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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第10話 大風襲来

 隆慶(りゅうけい)二年 大和歴 永禄(えいろく)十一年 八月 真三郎八歳


 この年、琉球は八月に来襲した超大型で猛烈な大風(うふかじ)に大きな被害を受けており、真三郎の采地である金武間切(まぎり)もその例外ではなかった。


「真三郎様、こちらの畑もほぼ全壊状態です」

 麦畑を見回る三良(さんらー)が膝まで水に浸かりながら報告する。

「うーん、酷いなぁ。蕎麦はまだどうにかなりそうだが、これだけ実っていて水に浸かれば今季の小麦は厳しいだろうなぁ」

 馬上の真三郎も疲労の色が隠せない。木々に囲まれた金武御殿(うどぅん)ですら屋根瓦の一部が剥がれ、雨戸で全ての戸を打ち付け、僅かな灯りで過ごすなど、一晩中眠れなかったのだ。


「はい。元々大風に備えて植え付け自体が少ない畑はともかく、山水が溢れ出た場所の田の復旧は秋の植え付けまでに間に合うかどうか。また、風で倒壊した家や、屋根を飛ばされた家も手がつけられておりません」


 茅葺きに雨戸もないような貧しい農家の家は屋根どころか跡形もない所もある。


「水が引いたら山の材木の切り出しを開放、許可しろ。それから赤子や妊婦は御殿(うどぅん)内に収用してよい。各地頭にも炊き出しの実施と同様に屋敷で保護するよう触れを出させよ。御殿の蔵から備蓄も出すとな」


(とりあえず、急ぐのは被災者の救助、食と住の確保だな)


 数ヶ所の村の惨状を確認した金武御殿では災害復旧対策会議が開催された。


「まず、交通だ。橋は渡れるだけ、馬が通れるだけの仮設で良い。樽金、米相場で儲けた金はどれくらいある?とりあえず有るだけ復旧に使うぞ!」


「それから、久米唐営に唐船が来るのはいつ頃になる?」


「唐船ですか?今は明の方にいる時期ですが、大風を避けて南方諸島、ルソン辺りから来る船があるやもしれませんが」


 災害復旧対策中に貿易の話を振られてもと樽金もあたふたしながら答える。

「そうか、民からの上納と海方からの産物で非常時用に蓄えたのがどれくらいある?」


「えーと、前年からですので、真珠が3つ、黒真珠が1つ、真珠貝が40枚、血赤珊瑚が5斤、桃珊瑚12斤、白珊瑚8斤、夜光貝200個 、鼈甲(べっこう)が7枚。真三郎様のご指示で作ってみた鮫の干し(ひれ)が20枚、干し海鼠(なまこ)が2俵程にございます」


「流石樽金、よく把握してるな

 うー、そうだなぁ……大和への船なら鼈甲と螺鈿用の貝、ピンクじゃなくて、桃と白珊瑚、明なら血赤珊瑚や真珠、乾物を出して雑穀でいいから詰め込めるだけの量の食べ物や、復旧に必要な工具等を仕入れてくれ」


「はっ!大和への船なら今から向かう者もおります。今から秋の収穫を迎える時期ですので、冬場には間に合うやもしれません」

「うむ!手配は任せた!」


(はぁぁぁぁ 折角内政チートでも始めようとしたのにゼロどころか、マイナスでのリスタートかよ)


「ひょ、ひょ、ひょ、真三郎様。ため息はおやめなされ、民は兎も角、天が見ておりますぞ」

 相変わらず飄々としたかんジィが真面目に忠告する。

「ああ、悪い、かんジィ。ついなっ」


「真三郎様はその年で良くやっておりまする」


「まぁ、見ていなされ。大風程度はすぐ戻ります。あーみえて民は実に強いものですぞ!ひょ、ひょ、ひょ」



 ◆


 大風被害から1ヶ月を経た隆慶二年九月

 台風によって大きな被害を受けた琉球だが、貧しい農民の多くは救荒(きゅうこう)作物となる蘇鉄(そてつ)の実(有毒であくぬきが必要)でどうにか飢えを凌いでいた。



 久米村唐営

「真三郎様、あれが今回雑穀の買い付けを依頼した蘇州(そしゅう)倭冦の楊理(ようり)殿の船です!」


「蘇州?」

 樽金が指差す方にかなり大きなジャンク船が久米唐営港、唐船グムイと呼ばれる停泊地に停まっている。


「しかし、思ったより速かったな、依頼して一月か」

 樽金と真牛を引き連れた真三郎が久米唐営へ続くの長虹堤の上の道を進みながら話かける。


「風に恵まれたのでしょうな。今の時期は基本南風。蘇州、双興の港になら大海を横断できましょうが……一旦陸沿いに黒水帯(台湾海峡)の辺りまで南下してから北上したのでは?

 そこから黒潮に乗り順風を得たなら四日程で琉球に至ることも可能です」


「兎に角、問題は、どれだけの食糧を積んできたかだな?で、蘇州倭冦というと?」


「はい、蘇州は明の江南、長江下流に拡がる豊かな穀倉地帯です。常には絹織物や生糸、銅銭等を荷としておりますが、此度は銅銭の替わりに雑穀をと。

 約した代金の半分は前払済みです。我ら以外にも高く売れるとふんで余分に運んでおれば良いのですが」


 ◆


 久米唐営、久米三十六姓の五大家の一つ(しゃ)家の屋敷。倭冦商人の楊理の用いる定宿でもある。

 真三郎達一行は此度の交渉窓口でもある樽金の父、程羽友(ていうゆう)と合流。何棟もある離れの一つ、室内は石床に木製の椅子。上座に並ぶように座る部屋に案内される。


「ニイハオ!」

 倭冦には見えないでっぷりとした福々しい真っ赤な中国服の商人が両手を広げて歓迎の意を表している。


歓迎光臨(ふぁんいんくわんいん)琉球!」


「これはこれは程殿!こちらのお方はもしや」


「楊殿!こちらが依頼を出しました尚久(しょうきゅう)様にございます」

 羽友が官話で真三郎の唐名(からな)を紹介する。両手を袖に入れていかにもな中国風挨拶である。


「さっ、どうぞお座りを!先ずは我が故郷のお茶碧螺春(ぴんろーちゅん)でもいかが?新茶の時期は過ぎましたが、今年の出来もなかなかですぞ」

 楊理が早速横卓上の中国茶器を並べると見事な手つきでお茶を淹れはじめる。


「楊殿!今回は無理な願いを聞いて頂き誠に忝ない!」

 まず、お礼をと真三郎は頭をさげる。


「アイヤー!久様ダメよ、ダメ、ダメねー。先にお礼したらダメあるよ!商売下手ね!」

 笑って小振りな茶碗に入れたお茶を茶托に乗せて

 さしだす。

「楊殿、尚久様は……」

「いや、羽友殿、よい。楊殿はこれは商売だと、感謝は要らないとの意で言ったのだろう。折角の明渡りのお茶だ、頂いてから交渉しよう」

  通事(つうじ)として楊理の翻訳を行う樽金の翻訳を聞いて羽友の抗議を押し留める。

 真三郎と羽友は白磁の茶碗で茶の香を楽しみ、頂く。ちなみに護衛の真牛と通事の樽金は背後で立ったままだ。


「うん、うん!それでいいアル!ささっ二煎目も!香りに変化が、味わいも変わり、余韻に甘味が感じられますぞ」

 結局、四煎目まで味わい茶請けの乾果も摘まんでから交渉が始まる。


「今回うちの船だけで小麦と粟で300石程積んで来たアル!

 それから知り合いの商人にも声をかけてきたアルよ!合わせて700石は琉球に来るね!」


「700石!どうだ樽金?次の収穫まで足りるか?」


「はい、大和からの荷もありましょうし、それだけあれば十分です。700石あれば金武間切だけでなく、被害の大きかった各地にも送ることもが可能かと……」


「はっはっ、大丈夫ね、程殿、尚久殿。あれだけの真珠や珊瑚、俵物の値段とは釣り合わないアルよね」


「穀物重いね。追加アルよ!琉球で高く売れる農具や工具の鉄製品ね。蘇州は魚米の郷アルよ!江南でも金持ちの商人いっぱい。琉球の真珠と珊瑚、乾物高く売れるね!」

 にこやかに笑った楊理が、親指と人差し指で金を表す円をつくって笑う。

「それから、これは広東辺りから来た芋ね。大風に強い作物アルよ!こっちは竹ね、琉球のより大きいよ。船の修理にも使いたいから植えて欲しいね?筍も美味しいよ!」

 部屋の片隅に置かれた二つのかごを開けると、かご一杯にさつま芋と竹の地下茎が入っていた。


「こっ、これは、まさしくサツマイモ!」

 飛び付いた真三郎が震える手つきで芋をつかむ。


「さつま?違うアルね、広東の芋。甘緒(かんしょ)いうね!美味しいよ!蒸して、焼いて、煮て、本当は禁制だけど、うちら倭冦には関係ないアルね!」


「いや、いや、楊殿、誠に(かたじけ)ない、これがあれば金武の、いや琉球十万の民が飢えから救われるだろう」


 本来のサツマイモ伝来の1605年より数十年速く、さつま芋と孟宗竹が本格的に琉球に伝わることになった。

こうして真三郎の関与により徐々に、ほんの少しずつ歴史が変化、動き出していくことになる。




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