第12話 恩納巡察
グロ 注意 一部不適切な表現がございます。
隆慶三年 永禄十二年五月 真三郎 九歳
金武間切の北の端、隣接する名護間切、三司官の一人である名護親方の采地に隣接する名嘉眞村に真三郎一行は巡視に訪れていた。
「臭い、臭いぞ、おまえか三良?」
クンクンと辺りに漂う臭いを嗅いだ真三郎が並んで騎乗する三良に濡れ衣を着せる。
「ち、違いますよ!」
「じゃあ真牛? ほのかに牛の……」
今度は斜め後ろからさりげなく周囲を警戒している真牛に話放り投げる。
「真・三・郎・様、御冗談はそれこまでです!ちゃぁーんと前を見てください。馬から落ちますすよ!」
真牛が杖替わり握る竹の棒がメキメキと音を立て始めた。
「はっ、はひっ! ……しっかし臭いなぁ、まじで臭い。 蕎麦の花の匂いってう〇この臭いだよな」
「ぷぷっ」
「臭い、臭いって、うるさいですよ。もー!真三郎様が飢饉対策に蕎麦を植えさせたんじゃないですか?一番貧しい村の現状を視察をっていうからここまで来たんですからね」
一番後ろからついてくる樽金が飽きれた様に深くため息をつく。
「悪い、樽金、三良。……で、なんでこの村はこんなに貧しいんだ?」
「そうですね。記録によりますとこの名嘉眞村は前回。
5年前の地割の際には二百石、六十戸程はあったそうなのですが、大風による山崩れによって多くの耕地が流され、相当数の死者も出たそうです。田畑や働き手が大きく減ったものの租税が減免されず、借金による人買で更に働き手が減ったそうです」
「減免がない?名嘉眞の大屋子は何を?」
村単位で税を割当て、租税を集めるのが大屋子である。地域の有力な百姓で、親雲上と士族扱いされ、いわゆる名字帯刀が許された村長さんみたいな役目だ。
村のまとめとしてあるだけでなく、いざというときの連帯責任、首里との交渉も行う。
「当時の大屋子が王府に貢租の減免を申し出たそうですが、途中で、その……心労から倒れそのまま……」
「あっ 察しぃ。 なるほど、で、俺の領地になってからは?」
(途中の役人とかが握りつぶしたとかかぁ。悪代官ってゆーやつね。って後任の総地頭ってば俺じゃん)
「はい、真三郎様が金武王子となりまして、実際上は羽地の安棟様がお預かりした際、五年前には実情を確認し、かなり減免した筈なのですが……すっかり荒れ果てた土地では実りも悪く、その為に多くの民が那覇や周辺の村に逃散したようでして」
「連帯責任かぁ」
琉球の土地は公地公民、つまり私有地がなく、ぜーんぶ王様のもの。
その土地の管理を大和風にいうと武士たる士族が行い、農民は働き手の数等で耕す耕地を平等に分配される。
……が、当然、ここでカラクリがある。大屋子、捌理や、文子等村で何らかの役についている半役人に給料分として与えられる地頭地はもちろん。
袖の下を渡せる程比較的裕福な家に、神女の給料分のオエカ地は何故だか良い耕地ばかりが当たるようになっている。
また、数年で耕地を交換しなければならないともなれば農家の基本中の基本である土づくりも熱心に行われることも無くなる。こうして、ますます貧しい農村、農家がデフレスパイラル的に荒れ果てて行く原因ともなっている。
また、間切、村単位での税が定められているので、一軒でも農家が逃げ出すと生産性がますます下がり、連帯責任で村全体が困窮することになるのであった。
「名嘉眞村では年貢の負担が重く、それ故に近隣の村から嫁の来るあてもなく、寂れる一方かと……」
(あっ なんかまだ九歳児のはずなのに俺の心をなんかグサッと突き刺さるこの感触……)
「このまま放置はできないなぁ。まぁ、なんとか考えよう!…が、とりあえず飯だ。お腹すいたな」
鞍の上でピシャリと膝を叩いた真三郎が急に食事休憩を言い出す。
「さっきまで臭い、臭いって騒いでいたのに」
在らぬ疑いすらかけられてた三良が呆れながらも馬から降りるに必要な補助を行う。
「きっともう、臭いに慣れてきたんですよ。向こうの木陰で休みましょうか。おや?村の子ども達が寄ってきました」
◆
「デージ!」「だれ?」「偉い人?」「お馬さんだぁ」
「なんかちょーだい!」
「「ちょうだい!」」
視察用とはいえ王子らしく高価な絹の上着、馬の手綱すら木綿の品の真三郎一行は明らかに異色、護衛兼荷物持ちの役人らが追い払おうもまとわりつく。
(やばっ 囲まれた。
真三郎らは魔物の群れに襲われた。
真三郎は逃げ出した。 ザザッ!
回り込まれた。
真三郎達は逃げられない!)
「ちっ!しょうがねーなぁ 一人……一個、は足りないなぁ半分ずつだぞ!」
泣く子には勝てぬとばかりに、やせ細った子ども達にお昼用にと持参した蕎麦・粟入り玄米おにぎりを真牛らの分も含めて半分に割りながら与え始める。
「い、妹の分もちょうだい!」
「こらこら、嘘をついても、おにぎりはあげないぞぉ。妹は何をしてるのかな?お名前は?」
五歳ぐらいだろうか、いや栄養不足から実はもっと上の年かもしれない、ぼろぼろの服ともいえない布を巻いただけでぼさぼさ髪の頭の女の子が右手にもらったおにぎりを握ったまま、左手を真三郎に差し出してきた。
「病気で寝てる。名前はイン、みっつだ!」
「……病気……はい、すまん、おにぎり」
「ありがと、うらいえらいお兄ちゃん!」
「真三郎様?」
「悪いこと聞いちゃったなぁ 飯は芋が半分だけになったが。取り敢えず……食べるか」
貧しい子供につい疑いの目を向けたことと、寂しくなったお昼につい口数も減ってしまう。
「ねーねー。 これあげる! おにぎりのお礼」
一番年長っぽいといっても真三郎よりは小さい男の子が両手いっぱいの黒い物体を三良に差し出した。
「おっ!蝉かぁ いいのか?お前らのおやつじゃないのか?」
「いい あげる。おにぎりありがと」
三良の両手に移して近くの木陰に隠れる。
「では、折角ですから有り難く、頂きましょう。 ささっ! 真三郎様も」
「え、何? 頂く?蝉の抜け殻を集めたり、喜ぶよーな子供じゃねぇよなぁ?」
三良の手のひらから真牛、樽金も二、三匹をひょいっと摘まむ。
その様子を眺めていた真三郎の背中からふいに冷たい汗がつぅーと流れ出す。
「いや、真三郎様は食べたこと無いのですか?この時期の蝉は旨いですよ!」
「あの子たち、海水に浸けてから上手に炙ってありますよ。いい塩加減ですよ。さっ!この一番大きい奴をどうぞ」
三良と、真牛が物凄い笑顔で真三郎に進めてくる。
たっぷりと樟から樹液を吸ったばかりなのか、辺りに独特な香りが漂う。
「無理、無理、無理、虫は絶対、無理だから!!」
「海老とかと替わりませんよ。蝉はこうやって、中身をですねぇ」
樽金が、蝉の頭と胴を二つに引きちぎって、頭側の中身をチューと音を立てて吸って見せる。
「うえぇー!!無理無理無理、きしょい樽金!」
「ひどいですよ。海老の味噌や、真三郎様がお好きなウニの塩漬けとなんら変わりませんよ」
「そーそー、塩気が効いてて、おっ焼き里芋のいいおかずになるなぁ」
三良が蝉を焼いただけの里芋の皮をペロンと剥くと蝉の中身を塗りつけて旨そうにかじる。
「ささっ、真三郎様、ほら。折角くれた子ども達が見てますよ。」
真牛と、樽金が実に腹黒い微笑みを称えてジリジリと真三郎に迫る。
(ああっ止めてぇ、その純真無垢な穢れてない瞳、喜びを期待するような眼差しで俺を見ないでぇ……
て、てめーら、覚えておけよ!王子様な俺に……絶対仕返ししちゃる!)
ウエッップ
………………………………orz
昆虫食を止めさせる為に領内の振興、食糧増産を飲み込んだ胃液の苦さと、輝く虹の煌めきに堅く心に誓う真三郎であった。
※残った蝉はスタッフが美味しく頂きました。
結は蜂もコオロギもサソリもいけました。
タガメは無理でしたがorz
カリカリ、揚げた系はシャクシャク揚げ海老みたいで美味しかったです。本生、食感ねっちょり系は無理でした。




