第96話 烏
いずれ本作が実写、いやアニメ化されなら主題歌は安室ちゃんに決めていたのにぃ 涙
「天人都雄大都城神卓越宝石帝釈天戦争平和偉大最高土地九種宝玉如心楽都数大王宮富神権化住帝釈天建築神造都!」
琉球に熊野信仰を広めた日秀上人、補陀洛渡海に出航したのが紀伊国熊野は那智の海。
その海岸に拳のように突き出た大岩の上に誂基壇では井形に組まれた護摩を補陀洛山寺の住持名潤上人が焚き、梵字だろうかまるで南方のシャム語のような不思議な響きを感じさせる読経を唱えはじめる。
背後の祭壇に並べられた三方には真三郎が熊野三山にそれぞれ寄進した品々。修験道に必須な見事な大きさの法螺貝が三つ、琉球の古酒と薬酒、明渡りの白絹が六反、それに銅銭で二百貫文程の銭と堀内氏が領内で手配したらしい地場の鯛を初めとする海産物や米俵も三俵程並べられている。もっとも代金は真三郎払いではある。
砂浜に並べられた床几には琉装姿の真三郎らに熊野別当堀内氏善及びその配下の面々。幕で囲まれているとはいえ周囲には珍しい異国の貴人を一目見ようと黒山の人だかりが出来ていた。
ドンドンドンドン
「吽!」プワァ!
護摩壇に気合一閃、相変わらず橙色の不思議な僧衣を身に纏い独鈷杵を握る名潤上人が何かの粉末をパッと振り撒くと巨大な火柱が勢いよく立ち上がる。
「金武王子殿下!御前に」
呼ばれた真三郎が左右に一礼して玉串を手に取り護摩にしずしずと近づく中、不意に沖合いの穏やかな海面にプカリと浮かんでいた杉桶の周囲に三人の海女が顕れる。
「「「獲ったどー!」」」
海面高々に掲げられた三つの大鮑、その鮑の入った桶を押しながら祭壇のある浜に向かってバタ足で泳いでくる。
腰より浅くなった所で海女達は泳ぐのを止めて立ち上がる。
頭に巻いた白布をとると、日に焼けた長い茶髪が露になる。裸眼で潜る為かやや充血した瞳は泪で鮮やかなに潤み、濡れた髪を片手で掻きあげ、腰をくねらせ、肩越しに此方を見つめて愛らしい体勢を決める。
「じ、じぇ、じぇ、じぇーー!」
次から次に体勢を変える三人の海女に目が釘付けの真三郎が不思議な驚愕の声で叫ぶ。
「え、えっ、えっー!なんで、は、裸なんだけどー!」
今世でも経験済み、既に一人の子持ちとはいえ琉球を出航してからずっと禁欲生活の真三郎。
桶を小脇に抱えた三人の若い海女、白い捻り褌一丁に貝を獲るヘラを差し、ドーマンセーマンと呼ばれる九字と五芒星の魔除けが刻まれた小さな木片の護符のみを着けた、裸以上に妖艶な姿に鼻から何か垂れるのを慌てて押さえる。
(か、絣は?えー海女って確か絣の着物に白い短パン、足袋じぇ、じぇ、じぇー!)
世界の何処からか《アレは東北、明治頃までは大体こんなだょんー》という声が真三郎の脳内に木霊する。
「くっ、くっ、くっ、ろアワビぃーーー!!」
参列の場からいきなり走りよった氏善が桶から見事な黒鮑を桶の中からむんずと掴むと股間に充てる。
「くっ、くっ、くろアワギュヘッ!!」
「大蔵手刀!」
氏善を羽交い締めにし、首筋に手刀一閃、ギュへッと変な擬音と共に落ちた氏善の首根っこを掴んだ原大蔵が黒鮑を慌てて桶に戻す。
「し、失礼。殿はいつもの発作ですのでお気遣いなく、ささっ、儀式を」
「いいのか?」
助けを求める真三郎に樽金らも首を降る。
熊野那智大社の権禰宜らが改めてうねうね艶かしく動く生きた大黒鮑を三方に一つずつ載せて何事もなかったかのように祭壇に捧げる。
ファサ!ファサ!
黒い衣冠束帯姿の禰宜が御幣を左右に大きく振り、照葉樹林が鬱蒼と繁る紀伊の山裾に白龍の如く輝く那智の大滝、その荒々しい自然自体が御神体である那智大社に三度拝礼する。
「さっ、琉球殿下、その鮑の殻に名号を、南無観音菩薩とお刻み下さい」
半尺はある大黒鮑の背に彫刻刀のような小刀にてガリガリと補陀洛に住まう観音菩薩に帰依しますとの意味の文言を刻む真三郎、内二つは時間省略の為にと権禰宜が薩以外の文字を刻んで真三郎に手渡す。
「うむ、琉球に御仏の教えを広げるに大功ある鮑を琉球国、大金武王子朝公の名において南紀の海に放生いたす!那智の方々におかれましては南無観音菩薩の名号ありし黒鮑は御仏への供儀、御使いとおぼしめされよ!」
グワーン!グワーン!ポチャ!
◆
那智勝浦 補陀洛山寺 広間
「慣れぬ大和の神事、さぞお疲れにございましょう。粗末ながら精進膳の用意が御座います。どうぞおくつろぎを」
「それは忝ない」
名潤上人の合図で朱い根来塗りの膳が運ばれてくる。
「真牛、真牛!梅干しっ☆ミ!」シャキーン!
小皿に盛られた真っ赤な梅干し、南国琉球では実を付けぬその鮮やかな姿、一目で口中に涎が溢れ出すパブロフの犬的懐かしさと氏善の可笑しな熱病が移ったせいか、思わず指に挟んだまま琉球美少年のポーズをかましてしまう真三郎。
「「……………」」
ガシャンー!
二の膳を受けとった名潤上人が固まるように手を滑らせる。
「やっちまったな!」
末席の三良がひややかか目を向けてから頭を抱える。
「し、失礼を!うちの王子も……」
樽金が、平身低頭まさに平謝りである。
「いや、しばしまたれよ!その手型、その立姿、まさか貴殿は!」
「まさか平家に縁が?いや琉球王家は源氏、為朝公の末裔と聞いたが」
恐らく詐称、そもそも第一尚氏をクーデター紛いに乗っ取ったのが今の尚王家、源氏も平家もそんなの関係ない。大和での格や血縁としてその名を利用しているが直接に聞かれると困るのである。
「いや、あの、あの手型ですか?えーとアレは確かに、平家。琉球の南の果て、先島に平家の貴人の末裔と名乗る人物より血の儀式を承けた際に教示されたもの」
石垣島の川平親雲上、群星☆御嶽。西表島の秘祭赤マタ、黒マタ、蒼マタ、猫又。ちょっと違ったものも交じっていはいるが、原生林と煌めく海の囲まれた先島巡視の思い出が夢幻のように頭によぎる。
「ふっ!やはり俺の目に狂いは無かったようだな!」
ガバッと襖が開くと黒鮑の汁で生臭くなった直乗をさっぱりした真新しい衣に着替えた氏善が大股で入室する。
「氏善殿!原大蔵殿に運ばれたのでは?」
「あれは世を欺く仮の姿。今をときめく織田様も若かりしころはたわけと呼ばれたそうだぞ?」
「氏善様は既に二十八にお成りですが……」
(うん、あれが素だよなぁ)
「大蔵は後で締めるとしてだな。我が別当を勤める熊野三山は院や平家の方々の帰依と厚き信仰による行幸により栄えた霊場。時勢に逆らえず源氏に当時の別当が下り、反旗を翻しましたが秘事として平家に縁のある貴人には別格の扱いをせねばなりませぬ。あの手型に「群星!」の呪はその証し。その使命を脈々と受け継ぎしこの熊野の地に出来ることがありましたら何なりと」
人が変わったかのように氏善が懇切丁寧、下手にでる。
「氏善様、いきなり申しても驚かせるだけにございます」
「そうです。そうですな、此度の目的は確か帝と上様(信長)に御目通りなさること、上様は桓武平氏をお乗りですが、早くに旗下に入り、直臣扱いの義父(九鬼)ならともかく、熊野水軍は名目上、息子の北畠様の旗下」
「あの、熊野の御師は各地で薬種をあつかうとか?琉球には南方の薬種も揃い、某共も堺か京に卯屋と申す薬種問屋の支店を設ける予定でして、宜しければ見本の品を是非」
「黒砂糖に長命酒、蛇精酒、南方の漢方薬にこれは?」
樽金が持ち込んだ試供品と書かれた商品を精査する熊野の三人、特に金武特産の品に興味を示す。
「石鹸と申します。身体を清らかに保ち、病を寄せ付けません」
「それは素晴らしい。熊野修験道に係りが深く都で伝のある方に宛てた書状だけでは足りんなぁ、フムッ!パン!パン!」
「「「お呼びでしょうか」」」
気付いたら室内に……という訳ではなく、きちんと襖を開けて下座についた天狗な様な出で立ちをした三人の若い修験者
「金武殿下、この者らはまだ未熟な修行中の者ですが磨けは光る者共です。大人達は各地で御師として熊野の護符熊野牛王神符の委託販売、速玉神社の熊野速玉大神の本地仏は薬師如来様ですので勿論、霊験あらたかな薬種も商っておりますが、この者らを宜しければ配下に」
熊野の高級和紙に木版で刷られた独特の烏文字、それに朱印を押したのが熊野牛王神符。護符としてだけでなく戦国大名間の和議の際の起請文等に使われたほど霊験新たかな霊符であり、後に秀吉が家康ら五大老に秀頼に対する忠誠を誓わせた起請文にも使われている。
「ご、牛王神符の誓紙の誓いを破ると熊野の烏が祟ると聞いたが、まさかやぁ!」
明らかに忍びの気配を漂わす若者に目を見張る。
「さぁ、この者らは通称烏。まぁ未熟な小烏しか残っておりませぬがお使い下さい。さっ、名を名乗れ」
「おれはとべる!翔烏!」
小柄ながら元気者が胡座のままぴょん跳び跳ねる
「影烏ーっス!」
長身の体育会系だが、口調に緊張がみえる。
「………月烏」
冷静でどこか冷めた感じのイケメソ………エアメガネをくいっと上げてからが頭を下げる。
(か、烏ってこっちのカラスかよ!もっと裏高野的な、いや、せめて澤烏とか菅烏とかいないのか)
「そうそう、忍び働きならある程度こなせますが、翔烏とそうは見えぬ影烏も頭の出来は今一つ故、御師として商い働きができず、その点にはご留意をハッハッハッ!」
思わぬ成り行きで熊野修験道に連なる御師のネットワークに新たな配下三羽烏(忍)を手に入れた真三郎一行。
新宮より熊野水軍の割苻と水先案内人を得て東洋のベニスと謳われ、町衆の自治により空前の繁栄を謳歌している堺に向かうのであった。
やっと信長の○望にも登場する有名武将 堀内氏善(平均能力55)が出たからかブックマ増えたみたいっス!
次は堺!




