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デーモンロード『権欲の王』③

「まったく、世話が焼けるのー」


 危機的な状況に困窮していると、上空から間延びした緊張感のない声が聞こえる。

 その声のぬしは、落下しながらロックワームを一刀両断すると、くるりと宙を舞って地上に降り立つ。


「長老!」

「情けないお前さん方のために援軍が来たぞ」


 長老は小さい体の倍ほどの長さの細身の剣を携えていて、俺を見て片眉を上げてニヤリと笑う。


「助けてくれないと言っていたのに……どうして……。

 いや、それよりも、長老一人で、この状況を打開するのは……」


 ロックワームが一匹倒されても、新たなロックワームが地面から二匹顔を覗かせる。


「誰もワシ一人じゃとは言っとらんじゃろ」

「面白い事をやってるじゃないか、オレも混ぜてくれよ」


 またもや上空から緊迫した状況に合わない、楽しげな高笑いが聞こえる。

 見ると族長がワイバーンに乗って、操られたワイバーンの首をはねていた。

 それだけではない。

 同じくワイバーンに乗ったドラゴン族の戦士を何人も率いている。

 他にも、マウンテンドレイクに乗ったドラゴン族も岩壁に現れてモンスターを攻撃していた。


「これだけの援軍がいれば満足じゃろ?」

「えっ、はい……」


 長老は突然の事で混乱する俺の頭を叩くと、立ちふさがるロックワームに斬りかかる。 


「呆けおってどうしたんじゃ!

 急がねば被害が増すばかりじゃぞ。

 モンスターはワシらに任せて、さっさとデーモンロードを倒してこい」


 叩かれて気持ちを戻すと、長老が倒したロックワームの横をすり抜け権欲の王の元へ駆け抜ける。


「権欲の王よ。今度こそはお前の劣勢だぞ! 覚悟しろ!!」


 気合を込めて言うと、龍神力ドラゴンオーラを再度発動させて切りかかる。


 しかし、肝心の権欲の王には覇気がなく、剣を再び地面にさし腕を組んで仁王立ちした。


「どうした! あきらめたのか? それとも別の奥の手があるのか?」


 狡猾な奴だ。まだ何か狙ってるのかもしれない。

 俺は周囲に気を配りながら剣を振り下ろす。


「負けを認めよう」

「はぁ?」


 予想外の対応に、思わず間抜けな声を発し権欲の王の顔の前で剣を止めてしまう。


「その代わり、食欲の王や生欲の王と同じ扱いを希望する」


 は?

 どういうことだ?

 マジで負けを認めるの?


「どうやら、食欲の王と生欲の王は、ある程度の自由が与えられているようではないか?

 われも同じ扱いを所望しているのだ。難しい事ではあるまい?

 返答がないなら戦いを継続すると受け取るぞ」


 こいつの目的はわからないが、このまま戦いを続けるのは得策ではない。

 みんな、相手を傷つけないように精神を消耗しながら戦っているのだ。


「わかった。投降を認めよう。ドラゴン族とモンスターの洗脳を解いてくれ」

「承知した」


 するとゼノア、ドラゴン族の精鋭は釣り糸が切れた操り人形の如く動きを止めて崩れ落ちた。

 操られていたモンスターもキョロキョロとあたりを見渡し驚くと、さっさと逃げてしまった。

 デーモンも跡形もなく姿を消した。


 どうやら、本当に負けを認めたようだ。


「ブラムドの体も返してもらうぞ」


 ブラムドも他のデーモンロードと同じように黒い霧のような物を発している指輪をつけていた。

 権欲の王は、大人しく指輪をつけた手を前に差し出す。

 俺が指輪を抜き取ると、ブラムドも同様に崩れて倒れた。

 あっけなかったが、デーモンロードとの戦いに勝ったようだ。


「やれやれ、大した被害が出なくてよかったわい」


 長老が腰をトントン叩きながら後ろから声をかけてくる。

 しかし、長老はあれだけ手伝わないと言ってたのに、なぜここにいるのだろう?


「あの……どうしてここに?」

「ミールを危険な目に合わせてキズでも負ったら悲しいからの。

 それに、ドラゴン族の問題をお前さん方だけに押し付けるのもよくないじゃろ?

 まあ、何にせよワシも考えが足りんかったという事じゃな」


 長老は、長い髭をなでながらヒョッヒョッヒョと高笑いした。


「何だ、久しぶりに大きな戦いになると思ったのに、すぐに終わってしまったか」


 族長がそんな事を言いながらワイバーンの首から勢いよく飛び降りた。

 そして、倒れているブラムドに近づくと、よっこらせと抱きかかえる。


「まったくドラゴン族の戦士ともあろうものが敵に操られるとは情けないやつだ」


 族長は、真剣な表情で悪態をつきながらも、優しい目でブラムドを見ていた。


………


………


「今回の戦いご苦労であった」


 ドラゴンハートに戻った俺達は、操られていた者を休ませると、ドラゴンハートの広間に集まっていた。

 族長は一段高い場所の椅子に背筋を伸ばして座っており真剣な表情を俺に向けている。


「我々ドラゴン族の一大事を助けてもらった事、心より感謝する。

 出来る限りの褒美を取らせよう」


 族長が横に立っている者に指示をする。

 その者は、ごてごてとした装飾の付いた丈の長いカラフルな衣装に身を包んでいた。

 どうやらドラゴン族の神官の様だ。

 神官は、白い筒状の物を大事そうに掲げながら俺に近づいてくると、差し出してくる。

 それは、生き物の角を削り出して作った笛の様だった。


「我々ドラゴン族との友好の証だ。それを持っている限りドラゴン族が力になることを約束しよう」


 俺が受け取ると、神官はうやうやしく離れていった。


「あの……ブラムド様とレノア様はどうなるのでしょうか?」


 ヒナギクは、先程からすごく不安な表情をしていたが、とうとう我慢できないと言った感じで、族長に問いかける。


「ヒナギク、お前は今回の功労者の一人では有るが、助けてもらった客人を前に失礼ではないか? 場をわきまえよ」


 ヒナギクの動揺する様子はただ事ではないと感じる。


「何かあるんですか? もし、重大なことなら俺も気になります」


 ヒナギクが言うよりも俺が言った方が、話がスムーズに進むと思い声を出す。

 実際、ヒナギクがうろたえている理由は気になる。


「……ユウキが聞きたいのであれば説明しよう。

 今回、デーモンロードに操られていた者たちは追放処分となる」


 ヒナギクは予想してたのか真っ青になると、声も出せずに口をパクパクと動かす。


「どういう事ですか? 彼らは被害者ですよ? それなのに追放なんて」

「奴らは、敵に負けるだけではなく操られていた。

 そして、部族を守るべき戦士が、仲間を傷つけるという愚行を犯そうとした。

 これは不名誉などという生ぬるい話ではなく戦士としての存在意義に関わる問題だ」

「しかし……」

「客人よ。確かにあなたは恩人ではあるが、これはドラゴン族の問題。口出しは無用」

「それではあまりにも、彼らがかわいそう……」


 俺が反論しようとすると、リゼットがすっと一歩前に出てくる。


「族長、あなたは先程、私たちに『出来る限りの褒美をとらせる』そうおっしゃいましたね?」

「……ああ、たしかに言った」

「では、『彼らの罪を許して以前と同じように扱う』事を褒美として頂きたいと思います」


 族長は少しの間考えると、俺を真剣な表情で見る。


「ユウキよ。お主がリーダーだと思うが、彼女の言っている褒美でかまわないのか?」

「ええ、俺もそれを望みます」


 族長は立ち上がると大きな声で宣言する。


「恩人の願いは部族のおきてよりも重い!

 町のもの全員に伝えよ!

 ブラムドとゼノア他、ドラゴン族の精鋭たちの罪は不問に処す。

 彼らをしいたげる者は厳罰を与える!」


 その場にいたドラゴン族全員が姿勢を正すと「はっ!」と同意の声を上げる。

 族長はそれを確認して大きくうなずくと、すっと表情を崩しドカッと椅子に座る。


「堅苦しい話はこれくらいにしよう。

 明日からは勝利の祭りだ。

 今日のところはゆっくりと休むといい」


「勝利の祭りってなんだ?」 


 こそっとヒナギクに聞くと、表情を緩めニコッと笑って答える。


「ドラゴン族は戦いに勝利すると、戦った雄姿をたたえて、村を挙げてのお祭り騒ぎをするんです」


 ゼノア達が罰せられなくて安心したのか、今まで見せたことのない素の笑顔は、すごく子供っぽくてかわいかった。


「あの、どうかしましたか?」


 見とれている俺を不思議そうに小首をかしげて見返してくる。


「いや、何でもない。ちょっと疲れてなって」

「そうですね。わたくしも疲れました」


 ヒナギクはふうっと息を漏らすと、遠慮がちに声を出す。


「あの、本当はお礼を兼ねて家でご馳走を振る舞いたいところですが、ゼノア様とブラムド様が心配なので見に行かせてください。

 わたくしの家は自由にしてくれて構いませんので」

「ああ、そうだな。俺も心配だ。見に行ってくれ」


 ヒナギクは『はいっ』と元気に答えると、小走りで広間から出て行った。



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