デーモンロード『権欲の王』④
「そういえば、デーモンロードの指輪について話すの忘れてたな」
ヒナギクの家につくと石で出来た椅子に座る。
同様に石で出来たテーブルに、権欲の王が封印された指輪を置く。
「族長は興味が無いって言ってたわ。
むしろ危険な物なら持っていって欲しいみたいよ」
リゼットは相も変わらず、いつの間に行動をしてたのか族長に確認したらしい。
「ありがとう。いつも手際がいいな」
俺はリゼットの頭をグリグリとなでてあげる。
彼女は年齢の割には頭をなでられるのが好きだ。
照れた笑顔で上目遣いに見る。
この表情が好きだから癖の様になでてしまう。
ちなみに、リゼットの頭をなでると、いつもフィーナが羨ましそうに見ている。
おっと、リゼットと戯れている場合ではなかった。
「さて、要求を聞いてみようか」
指輪をつけると、すぐに黒い光を発し話し出す。
『どうやら、本当に要求を飲んでくれるようだな』
「当たり前だ、デーモンロード相手と言えども約束は守る。
それで、お前の目的は何だ?
なぜブラムドを操りドラゴン族の村を襲おうとした?」
『我の願いはすべての人、いやすべての生物を支配し真の王になることだ』
「その割には簡単に負けを認めたな」
『我は、状況判断が出来るからな。
我が操る男よりお主の方が強く、ドラゴンの咆哮によりわが戦力は実力の半分も出せてなかった。
あれ以上戦っても勝ち目は無いと判断した。
それよりだ……お主は世界を統べる意思はないか?
我が参謀として全面的に協力するぞ』
「なんだ? 自分で王になることを諦めて俺を王にしようというのか?」
『仕方あるまい。お主の中にある妙な力のせいで、操る事が出来んのだからな。
だがお主と我が力を合わせれば敵などいないぞ』
「俺より強いやつなんかいくらでもいるさ。
それに俺には彼女たちがいれば十分だ」
そう言ってフィーナたちを見回す。
みんな少し照れながらも微笑み返してくれる。
リゼットを除いては。
彼女も微笑んではいるのだが、少しぎこちない。
出会った頃の様な硬さを感じる。
気のせいだといいのだが、戦いの後から少し様子がおかしいような感じがしていた。
『なんだと? それだけの強さと仲間がいるのに権力が欲しく無いというのか?』
『権力なんて馬鹿らしいものを求めるのはお前ぐらいじゃわい』
今まで沈黙を守っていた食欲の王が、話に割って入ってくる。
食欲の王と生欲の王は害はなさそうなので、ティアとフィーナがつけたままだ。
『その通りじゃ、権力よりも大切なことがあるわ。
それは人生を謳歌すること。
つまり愛じゃ、この者はそれを体現しておる。
まさに、わらわのが主にふさわしい奴よ』
今度は生欲の王がちょっと興奮した様子で同意する。
なんか、こいつに言われると妙だが、俺の考えとは一致してる。
「そういう事だ。俺は権力なんて興味がないし過分だよ」
『それならば、我は我の望みを叶えるために全力をつくそうぞ』
「待って! あなたの権力が欲しいという望みは、あたしが叶えてあげるわ」
権欲の王が少し語気を強めた所で、リゼットが慌てて間に入る。
「どういうことだ?」
「ご主人様、権欲の王については、あたしに任せてくれないかしら?」
「リゼットならもちろん構わないが、何か妙な事を考えてるんじゃないだろうな?」
「そんなに大層なことじゃないわ。
今後の事を考えたらあたしが使ったほうが良さそうだと思っただけ」
まあ、現状を考えたら次に装備するならリゼットか。
クラリーヌの方が能力的には不安だが、デーモンロードのアクセサリーを装備するのは嫌がるだろうし、性格的にも合わなそうだ。
「わかった、リゼットに任せる」
少し心配だけど、リゼットなら大丈夫だろう。
『お主が我の願いを叶えてくれるというのか? 一体どうやるというのだ?』
「詳しい話は、あとで相談しましょう。あなたの悪いようにはしないわ。
いえ、むしろあたしに協力してほしいの」
『ふん、少しは話はできそうだな。良かろう。あとでしっかりと聞かせてもらうぞ』
リゼットの話しぶりが気に入ったのか、権欲の王はとりあえず納得したらしい。
『忘れぬうちに言っておくが、ワシらもきっちりと報酬をいただくぞ』
「報酬って何だよ?」
『なあに、ワシは旨いものを食わせて貰えば良い。
そうじゃな、この町の料理なんかは気になるの。
明日からは祭りのようじゃし、旨いものを一杯食いたいの』
「わかったよ。メシぐらいならいくらでも食べさせてやる。
で、生欲の王は何をしてほしいい」
『わらわか? わらわはそうじゃな……フィーナにくっついて祭り見物が出来れば十分じゃ。
必要ならその時言うわ』
「わかった。フィーナが良ければ問題ない」
「はい、私も生欲の王さんから色々話が聞きたいです」
「……本当に大丈夫かしら。デーモンロードっていう割には、要求が小さいのよね」
クラリーヌの言う通り、どこまで信用できるかはわからない。
でも、簡単な要求をするぐらいなら、とりあえずは信用しておこう。
『何を言うのじゃ。ワシらにとっては重要な事じゃわい。
もちろん、自由に世界を食い尽くしていいというならやるがな。
まあ、今はお前さん方と一緒にいる方が楽しそうじゃから大人しくしてやるわい』
『そうじゃ。クラリーヌ。お前の体を乗っ取って好き勝手いいならやってやるよ。
なあに、フィーナと同じように感覚は共有してやるから安心せい』
「アッ、アタシは遠慮する! フィーナの方が似合ってるよ!」
クラリーヌは、生欲の王の黒い霧が自分の周りに立ち込めるのを、懸命に払いながら乾いた笑いでごまかす。
「あれ? ミールとジョジゼルがいないな?」
ふと見回して二人がいないことに気づく。
「ミールなら長老に連れて行かれてたにゃ。嫌がっててちょっとかわいそうだったにゃ」
「ドラゴン族にとっちゃ神様だからね。
アタシ達みたいなよそ者には任せてられないわよね」
ティアが心配そうに言うと、クラリーヌが呆れたように眉をひそめる。
「ジョジゼルは、ヒナギクと一緒にゼノアとブラムドの看病に行ったみたいですよ?」
「剣士同士気になるのかね……。
となると……久しぶりにお前たちとゆっくり過ごせるのか」
「そうなんですよ。気づきました?」
横に座ってたフィーナが嬉しそうに、俺の腕にしがみついて体をくっつけてくる。
弾力のある胸が、腕を挟むように押し付けられる。
「そうにゃ。今日はゆっくりと戦いの疲れを癒やすにゃ」
ティアも反対の腕にしがみついてくる。
大きくて柔らかな胸が、腕を包み込むように形を変える。
二人の胸の感触を感じると、安心すると共に戦いのつらさが一気に吹っ飛んでしまう。
「あれだけ危ない戦いの後だって言うのにあなた達は元気ね。あたしは流石に疲れたわ」
「リゼットが珍しいわね。でも同感。朝もそうだったけど、あなた達は何でそんなに元気なのかしら」
リゼットとクラリーヌは呆れながらも疲れた様子で背もたれい体を預ける。
「違うにゃ。戦いの後だからこそスキンシップが重要にゃ」
「そうです。それに、ご主人様の疲れを癒すのも私の仕事です」
フィーナの相手をすると、癒すどころかより疲れるけどな。
という、ツッコミは置いといて、みんなと一緒に過ごせるならどんな戦いも越えられそうだ。
「そうか、リゼットとクラリーヌは疲れてるか。
じゃあ、少し残念だけど今日はフィーナとティアにいっぱい相手してもらおうかな」
わざとらしく見せつけるように、フィーナとティアを両手で抱きかかえて、二人の大きな胸を揉みしだく。
二人共恥ずかしそうに、身をくねらせて反応してくれる。
「もう! すぐそうやって意地悪言うんだから」
リゼットは、かわいらしく頬を膨らませてぷいっと顔をそらす。
「それはだめよ。不平等になっちゃうじゃない。
だから、仕方ないからアタシも一緒に居てあげるわ」
クラリーヌは平静を、装っているが明らかに焦った様子で早口でまくし立てる。
今夜は久しぶりに楽しいことになりそうだ。