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ドラゴンの国へ(後編)

「ご主人様……怖いです」


 フィーナが、ギュッと目をつぶって俺の腕にしがみついてくる。


「確かに高いけど、そんなに怖がらなくても大丈夫だぞ」


 俺たちは空を飛んでるワイバーンの上にいた。

 ワイバーンの背中には十帖ほどの木できた鞍が取り付けられていた。

 それは展望台のように手すりで囲われており、手すりから伸びた綱は腰にくくりつけてある。

 想像より安全面がしっかりしていた。


「高さよりも足元がフワフワしているのが不安なんです」


 ワイバーンは静かに飛んでいて揺れは少なく安定しているが、時おりエレベーターで下がる時のような浮遊感を覚える。


「怖いなら俺に掴まってればいい」


 遊園地のお化け屋敷に彼女と来てるようなドキドキ感。

 フィーナの女の子らしい一面が見えて少し嬉しい。

 他の女性達がどうしてるかと言うと、ティアはワイバーンの頭の上に寝そべってひたいを撫でていた。

 当然手すりの外だし、ソコにたどり着くには細長い首の上を歩かなければならなく、命綱があるとはいえ俺でも怖い。

 しかし、ティアは高いところが得意なのか苦もなく首の上を走っていた。


 前に木の上で寝てたし、猫族だからバランス感覚がいいのかもな。


 ティアは子供だけでなく温和なモンスターも好きらしく、出発前にはワイバーンと仲良くなっていた。

 ティアが鼻先を撫でるとワイバーンは嬉しそうに目を細めてキューンと鳴いていた。

 ヒナギクが「あんなにすぐに慣れるなんて珍しい」と驚いていたほどだ。


 クラリーヌは、出発前にカシードに言われたことを気にしてか、手すりから身を乗りだし両手を大きく広げて風を全身に受けている。

 そして、時おり弓を引く仕草をしている。

 どうやら、風の流れを読もうと、イメージトレーニングしてるようだった


 ジョジゼルも「不安定な足場は足腰を鍛えるのに丁度いい」と言って、ずっと素振りを繰り返していた。


 リゼットは、ワイバーンの鱗や鞍、上空からの眺めに好奇心をくすぐられたらしく、色んな所に興味を示しては「おー」だの「わー」だの騒いでいる。

 世話しなく走り回りながら喜んでいる姿は子供のようだ。

 と言うか、見た目が幼いから完全に子供にしか見えない。


 ドラゴンの国の情報をリゼットに聞きたかったが、楽しんでるところを邪魔するのは悪いな。

 仕方ないヒナギクに聞くか。

 きっちりとした正座で、瞑想している彼女に話しかけるのも気が引けるが……。


「ヒナギクさん。ドラゴンの国についてとか、色々聞きたいんだけどいいですか?」


 彼女はゆっくりと目を開くと静かに俺の方を向く。


「わたしくしに対しては丁寧な話し方をしなくて結構ですよ。では、何から話しましょうか?」

「これから行く場所はどんな所で、どれくらいでつくの?」

「わかりました。説明しましょう」


 彼女の話によると、目的地はドラゴンハートというドラゴン族が住む場所で一番大きな集落らしい。

 城や砦では無いのかと聞いたら、ドラゴン族は天然の城壁となる険しい山に住んでいるので、城や砦をきづく必要が無い。

 移動はワイバーンで空を飛ぶか、マウンテンドレイクという巨大なトカゲに乗って切り立った崖を進む。

 ドラゴン族は閉鎖的で、他種族との交流は薄く、主に狩りをして暮らしている。

 好戦的な英雄ゼノアですら、ドラゴン族の中では温和な方らしい。

 目的地に付くには半日ほどかかる様だ。

 これでも、ワイバーンのおかげでだいぶ短縮できていて、地上から行けばモンスターのいる危険な山をいくつも超える必要があり、何日もかかるし危険度は格段に上がる。

 ドラゴン族が中立を保っていられる大きな理由の一つでもあるらしい。


 とにかく、ドラゴンの国に行くには、随分な時間をワイバーンの背中の上で過ごさなければならなかった。


「暇だな」


 初めは物珍しかった上空もしばらくすれば慣れてくる。

 クラリーヌとジョジゼルとヒナギクは相変わらず自らを磨く事に没頭していた。

 リゼットは、監視用の望遠鏡があることを知り歓喜し、上空から遠方を丹念に眺めている。

 彼女の知識欲は想像以上に強いものらしい。


 俺はだいぶ慣れてきたフィーナと、ワイバーンをでることに満足したティアと三人で寝そべって雲を眺めていた。

 天気が良いため心地よい陽射しと適度な風が眠気を誘う。

 しかし、完全に寝るわけでもなく、ウトウトとしながらゆっくりとした時間を過ごす。

 これからデーモンロードを倒しに行くとは思えない。

 まるで、遠足にでも行く途中の様な心地よい気分だ。

 フィーナとティアも同じ気持ちらしく、俺にくっつきながら安心した表情をしていた。

 そんなゆっくりとした時間を過ごしていると、何事もなくドラゴンハートに付くことが出来た。


 ドラゴン族の住む山は、背の高い木は生えて無く、赤い岩肌が露出していた。

 ひび割れた岩肌は鱗のように見え、巨大なドラゴンの背にいるような錯覚を覚える。

 ドラゴンハートは、ドラゴンその物の様な山々の中心部の山の頂上付近の絶壁に存在していた。

 山の岩肌を削って作った通路があり、壁に掘られた横穴の中に住んでいるようだった。

 そこらには、ドラゴン族と思われる男女ともに体格のいい人たちが生活していた。


「これから族長に挨拶をします。

 先に話したとおりドラゴン族は閉鎖的なため、気分の悪くなる様な事を言われると思います。

 余り気にしないようにして下さい」


 そう言うと、岸壁の一番高い場所。

 ひときわ大きい横穴の中に入っていった。

 付いて行くと学校の教室程度の広間に付いた。

 一番奥は、一段高くなっており石造りの無骨な椅子があり、屈強な男が強い存在感を発していた。

 左右にいる槍を持った屈強な兵士が、同時に俺達を鋭い目で睨んでくる。

 その目線に臆することもなくヒナギクが声を張った。


「族長、合わせたい人がいるのですが!」


 族長と呼ばれた肘掛けに片肘を付いた人物は、兵士の目線とは比較にならないほどの強い目で、射抜くように俺を見る。

 族長は、歳のほどは50歳ほどか、いくつかのシワが顔に刻まれており、短く刈った銀色の頭髪に、がっしりとした体躯たいくは顔のシワとは対象的に年齢を感じさせないほどの力強い筋肉を持っていた。


「そいつらは誰だ?」


 少しも警戒を緩めずに俺の動きを一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく余さぬように観察している。


「彼は、冒険者のユウキ様です」

「ユウキ、ユウキ、どっかで聞いた名だな……おお、そうか!

 英雄ゼノアといい勝負をしたという冒険者か!

 ヤツが珍しく楽しそうに話していたからなオレも会いたいと思っていたんだ」


 先ほどとは打って変わって、笑顔を俺に向けてくる。


「何の用で出来たのだ?

 ひょっとして、ドラゴン族に強い者が多いと聞いて試合を申し込みにでも来たのか?

 オレだったらいつでも相手してやるぞ」


 椅子の上で胸を張って自慢の体を見せつけてくる。


 ドラゴン族ってやつはみんな好戦的なのか?

 ゼノア以上のマッチョマンと戦うなんて勘弁して欲しい。


「そうではありません。行方不明となった英雄ゼノアの捜索の協力をしてもらおうと連れてまいりました」


 途端に、族長は険しい表情になり吐き捨てるように言葉を並べる。


「まだそのような世迷言を言っているのか。

 何かあれば龍の笛を吹くに決まっている。

 それに、ドラゴン族の英雄がデーモンロード如きに遅れを取るとは思えん。

 だいたい、仮に捜索するにしろ冒険者とは言え部族外の者をわざわざ連れてくるというのはどういう事なのだ?

 もし、他国に有りもしない噂が流れたらどうするつもりだ!」

「彼らは一流の冒険者です。

 情報を漏らしたりしません。

 何卒、捜索の許可をお願いします」


 族長は、俺からの興味を一気に失ったらしく、再び片肘を付き顎を乗せると、逆の手で面倒くさげに追い払うように手をブラブラと振る。


「やりたければ勝手にすればいい。

 どうせ無駄骨に終わるだろうがな。

 まったく……ゼノアが気に入っているから懇意こんいにしてやればつけあがりおって……」


 族長はぶつくさと文句を言っている。

 その差別的な発言にカチンと来た俺が何か文句をつけようと口を開けると、ヒナギクが手で制してきた。


「許可を頂きありがとうございます」


 ヒナギクはそう言うと、さっときびすを返して足早に部屋を出て行く。

 俺も送れないように急いでついていった。


「あんな事、言わせておいていいのか?

 別にお前が何族だろうと関係ないだろ?」

「いいのです。わたくしが、ゼノア様の好意でこの場所にいられるのは事実ですから」


 ヒナギクは無表情に、でもどこか寂しげに話すが、すぐに笑顔になる。


「今日はつかれたでしょうから、わたくしの家に泊まって下さい。

 明日から捜索を開始しましょう」


 俺達は、言われた通りヒナギクの家に案内されると、ドラゴン族の郷土料理と言われる食事を振る舞われた。

 料理は山で取れる香りの強い香辛料で焼いた山トカゲの肉がメインで、癖は強いがしっかりとした味のする美味しいものだった。

 腹も膨れて一休みした後、なんとなく夜風に当たろうと家の外に出ると、入口近くにヒナギクが夜空を見つめながら立っていた。


「ヒナギクは狐族なのか?」


 彼女は少し驚いて俺を見る。


「わたくしの種族が良くわかりましたね。

 このあたりでは珍しい種族だと思うのですが」


 別にわかったわけではない。

 ファンタジーの知識から当てずっぽうで言っただけだ。


「ちょっとした知り合いに似てたからね。

 ところで、どうしてドラゴンの国に住むことになったんだ?」


 彼女は、懐かしむような微笑みを浮かべる。


「わたくしが、修行の旅に出ていて命を落としそうな時にゼノア様に助けていただいたのです。

 それから、ゼノア様の事を主と決めて忠誠を誓っているのです」

「助けられただけで忠誠を誓うのか?」

「それだけではありません。

 彼女は、わたくしが忠誠を尽くすに足りる力と心を持っているお方です。

 ゆくゆくは族長になって頂き、皆を引っ張っていってほしいものです。

 閉鎖的なドラゴン族も彼女の代になれば他国に目を向けて大きく発展することでしょう。

 彼女もそれを望んでいるので、わたくしも出来る限り力になりたいのです」


 普段は冷静なヒナギクが力強く言っていることに驚いていると、彼女は自分が熱をこもっていた事に気づき頬を赤くして顔を反らす。


「わたくしとした事が……聞かれてもない事を話してしまい申し訳ありません。

 絵空事ほどつまらない事はありませんのに」

「そんな事はないよ。

 将来の夢があることは素晴らしい事だと思う。

 俺なんてただ毎日が楽しくて過ごしてるだけだからな」


 この世界に来て、フィーナ達に会えて毎日が幸せだけど、将来の事なんて全く考えて無かった。


「さ、風も冷たくなってきました。体に障るといけませんので中に入りましょう」


 ヒナギクは自分に恥じて居心地が悪くなったのか、さっさと中に入っていってしまった。

 俺も後を追うように中に入って行った。


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