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ドラゴン祭り 1日目 後編 + 近郊地図

 気が進まないままキャンプファイヤーの指定席に戻ったが、決闘の申し出は急に来なくなった。

 ブラムドとの戦いを見て、勝負にならないと思ったのだろう。

 その代わりに、若い女性から求婚がやたらとくるようになった。

 いや、若い子だけではない。

 小さい娘を持つ親が、将来嫁にして欲しいとお願いに来たりもした。

 お陰でフィーナは戦う必要はなくなったものの終始不機嫌になってしまった。

 そんな状態に嫌気がさした俺は、昼飯を食べた後、町を散策することにした。

 ちなみに、ジョジゼルはゼノアらと一緒に剣技の話題で花を咲かせていた。

 やはり、剣士同士気が合うようだ。


「ご主人様との二人きりのデートは久しぶりですね」


 串に刺さった大きな肉を頬張りながら、嬉しそうにもぐもぐと話す。

 お陰で、口元には肉汁がべっとりと付いてる。

 ハンカチで拭ってやると、目をつぶってムーっと唸る。まるで年端も行かない妹の世話をしている気分だ。

 先ほどと打て変わってフィーナはやたら機嫌がいい。

 美味しいものを食べれて、俺と一緒に歩く、それだけで楽しいようだ。

 もちろん、俺も楽しい。

 二人共ドラゴン族の民族衣装を着ているというのも気分を高揚させる。


「あー、ユウキだ!」


 あてもなくさまよってると、ミールの声が聞こえてきた。

 ミールは駆け駆け寄ってくると、勢い良くジャンプして俺の首にしがみつく。

 倒れそうになる所を踏ん張って、抱っこして受け止める。


「神官たちと何かやってたんじゃないのか?」

「もうあの人達やだ!」


 ミールは、駄々をこねる子供よろしく、俺にしがみついて胸に顔を埋める。

 後からはティアと神官たちが駆け寄ってきた。


「ご主人様、大丈夫かにゃ?」

「大丈夫だけど何があったんだ?」


 ティアの話だと、神官たちはミールの身に何かあったら大変だと、厳重な警備の元軟禁状態だったようだ。

 しかも、謁見だとか言って色んな人が会いに来るが堅苦しくてつまらなかったらしい。


「さあ、ミール様どうかお戻り下さい」

「やだやだ!」


 俺にしがみついて首をぶんぶん振る。


「なあ、俺が見てるから少しぐらい町を見て回ってもいいんじゃないか?」

「そうだよ。デーモンロードを退治したユウキが一緒にいれば危険は無いから」


 ミールは俺に抱っこされたまま、そうだそうだと同意する。

 少々揉めたが、ミールが駄々をこねていると神官たちもとうとう音を上げて、同意してくれた。


「ユウキ様、夕方には必ず竜の間まで連れてきてくださいよ!」


 そう念を押すと、しぶしぶと帰っていった。


「やっぱり、ユウキは優しいな! 強いしミールの結婚相手の候補にしてあげる」

「それは嬉しいな」


 ミールを下ろしながら適当に受け流したら、その次に変な事を言い出した。


「ティアも結婚相手の候補だからな。ユウキもいいけどティアの方がミールは好きだよ」

「は? お前、女の子じゃないのか?」


 よく考えたら性別は不明だ。

 なんとなく女の子っぽいかなと思ってたけど、顔立ちで言えば少年のようにも見える。

 ミールは体の大部分が鱗で覆われているので服は来ていない。

 胸は鱗で覆われていて膨らみはない。

 股間も同じく鱗に覆われていて、つるっとしている。

 ちんちんが付いてるように見えない。

 いや、どちらにしろ俺とティアの両方に求婚するのはおかしい。


「え? ミールは男でも女でもないよ?」

「いやいや、どういうことだよ」

「あー、そうだった。人形の生き物は男と女って別れてるんだったね。

 えーとね。ドラゴンは男にも女にもなれるんだよ」


 え?

 どういうこと?

 男の娘?

 じゃない、両性具有りょうせいぐゆう、いわゆるフタナリってやつか?


「でも、ついてないよな」

「何が?」

「ちんちんだよ」


 子供相手にこんなことを言うのは気が引ける。

 日本だったら『おまわりさんこの人です』と、通報されているところだ。


「だーかーらー、今は男でも女でも無いの。

 ドラゴンは相手によって男になったり女になったり出来るんだよ」

「それは……すごいな」


 男にも女にもなれることは何ていうんだっけ?

 雌雄同体だったか?

 なんか違う気もするが、とにかく男にも女にもなれるなんて、ちょっとうらやましいぞ。


「すごいでしょ? 一人で卵を生むことだって出来るんだよ。

 でも、オーズワールもドラゴン族の女の人と結婚してミールを産んだんだ。

 だから、ミールも人と結婚して子供生みたいんだよね。

 ……オーズワールが許してくれないから、なかなか相手を探せないけど」


 数百歳だとしてもドラゴンの年齢としては、小学生ぐらいだろうからな。

 そりゃ、結婚相手探しのための外出なんて許さんだろうな。 


「だとしてもティアは俺の物だからな。ミールには渡さんぞ」

「そうだにゃ。にゃーはご主人様の物だからミールとは結婚できないにゃ」


 ティアが、屈んでミールと同じ視点の高さに合わせると、あやすように優しい声を出してミールの頭を撫でる。


「でも、ユウキはフィーナとも好き合っててキスもするんでしょ?」

「それは、フィーナもご主人様のものだからにゃ」

「じゃあ、ミールもユウキのものになる」

「イヤイヤ待て待て」


 突飛なことを言うので止めようとするが、ミールな悲しそうに続ける。


「だって、ユウキと一緒にいれば、この山だけじゃなくていろんな所に行けるでしょ?

 それに、ドラゴン族はいい人たちだけど、ミールを神様みたいに扱うんだもん。

 でも、ティアとユウキはミールと普通に話してくれる。

 いろんな面白いことも教えてくれる。だから……ずっと一緒にいたい」


 そうか。ミールはずっとあの穴ぐらで暮らしてるのか、好奇心旺盛な年頃だろうし外界に興味を持つのもうなずける。


「別に俺の物にならなくても、一緒にいることは出来るだろ?」

「できるの?」

「ああ、オーズワールが許してくれたらだけどな」

「……たぶん、許してくれない」


 ミールはつまらなそうに口を尖らせる。


「そんな悲しそうな顔をするなよ。ここにいる間は一緒に遊んでやるから」

「ほんとに? 絶対だよ」


 ミールの顔がぱっと明るくなると、ぴょんとジャンプして抱きついてくる。


「ああ、約束するよ。俺と一緒にいれば神官たちも許してくれるみたいだからな」

「ありがとう! やっぱりユウキのこと好き」


 首に回した腕をギュッと締め付けると、俺の頬にキスをしてきた。



【近郊地図】

挿絵(By みてみん)

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