四人とのデート(後編)
「ふんふんふーん」
家の台所で鼻歌を歌いながら料理するメイド姿のティア。
いつもなら、デートの最後には夜景の見えるレストランに行く所だ。
今日は、クラリーヌが仲間になった記念に手作り料理を作りたいと言ったので、食材をたんまりと買い込んで帰宅した。
「俺も作りたい料理があるんだけど」
みんなを驚かせたいから、必要な材料は内緒で買っていた。
「ご主人様が作るにゃ?」
「ああ、そんなに上手くはないけど基本的な事は出来るよ」
「ご主人様に料理させるなんてとんでもありません!」
「そうね。ご主人様に料理させるなんてメイドとして恥ずかしいわ」
慌てた様子で止めるフィーナに、リゼットも深刻そうに同意する。
この世界の価値観はよくわかないけど、料理するのって恥ずかしいことなのか?
話し合った結果、下ごしらえはフィーナとリゼットにやってもらって、調理は俺がやることになった。
準備をしている所を見たが、じゃがいもは不揃いで硬いし、ひき肉なんて便利なものも無い。
下ごしらえを彼女達に任せたのは正解だったかも知れない。
手際よく調理するみんなに感心する。
「いつも美味しい料理ありがとうな」
ティアの頭を軽くポンポンと撫でると、あまり見せない恥ずかしそうな表情で小首をかしげ上目遣いに見てくる。
「……急にどうしたにゃ?」
「美味しい料理ってのは、みんなを元気にするからな」
「へへへへへ。にゃーは、みんなが笑顔になるのが大好きだにゃ」
笑顔になるのが好き……か。
確かにティアはワガママに見えて結構人のことを考えて行動する。
急に可愛くなりギュッと抱きしめる。
柔らかい体の感触と共にふわっと料理の香りがする。
「りょっ、料理の汚れがついちゃうにゃ」
少しオドオドしながらも離れようとはせず抱きしめられている。
フィーナとリゼットは、優しい笑顔を見せながら淡々と料理の準備をしている。
俺が締め付けを緩めると、すぐに離れて料理に向かう。
「早く作らないとイケないにゃ」
いつもならいつまでもひっついているところなのに。
ひょっとして照れてるのか?
かわいくて後ろからもう一度抱きしめる。
「にゃ! ど、どうしたにゃ」
「照れてるティアは珍しいな」
「てっ、照れてなんかないにゃ」
そう言いつつも耳が真っ赤になってる。
あんまり見られない焦っているティアを見ると、いじめたい心がむくむくともたげる。
どんなエッチな悪戯をしてやろうか?
そんなことを考えていると、察したのかリゼットが手をパンパンと叩いて止めてくる。
「はいはい、ご主人様。 料理の邪魔をしないの!」
リゼットに言われては仕方ない。
しぶしぶと、居間の椅子に座る。
ティアはホッとしたような残念そうな複雑な表情をしていた。
椅子に座り一息つくと、さっきから見かけなかったクラリーヌに声をかけられる。
「ねぇ、着てみたんだけどどうかな?」
見るとメイド服を着たクラリーヌが立っていた。
腰に手を当ててカッコいいポーズをとっているが顔が少し赤い。
彼女の着ているメイド服はフリルが多く、どちらかと言えばゴスロリに近い可愛らしい物だった。
コルセットによって引き締まった腰がより強調されて、スタイルの良さを際立たせる。
肘まである白い手袋と黒いハイソックスが、手足の細長さを美しく魅せる。
「なんか言いなさいよ」
「すごい似合ってるよ。
カワイイけどカッコいい、表現が難しいけどクラリーヌにピッタリの服だ」
「カワイイけどカッコいい……。
まあ、ユウキにしてはいい表現ね」
俺の評価に満足したのかスカートをつまんでクルリと周る。
「言われたとおりメイド服も悪く無いわね。
窮屈かと思ったら結構動きやすいし、何よりカワイイしね。
さて、みんなを手伝おうかな」
ご機嫌で台所に向かうと、みんなに混ざり料理を始める。
四人の女の子たちが仲良く料理を作ってくれるなんて最高だな。
テーブルに肘をついて幸せを噛み締めながら眺めた。
……
美味しそうな料理がテーブルいっぱいに並べられる。
ローストビーフ、チキンソテー、トマトパスタ、ホワイトシチュー、サラダ、トーストなどなど。
食後用に大きなケーキまで準備してあるようだ。
「今日は、クラリーヌが正式にチームに入ってくれたお祝いだ」
みんながパチパチと拍手をして口々に歓迎の言葉を述べる。
「わざわざ料理までしてもらって悪いわね」
「にゃーが作りたかっただけにゃ」
グーっとクラリーヌの腹の虫が鳴く。
みんなお腹ペコペコで早く食べたい感じだ。
もちろん、俺も早く食べたい。
「じゃ、早速食べるか! 俺の作った料理はどうかな? 自信はないんだけど……」
「すごくいい匂いがします」
「細かくしたパンを周りにつけて焼くなんて料理、聞いたことないにゃ」
「平べったくて茶色くて……見たことないわね」
本当はコロッケが作りたかったんだけど、天ぷら鍋なんて買ってなかった。
そもそも有るのかすらよくわからない。
結局、フライパンに油を多めに引いて、平べったくしたコロッケを作った。
ハッシュドポテトとコロッケの間の子の様な料理だ。
「見た目はちょっと違うが味はしっかりコロッケだな」
「とっても美味しいです。ご主人様は料理も上手なんですね。すごいです」
「コロッケって料理なのね。中身はお芋とお肉? すごく美味しいわ」
「さくさくして美味しいにゃー。今度作り方を教えてほしいにゃ」
「すごい……ティアの料理の腕はかなりの物だけど。ユウキも負けてないわね」
なれない環境で適当に作ったから心配だったが、好評な様でよかった。
「コロッケが美味しいだけで俺の料理が上手いわけじゃないけどな。
ティアが作ればもっと美味しく出来ると思うぞ」
俺がコロッケを揚げてる間に、ティアは何品もの料理を作ってしまった。
改めて料理の腕がすごいことを思い知らされる。
「ティアの料理は、やっぱり美味しいわね」
「どうやったら料理がうまくなるんだ?
量をたくさん作るのにも慣れるみたいだし」
「教会には病気の人とかお腹をすかせた人がいっぱい来るにゃ。
その人達を元気にするためにいっぱい作らなきゃならないにゃ」
「そうだったのか。ティアは明るいし、こんなに美味しい料理を作ったら、皆に好かれそうだな」
忘れてたけど、フィーナやリゼットと違って、ティアはこの街の教会で働いていた。
「最近は俺とずっと一緒だけど、会いたい知り合いとか居ないのか?」
「教会を飛び出しちゃったからにゃ。顔を合わせづらいにゃ」
「そうか。まあ、いつでも言ってくれれば時間作るよ」
「ありがとうにゃ」
ティアは昔を思い出したのか、すこし憂いを帯びた顔をする。
でも、すぐにいつもの明るい顔に戻る。
「それより、お酒を飲んだらどうかにゃ?
今日の料理はお酒に合うように作ったにゃ」
「そういえば、前買ったお酒飲んでなかったな」
「良いわね。しばらく飲んでなかったし」
クラリーヌが嬉しそうに同意する。
風の射手は酒場によく行くらし皆お酒好きみたいだ。
早速、取り出して食事をしながら飲む。
「お酒も美味しい」
「ふふふ、それに料理にもすごい合うわね」
以前の失態を見せてから、リゼットは酒場ではお酒を飲んでなかった。
今日は久しぶりな為か美味しそうに味わってる。
「フィーナも飲めばいいのに」
「私も判断力が落ちるからやめておきます」
みんなが美味しい美味しいいいながら食べると、たくさんあった料理はあっという間になくなってしまった。