのまま、んーとりあえず、臭い消しの素材を加えてみるのはいいかも、灰ももう少し試してみて、俺も考えておくし、試作品は保管して寝かせてみるのもいいかも」


「はっ」


「次は?」


「とう()です。庭に試作四号機が」


「春の米と、蕎麦をそれぞれ籾刷(もみす)りまで、終えております」


「うぉー!すごいぞ!でかいぞ!まず、俺がやっていい?」

 初号機の作成には参加したが、その後の改良は工房(ラボ)付きの大工に委せっきりだった真三郎が飛び付く。


「朝公様、動かす速さがにコツが……ああっ。速すぎると折角の米がぁ」

 前回は上手く分別できず、回すうちに壊れたが、今回はスムーズに風を送れるようである。スムーズ過ぎて籾殻の排出口から大切な米が飛び出していく。


「お、おう、こんくらい?」


「どう?三良?」


「もう少し、もう少しゆっくり回さないと、精米した玄米がどんどん飛んでいきますよ」

 開発責任者となった三良が、回すリズムと疲れない廻し方を丁寧に指導する。


「そうか?じゃあ……こんくらい? どうだ?」


「はい、では、上から籾刷り米をいれると、真牛」

 真牛が改めて投入口からゆっくり籾刷り米を入れると、四号機下部から見事に玄米が落ち、真三郎の動かすハンドル部分の反対側、排出口から籾殻が噴き出した。


「うひょー出来た、出来た!今度は完璧やぁ!かんジィ、樽金、どうだ売れると思うか?」


「ひょ、ひょ、値次第かのぅ。じゃが、」


「じゃが?」


「これほど大きいと金武から売り歩くのは無理じゃて、ひょ、ひょ、ひょ、ひょ」


「し、しまったぁ」


「まぁ、こちらも千歯同様、大工の手仕事としては?真三郎様のうろ覚えだという、あんな適当な絵図面からここまで仕上げたのですから」


「そうだな、まずは、うちの間切優先で、その後は図面もつけて、先島や大島まで普及させよう。

 ただの箕で延々と振るうのはかなり大変だしな。で、大工から儲けの一割程度は上納させられるかな?」


「最初は頂けましょうが、千歯と一緒、もう少しは掛かるでしょうが、直ぐ模倣されましょう」


「いや、それは別段特許とかないし、発明したわけでも………民の仕事が楽になり、手仕事に回せる余裕が出来るとみるべきか。よし、それでいいか。で、今日の報告はこれくらいか」


「はい」


「よーし、じゃあ今日は、月末に久米の祭に行く準備についての話し合いだ」

 大風(うふかじ)からの復興も道半ば、ようやく進みだした内政の話題から急に祭見物にと話題を振る真三郎。

「見物だけじゃないのですか?」


「折角の祭だ、城にいた時はなかなか外出なんぞできなかったし、金武に来てからはあれやこれやで忙しかった。祭は参加することに意義があると昔の偉い人が言ってたぞ!」


「金武王子ともあろう御方が、町衆の祭なぞに」

 箕の出来には感心しきりであった傅役(もりやく)安李(あんり)が渋い顔で異を唱える。


「ひょ、ひょ、ひょ。目立つ黄金(くがに)(じーふぁ)を外して、町衆の服に着替えたならどこぞの地主や、大店の倅にしか見えんじゃろうて。安心せい」

 意外とノリノリなかんジィが渋る安李と久米出身故に絶対に迷惑がかかるであろう樽金を説得する。


「流石かんジィ!かんジィの孫って設定でいこうや!」


「ひょ、ひょ、楽しみじゃ、兄上もよー忍んでいってたのぅ」


「では、参加とは綱引きだけでよろしいでしょうか?まさか競馬?」


「競馬?ギャンブルあるの?」

 競馬と聞いて真三郎の脳裏に馬券が乱れ飛ぶ公営の遊戯が思い浮かぶ。

「ギャンブル?」


「いや、賭事?」


「優勝した者や、勝ちを当てる賭は密かにはありますなぁ、庶民の娯楽ですが、真三郎様の腕ではとてもとても」


「出るわけないだろ、賭事はちょっと小遣い程度なら?」


「ほぅ。そのような事を抜かすようですなら!」

 樽金の目が冷たく光る。

(いや俺も形だけとは言え、既に元服(おとな)してるし、法律なんかないけど、)

「ううっ、わかった。ごめんなさい。大人しくしてます。

 あーそれから祭中は、久米唐営の中では樽金の実家の世話になりたい。羽友に子細を書いて文を出しておいてくれないか?」


「畏まりました」


「んでだな、折角祭に行くなら屋台を出したい!」


「「はぁ?屋台?一体何を?」」


「いやな、祭だろ?折角だし何か食べる物でも出して一儲けしようよ、金武王子、御殿の名前はもちろん出さない。一間程の場所さえ確保してと、用意に程家の台所は借りたいけど」


「で、今度は何をやらかすおつもりで?」


「蕎麦だよ、蕎麦!」

 ツルツルっとすする身振りで皆を見渡す。

「昨年の大風の後間切の荒れ畑に沢山植えさせたが、米はもちろん、小麦や粟、大豆と比べたら値が安すぎる。蕎麦がきだけでない食べ方を広めるんだよ。その後は芋ね!」


「米飯の嵩ましや、蕎麦がき以外の食べ方とは?」


「麺だよ、麺!ソーキそば」


「麺ですか?確か、大和から素麺なるものが、寺の催事で食されると」


「城でも出たよ。あれは確か小麦。細すぎるし、ここは在庫があって安い蕎麦を使わないとね」


「かめオバァには話をして台所を借りる約束を貰ってるから皆ついてきて!」



 ◆


「うーん、ボッソボソだぁ。こんな感じだったはずなのに。なんかコツがあるのかなぁ、色もやけに黒緑っぽいしなぁ」

 一尺四方に薄く伸ばされた塊に頭を抱える真三郎。

 蕎麦の端はひび割れ千切れて既にボロボロだ。


「殻をちゃんと取れば白くなるとして、いや、こっちが薫り。兎に角、切って茹でて、試食の(タイム)だ」


「蕎麦がきとの違いは……」


「んー速く茹であがるだけで手間の割に違いはないな」

「ひょ、ひょ、年寄りには食べやすいぞ」

「あ、ありがと、かんジィ」


「ほれ、もったいないからカメ、カメ!次は、オバァがつくろーかねぇ。蕎麦だけだと延びないから、ちょっと団子用の小麦を足そうねぇ」

 とう箕で精製した蕎麦からきれいに殻を取り、石臼で粉にした蕎麦粉はうっすら黒緑色を帯びており、引き立ての薫が辺りに漂う。


 真三郎の見本のどこが参考になったのかは兎も角、あっと言う間に見事な手つきで均等に伸ばし、細く麺状に仕上げていく。

「流石!かめオバァ!こっちは出汁をやろう。ソーキは?」


「ハイ!ハイ!山猪の骨付き肉を味噌で柔らかく煮てあるさぁ」


「じゃあ、骨とかを煮たスープに、ネギはないな、三良!ちょっと庭から(フーチバー)でも摘んできて!」


「はっ!先に食べないてくださいよ!」


「ハイ!出来たさぁ かめオバァ特製の蕎麦汁さぁ」


「えーと、ソーキそばで」

 大振りの(かまい)に茹であがった蕎麦麺に猪骨出汁が張られ、上には甘辛いソーキの煮付け、青みとして蓬の新芽を散らした真三郎のイメージに近い一杯が完成する。


「行き渡ったな?では、実試食!」


「ズルズル!」「ほう?」「これは?」「ふむ」「はふはふ」

「これは実にマーサンドー!」「熱いが旨いなぁ」「猪肉!猪肉!うまし!」


「ふむ、まず、猪の骨汁は丁寧に灰汁がとられているのか、決して濁ってはいない。

 香もどうしても残る僅かな獣臭をふーちばー(ヨモギ)が見事に消しているな。

 塩加減も絶妙!しかし、問題は麺だ!ほう、ぷちっと噛みきれる食感、立ち上る猪出汁に負けない引き立ての蕎麦の香り、のどごし。んー美味!」

 手を付ける前に表面から立ち昇る薫りに色彩を楽しみ、豪快に大(かまい)を持ち上げるや出汁を一口、更に麺を一気に啜った真牛が想定外にソーキそばを批評を語り出す。

「付け合わせは、山猪の肋骨まわりの一番旨い肉を骨ごと味噌で煮付たものか。

 ん?これは、味噌だけでないな?大蒜(にんにく)、生姜、甘味はキビの絞り汁?後わずかな臭みを消しているは山椒?違うな。こ、これは一体?」


「フェ、フェ、フェ、よーそこまで見破ったものよ。流石は真牛さぁ。隠し味はこれさぁ。これが石垣島から取り寄せたヒハツさぁ」

 急に悪役首魁の様に豹変したオバァが袖下の隠しから小壺を取りだし、中の香りを真牛に嗅がせる。


「な、なるほど、ヒハツ(それ)だったのか!」


「いや、ちょっと待て、真牛にかめオバァ。

 真牛!そこではだけるな!服を脱ぐなって!筋肉(マッチョ)自慢なのは分かった、って!オバァまで何を!目が!目がぁぁぁ!!」

 あっと言う間に食べ終わり、別次元の才能の片鱗をかいまみせた真牛に何故か同調(シンクロ)し真三郎に悪夢を魅せ?見せつけたオバァを落ち着かせる。


(ち、違う!確かに旨いが、これはどっちかといゆーと鴨南蛮!)

(いや、豚南蛮になってる。なんでだぁ??)

「ひょ、ひょ、真三郎様、これはなかなか旨いですなぁ。いやぁ、流石かめオバァ!」


「いやですわぁ」

(ゲロゲロゲーロ! ジジィババァが二人の世界をつくって見つめ合うなって!そこ!頬を赤めるなぁ!肩に顔を乗せるなぁ)


「で、真三郎様。これを何文でお売りになるので?」

 樽金の冷静な声が真三郎を現実の世界に連れ戻す。

「はっ!そ、そうだなぁ 山猪は駆除も兼ねて捕まえるとして、一杯五文では?」


「肉もありますし、久米の大祭。高価なヒハツにもの珍しさも加味しましたら八文はいけるのでは?」

 樽金、お金が絡むと驚く程素早い。早速算盤を出して必要な食材の量の計算をはじめる。


「よし、肉なしは五文、肉入りは八文。祭の前後三日で三百食は売るぞ!飽くまで蕎麦食の普及が当初の目的だからなぁ。忘れるなよ!」


「かめオバァは残念だけど、足も悪いから留守番ね。作り方を真牛と三良に仕込んどいてね!」


「そうさねぇ、こればかりは残念だけど仕方ないさぁねぇ」


「オバァ、土産はまかちょんけーひょ、ひょ、ひょ」

「はいー オジィ!でーじやさしぃさぁ」


 ゴホン!ゴホン!

「あー二日前には蕎麦を粉にして持っていくから、樽金は悪いが、五日前には実家に前入して準備の方を頼む。首里の屋敷の文子(てぃごく)達も留守番続きで暇だろうから、二人ぐらい使っていいぞ!」




 この料理の重大な欠陥に気づかず、高校の文化祭の乗りで楽しそうに準備を進める真三郎達であった。


近場でソーキそばあるところ行きたいな。

沖縄居酒屋はランチしてたかな?

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