救援要請(後編)
家につき全員が居間の椅子に座ると、すぐさまクラリーヌが見を乗り出して俺に食って掛かる。
「ユウキ!
さっきは黙ってたけどやっぱり危険だわ!!
助けてあげたいけど無謀よ!!!」
「大丈夫だ」
「自信ありそうだったけど、何か策があるの?」
クラリーヌが訝しげに聞くと、リゼットがつぶっていた目を開き俺を見据える。
「一人だけで行くつもりなのね?」
「さすがにリゼットには、わかっちゃうか。
クラリーヌの言う通り、今回の戦いは危険だ。
だから俺一人で行くことにした」
決意を込めて言った俺の頭に、クラリーヌのチョップが直撃する。
「いたい!」
「ユウキがバカなのは知ってたけど、ここまでバカだったとは思わなかったわ」
クラリーヌが呆れ顔でドカっと乱暴に座る。
「私は、ご主人様の言うことは聞きたいです。
でも、今回ばかりはクラリーヌの言うとおりです。
バカな事は言わないで下さい。
私はどんな危険があっても、ご主人様といつも一緒です」
フィーナは初めは戸惑ったように、伏目がちにテーブルを見ていたが、顔をあげると真剣な眼差しで俺を見た。
「にゃー達をおいていくなんてひどいにゃ。
ご主人様がいつ返ってくるか、わからないまま待ってるなんて、苦しくてオカシクなっちゃうにゃ」
ティアの、いつも元気にピンと立っている耳もヘナっとしおれていた。
「だけど、お前達を危険に晒したくない」
「それは、あたし達も同じです。
あたし達は所有物になった時からご主人様の身を守ることを第一に考えてきました。
いまさら、変えるつもりもありません」
リゼットはいつも通り冷静だが、その目には硬い意思が込められていた。
「わかったでしょ?
バカなユウキは余計な心配なんてしなくていいの。
だいたい、世間知らずのアンタが一人じゃ、どんなヘマするかわかったもんじゃないわ。
確かにアンタは強いけど、アタシ達が居なかったら十分に実力が発揮できないわよ?」
クラリーヌは腕組みをして、ウンウンと一人納得して頷いている。
「……しかし、やっぱり危険だ」
「まだ言うか! 言っておくけど、アタシは死ぬつもりはないからね。
もしやばかったらユウキを引きずってでも逃げ出すわよ。
カシードが言ってたでしょ?
冒険者にとっては生き残る事がいちばん大切だって」
「その通りよ。一番危険が低くなるのは、みんなで協力することでしょ?
それに、ご主人様が一人で行くって言っても付いて行きますから」
「そうです。シーフの私から逃げることなんて、ご主人様でも出来ませんよ」
「フィーナの言うとおりだにゃ、にゃーの鼻から逃れることは出来ないにゃ。ご主人様の匂いをたどって何処までもついていくにゃ」
俺が勝手に助けたいと言ってるんだから巻き込みたくはない。
ワガママでみんなを危険に晒したくはない。
でも、みんなは一緒に行きたいと言ってくれている……・
「わかった。俺のワガママですまないが、協力してくれ」
俺は机に擦り付ける勢いで頭を下げた。
「またバカなことを言って。ユウキがドラゴン族を助けたいようにアタシ達もユウキを助けたいの」
「そうですよ。私達はご主人様を助けるためなら何でもします。頭なんて下げないで下さい」
「あたしも同じよ」
「にゃーも同じにゃ」
みんなの意見が一致して場の空気が少し軽くなる。
それに呼応するかのようにカバンに入れていたデーモンロードのサークレットとネックレスが黒く光りだした。
俺は警戒しながらもサークレットをつけると食欲の王の不機嫌な声が響き渡る。
『まったく! 聞いておればワシラを無視して話を進めおって。
危険、危険、言っておるが協力すると言っておるじゃろうが。
ワシラが手伝えば危険なんてないわい』
「協力してくれるのか?」
『約束したじゃろ? 望みを叶えてくれれば力を貸してやると。
生欲の王にも聞いてみるがいい。
それとな、ワシはティアという女がつけろ。
男のお前がつけておると考えると気色悪いわ』
「その前に! アンタらの本当の目的が知りたいわ。
ご飯が食べたいだの、自由に動きたいだの言ってたみたいだけど、そんなの信用出来ないわ」
クラリーヌはデーモンロードの要求を聞いたときには居なかったけど、どうやらずっと疑ってたみたいだ。
まあ、俺も信用したわけじゃないけど。
『疑り深い娘じゃのー。そんなんじゃ、生欲の王みたいになるぞ』
「本当の目的を答えてくださらない?」
クラリーヌは丁寧な話し方に変えたが、頭に青筋を立てて顔はひきつってる。
こええ、キレる一歩手前だ。
『分かった分かった。そんなに怒るな。ワシラの言った要求は本当じゃよ。
ワシはメシを腹いっぱい食いたい。生欲の王は自由に動き回りたい。
ただそれだけじゃ。
勇者と四人の巫女とか言う昔話を聞いて、ちょびっとだけ思い出したんじゃがな。
ワシラを生み出したお方がワシラに要求したことは一つじゃった。
自分の欲望のままに生きること、それだけじゃ。
だからワシラが望むことも一つじゃ』
「お前達を産んだ者の正体がわかったのか?」
『それは思い出せん。ただ、魔王というのはピンとこんから。魔王では無いような気がする……。
まあ、記憶は無いから本当の所はわからんがな』
どうだろう?
今までの、言葉の中では一番信用していい気がする……。
だけど、はっきり言って根拠はない。
目線を向けるとティアはやさしく微笑む。
「にゃーは信用してもいいと思うにゃ」
「クラリーヌはどうだ?」
「ティアが言うのなら信用できるのかもね。ただし、油断はしちゃダメよ」
ティアは、俺の頭からサークレットを外すと自ら付ける。
『信用してくれてありがたい。さすがワシの見込んだ娘じゃ』
フィーナもネックレスをつけると、すぐに生欲の王が話す。
『癪にさわるが、食欲の王の言う通りじゃ。
せっかく封印が解けたのにアクセサリーの中に籠もっているなんてまっぴらごめんよ。
知らない土地に行くなんて楽しそうじゃないかえ?
わらわに出来ることなら協力するわ。
その代わり……約束していた自由を満喫させておくれ』
「そう言えば、お前達が暴れたのは何でだ?」
『わらわは、取り憑いた女の内なる欲望……自由になりたいという心の願いを叶えただけじゃ。
まあ、神殿から出て自由になる為って言うのもあったがな』
「食欲の王はどうだ?」
『ワシは、いきなり封印を解かれ、言う通りにするように呪縛をかけられそうになったんじゃ。
まあ、返り討ちにしたがの。
そこお主らが現れてワシの自由を奪おうとしたから反撃したまでじゃ』
なるほど。
自分の欲望のままに生きて、それを妨害するのものには全力で抗う。
普通に考えて見ればまっとうなことだ。
やり方が荒すぎるけどな。
「わかった。約束は守る。
デーモンロード達も協力してくれ。
もちろん皆にも手伝ってもらう。
一緒にドラゴンの国に行こう!」
【真面目な本編をぶち壊す、あとがきおまけ小説】
※注意:人によっては、不快感を感じる内容かもしれません
急ではあったが『食欲の王』と『生欲の王』の要求を飲むことになった。
食欲の王の腹いっぱい食べたいという要求を叶えるためにティアが大量の料理を作る。
「おお! これは美味しい! さすがワシが見込んだ娘じゃ」
ティアが作った料理を、ティアに憑依している食欲の王が食べる。
姿も声もティアだが、話し方が年寄りみたいだから妙な感じがする。
「自分で作った料理を自分で美味しいと食べる姿はちょっと不思議だな」
「姿がティアなのに仕草が違うから気持ち悪いわね」
リゼットが微妙な顔をしながらも興味深そうに観察している。
「食事中に物々しい格好しおって。落ち着いて食べれんじゃないか」
食欲の王が取り付いたティアが、眉をしかめて俺たちを見る。
当然ながら、デーモンロードが暴れたりした時のために、ティア以外は完全武装だ。
少しは信用するが、それでも油断するわけには行かない。
「お前は敵だったんだがら警戒するのは当たり前だろう」
「おかしな事はせんと言うに。
まったく……戦いにも協力してやるのじゃからもっと友好的に接しても良かろうに」
食欲の王はぶつくさ言いながらも食べる手は止めない。
そして、あっという間に大量の料理は腹に収まった。
「ホントに全部食べちゃったわね」
「ティアのお腹大丈夫かしら」
元々ティアは食べる方だけど、今回は相当な量だ。
と言うか、本当に胃のなかに入ったのか不思議なくらいだ。
「器量もよくて家事もうまくて、料理が美味しい。
最高の娘じゃないか。何よりおっぱいが大きいしの~」
そう言いながら、食欲の王が取り付いたティアが自分のおっぱいを揉む。
「キサマ俺の女に何しやがる……。
同じことをもう一度やってみろ。
封印して粉々に砕いてやる。
いや、それだけじゃ気がすまん。
考え付く限りの苦痛を味あわてやる」
「そ、そんなに本気で怒らなくてもいいじゃろうに……。
すまなかったな。食事に満足したしおとなしく眠るとするかな」
俺が激怒して睨みつけると、すぐさまサークレットの中に隠れてしまった。
「ユウキがマジで怒ってわ」
「あたしの時より怒ってる気がするんだけど……」
「そっ、そんなことないぞ。あっ、ティアが起きた……大丈夫か?」
もとに戻ったティアに近づくと頭を撫でて様子をうかがう。
「お腹か苦しいけど大丈夫だにゃ。それより、ご主人様がにゃーのために怒ってくれたにゃ」
「あんな、変なことをされたら当たり前だろ」
ティアはよほど嬉しかったのか俺に抱きついて頬をスリスリしてきた。
そして、次は『生欲の王』の要求だが……。
「は? フィーナの体を借りて俺と性行為をしたい!?」
『そうじゃ。本来ならおぬしと街に繰り出して、でーとやらしょっぴんぐやらを楽しみたいところじゃ。
しかし、時間がないのであろう?
それならばせめて、男と愛し合うぐらいはしたいのじゃ。
なに、元々おぬしとフィーナとは恋仲なのじゃろ?
であれば、問題あるまい』
「いやいやいや、デートぐらいなら構わないがいくらなんでも、それはないだろ」
体はフィーナとは言っても、中身はデーモンロードだ。
そんなのとエッチするなんておかしい。
『おぬしに聞いても仕方ないわ。
フィーナよ。どうじゃ?
付け加えるなら宿主とは感覚を共有しておる。
二人共素晴らしい快感を教えてあげるぞ』
フィーナは少し考えると、恥ずかしそうにモジモジする。
「わ、私は、その……かまいません。
相手はご主人様ですし、体は私のものです。
戦いに協力してもらえるならそれくらい我慢します」
「フィーナは、感覚を共有するって聞いてしてみたくなったみたいだにゃ」
ティアがジト目でフィーナを見ると、ビクッと身を震わせた後、手をバタバタと顔の前で降り否定する。
「ちっ、違います。あくまで協力してもらうために仕方なくです!」
『話はまとまったようじゃな。さあ、おぬしも男らしく受け入れるがいいわ』
そんな言いくるめに乗って、寝室のベッドの上で中身は生欲の王のフィーナと相対する。
他の女性達は何があっても大丈夫なように完全武装で待機している。
なんだろう。
このシュールな光景は……。
「マジでやるのか? みんなが見ている中で、しかも体と心が違う状況で……」
『いつも複数の女子と変態的な行為をしておる癖に』
「いや、まあ、そうだが」
いつもなら俺が攻めてる所だが、生欲の王が相手だと調子が狂ってしまう。
『ふふふふ、言っておくがな。
わらわは長い年月で色々な男とまぐわってきたのじゃ。
性の技術に関しても長けておる。
今までに感じたことのない快楽を与えてやろう』
「いや、ちょっとまってくれ」
『なんじゃ、男らしくない。諦めてわらわの手篭めになるのじゃ』
「まて、うわ。ああ~~」
武装した状態のリゼットとティア、クラリーヌもすぐに、その光景に釘付けになった。
生欲の王の性技は俺達の知識を軽く凌駕していたのだ。
「すごい技術ね……」
「ご主人様が今まで見たことのない気持ちよさそうな顔をしてるにゃ~」
「長年の技術っていうのはダテじゃないわね……」
俺は宣言通り、極上の快楽でカラカラになるまで精を絞り尽くされた。
フィーナはどうなったかというと、俺以上の快感を味わったらしく、しばらくは気持ちよさそうな表情で動けずにいた。