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三騎士  作者: 和久井暁
18/25

エレミカへ

18 暗中模索~賭けの第一日目から二日目


 エレミカへの道は険しく、雪が所々残っていて、山犬の遠吠えすら聞こえる静かな夜道は不気味と不安を増長させる。

 エレミカまで急ぎ、実際に着いたのは翌日の夕刻あたりであった。

エレミカは小さなこぢんまりとした街で、四方の家々が、軒を連ねている。

 一年のほとんどを雪に閉ざされて過ごす街は、材木の伐採や、夏の間だけは知られていないが、避暑地になっている。

 そして僅かに羊毛や酒を造る人々が、いるだけである。

 街の北側には『悪魔の峰』との異名をもつデクロラ山脈が横たわっている。

 その昔、『三騎士』と『魔術師』が争ったと言う言い伝えが残るこの不気味な山々は、万年雪を頭上に戴き、今も沈黙と侵入を拒み続けて、早千年ほどがたとうか。

 その山脈の麓には大きな崖のような亀裂が走り、それを覆い隠すかのように森が広がっていた。

 エレミカで馬房のある宿屋を探し、その宿屋二手に分かれた。 サイトネスは仮眠をとると、北領領主の家を尋ねて行った。

 ティティスとクロイスは、疲れた体を少しだけ休めた後、ナストに教えられた道を探しに、銅像のある北の広場に行った。

 しかし北の夕暮れは早く、空の明るさも早くに失われる為、樹木の枝葉に隠れるように結ばれたリボンは見つけられなかった。

 サイトネスが行った北領領主の館は、ここから往復しても半日から一日は最低でもかかる僻地で、しばらくは頼りにできない。

 二人は暗中模索のまま第一日目の夜を迎えた。

 翌日、ティティスとクロイスはヒントを探す為、早朝から起き出して仕度をしていた。

 二人は布団から出て、冷える体を忙しく動かし、服を着替えると、下のカウンターに下りて行った。

「あっ、おはようございます。 もう起きていらしたんですね?」

 赤茶色の髪を三つ編みにして、濃い青い目に丸っこい鼻の小柄な少女が、両手に薪を抱えて陽気に挨拶をしてきた。

 外の薪置き場から取って来たらしく、鼻の頭が微かに赤い。

「手伝いましょうか? 重いでしょう?」

 ティティスがさりげなく言うと、少女は柔らかく微笑んで、「これくらいなら平気です」と元気一杯に答えて、厨房に入って行った。

 そう思ったら、上半身だけひょこっとだして、

「食事すぐ用意しますから、一緒に食べませんか?」

と言った。

 ティティスとクロイスは「是非」と答えると、少女は嬉しそうに笑って、二人を手招きした。

「沢山の人と食事するのは久しぶりなんです。ここにはあまりお客様が来ないから、寂しくって。

 でもそう言えばこの前も、一緒に食べてくれたお客様がいたなぁ」

 食事を暖め、皿に盛り付けている少女が、あまりに懐かしそうに言っていたので、興味本位にクロイスが訪ねると、きょとんとした顔で言う。

「ほら、王都のから来た人で、結構有名になったじゃありませんか。

 一ヶ月前に家族の方が探しに来て、帰られた女の人、うちに泊まっていたんですよ?」

 その言葉に、ティティスもクロイスも瞠目した。

「それって淡い緑の髪で、茶色の目の小柄な女性?」

 ティティスが思い出の中の特徴を述べると少女は曖昧に笑って、「仰っている人かどうか分かりませんが、ちょっと印象の薄い、目も髪も仰られたのと同じ色合いの人ですよ?」と返した。

 ティティスとクロイスは、一瞬少女に気づかれないように視線を交わした。

 この少女に尋ねれば、何か手掛かりがあるかもしれないと考えたからである。

「その人、いつから帰ってこなくなりましたか?

それからいなくなる前に何処に行ったとか……知りませんか?」

 ティティスの口調は穏やかであったが、その瞳には今までにない真剣さが、そしてその声にはいつになく熱がこもっていた。

「さぁ……、私は帰る時は会ってはいませんから。

 荷物もご家族の方が取りにいらっしゃったし……」

 ほんの少しの同情と、困ったような、何かを危ぶむような複雑な表情を浮かべた少女は、食卓に食事を並べて自分も席に着く。

 食事中は、辺り障りのない会話でその場は流れた。

 少女が話したがらないと言うのもあったが、何度尋ねても同じ事だけで、大して聞けそうにもなかった。

 しかしそれはあくまで、『知らないから言えない』のではなく、『知っているからこそ、隠したい』という類のものであると二人は感じ取った。 取敢えず、探すしかないのだ。この街を隅から隅まで、魔女狩りを暴く為にも。 ちょうど食事を終えようとした時に、重厚な鐘の音がが外から響き渡ってきた。

「変わった時刻になる鐘だな……」

 厨房の時計を見ながらティティスが言った。

 確かに今は七時半を回ったあたりである。

 鳴るにしては、少し時刻が遅い気がする。

 ティティスが少女の顔を見ると、その表情は驚いているような、恐れているような、何もかもが止まっているように見えた。

 しかしその奇妙な停止時間も一瞬の事で、少女は食器を片付けて、二人に尋ねてきた。

「お二人とも今日はどうなさるんですか?」

「今日は北の銅像のある広場に行こうと思ってるんですよ」

 何か違和感を持ちながら、ティティスはそう言うと、少女の顔が今度は笑顔が崩れるようにまた止まってしまった。

「今日はまた風が強くなって、天気が荒れるようです。 今日は外出を控えられたらいかがでしょう?」

 何かを知られることに震えるように、怯えるように言った少女の様子を見かね、少し宥め様と椅子から腰を浮かせると、少女が叫ぶように「動かないで!」と言った。

「駄目です。 いけません。 駄目なんです、出ちゃいけないんですっ! お願いです、出ないと約束してください。

 今日は出ては行けないんです!」

 少女はそれ以上言えないのか、火がついたような激しさで泣き出してしまった。 取敢えず二人は少女を宥める為、口約束だけを交わして落ちつかせた。

 その後少女は部屋に戻り、二人も部屋に戻る。

「なぁクロイス、一体あの子はなんであんなに必死だったんだろう?」

 ベッドにドサッと腰を下ろし、ティティスは天井を見ながらそうクロイスに尋ねる。

「さぁな、でもあの動揺振りは何かあるな。 サイスがいたら絶対に『何か裏があるな』って言うぜ?」

 クロイスがサイトネスの物まねをしながら言ったので、ティティスは軽く笑い声を立て、「似てないなぁ」としみじみ呟く。

「それはまぁいいよ……。 でもこれから何をする?

 あの子とあんな約束しちまってさ、まぁあの場合仕方がないけどよ」

 クロイスが仰向けに倒れるようにしてベッドに寝転ぶと、ティティスは起きあがり窓に近寄った。

「誰もいないな……」

 雪が僅かに残る道には、人っ子一人いない。

 ただ不気味なほど異様な静けさが漂っている。

「……?」

 ティティスは窓から離れようとして、足を止めた。

 その顔には怪訝な表情が浮かんでいる。

「クロイス……ちょっと来てくれ……」

 クロイスが「どうした?」と、不思議そうな顔で窓に近寄っていく。

 ティティスは無言で「向いにある家を見ろ」と、指を差して示した。

「あぁ……?」

 隣の住人が窓辺に立っていて、せかせかと窓の戸締りを確認した後、カーテンまで引いている。

 そしてそれを一人だけでなく、家族らしき男と少女が行なっていた。

 全ての窓に施錠しカーテンを引いた後は、やはり何もない静けさが残った。

「なんなんだ? 一体?」

 不思議そうに首を傾げるクロイスは、答えを求めるようにティティスを見る。

 しかしそんな風に見ても、ティティスに分かるはずがなかった。

「取敢えず外に出よう、そして街の様子を探った方が良さそうだ」

 ティティスは必要な物だけを身につけて、身支度をしていると、廊下の方から奇妙な音が聞こえた。

 キィィィィィ……バタン……シャッシャッ……

 トタトタトタ……キィィィィ……バタン……シャッシャッ

 トタトタというのはどうやら足音であるらしい、キィィィィというのはドアの音、他の音を推測つけていると、部屋のドアが軽くコンコンとノックされた。

「どうぞ」

 ティティスがそう答えると、鍵束を持った少女が立っていた。

「失礼します」

 そう言ってからの少女の動きは、実に手馴れていて素早かった。

 窓に頑丈そうな南京錠をつけ、シャッシャッとカーテンを引く。

 暗くなった室内で、ティティスは少女の鬼気迫る形相に一瞬言葉を失った。

 泣き腫らした目、引き結ばれた唇、まるで何か呪うかのような忌々しそうな顔であった。

「事情は後でお話します。 くれぐれもカーテンを開けたり、捲って外を見ないようにお願いします。

 それに外にも絶対に出ないでくださいね?」

 低い声で言い置き、また別の部屋に駆け込む少女を見送って、二人は結局顔を見合わせベッドに腰を下ろした。

 取り残された二人は顔を見合わせ、目で合図した。

 立ち上がり、足音をたてないように部屋の外に出る。

 明らかにこの街は何かがおかしい。

 その街の様子を探る為に。

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