表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/92

ドラゴンの試練(中編)

「私もついて行きます!」

「ご主人様と離れるなんて嫌だにゃー」


 フィーナとティアが左右の腕にしがみついてくる。


「残念ですが、ドラゴンの試練は魔法により一人しか入れない様になっているのです」


 余りにも悲しげな二人に、ヒナギクが困惑している。


「安心せい、試練の内容は教えられんが、こやつなら大丈夫じゃろ」

「ほら、長老も大丈夫だって言ってるし、俺を信用してくれ」


 自分が一番信用ならないのだが、俺が弱気な態度を見せると、ますます二人が不安がってしまう。


「ゼノアも突破した試練なんでしょう?

 あの英雄と対等に戦ったご主人様なら大丈夫よ」


 リゼットは、二人を安心させようと優しい声でなだめる。

 

「アタシがいなくて本当に大丈夫~?」


 クラリーヌは意地悪な顔で、腰に手を当てて顔を近づけてきた。


「大丈夫だ。任せてくれ」

「これほど強いユウキなら大丈夫だろう」


 ジョジゼルは、特に疑った様子はなく俺を全面的に信頼しているようだ。


「心配しててもしょうがないだろ。

 ヒナギク、試練の場所まで案内してくれ」


 ヒナギクが案内してくれた試験の入り口は長老の家から近く、絶壁に作られた細長い道を1時間ほど歩いた洞窟の中にあった。

 洞窟を少し入ると石の扉がたたずんでいた。

 その扉の中央には龍をかたどった紋章があり、紋章の周りには5色のこぶし大の魔法石が埋め込まれていた。


「さて、最初の関門じゃ。紋章に手をかざしてみぃ。

 資格がなければ、門をくぐることすらできん」


 長老に促されて紋章に手をかざすと、光を発して扉が開いた。


「よかった。オーズワールに会う資格はあったようですね」


 ヒナギクは心底、ほっとしたように胸を撫でおろした。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は覚悟を決めると、入り口に張られている青白いフィールドに入っていく。

 そこは、大理石の様な白い石壁の広い部屋になっていて、奥に入り口と同じような扉があった。

 そして、6メートルほどのドラゴンの形をした石像が左右にたたずんでいた。


 中に入ると入り口が自然に閉まる。

 何が起こっても大丈夫なように警戒していると、どこからか声が響いてきた。


『試練に挑みし者よ。まずは、その力をしめせ』


 その声とともに、左の石像は赤く、右の石像は青く変わると動き出した。

 ドラゴンは、同時に俺の方を向き赤いドラゴンが炎を、青いドラゴンが氷のブレスを吐く。

 左に飛んでかわすが完全には避けられない。


「あつっ!」


 俺は炎の暑さに耐えながらも赤いドラゴンに突進すると剣を大きく振るう。

 ドラゴンの腹部に当たると、光の欠片となり破裂した。


「思ったより弱いのか? これならいける!」


 青いドラゴンは右腕の爪で攻撃してくるが、剣で受け止めて弾き返す。

 その隙に、ドラゴンの腹に剣を当てる。

 しかし、剣はまるで鋼鉄にでも当たったかのように大きくはじかれてしまった。


「なんだ!?」


 今度は、左腕の爪で攻撃してくるが、それをくぐって避けると、後ろから背中を攻撃する。


「やっぱりだめだ!」


 予想通り剣は全く効かず弾き返される。

 ドラゴンは振り向いて俺をにらむと尻尾を振るって攻撃してきた。

 俺は避けられずに数メートル弾き飛ばされる。


「くそっ! どうしたらいいんだ!?

 そうだ! 水属性といえば雷が効くはず」


 俺はゲームのにわか知識を使い、ダメもとでライトニング・ボルトを放つ。


「くらえ!」


 手から発せられた雷光が貫くと、青いドラゴンは光の欠片となって粉々になった。


 しばらくの静寂の後、再び声が聞こえる。


『よくぞ、第一の試練を乗り越えた』


 無機質で事務的な声とともに奥の扉が開く。


 奥の扉をくぐると、入り口と同じく扉は勝手に閉まる。

 今度は三メートル四方ほどの小さな部屋になっていて奥に同じような扉があった。


『次なる試練は、この部屋から出ることだ』


 声が響くと、部屋の四隅から勢いよく水が入ってきた。


「今度は水攻めか」


 急いで目の前の扉を押してみるが、びくともしない。

 今度は横に引っ張ってみるが、やはり微動だにしない。

 引いてみたり、無理やりこじ開けようとしてみたり、剣で切り付けてみたりと、様々な手段を試してみたが扉は全く動かなかった。

 そうこうしているうちに、水は腰の高さまであふれている。


「謎かけなのか? しかし、情報が少なすぎる」


 思いつく限りの言葉を言ってみたり、水の出口がふさげないか試してみたり、試行錯誤してみる。

 それでも、水は止まることなく、とうとう首の所まで水につかってしまい体が浮き始めた。


「くそっ、どうしたらいいんだ!」


 冷静になって考えてみようとするが、焦りが感情を支配する。

 焦りながらも思いつく限りのことをやってみたが、全く扉は開かない。

 水はとうとう、天井に達するほどにまで増えてきた。

 水に浮くことでようやく息をしている。


 なんてことだ、こんなつまらない場所で死ぬことになるとは……。

 もうすぐ部屋は完全に水で満たされる。

 そうしたら、水に溺れて死ぬしか道はない。


「はははははっ」


 そう思ったとたんに、笑いが込み上げてきた。

 よく考えたら、今まで生き残れただけでも上出来だ。

 チート能力を手に入れたとはいえ、しょせん俺は俺だ。

 あんなかわいい彼女たちが出来て、お互いに愛し合って。

 転生前の俺からすれば過分すぎる。

 これで死んでも幸せだ。


 俺があきらめて水に身をゆだねた時、脳裏にみんなの顔が思い浮かんだ。


 フィーナは、目から涙を流しながら茫然自失になっている。

 リゼットは、懸命にこらえているが、とめどない涙を流している。

 ティアは、手をバタバタさせて大声をあげて泣いている。

 クラリーヌは、「バカヤロウ」と涙を流しながら怒っている。

 ジョジゼルは、涙を流しながら手から血が出るほど剣を振っている。

 そして、ヒナギクは決意を込めた目で、己の髪を切ろうとしていた。


 悲しませる?

 彼女たちを?

 誰が?

 俺が?

 そんな事が出来るわけがない!

 俺が死ぬのはどうでもいい。

 でも、彼女たちを悲しませる事はできない!!


 目を開ける。

 水はもうすぐ天井まで届く。

 水に浮かんだ俺の顔も天井に付きそうだ。

 不思議に思う。

 これだけ重い鎧を着ているのに、なんで水に浮いているのだろう?

 ハッとなって、思いっきり天井を叩いてみた。

 すると、天井は音もなく開いていった。

 急いで、天井にできた穴から這い出すと、再び音もなく穴は閉じる。


『よくぞ、第二の試練を乗り越えた』


 俺は、床にへたり込むと安堵のため息をつく。

 不思議と濡れていた体は乾いていた。

 たぶん、魔法でできた水だったのだろう。


「うわー!!!!」


 ほっとしたのもつかの間、悲鳴が聞こえてきた。

 声がした方を向くと、子供がドラゴンに襲われていた。

 俺は急いで駆けつけると、子供に気を取られているドラゴンに一撃を加える。

 第一の試練と同じくドラゴンは光になり爆散する。


「大丈夫か!?」

「ありがとー」


 襲われてた子供が、ジャンプして俺に抱き付いてくる。

 その子は、ショートカットの青髪の間から赤い角が生えており、腕や体の一部は赤い鱗で覆われていて服は着てなかった。


『よくぞ、最後の試練を乗り越えた』


 その声と共に、奥の扉が開く。

 なんだかわからないが、試練はすべて終わったらしい。

 ほっとすると、抱き付いていた子供が耳元でささやく。


「お兄さん、油断しちゃダメだよ」


 突如、両足で俺の胸を蹴って跳躍すると、空中で華麗に回転して着地する。

 俺は突然の出来事に対応できずに尻もちをつく。


 その隙を見逃さずに、ダッシュで近づいてくるとパンチを繰り出してきた。

 剣の腹で受け止めるが、力が強いため吹き飛ばされる。

 俺も空中で回転し何とか体制を直して着地する。


「いきなり何するんだ!?」

「ミールに勝つことが最終試験だよ」


 言いながら蹴りを繰り出す。

 今度は、思いっきり剣の腹を足に叩きつけるが、動じた風もなく蹴りを振り切ってくる。

 ザザザッと俺は後ろに押される。


「お兄さんは優しいね。

 でもミールの鱗は固いから剣を使っても大丈夫だよ」


 さらに、連続でパンチをしてくる。

 忠告通り剣の腹を使うのをやめて刃で受け止めると、ようやくこぶしは止まり、剣と拳とのつばぜり合いになった


「ミールのパンチを止めるなんて、力はなかなかだね」


 固いうろこを剣で切るのは難しいと判断し、パワースマッシュでミールと自称する子供を吹き飛ばすと、ドラゴンゾンビを召喚する。


「ドラゴン相手にドラゴンのゾンビを召喚するなんて、ちょっと悪趣味だね」

 

 ミールは顔を歪めて言うが、構わずにドラゴンゾンビにゾンビブレスを吐かせる。

 タイミングを合わせてミールに接近すると剣を振るう。

 毒の息に口を押えながらも俺の剣を腕で受けるが、勢いは殺せずに後ろに吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされている隙に、さらに追い打ちでライトニング・ボルトをお見舞いする。


「ぐあああああ!」


 電撃は効いたらしく、ミールは苦悶の表情を見せる。

 が、叫んだ口から炎のブレスを吐くと、ゾンビブレスを吹き飛ばす。

 俺はライトニング・ボルトでは効きが弱いと判断し、レナルヴェが使っていた魔神剣を使い剣から放たれる衝撃波をぶち当てる。

 ミールは両手を交差してガードしながら俺に向かって突進してくるが、そこにシトが使っていたフロストノヴァを放つと、一瞬でミールの体が氷で覆われる。


 ミールは力技で体についた氷を砕き動こうとするが、その隙を見逃さない。


「とどめだ! エクスプロージョン!!」

「うわーーーーー!」


 氷から脱出した瞬間に爆発の渦に巻き込まれミールは弾き飛ばされ倒れた。


『双方それまでだ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想などをいただければ参考に致します。
評価をつけていただいたら嬉しくて投稿が早くなると思います。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ