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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は大和へ左遷王子~
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第101話 穴生衆

1577年 天正五年 八月十五日


洛北 大徳寺寺領の外れ 琉球国駐大和大使館および塔頭建設予定地


「真三郎様、縄張りはあのような感じで?」

仮組された櫓上で図面を広げた三良が確認してくる。眼下には基準点として真竹に目印の端切れを結び付け荒縄で間取りを示す旗竿が点在し、一町歩に及ぶ広大な敷地が露になる。

卓上に広げられた一枚目の図面には大徳寺の僧菊隠(きくいん)より、倭の文字は明などで用いられる日本に対する蔑称であるとの指摘を受け、読みは同じく倭使多(わした)館改め和使多(わした)ショップと朱書きで訂正されている。


「うん、そうだな、できるだけ元の植栽や地形は生かしてと……」


「大和では水害に備えて少し土を盛ります?」

「掘れば井戸には困らないようですが」

「ここでは船の便が、蔵を建てるなら堺か、都なら桂川を利用出来る梅津あたりのほうが……」

「鷹峯辺りから直接木材を運べますし、流石は都、琉球では首里のお城でしか見たことのないような調度品が安く手に入りましたので、屋敷や方丈の作事は順調に進みましょう」

櫓に並んで眺めていた樽金、真牛、三良ら次々とが意見を交わす。


「王子様ぁ!石工衆の頭目様方が参りましたぁ」

ピヨピヨ!ピヨピヨ!ピヨピヨ!

  既に敷地の外れに現実(うつみ)様らの鳥屋敷に鳩小屋を建て半分住み込んでいる飛蓮(フェーレン)が客人らを案内してくる。

「そうか、飛蓮。すまないがこちらの上までご足労をお願いしてくれぇ!」



三階分程の高さがある櫓の梯子をヒョイヒョイと猿のように上ってくる二人の影


「お初にお目にかかりますわ。近江堅田は穴生衆の頭、穴生響左衛門(きょうざえもん)ですわ」


「「ですわ?」」


「兄者様の下僕、弟の香之進(こうのしん)ですわ」


「「……」」


「「二人合わせて穴生(あのう)兄弟!!」」


  石積で鍛えたあげた見事に発達した大胸筋。首筋から荒縄のように太く伸びる胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきん。こんがりと肉体労働で小麦色に焼けた肌を見せびらかすよう、まさしく胸襟をガッツリ開いてみせつけてくる。頭目らしく高価な白絹の薄ものではあるものの何故か袖はなくノースリーブ、真夏の京の蒸し暑さ故か薄っすらかいた汗で胸の辺りから梅干状の何かが薄絹越しに透けて見える。

  

「ねぇ、兄者様っ、穴生(あのう)の穴ってどんな穴?」

   しなをつくり頭目である兄にもたれ掛かる弟が真三郎の太もも程はありそうな腕をつぅーっとさすりながら問う。

「まぁ、いやらしいですわ、香さん。生まれし穴の事ですわ」

   オホホと笑う頭目の響左衛門がどこからか扇を出し口元を隠しながら答える。


「あらっ、太いのを穴に、の穴太(あのう)ともいいますわよ、兄者様」


「「はいっ!穴生兄弟!!」」

まるで何かを挟めそうなほど肉厚に発達した谷間を持つ雄ッパイを真三郎らにピクピクと動かしながら見せつける。


「ほう!」

背後に控えていた真牛が負けじと片腕をめくり上腕二頭筋に力を込めはじめる。


「ええーい!暑ぐるしーわっ! 仕事の依頼で呼んだんだけど」


「あらっ、そうだったわね」


「そうですわ、兄者様。安土のお城の石垣も組み終わりましたし、次の仕事を入れませんと」


「私たちの評判は聞いてて?高いわよ」


「もちろんです。最新の石積み技術で持って琉球風の石組みとの融合をお願いしたく」

ナニが高いかは兎も角、建物の図面を指し示す。


「あら?これが図面?ふーん、どうかしら香さん」


「これほど隙間なく石材を挿入するのは無理よ」


「そうね、琉球ではどうだか知らないけど、余裕がないと地震の揺れに脆いし、表面を滑らかに揃えるだけでどれ程刻と手間がかかるか。上杉との戦が終わればまた安土に諸将の屋敷も普請しなくちゃいけないだろうし……」

無理難題を言われたかのように困惑する二人


「琉球ではこのような白くて削りやすい石材を使いますが、京周辺では産しないでしょうか?」

  真三郎が懐から琉球石灰岩で削り出した航海安全祈願の小型獅子像(シーサー)を差し出す。

「あら?兄者様、これって」

  狛犬?かわいいわね。という声を掛けながら表面の感触を確認し、小刀で少し削る。

「そうねぇ、確か淡海の対岸、羽柴様のご領地である長浜の奥、伊吹の山でこのような白い色合の脆い石が産するわ、脆いけど焼いて粉にすることで漆喰の材になるものよ」


「でもあれでは脆くて矢玉に弱いわ」


「中身は地震に備え大和風、表面だけでも薄く石を張るのはどうでしょう?館と塔頭をできるだけ琉球風に整えたいだけですので」


「そうね、強度は穴生衆の沽券に」


「いやだわ、香さん、沽券(こけん)だなんていやらしいわ」


「基本の石積みに漆喰で石材を張り付ける方向で検討しましょう。後は石が本当に使えるか確認ね。無理なら琉球から運ぶか、模様を描くか」


「よろしくお願いします」


「ここには、塔頭の庭ね。茶室や庭石の選定、配置とかは専門の風流な茶人とかに任せた方がいいんだけど、池の向かいに白石の盛山、対岸には池に張り出すような巨岩ねぇ」


「四畳はある大岩ってどれ程の重さになると思っているの?お高いわよ」


「安土のお城には蛇岩と呼ばれるとてつもない巨岩を引き上げたと聞き及んでおります。琉球でも石切り場より、北国で産する昆布と申す海藻を使用して容易に運んでおります。名高い石工衆たる穴生衆なら」

真三郎が水に浸していた海藻を桶ごと差し出す。

「昆布?まぁ、兄者様、この海藻すっごくヌルヌルするわ」


「あら、見て香さん、透明な糸がネバネバと、まぁ、なんていやらしいのかしら?」

響左衛門の太い親指と人差し指の間に透明な糸なつぅーっと垂れる。

「あぁ、すごいわ、これ。火照ってきちゃう」


「あっ、ん、うん! これはガゴメ昆布という蝦夷地より運ばれた粘りの多い品種。出汁も取れ食材としても逸品です。こちらの手配はお任せください」


「お願いするわ。これは頂いてよいかしら?で、この巨岩は何の為に?」


池にぐぃっと突き出した形状の巨石の岩場を指し示す。

「南に琉球の景勝、伊江島の城山を模した白い盛山を築きます。池を挟んだ対岸より城山に掛かる月を、琉球の懐かしき風情を眺めることで古に唐の長安で大和は三笠の月を詠んだ阿部仲麻呂にちなんだ月を拝礼する露台に見立てております。池に突き出ることでチャプチャプと南海に浮かぶ小舟(サバニ)の趣を」


「今宵は都合よく、望月。絶妙なる借景の配置となるよう測量いたします」


「まぁ、琉球の風情をね。突き出る意味がよくわからないけど。いいわ、面白いわ、で、この寺院の名は?」


「はい、はるか南海の琉球に月を通して思いがぴゅんと渡れるよう願いを込めて月拝(がっぱい)塔頭(たっちゅう)とでも」




八月十九日  大徳寺 聚光院


「真三郎様、堺と京における卯屋の仮店舗に飲食店も屋台から常設店舗に向け順調に進んでおります、料理人や給仕人の仕込みが遅れておるぐらいで」


月拝塔頭(がっぱいたっちゅう)和使多館(わしたやかた)の普請も予定通り、織田様の本陣が北陸に向けて出立すれば淡海の水運規制も解除されますので小浜の組屋様からの荷も入るかと」


「年明けまでに帝と織田様から色よい返事が頂ければ琉球に戻れますな」


「そういえば、堺の油屋さんより、依頼のありました店舗の暖簾についてはどうなさいます?」


「ふむ、そうだな、各人素案は出来てるな?」


「では、俺から、卯屋ですので、白い兔を図案化しました。口元をバッテンにしたのが妙案かと」

自信満々の三良がどこか見たことのあるようなうさ子ちゃんの素描を取り出す。

「ほう、可愛すぎるのでは?」


「白兎、黒兔の偽物(パチモン)はどうなさいます?」


「あれも愛いくるしいしな」

久米の馬楽(ばらく)屋の大劇場のマスコット、耳が短く、爪が鋭いアマミノクロウサギを擬人化し、ホッペを真っ赤に染めたパチもんちゃん

琉球に生息していない熊では決してない。

「これはどうでしょう?主業はやはり薬種の卯屋ですが、今では馬楽(ばらく)屋、猿波(さるふぁ)屋等多岐に渡っております。真三郎様の異名 火の神(ヒヌカン)さぁを図案化、三つ石に炎、周辺に神聖な種字(サンスクリット)で殿のステータスを、背中に刺青(針突(バジチ))でもしてみても……」


「いやいや、そんな事してもいい出会いはないでしょう」


「いや、俺はもう結婚して、一応子供もいるんだけど、ってそんな話じゃ」


「いや眷属(家臣)たる俺らのことで」


「そ、そうだな 悪い」

三人とも既に二十歳を越えている。真三郎に振り回されてとはいえ、早めに手を打たねばどんな醜聞が囁かれるか判ったものではない。


「はいはいはい!折角大和にいるんだし、三つ足の神烏を俺らに例えて、琉、球を踏む図案は?」

翔烏が三羽烏を代表して琉と書いた霊珠を踏むヤタガラスの図案を差し出す。

祖国(琉球)を踏んではダメです!」


「しかもお前らだけ図案に組み込むなど」

(うーん、蹴鞠が上手くなったり、サムライっぽく、ブルーなのも藍染め系で……)


「おっ!そうか、うーん、金武の御殿は鴉那(ANA)御殿、烏だ、烏と兔を組み合わせてと」

文字だけの面白みに欠けそうな図案をそっと懐隠した樽金から筆を借り、さらっと円を書く。

「月拝塔頭の月、琉球の船印でもある日輪の日章旗。それぞれ日輪に住まうという金烏(きんう)、これは金武にもかかるな。で、月で薬を捏ねる玉兎(ぎょくと)金烏玉兎(きんうぎょくと)の文様だ」


「確か陰陽道の秘伝にそのような」


「素晴らしい!」


「後はヤタガラスにするか、兔を黒兔にするか……


「失礼。琉球王子様!堺より早馬の文にございます」

山門の番をしていた僧侶が預かったらしき文を差し出して消える。

「堺?」


「はい、油屋様からです。…………本願寺を囲んでいた付城の一つ。天王寺砦の守将 松永弾正様織田内府様にご、ご謀反!砦を焼き払い居城である大和の国 信貴山城に手勢を連れて立籠られました由。恐らくは北陸の上杉勢と示し合わせたものかと」

手紙を改めた樽金が真三郎に代わり代読する。

「の、信長は未だ安土に?それとも」


「淡海を渡ったとの知らせはありませんので、恐らく未だ近江に。後詰めの本軍2万は手元にありましょうし、畿内の在番衆だけで」

湖の船停めが続いていることを思い出す。

「都もまた荒れるか?北の上杉に西の毛利。他の砦に、あの本願寺が動きをみせるか」

法主顕如、本願寺光佐の『|南無阿弥《なむあみぃー』というカリスマ的な念仏読経姿が頭に過る。

「恐らくは西国の毛利様より兵糧や弾薬が届くかと」

「紀伊の根来も息を吹き返すのでは?」


信玄の急死で潰えたはずの織田包囲網の復活である。恐らく背後あるのは鞆の将軍足利義昭の姿。


「あ、あっぶねぇ。天王寺砦に本願寺、紀伊だって通りがかったばかりじゃん。危うく巻き込まれるとこだったな」

あわてて取り出した畿内の地図を拡げる。

「北国に進軍した柴田様の手勢は各地で蜂起する一揆勢に進軍を阻まれているとか聞こえてきますが……」




九月十五日


信長の本隊が安土で睨みを効かせている為か、反織田連合が相次いで各地で蜂起するようなことはなく、大和と河内の通行が遮断された他、不思議な小康状態が一月近くも続いていた。


「信貴山城の松永様は親交のある堺代官 松井様による講和を一蹴なされたと」


「謀反すら許すとした織田様のご寛恕を?」


「仏の顔を三度までだな」


「今は明智様と長岡様が先陣となって遠巻きに囲んでおるそうですが、広大な城郭に天守も備えこのひと月で改修もしておるとか、そうやすやすと落ちないのでは?」

(これか?今からあの名高い自爆をするのか?)


織田とも朝廷とも外交交渉が進まず、卯屋の準備だけが順調な真三郎達は常に畿内の情勢を図っていた。


「王子様!大変っす。北陸攻めの中途で、羽柴様が軍を離脱、手勢三千で長浜の城に戻られた由」

安土に近江を見張らせていた御師の情報網(ネットワーク)から得た報せを月烏が報告する。

「なに?まさか、松永らと示し合わせてなご謀反?」


「いや、羽柴様は卑しき出自ではあるが、才のある忠義者と評判だが……まさか」


「中国攻めの総大将を外され、武辺者の柴田様の寄騎に付けられたでは不満も」


「しかし、松永様に続き、織田内府様のご機嫌はますます……」


「いやぁ、取次役を羽柴様にお願いせずに幸運だったのでは?」


パシッ!

「いや、これは好機!!主君の不興を受けそうな時だ、今なら高く売れそうだ。樽金!今直ぐに動かせる銭。手持ちの手形は急ぎ換金して、進物の準備を、黒砂糖に女子に受けそうな物も見繕え!」


「まさか、長浜に?」


商機(チャンス)だ!大波(ビッグウェーブ)だ!乗るぞー!」

訝しげな樽金らを置いて真三郎が久々に鼻息荒く興奮する。

「飛蓮!」


「はっ!」


「鳩は使えるか?」


「王子様、大和の鳩はまだまだですね、せめて堺、京間について使えるようになるには後半年は」

そう簡単に鳩に帰巣本能は仕込めない。

「くっ、そうか。しかたないか、月烏!」


「はっ!」


「大津いや、穴生の堅田から長浜に渡る船の手配を!」

伊吹山に石材の調達に向かう体で船を仕立てるよう穴生兄弟に依頼する文を書く。

「影烏は、堺に、油屋さんに任せておけば問題ないと思うが、念の為に川満船頭に文を、ついでに信天号と告天三号の整備や、琉球へ持ち帰る交易品の集まり具合等を確認してくれ。それから大和、河内は織田の軍が布陣している。路銀は十分にもって遠回りでも山道を抜けてくれ」

「烏の腕の見せ所っすね!」


「俺は!俺は!」

一人残された翔烏が跳び跳ねる。

「えーと、翔烏は、一緒に長浜に、それまでは飛蓮と鳩の世話に京周辺、特に長浜との間道をおさらいしてくれ」


「不在中の京は三良に任せる。京のことで何かあれば菊隠様に相談してくれ」




ようやく真三郎に後の天下人 羽柴秀吉にあいまみえる機会が訪れようとしていた。

















「あら、兄者様。折角私達がゲスト出演しましたのに100話記念じゃないのですね?」


「未熟ですわ、香さん。第一話はプロローグ。実質この話が100話ですわ!オーホホホ!」



m(。_。)m 作者

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