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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は大和へ左遷王子~
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第95話 蛇行

久しぶりのランクイン! 95位だけどと書こうとしたら既に消えていたという


新章突入です!

挿絵(By みてみん)

1577年 万暦五年 天正五年 六月中旬


台湾と与那国島の間を通り、琉球の西を北上する黒潮本流、広い所で100キロ、狭い所で50キロ程の幅をもつ正に大河のような本流は時速にして約七キロ。黒潮と呼ばれるに相応しい黒々とした流れは折からの夏至南風(かーちーぺー)、一足早く梅雨明けした琉球からカラリとした良風を受けてガレオン型信天号、馬艦(まーらん)型の告天三号、そして座間味島で汐待をしていた博多方面へと戻る大和の安宅船、さらには南方から琉球を経由する倭冦商人達のジャンク船と総勢八隻からなる船団をトカラ列島沖合いへと運んでいた。


「真三郎様!七島衆(トカラ列島の水軍)の早船が参りました!」


「博多行きの船団はここで黒潮本流を外れ西に舵をとり、薩摩の坊津を経由向かうことになります」


「うむ、我らの秘した役目、また信天号の姿や砲の存在をまだ薩摩に知られる訳にはいかんしな」


「はい、豊後に向かう二隻とは途中までは同行、あちらは種子島を過ぎると北上し、日向沖から豊後に、伊東の勢力が落ちたので念の為にかなり沖合いを通るようです」

四隻の船は北上するが、真三郎一行はトカラ列島と種子島、屋久島の間の海峡で向きを大きく東向きに変える黒潮本流に乗り、四国沖を抜け一気に堺まで渡る予定である。

真三郎達はこれまで船団を組む他船の船足に合わせて減らしていた南蛮帆をさらに張る。もっともガレオン船の艤装を模した信天号は船足が速すぎ、告天三号にあわせて七割程度に減らしている。


「はい、念の為に新鮮な水を数樽補給、警固料は先行する告天号で纏めて支払っております」


「七島衆の水先案内人によると本流が少し南に傾いていると」

  ポルトガル人ら南蛮人も案内する七島衆は信天号に留意することなく、トカラ列島の西を進む船団に随帆し、警固料という名のみかじめ料をきっちり徴収していった。


「よーそろ!」


「よーそろ!」



・・・深夜


ガレオン船を模した信天号には船長室の他に御座室、つまり真三郎用に特別に誂えた四畳半程度の個室がある。他の船室同様に寝台替わり揺れに強いハンモックが天井から吊るされているが、備え付けの机と椅子やちょっとした棚も完備されている。

そして、室内ではいざと言うときには浮き輪替わりにもなるという細かい彫金金具が施された欅の船箪笥が異様な程の存在感を放ち、丹念に塗られた漆黒の漆が揺れと火災対策に天井から吊るされた提灯の灯りをてらてらと鈍く反射する。


ガサゴソ、ガサゴソ


「あれ?確か、こっちをこう押してと……引くだったかな」


「んん?ここが確か……あっ!開いた!」


黒潮に乗り四国の沖合いを進む二隻の船。揺れにはすっかり慣れた真三郎ではあるが島陰も見えぬ遠洋航海、すっかり飽きてのんびりと昼寝をした結果、真夜中にふと目が覚めると暇で暇でごそごそしているのである。


「おおっと!これこれ」

船箪笥の隠し棚からどうにか取り出したのが兄、尚永王より対大和、外交通商交渉の全権を委譲された証しの宝剣。


刀身こそ大和からの輸入品ではあるが、宝剣にふさわしく目利きが選び抜いた逸品。鞘と柄は琉球で明や南蛮向けに受けるよう蒼く輝く螺鈿や珊瑚に真珠、どうみても実戦向けではない華美な装飾彫金すら施されてまさに宝の剣。


「………満・開!!」シャキーン!


「………ちっ!開放されないか、いや、銘が分からいからかなっ!!」


コンコン!

「真三郎様?何かありました?」


「わっ!わっ!わっ!」 ガシャン!

「ま、真牛か!びっくりしたなぁもー。船の中だし夜中まで扉前に張り付かなくても。ちゃんと寝てていーぞ、昼間に寝すぎてちょっと眠れなくて起きてただけだし」


「いえ、大丈夫です。それよりなにやら物音がしましたが?」


「あーちょっと物を倒しただけだって」


(あちゃー!鞘の螺鈿が一部剥げちゃったよ……天の字っぽいデザインの所が剥げて犬みたいになってらぁ………コレ、ご飯粒とかでくっつくかなぁ、トホホ……)


真夜中、眠れずにふと目が覚めたがゆえの黒歴史……誰にも見られなくて幸いであった。




そして、時は少し遡り 首里 聞得大君御殿



「しかし、あのように航海の安全を祈願してもよろしかったので?」

御殿の奥で安南ベトナムからの交易船より献上されたばかりの沈香を聞香する手を休めて北谷王子が囁く。

「そうですわ、側室が男の子を産んだとか」


「ええ、確か元は豊見城間切の神女だったのを金武の新しい御殿の御嶽の祭祀役、まぁ元々その気で連れ込んだのでしょうが、ふふふ」


陪席している三平等(みひら)のアムシラレ達が口賢しく影口を叩く。


「これこれ、たかが親雲上の養女ではないか、御殿なら兎も角玉座に近寄れるものか、オーホホホ」

明け透けな追従に上機嫌に微笑む屋敷の主。室内に漂う馥郁たる沈香の香よりも身に纏った羅の打掛に焚きしめた伽羅の香りがかえって引き立つ美貌の年増、いや、国母にして聞得大君加那志

「まあ、正室は上間親方の娘と聞いたが、なんと御歳八つの幼女であるとか!ふふ」


「いやですわ、朝理様。あの方がその様な趣味嗜好の持ち主だなんて」


「これ、これ、話がそれておるぞよ。祈祷は首里天加那志の御下命じゃ、断れまいて」


「確かに、祈祷したのに出航の際に悪天候になりましたら大君様の御威光に傷が」


「ふん、そこは間違いあるまい、宝剣に仕込みは済んでおる。妾の加護領域である琉球を遠く離れた大和で災難にあっても祈祷の範囲外じゃて問題はあるまい。くっくっくっ。王権の象徴たる天の隠し文字、アレが畜生の象徴たる隠し文字に変われば、加護は過誤、全てはくるりと裏返るのじゃ!おーほほほほっ!」


聞香用の炭に真三郎が宝剣の加護祈祷に対し贈った礼状を翳す。紙片はボフッと一気に燃え上がり室内をまっ赤に染める。






コッ!コッ!コッ!コッ!


ドンドンドン!ドンドンドン! ドンドンドン!ドンドンドン!

「……さまぁ!真三郎様!大変です!起きてください川満船頭が!!」


「ふわぁ三良ぁ、どうした?敵かぁ、まだ夜明前じゃないか」


「……どうした?日もまだ明けきらんうちに」

  すっかりほどけてポロリな寝間着の裾と帯を整え、背伸びしながら船室を出る真三郎

「殿下、左手を御覧下さい!」


「んーん?あー綺麗な朝焼けだなぁあーあふぁ」

  夜更かししたせいか欠伸が止まらない

「違いますよ、方角!方角!」


「ん?ひだ、何で左手から太陽が?東北東に向かってたから正面やや右じゃ?」


「はい、船が夜の間、南に向かって流されております」


「な、なにぃー琉球に逆戻りってか?はっ!もしや、く、黒潮大蛇行!!」


「よ、よくご存知で、七島衆の水先案内人も前に蛇行を確認したのは三十年は昔の話で、その時は半年ほど四国から紀伊の沖合を南に向かって流れていたとか」


「そんなっ、情報は?前触れはなかったのか、いや、どれくらい、どれくらい流された?」


「昨夜は雨は降りませんでしたが、梅雨時期特有の分厚い雲に覆われ、月明かりどころか星ひとつない漆黒の闇、風もなく告天との距離だけが頼り。方角や位置は確認できておりません。

日没までは確かに北東に舵を取っておりました。その後、夜に備えて帆を畳んでからすぐに南方に潮で流されたとしてもおよそ十里(70キロ)」

川満船頭が樽金に指示して算出した概算を答える。

「分かった!告天三号にも直ぐに連絡しろ!日が上れは今の季節南からの風が吹くだろう。南蛮帆の技量のみせどころだ、総員朝食を取って転進用意!」


「「「よーそろ!」」」





コッ!コッ!コッ!コッ!


「ん?なんの音だ? こ、ここか?」


「まさかやぁ、龍卵にひ、罅が!こ、コモドって確か毒とか持ってなかったっけ?」


「す、棄てるか?」

  私室に戻った真三郎が恐る恐る秦陽至より貰った宝箱を開けると三つ並んだ龍卵全てに罅が走っていたのだった。



黒潮大蛇行に押し流されて三日目



ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ! ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!


  丸一日がかりで巨大な龍卵から孵化したのは翼のある蜥蜴(ワイバーン)でも毒のある蜥蜴(コモドドラゴン)でもないおっきすぎる鳥の雛達であった。


(駝鳥?はアフリカだし、卵もでかすぎ。一寸以上あったし、秦の野郎、東の果ての島に流れた交易船から入手したといってたが………えーと、あれ、キウイってキウイフルーツっぽい卵?身体がキウイ?んーいや、駝鳥よりは絶対小さいはずだし、やっぱりちょっとでかすぎるよなぁ)

頭の中で世界地図を思いだそうと考え込む真三郎の手足を雛達が啄む。

そう、すっかり真三郎に刷り込み(インプリティング)済みなのである。鳥だけに

「はぁあ、まだ食うのか、もっと(MORE)もっと(MORE)としつこいなぁー」


ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!


真三郎の後をよちよち追いかける三匹はすっかり船上の人気者。真三郎を経由しないと食べないが、食い残しの穀物類を食べまくりアホウドリの雛状態に日に日に大きくなっていた。


「うわっ!殻まで、喰ってやがる、ー、カルシウム補給?あっ、こらまて、これは宝剣だぞ、螺鈿、あー真珠がないいいー!剥げてるぅー、ヤッバッ!」


  宝剣の鞘、ご飯粒でこっそり補修を試みた螺鈿の破片だけでなく、漆でもともとがっちりと接着されていた残された犬の字型の螺鈿に輝く真珠すら啄まれて、真三郎にはみえない黒いもや状の呪詛ごと食欲旺盛な雛達の胃袋にすっかり納まったのであった。



「雲だ!陸だぞ!」


「川満船頭、あれは土佐の山か?」

ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!


「うむぅ、某も大和にまで渡ったは数える程度、少し山深いような、七島衆の割り苻はありますのでなんとかなりましょう」



「河口でしょうか、城に出入りする船も見えます。喫水の浅い告天を前に近づきましょう。南蛮の賊と異なりいきなり襲ってくることは無いと思いますが」


「念の為に砲に連弩の準備、弦はまだ牽くな、砲口も閉めたままで!」

ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!


「「はっ!」」


「うー締まらんなぁ」

ピョピョピョ!ピョピョピョ!ピョピョピョ!




紀伊国


熊野 新宮城 紀伊山地より太平洋に注ぐ新宮川、その河口付近、南岸の高台に遠く南海を航行する船舶を常に監視出来るようそびえる三層からなる白亜の巨城である。


  源平の合戦で最終的な形勢を決めた壇ノ浦で源氏についた熊野水軍の湛増(たんぞう)。平安の昔から熊野別当の抱える熊野水軍は200隻を数え、瀬戸内と東海、関東を結ぶ流通の大動脈を握る影響力があった。


  現在の熊野水軍を率いるは熊野別当にして新宮城主堀内氏善(うじよし)28歳。

  一時は信長のダメ息子として歴史に名を残す北畠信雄(当時は信意だったらしいが紛らわしいので信雄で統一)と志摩の領地を巡って争うも和睦。

   志摩水軍で有名な九鬼嘉隆(よしたか)の養女を正室に娶り、義父と共に織田水軍の両翼を為す、熊野25000石、熊野三山の参詣に伴う利権に豊富な海産、交易や警固収入を合わせると実質六万石を差配する海の大大名である。


   本宮、那智、速玉の三山からなる熊野信仰、別当である堀内氏は水軍の長としての顔も持ち熊野速玉神社の近く、港に面した新宮城を居城としていた。



「琉球の港がある場所鳥が漫湖って本当?ジュンジュワー!」


「う、氏善様!客人に失礼ですぞ!」


「えー!お前も思うだろ」


「黙れ!し、失礼をば、某、堀内家家老の原大蔵(おおくら)、こちらは那智の補陀落山ふだらくさん寺の住持 名潤様です」

 破天荒な主に冷や汗を流す重臣が代わりに末席の僧を紹介する。当時漢籍を操る僧侶は外交、交渉事に欠かせぬ人材であり、琉球、異国の船として大至急で呼ばれたらしかった。


南無阿弥陀仏(サワディーカ)!」

  何故か薄墨ではなく鮮やかな橙色に染めた僧衣をふわりと纏った高僧が念仏を唱えながら頭を下げる。日に焼けた姿はまるでシャムの高僧のような風貌だ。


「これは御丁寧に、琉球国金武王子の朝公と申す、これなるは近臣の程隆成に漢那可良、座波正臣」

  

   小国とはいえ異国の王子、対応に困った堀内氏善は面会に上下を作らず床の間を挟んで左右にならんだお互いの臣下を紹介する。

「主上の遣使として畿内を治める織田様と京の都の帝に貢を持参した次第、聞くところによると堀内殿は先年に旗下に下られておるとか」

   すでに港にてある程度の紀伊国内の情報を収集してきた樽金の行動力、織田家の支配領域と知ってほっと一息ついたのは秘密である。


「そう、そう、そうなんですぃー」

   ニヤニヤ笑い、摩訶不思議な動きをとる堀内氏善。しかしながら真三郎をうかがう笑顔の奥の瞳は笑っていない。恐るべし戦国武将である。


「え、えーと我らは琉球から堺に赴く予定でしたが、潮が南へ蛇行し熊野まで流されてしまいました。しかし琉球とこの熊野は実に縁が深く、琉球で祭る八つの社のうち七社が熊野権現を祭っておりれば、、」

  揉み手で世辞を述べる真三郎

「し、潮の蛇行?王子殿下。それは真であれば由々しき問題。とり急ぎ船の船頭に詳しい話を聞かせて頂いてよいでしょうか?黒潮の大蛇行はこの熊野にとって死活問題!堺への割符と案内人は責任をもってつける故、二日ほど待たれよ、殿、急ぎ手配しますのでご免!」

   話の通じそうな大蔵(おおくら)が潮の話に目の色をかけて広間を飛び出す。

「・・・えーと、そうそう、我が領内にある金武観音堂は那智より補陀落(ふだらく)渡海した日秀上人の創建、確か……えーと」

「上人様は今は薩摩に渡られかの地にて権現様の教えを広めておられるとか」

  金武間切内の漢那村出身、縁者でもある金武大屋子が副使として薩摩の一条院で面会したという日秀上人の消息を三良がそっと捕捉する。


「日秀……確か四十年は昔に渡海した僧の名に確か」

  名潤上人が寺に奉納された歴代の僧籍を思い出す。上人が得度する前の出来事のようだ。

「はい、補陀落渡海の際には船底に穴を空けると聞き及んでおります。日秀上人の夢枕に観音様が現れ、乗られた船の船底を熊野の大アワビがその身を挺して琉球まで運んだとか、おかげで琉球にありがたい教えが広がり申した。」


「ほう、それは正に奇縁なり」


「なり、なり、なりぃーっと!」

  永遠の子供のような満面の笑みで、いきなり平泳ぎのような動きをしながら広間をかける堀内氏善。

「オホン!大蔵(おおくら)殿の所要もあり、案内人の手配まで熊野三山の参詣に、そうそう、よろしければこの奇縁を言祝ぎアワビの放生会でも行いましょう。いかがですか?」

  乱心?の主をすっかり無視して話を進める住持。

「もちろんです。よろしくお願いいたします」


大和(紀伊)上陸。いきなり前途多難な真三郎一行であった。



※龍卵孵りました。ばれてると思いますが、説によると1700年頃までは生息していたといわれるニュージーランドの恐鳥ジャイアントモアでした。 の〇太の映画で蘇らせたやつです。


※堀内氏善、、、原大蔵おおくら、名潤上人  特定モデルは 特定しないでね。

※天の隠し紋章はあったようですが、呪詛は創作 相変わらずフラグはへし折ります。

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