┗外伝:リゼットの気持ち
薄暗い深夜の居間に四人の女性が集まりテーブルを囲む。
「リゼット、どうかしたんですか?」
「眠いにゃー」
「ユウキは放って置いて大丈夫なの?」
突然の呼び出しに少し戸惑う三人。
そんな、小さなざわつきの中、リゼットが話し始める。
「ご主人様には聞かれたく話なのよね……」
「わかったわ。それでどうしたの?」
いつも以上の真面目な雰囲気にクラリーヌも姿勢を整える。
「フィーナに謝りたいことがあるの……みんなにも聞いておいて欲しい」
「私は謝られるような事はないと思いますが……」
一泊、間を置いてリゼットは語り始める。
「初めてご主人様と会ったときね。あたしは自暴自棄になってたの」
「ダンジョンで戦った時の話ね」
クラリーヌは、その時の事を思い出していた。
ユウキと一緒に初めて冒険した時であり、一目惚れした瞬間でもあった。
「あの時は何もかもがどうでも良くなってて、まるで悪い魔法使いみたいな演技をしてたの。
だから、ご主人様が目の前に現れた時に、この人になら殺されてもいいって本気で思った」
「殺されても良いなんて考えちゃダメにゃ」
ティアが真剣な表情でリゼットを見据える。
普段と違うティアに目を丸くしたリゼットは、すぐに微笑んで応える。
「その通りね。
でも、あの時は歳も取らないで死ぬこともできずに、ずっと一人ぼっちで絶望してたのよ。
だから、ご主人様の剣があたしに迫ってきた時は、黙って殺されるつもりだった。
でも実際には、『まいった。あたしの負けよ』なんて言ってて、自分でも不思議だったわ。
いえ、多分あたしがそう言わなくても剣を止めてくれたと思う」
「ユウキは甘いから『まいった』って言ってくれてホッとしてたと思うわよ」
クラリーヌが呆れた仕草をしながらも顔は微笑んでいた。
「それから、ご主人様はきちんと、あたしの話を聞いてくれた。
それがすごく嬉しかったの。
だから所有物になるって決めたんだけど、それでもやっぱり男だからね。
本当は恐怖心はあったの。夜になったら襲ってくるんじゃないかって。
ひどいことをされるんじゃ無いかって……」
「ご主人様はそんなことしないにゃ」
ティアが安心させるように優しい声を出す。
「もちろんそうよ。襲うどころか、あたしに気を使ってフィーナとの事も遠慮してたでしょ?
フィーナとご主人様は仲がいい……はっきり言えばエッチな事をする関係だって知った。
それで、すごく安心したのよ。
この人はフィーナみたいな普通の女性を愛せる人なんだって」
「普通なら羨ましいとか、独り占めしたいとか思うけど、男で怖い思いをしたリゼットは安心したのね」
クラリーヌは視線を宙に向けてすこし考える。
「あら? クラリーヌはご主人様を独り占めしたいの?」
「リゼットは意地悪ね。そりゃ二人っきりの時は嬉しいもの。
だけど、みんなと一緒にいるのも嫌いじゃないのよ」
クラリーヌは顔を膨らませて抗議したあと、みんなを見て微笑む。
「ゴメンナサイ。
それでね……その時に、あたしには生理があるとか、この国では一夫多妻も普通だなんて言っちゃって。
自分で言っててすごいびっくりしちゃった」
「そんなこと言ったの? それじゃ、エッチして下さいって言ってるのと同じじゃない」
今度は本気の呆れ顔をするクラリーヌ。
「今考えるとすごく恥ずかしいわよね」
薄暗い為わかりづらいが、リゼットは本当に恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め上げる。
「でも、今なら判るわ。
あの時を逃したらあたしは一生男性を怖がり続けなければならないって本能で感じたのね。
でも、そのせいでフィーナとご主人様の二人きりの時間を奪っちゃった。
だから、『ごめんなさい』って言いたいの」
静かに聞いていたフィーナがゆっくりと首をふる。
「確かに初めはリゼットにご主人様を取られるかもってすごく心配になりました。
でも、ご主人様はみんなをきちんと平等に愛してくれます。
それに、私は頭が良くないからご主人様を守り切れるか心配だったけど、リゼットが仲間になってご主人様に色々忠告をしてくれて……。
だから、リゼットが仲間になってくれてすごく感謝しています」
フィーナの真摯な言葉にリゼットがほっと胸をなでおろす。
「それに、ご主人様はとってもエッチだから、私だけだったら大変な事になってたと思います」
「ふふふ、それもそうね」
「今でもご主人様の相手をするのは大変だにゃ」
「四人を相手にしても大丈夫なんて、すごい精力よね」
フィーナとしては結構真剣な悩みだったのだが、他の三人には冗談に聞こえて、場が一気に和む。
「ねぇねぇ、せっかくだからさ。ガールズトークしようよ」
「がーるずとーくって何を話したら良いんですか?」
楽しげにクラリーヌが提案するが、フィーナにはピンと来ないようだ。
「そうねー。例えばユウキは女性の何処が好きかとか?」
「おっぱいですね」
「おっぱいよね」
「おっぱいだにゃ」
皆の一致した意見にふふふと笑いを漏らす。
「特におっきな胸が好きよね。ティアとかフィーナみたいに」
クラリーヌは、ティアの大きな胸を見てふうっとため息を付く。
「何言ってんのよ。クラリーヌだって十分大きいじゃない。あたしなんて全く無いのよ」
「大丈夫です。ご主人様はリゼットの小さな胸も大好きですから」
リゼットが平べったい胸に手を当てて眉をしかめると、フィーナが拳を握りしめて力説する。
「そうだにゃ。リゼットの胸に吸い付いてるご主人様は母親に甘える赤ちゃんみたいにゃ」
「それって喜んで良いのかしら……」
「ご主人様はリゼットを一番頼りにしてますし、一番甘えてると思います。私は羨ましいです」
「ユウキは歳はいってる癖に、一番子供っぽいからね」
「それが、ご主人様のいい所だと思います!」
そんな感じで盛り上がったガールズトークは、深夜まで及ぶのだった。