ドラゴンの国へ(前編)
早朝、約束通りドラゴンの国に行くために、街の外までやってきていた。
「アンタ達、もっと元気出しなさいよ。それでも冒険者なの?」
クラリーヌは一人元気だったが、フィーナは腰がガクガクな状態で俺にしがみついている。
俺とリゼットとティアも寝不足でフラフラしていた。
まあ、今日の所はドラゴンの国に行くだけだから大丈夫だろ。
「あそこにいるわね」
クラリーヌが指差した場所には、探す必要もないほど大きな生き物がたたずんでいた。
以前戦ったアースドラゴンよりも一回り大きい。
首が長くトカゲの様な顔を持ちほっそりとした体を黒い鱗が覆っている。
今は二本の足で座り細長い尻尾を丸め、大きな翼を折りたたみ首をねじって目をつぶり休んでいた。
その姿は、大きさとは逆に羽を休めている鳥のような愛嬌がある。
「近くで見ると、想像以上に大きいな」
高さは6メートルほどだろうか?
二階建ての家ぐらいの大きさがある。
「これが空を飛ぶドラゴンか」
「違います。彼はワイバーンです」
ワイバーンの足元からヒナギクが姿を見せる。
なるほど、たしかにドラゴンにしては体が細く首が長いし二本足だ。
よくあるファンタジー物で見かけるワイバーンと見た目が同じだ。
「一つ忠告しておきますが、ドラゴン族の前では間違えないでください」
「なぜだ?」
「ドラゴン族はドラゴンを祖先として崇め、尊敬しています。
しかし、それは我々より高い知能を有し高度な魔法を使う、古来より生きているドラゴンの事を指すのです。
人族には古代竜なんて呼ばれてますね」
なるほど、彼らにとって本当のドラゴンとは昔からいる俺達より優れた者。
そして神と同等の存在って所か。
「人族はアースドラゴンなどと呼んでいるモンスターも、ドラゴン族はドレイクと言って区別しております。
間違いの無いようお願いします」
「わかった気をつけよう。
それで、このワイバーンは俺達を乗せていけるのか?」
「もちろんです。狭くはありますが、10人は乗せても大丈夫です。
早速出立の準備を致しましょう」
ヒナギクがワイバーンの頭に向かおうとすると、後ろの方から声が聞こえた。
「見送りに来たぞ」
そこには、カシードとレナルヴェ、それとジョジゼルが居た。
「あれ? 協力するのは問題があるんでは無かったんですか?」
「今日は、領主ではなく個人としてやってきたから大丈夫だ」
本当に大丈夫か?
なんか、言い訳にもなってない気がするが……。
カシードは俺達をひとりひとり見定めると、クラリーヌに目線を止めて一つ頷く。
「やはり、この中ではお主が一番適任だろう」
そう言って、指輪を一つクラリーヌに渡す。
「それって、ジンを召喚した指輪じゃないですか?」
俺が驚いて聞くと、カシードは平然と答える。
「そうだ、今回の旅では力は貸せないからな。せめてもの餞別だ。
あ、言っておくがやるわけじゃないぞ。
一時的に貸してやるだけだ。
後で絶対返せよ」
「でも、こんないいもの借りていいんですか?
伝説級の装備ですよね?
しかも、ジンなんてアタシに操れるかしら」
さすがのクラリーヌも敬語になるほど驚いている。
「ああ、確かに貴重な装備品だ。
だが、デーモンロードが相手となればそれぐらいの装備は必要だろう。
ユウキとリゼットはレベルが高いし、フィーナとティアーヌはデーモンロードの力を借りられる。
しかし、お主は中級レベルの冒険者で、明らかに力不足だ。
それに、お主ならジンの力をオレ以上に引き出せると思う」
「なぜですか?」
「風の射手サンドーラの子供だからさ。彼女から弓の扱いを学んだんだろ?
お主なら知ってるだろうが、彼女はすごかった。
精霊と話すかの様に風を読み、矢では届かない距離も風の力で届かせた。
『風の射手』の異名はそこから付いたのさ。
そして、元とは言え『風の射手』の異名を引き継いたチームのリーダーをやっていたのだろ?
サンドーラの如く風を操ってみろ」
「簡単に出来るとは思えません」
「なに、そんなに難しく考えることはない。
ジンは契約で縛られてるから呼びさえすれば仕事はしてくれる。
ただ、その仕事の成果は召喚者次第というだけだ」
クラリーヌは少し目を伏せて考えた後、顔を上げてカシードに真剣な眼差しを向けた。
「わかりました。サンドーラの様には上手く行かないかも知れませんが、やってみます」
「その意気だ」
カシードは、満面の笑みを浮かべると、子供を褒めるかの様にクラリーヌの頭を撫でる。
クラリーヌは、嫌がるでもなく真面目な顔で指輪を見つめていた。
「こっちも餞別としてこいつを貸してやる」
レナルヴェが背中を押すとジョジゼルが、よろけながら俺の前に躍り出る。
「よ、よろしく頼む」
ジョジゼルは体を固くしながら頭をペコリと下げる。
「ドラゴン族の英雄との戦いから日は経ってないが、あの時よりだいぶ成長した。
今のこいつなら役に立つだろ」
「修行中なのにいいんですか?」
「実践に勝る物は無いからな。むしろ、こいつが成長するように協力してやってくれ」
「なるべく力になれるようにがんばる」
ジョジゼルは以前よりだいぶ謙虚になっているようだ。
だけど、けして気が弱くなっているわけではなく、目の奥には強い自信と意思が秘められているように感じた。
「いや、ジョジゼルは俺より格段に剣の腕はあるから心強いよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
彼女の柔らかな笑顔にドキッとする。
以前あった、むき出しの刃物のような刺々しさが今は感じられない。
「あー、ユウキ、お前ちょっと来い」
レナルヴェは、俺の首を抱えるようにホールドすると、そのまま少し離れた場所まで連れて行く。
「一体なんですか?」
「今はジョジゼルは強くなるための大切な時期だ」
「わかってますよ」
「手を出すなよ」
「は?」
「せっかくやる気になっている時に、男にうつつを抜かす訳にはいかない。
剣の腕が鈍るし修行にも身が入らなくなる」
「ちょっ、ちょっと待ってください。別に手を出しなんてしませんよ」
「本当か? お前、女たらしっぽいからな」
まあ、女好きなのは否定しないけど、今は強くなってるから俺のことなんて見向きもしないだろ。
「第一、彼女のことはなんとも思ってませんから」
「でも、いい女だろ?」
前に見た裸を思い出す。
筋肉質ではあったが、引き締まっていて均衡の取れた美しい肢体をしていた。
顔も整ってる。カワイイというよりカッコいい女性って感じだ。
それに、さっきの笑顔は以前にない魅力を感じた。
「やっぱりいいと思ってるんじゃねーか」
「いや、思ってませんよ」
「顔を見ればわかる。とにかく、手を出したら許さないからな」
相変わらずのニヤケ顔だが、目は真剣だ。
お笑いによくある、『絶対やるなよ』って言う前フリでも無いようだ。
「わかりましたよ」
「よし! じゃあ、デーモンロードなんて倒してこい!」
今度はニヤケ顔ではなく普通の笑顔を見せると、俺の背中をバンと力強く叩く。
鎧を着ているので痛いわけではないが、活を入れられた様に力が湧いてきた。
そうして俺達は、ワイバーンに乗ってドラゴンの国へと旅立った。
【あとがきおまけ小説】
不思議そうな顔でクラリーヌが聞いてきた。
「所でさ、やり過ぎでへっぴり腰なフィーナはともかく。
なんで、リゼットとティアは寝不足なの?
昨日は早くに寝たよね?」
「きっ、緊張して寝れなかったのよ」
「そうにゃ、ドラゴンの国に行くって聞いてワクワクして寝れなかったにゃ」
リゼットもティアも気まずそうに乾いた笑いをしながら答えた。
まあ、答えられないよな。
もし、知られたら本気で怒るかもしれない……。
――時間は昨日の夜に遡る。
リゼットに体を揺り起こされ周りを見ると、まだ真っ暗だった。
「ご主人様、少し時間を頂きたいのですが……」
こんな夜中に起こされるなんて初めてだ。
何か深刻な用事かもしれないと、少し身構える。
「あの……ちょっと言いにくいのだけど」
暗がりで少しわかりにくいが、顔が赤くなっていた。
汗も少しかいているようだ。
「どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」
「そうじゃなくて、いや、ある意味ではそうだけど……ティア代わりに言って……」
後ろを見ると、ティアも同じ様に顔を赤くして汗をかいていた。
「にゃ! そういうときばっかりにゃーに言わせるのはずるいにゃ。
……ご主人様がエッチしているのを見てたら体が火照っちゃったにゃ……」
「それで、寝付けなくて困ってるんです……」
あー、俺と生欲の王が取り憑いたフィーナとの行為を見てエッチな気分になっちゃったのか……。
フィーナも俺もだいぶ乱れてたし、終わった後は疲れてすぐに寝てしまった。
「それは申し訳ないけど、元気あるかな……」
なんせ、生欲の王の技は凄すぎてカラカラに搾り取られたからな。
「それは、大丈夫だと思うわ」
リゼットが指差した先、俺の股間には、立派なテントが張っていた。
我ながら少し寝ただけで元気になるとは、ものすごいエネルギーだ。
「わかった空き部屋に行こう。えーっと、クラリーヌは大丈夫なのか?」
「彼女ならぐっすり寝ちゃってるにゃ」
冒険者だからか、それとも経験の問題なのかクラリーヌは大丈夫みたいだ。
フィーナは言うまでもなく深い眠りについている。
二人を起こさない様に、静かに空き部屋に行くと、一人づつ抱きしめてキスをする。
二人共、熱く火照っており、顔は上気して潤んだ瞳をしていた。
「ご主人様、今日は余り……準備に時間をかけなくても大丈夫……です」
「そうか? 折角だから楽しみたいけどな……」
俺はわざと軽く太ももを撫で回す。
「意地悪しないで……」
ここまで、しおらしいリゼットは初めてだ。
幼い顔で懇願されると余計悪戯心が刺激されてしまう。
「どうしてほしいか言ってみて?」
「くっ……。その……ご主人様の……ご主人様の……が欲しいです」
「何がほしいの? はっきり言わないとわからないなー」
「うー」
恥ずかしすぎるせいかリゼットが泣きそうな顔になってしまう。
すぐに、ティアが後ろから俺に抱きついてくる。
「にゃーもいるから早くしてほしいにゃ!」
そして、リゼットに聞こえないように小声でささやく。
「それに……リゼットをいじめると後で怖いと思うにゃ」
本当ならもっといじめてあげたい所だが、たしかに後が怖そうだ。
しかも、泣きそうになるほどリゼットが追い詰められるなんて相当なことだ。
俺は、謝る気持ちを込めてキスをする。
「すまない。リゼットがこんなになるなんて珍しいからな。意地悪したくなった」
「ご主人様のバカ……」
リゼットが縋り付くように抱きついてきた。
その後、夜明け近くまで二人の相手をすることになった。
――更に余談――
転生で得たモノマネスキルのせいなのか、元々のエロスキルのせいなのか解らないが、生欲の王の技を受けた俺もかなり上達しており、リゼットもティアも悶絶しまくっていた。