覚えある場所
7 凍てついた思い出
どれほど時間がたっただろうか、ココットはやがて目を覚ました。
凍える事を通り越して痛みすら感じる体を動かし、狭く、暗い室内、首を巡らせても何も見えないほどの真っ暗闇の中、ココットは地を這うように床を這った。
(私はここを知っている…?)
明かりもなく、火もなく、何もなく、でも与えられる場所……。
凍える体は考える余裕すら与えず、ただただココットから思考を奪う。 ココットの頭には、一瞬本当に『死』と言う一文字が浮かび上がった。 あまりの言葉の激烈さに、我を忘れ、恐怖のままに床をその拳で打つ。
「出して、ここから出して! お願いだから出してっ」
ドンドンドン…と虚しく反響する音にココットは、それでも声が誰かに届けばいいと、願いながら叩き続けた。
恐怖とあまりの悲しさに、ココットの目からは涙が出てきた。
(泣いている暇なんかないのに…)
そう思えば思うほど、ココットの目からは涙が溢れた。
「出して…出してぇ…、ここからだしてよ~…」
声がしゃがれて力無くなるほど、ココットはずっと懇願し続けた。
ココットにはいつまでそうしていたかすらわからないだろう、ただ頭がぼぅっとして視界がかすむまでそうしていた。
それからしばらくして、再び床を這いずり回った。
そう、ココットは知っていた。 この部屋の中にベッドがあることを…。 硬く冷たい木の感触を手で確かめ、その上に置かれていた毛布を手で手繰り寄せ、体に巻きつける。
言い知れぬ不安や得体の知れぬ恐怖に、ココット自身気でも狂ったかと思うほど怯えていた。
ココットは全ての感覚を閉ざすように、身を縮めた。
何故か昔からずっとこうしていたような気がしたのである。
寒さと恐怖に怯え、震えながらこうして身を縮めている。
(イヤダ… 何で…? 私が… 私はずっと城にいたはず…。 こんなところ知らない!)
…デモ本当ニ…?
オモイダシタクナイ…。
何も考えたくない。 何も…何も…
ココットはそれでも思い出してしまった。 他でもないこの場所にいたから。 そして今、この場所にいるから。
あの頃のココットの髪は短くて…ココットはいつも修道女達の声に怯えていた。
今いるこの部屋からほとんど出た事がなかった。 当時のココットにとって、この部屋は唯一ココットに与えられた全ての世界であった。