いち
また、先輩は苦しそうに笑う。
「…三谷、先輩。」
声を振り絞る。少し震えながらもその名を呼ぶ。
「……三谷…せん、ぱい。」
無理しないでください。辛いなら私が…。
「…みた、に……せんぱ…い。」
先輩の苦しみが心の奥底へと伝わってくる。
「………。」
先輩が苦しくて…。
「……!」
ふと、先輩がみんなの輪から外れ、こちらへと駆けてくる。
「………。」
「どうしたの?」
みんなにも向ける苦しみの笑顔で話している。
「…先輩、苦しくて、辛いなら、私が話を聞きます。苦しくて、辛くても泣くことができないなら、私が涙を流します。…だから……。先輩は……。」
「……ありがとう…増一ちゃん。」
ピリリリリリッ。
少しずれた携帯のアラームが鳴る。
「…ううん。」
携帯のロックを外し、アラームを止める。
「……。」
今日から新しい学校の始まりだ。私は親の転勤が理由で高校は中学から遠く離れた場所だ。2つ3つくらいの都道府県をまたいでいた。ベッドから出て、顔を洗い歯磨きをする。新しい友達できるかな?という期待もある。朝食を軽く取り、新しい制服を着て、家を出る。
「よし…!」
「………。」
ここが私の通う高校。思っていたよりも綺麗だった。先ずは入学式。
「私たちは入学でき、160人という運命の出会いをしました……。」
1年生代表の人が挨拶をする。
「僕は生徒会書記の三谷蒼です。新入生の皆さん。こんにちは……。」
在校生代表の人が挨拶をする。…この人、なんだか…。
「桜が舞う中あなたたちと出会えたことを……。」
なんだか、無理して笑ってる。みんなの前で挨拶だから笑っているのではなくて、なんとも言葉にしにくい笑顔…。
「と、堅苦しい挨拶はこれくらいにして、新入生の皆さん。本当に入学おめでとうございます。」
三谷、先輩は一礼して去っていく。みんなの拍手に包まれて場を後にした。
さっきの人気になるな、と思っていたらすでに放課後だった。えっと、下駄箱はこっちかな?1人で下駄箱の場所を探す。
「あれ?何か生徒会に用事があるの?」
「え…?」
目の前には生徒会室と三谷先輩がいた。
「あ、えっと、その〜。」
「あぁ、校内見学?毎年生徒会に聞いてくる子は多いからね。俺が案内するよ?」
「え、あっ……あの、お願いします。」
せっかくなので好意に甘えようと思い、軽く一礼する。
「うん、じゃあ先ずは1校舎から案内するね。君、名前は?」
その笑顔でまた…。
「増一、明音です。明るい音って書いて明音です。」
「増一ちゃんね。俺は……。」
「三谷、蒼先輩?」
「あ、あれ?知ってたの?」
「今朝の挨拶で、聞いてたので…。見事な演説でした。」
「うん、ありがとう増一ちゃん。」