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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は大和へ左遷王子~
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第97話 堺

1577年 天正5年6月下旬 真三郎17歳


  堺 東洋のベニスとまで称された摂津、河内、和泉の三カ国の境界に端を発する商業都市、諸説はあるが三十六人の会合衆により治められたまさしく自治都市。

  町の周囲には環濠城壁を張り巡らし、倭寇商人らと同じく最新式に武装した商船や荒くれ者の荷揚人足らを多く抱え、そして執政官と来日した宣教師がローマ法王に報告したという会合衆の多くは鉄砲伝来以来、戦に欠かせなくなった武器弾薬皮革を取り扱う死の商人の面を持っていた。



ピヨピヨピヨ!ピヨピヨピヨ!ピヨピヨピヨ!

「おおあれが堺か、おおっ南蛮船も何隻か停泊しているぞ!」


「大和の船は数えきれぬほどですね、ジャンク船の代わりに南蛮船停泊していており、久米唐営をはるかに上回る賑わい、大和の繁栄を物語るようですな」

 控える樽金が規模の大きさに感嘆の声を漏らす。


ピヨピヨピヨ!ピヨピヨピヨ!ピヨピヨピヨ!


「真三郎様、こいつらどうします?懐き過ぎて困りますが?」

堀内氏善が手配した熊野水軍の水先案内人と港からの曳舟が信天号を沖合いの停泊池に誘導している間、甲板で堺の繁栄ぶりを眺める真三郎の足元を刷り込みされた雛達がまとわりつき、それを見た三良が呆れた顔で呟く。

「王子様!名前は?鳩達と一緒にオイラが世話役したいっす」

嫌がる雛達を抱えようと飛蓮(フェーレン)がうずうずしている。


「そうだなぁ。堺についたら多分忙しくなるし、じゃあ、まず、この一番茶色い毛並みのこいつ。こいつは茶胡(ちゃこ)、雄なら茶胡坊だな。

んで、キョロキョロと落ち着きのないこいつは居呂(きょろ)ちゃん。で、最後におとなしいが一番でかいこの子はフィ………リア……いやいや、そう!現実(うつみ)様ですぞ!!」


「「「ですぞ?」」」


「了解っす!王子様が忙しい間は俺が世話するぜ!」

口調の変化に突っ込む樽金らは無視して飛蓮が突つかれながらも早速撫ではじめる。

「そうそう、飛蓮には那智で新たに加わった三羽烏(さんばからす)、翔、影、月と一緒にいろいろ影働きをしてもらうからな。三人とは堺で合流だ予定だ、頼むぞ!」


「ほいほい!了解!」

ピヨピヨピヨ!ピヨピヨピヨ!ピヨピヨピヨ!






堺 会合衆が一人 油屋常佑(あぶらやじょうゆう)屋敷


主たる商いは薬種問屋であり、武野紹鴎に茶湯を学び油屋肩衝とその名を冠する程、様々な茶道具の名物群を所持した堺の茶道サロンの中心的人物の一人でもある。

真三郎が大和に出立するにあたり頼ったのが、以前主人常佑の親族で番頭の一人である油屋紹佐(しょうざ)。はるばる琉球までに蘇鉄の銘木を求めて来沖した際に金武間切で要望にそう大木を見つけるという便宜を図ったことや、薬種という主たる商いの関係上大切な取引先としての長年の付き合いがあるこの人物に堺での滞在先、納屋(そうこ)の手配等を依頼していたのだった。



「これはこれは、ここではもう卯屋さんのうて王子殿下とお呼びした方がよろしいですかな?」

通された座敷は畳が一面に敷かれ見事な襖絵に囲まれた書院作りの大広間である。

「はい、お初にお目にかかります油屋殿。

此度首里天加那志(すいてんがなし)よりの正式に大和才府(さいふ)としての辞令を受けております。商いについては、この程隆成を卯屋の大番頭として紹介させていただきます」

 控える樽金が頭を下げる。


「堺ではお世話になります。おお、一瞥来ですな紹佐殿」

大番頭に出世したらしい紹佐が酒肴を運んでから下座につく。

「早船の頼りでは10日は前に着く予定との事でしたので心配しておりましたがな」


「いや、黒潮が蛇行しておりまして、四国沖から紀伊まで流されましてな、熊野の堀内様のご尽力で遅ればせながら堺についた次第」


「ほう、黒潮の蛇行……ふむぅ、これは詳しく調べませんと、殿下。これは不漁、不作の兆し。秋の収穫前に少し相場に……」

真三郎のもたらした情報に儲け話の匂いを嗅ぎ付けた常祐の濃茶を練る手がふと止まる。

「常祐様!」


「ああ、これは失礼」


「いえ、その話は後程詳しく、是非一枚噛みたく」


「ふっ、折角ですから先ずは一服。後程この長旅の疲れもふっとぶくすり、いやいやこの油た……油屋秘伝の油揉みでもいかが?極楽に往生させますぞ。そうそう紹佐より殿下の考案したという琉球穢捨(えすて)の話も聞いております是非参考にさせてくださいぐへへへへ」

今にも頭から全身に油をたっぷりかけて真三郎に襲い掛かりそうな勢いの油ぎった中年太りのおっさん、ぐへぐへと両手を揉みながら近づく、まさに悪夢である。




その晩 真三郎いや、琉球国大和才府 大金武王子朝公 逗留所。

堺 広普山 妙国寺(みょうこくじ) 常緑坊(じょうりょくぼう)



「殿下のご要望の件ですが、今織田様と繋ぎを取れる堺衆といえは納屋(今井宗久)さんか天王寺屋(津田宗及)さんですな。お二人は茶頭としても重用されとりますし、今はそれぞれ京と安土におられるようです。ことに納屋さんは織田様が堺に矢銭二万貫を要求した時に率先して協力した親織田派の筆頭。

実は油屋はかつて畿内を牛耳っておった三好様との縁が深くてやや時流に取り残されております。

この妙国寺、殿下に探していただいたあの大蘇鉄を安土のお城にまで持ち去られた次第。いやー面目ない」

二隻の船からの荷卸しに水夫達の船宿の手配と忙しい時間を過ごした真三郎達に世話役としてつけられた紹佐が汗を拭いながら弁明する。


妙国寺は三好長慶の実弟実休(じっきゅう)が土地を寄進し、大伽藍は常祐の父常言が息子の一人、日洸上人の為に日明交易で莫大な財を築いた私財を投じた物であり、大蘇鉄もその一部である。元亀二年には本堂に学問所、寄進した三好実休の墓所も完成した法華宗の名刹である。


「あの大蘇鉄?しかし安土といえば、ここよりかなり北、蘇鉄には」

滋賀県って雪降ったっけ?と考え込む真三郎


「はい、天主が完成する頃までには根付かせると春先に持ち運ばれましたが、無事にこの冬を越せるか……」

常緑坊と大蘇鉄に因んで名付けられたこの離れの一室。真三郎達が琉球国使節の宿坊として借り上げた坊から見える境内の庭には神木が周辺の土ごと引き抜かれた痕が剥き出しのままとなっている。

「そうか……南国の木ゆえ、織田様に面会する機を得れば雪のめったに降らぬ堺、妙国字寺に戻すよう口添えいたしましょう」


「ありがとうございます。納屋さま、天王寺屋さまへの口添えに卯屋さんの支店開設については主人の常祐にお任せください」



「そういえば先程からやけに騒がしいが流石は堺の町といったところか」

   町の喧騒に笛や鐘の音が広大な寺領を誇る寺内まで届く。

「いえ、実はちょうど裏手にあります宿院頓宮(しゅくいんとんぐう)様の大祓(おおはらい)が明後日に迫っておりまして」


「宿院頓宮?」


「ああ、琉球では知られておりませんでしょうが、摂津国の一の宮、住吉大社様の宿院でして、明後日は神輿も大道筋を練り歩きます。

この堺は摂津側のここ北荘と和泉側の南荘の二つの村が環壕で結び付いて出来た町、宿院頓宮様がまさしく摂津国の国境になります」


「ほう、一の宮の、明後日ならそれを見物、いや卯屋の出店の景気付けに参加しよう!紹佐殿、屋台等なら問題ないか?」


「そうですね、よい場所は無理ですが開いてる場所を手配しましょう」





六月晦日

住吉大社の祭神は底筒男命、中筒男命、表筒男命の綿津見三神に神功皇后を含めた四柱。

交易を行う堺の町衆にとって航海の神の祭事は会合衆の力を見せつける場、豪華絢爛な神輿に数多く神馬が花綱で飾られ列をなして住吉大社から宿院頓宮まで行幸を行い町中が祭の熱気に包まれていた。


(うーん、お祭男たちの法被も青くない白い恰好だし、山車もだんじりとちがって普通の神輿だったなぁ。あれは岸和田の方か、それともエイサーと一緒で時代が早いのか)

  


「おお!真牛!あれは南蛮人だそ!ちょっと近寄るぞ」

「えっ!あっ!」


「オッス!オラ 真三郎!」

シュタッと片手を上げた真三郎が首にビラビラのついた如何にもな姿の外人に声をかける。


「ハッハッハッ!オラァ!」

爆笑した南蛮人が奴隷らしき傘を捧げもった従者を引き連れてすれ違う。


「今のはな、挨拶だ、ニーハオと一緒だな、「オラ!」というらしいぞ。まぁそれしか分からんがな。それより南蛮人共出てきた店は?」


「商っているのは絹や明の工芸品等ですな、おそらく南蛮人が澳門より持ち込んだ品でしょう。琉球の交易船や、琉球に参る大和の商船と競合しますな」

真三郎の指示で覗いた樽金が印象を報告する。ディスプレイのない当時の販売方法では何屋かわかりずらいのだ。

「南蛮の珍しい品よりも明の産物が多いか」


「いえ、油屋様の話では逆で、日ノ本の銀、博多なら石見、ここ堺では納屋様、京の長谷川様が握る生野の銀を欲して大和まで参るそうです」


(銀か、明では内閣学士 張居正の進める一条鞭法による銀納、銀本位が進んでいるんだったっけ?)


「納屋様は堺周辺の代官に様々な特権を織田様に認められ、屋敷内につくられた鍛冶工房では種子島を大量に製造しております。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです、ああこここです。筋から一つ離れますが」


紹佐が指し示した木立に囲まれた一画

「うん、まぁ、いいだろ!早速商品を並べろ!炭の準備は出来てるな」


「はい!何やら久米唐営大綱引きの祭を思いだしますなぁ」


「おおっ!三良!お前もか!確か琉球蕎麦を売ったんだったなぁ」


「そうでした、図南(となん)くんが暴漢に襲われてて」

拳骨一発で四人の暴漢を一蹴した真牛が拳を撫でながらしみじみと懐かしむ。

「あの後、即席で麺打ち機を拵えてなぁ…………………毎回留守番で可哀想なことしたなぁ」

(そうそう、結局あれはパスタになったんだっけ)







「さぁ!さぁ!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」

「そこの兄ちゃん、ちょほいと待ちな、珍しい料理だせ!食べていきな!」


「ほう!お前さん方は琉球の?懐かしいねぇ、若ぇ時に紅屋さんの船で久米まで行って一儲けしたなぁ、で、これは?見覚えねぇが」


新琉球名物と高々と掲げたのぼりが目立つ屋台である。

「へぇ、これは握り飯を味噌や、溜り醤油、酒、味醂に砂糖で浸けた猪肉で巻いて竈で焼いた料理ですよ!どうです?」

石材を組んで鉄の鍋を並べた窯から香ばしい匂いを振り撒く茶色い拳大の塊を大根葉で包んで見せる。

「ほう!そいつは旨そうだぁ!とりあえず一つくれ!いくらだい?」


「一つ五文ですが、今日は祭と、今度琉球の薬種問屋卯屋が支店と併設して料理屋を出しますので宣伝を兼ねて一個無料(サービス)です!今後は是非お贔屓に!」


「そいつはありがてー!うーん、味噌が香ばしく肉の脂にタレが握り飯に染み込んで旨いなぁ!」


「うん、うん!この胡麻も香ばしいし」


「間引きした大根葉で包むのもいいわ!見て!手が汚れないわ!」


「あら!でもその大口で食べるのははしたないわよ!オホホホ!」


何れ開店予定であった琉球特産のウコンやヒハツ、肉桂といった香辛料をふんだんに使った伽俐(カリー)何処壱(どこいち)は準備や食器の手配が間に合わず断念。

屋台風に肉で包んだ握り飯、中華の薫りを滲ませて肉包(にくぱお)が誕生した瞬間であり、やがて油屋がその販売権の譲渡を受けるのであった。




堺 南宗寺

茶狂いと京童に陰口を叩かれるほど茶禅一如の大徳寺の末寺であり、武野紹鴎や千利休も参禅した堺の茶道の中心。

油屋常祐の伝により南宗寺の住持より本山である大徳寺の座主らに宛てた紹介状や、有力な商人、公家の情報を得た真三郎一行。

心配する樽金と川満船頭に船員の半数に船の管理と卯屋の出店準備を任せ、いよいよ京の都に向かうのであった。






だめな奴ですかね、コレ

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