ゆったりした一日(前編)
目を覚ますと、窓の隙間から強い日差しが差し込んでいた。
ここはどこだっけ?
砦?
いや違う、自分の家だ。
そうだ、昨日はカシード達や黒騎士、ドラゴンファングと一緒に街に戻ってきた。
それから、すぐに家に帰ってきたんだ。
どうやら、昼近くまで寝てたらしい。
「やっと起きたのね」
横を向くと、リゼットがうつ伏せで肘をつきながら微笑みを浮かべていた。
ずっと寝顔を見られてたのか?
なんか照れくさい。
「起こしてくれれば良かったのに」
「昨日は大変だったし、ぐっすり寝ているのに悪いと思って」
いつもと違うやさしい笑顔。
薄暗い部屋の中、銀色の髪が隙間から差し込む陽の光に照らされてキラキラしていた。
「リゼット~」
急に恋しくなり、抱き寄せると胸に顔を埋める。
こじんまりとした柔らかさが、顔にあたって心地が良い。
「もう、甘えん坊さんね」
呆れたような、それでいて嬉しそうにしながら頭をなでてくれた。
「あれ? 他のみんなは、どこ行ったんだ?」
いつもなら、フィーナかティアが「ずるい~」とか言ってくる所だ。
胸から顔を離して、周りを見るが誰もいない。
「とっくに起きて家事やってるわよ。
一人で寝てると寂しがるだろうからって、あたしだけ残されたの。
あたしに気を使ってくれてるのね」
いろいろ有り過ぎて忘れていた。
リゼットはシャーロットに昔の事をバラされて、心を痛めていたんだ。
「すまない。シャーロットに止めを刺すことが出来なかった。
なぜかわからないけど、いけないような気がしたんだ」
「いいの、あたしはご主人様が怒ってくれただけで十分」
「そうか……」
「あたしこそ取り乱してごめんなさい」
「仕方ないよ。それより大丈夫なのか?」
「ええ、ご主人様に嫌われないかって心配したけど……受け入れてくれて嬉しかった」
リゼットは、ほんのりと頬を染め、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。
俺が見つめ返すと、顔を近づけてキスしてくる。
静寂の中、少し長めのキスを終えると、少し戸惑ったような表情になった。
「どうかしたのか?」
「主人様、いつもと違うみたい」
「そうか? 違うのはリゼットの方じゃないか?」
「あたしが? どこか違うかしら?」
口元に手を当てて空中を見つめ思案している。
「笑顔がいつもより柔らかくって、自然になった気がする」
少し間があった後、火がついたように真っ赤になるリゼット。
顔をそむけると、照れを隠すためか早口にまくし立てる。
「いけない。ご主人様が起きた事みんなに知らせなきゃ」
「いいじゃないか」
恥ずかしがる姿が可愛くなり、絡みつくとお尻をさする。
「ダメ、これ以上はみんなに恨まれちゃう」
俺を突き放すと、ベッドから滑るように降りる。
「そんな悲しそうな顔しないの。
みんなを呼んだら、すぐに戻ってくるから」
リゼットは、ふわりと向きを変えると軽やかな足取りで寝室から出て行った。
俺は色々な問題が一気に解決したような安堵感を覚え、ベッドに仰向けに寝転ぶ。
実際は、まだ問題が山積みだ。
シャーロットの事や、生欲の王が封印されたネックレス。
そして、俺が装備していた食欲の王が封印されたサークレット。
諸々の問題は、明日まとめて話し合うことになった。
けれど、四体いると言われているデーモンロードの二体は封印した。
もう一体も、ドラゴン族のゼノアが倒してくれるはずだ。
残りは一体。
もしかしたら別の冒険者が、すでに倒しているかもしれない。
とにかく今日はゆっくりと休むことが出来る。
そんな事を考えながらぼーとしていると、みんなが戻ってきた。
「おはようございます。ご主人様」
「おはようにゃ」
「ユウキは寝坊助ね」
フィーナとティアはメイド服で笑顔を、クラリーヌはシャツと短パンで呆れ顔をしていた。
「朝から家事をしていたみたいで悪かったな」
「そんなこと言わないで下さい。
私達はご主人様のメイドなんですから。
それに、いつもの日常に戻れた様で嬉しいんです」
「そうにゃ、家事は戦いなんかよりずっと楽しいにゃ」
「アタシは冒険の方が好きだけどね。
あと、アタシはメイドじゃないからね」
クラリーヌは一括りにされたのを気にしたらしく、俺に向かってメイドじゃないと強調してくる。
「クラリーヌはチームに戻らなくていいのか?」
「なによ、アタシが居ると邪魔なの?」
「そういう訳じゃない。ただ心配しただけだ」
「すぐ近くなんだし、急いで帰る必要なんて無いわよ」
「そうか、なら今日はみんなでゆっくりと過ごそう。
そうだな……ずっと、ベッドの上で寝転んでるのはどうだ?」
昨日までは、散々動きまわったんだから、今日ぐらいはダラダラと過ごしたい。
「ユウキは寝るのが好きなの?」
「ああ、俺は寝るのは大好きだ」
なんせ、日本に居た時には、明晰夢を見るために休日はずっと寝てたからな。
「にゃーも寝るのは大好きだにゃ」
「アタシは、体動かしていた方が落ち着くわ」
「私も動いてる方が好きです。
でも、ご主人様と一緒に過ごすのは……もっと好きです」
フィーナは恥ずかしそうにモジモジして、はにかむ。
「アンタは、ほんとにユウキの事が好きね。
もちろん、アタシだってユウキと一緒に過ごすのは、その……好きに決まってるわ」
クラリーヌはフィーナを呆れた顔で見た後、顔を赤くしながらそっぽを向いて言う。
ふと、リゼットが静かなのが気になって様子を見ると、みんながワイワイやっているのを微笑ましそうに眺めていた。
「リゼットはどうなんだ?」
「あたし? あたしは、みんなと一緒にいれれば、それだけで楽しいわ」
俺の問いに、微笑みながら答える。
「なんか、リゼットって大人よね」
「あら? あたしはあなた達よりずっと年上なんだから」
小さな体で腰に手を当て胸をはる。
「見た目は一番幼く見えるけどな」
「何よ。失礼ねっ」
「でも、俺はそんなリゼットが可愛くて好きだけどな」
「もう……年上ををからかうんじゃ無いの」
そう言いながらも、嬉しそうに顔を赤らめていた。
「私は寝間着に着替えてきますね」
「にゃーも着替えるにゃ」
「そうだな。寝やすい格好になってきてくれ」
フィーナとティアは、急いで部屋を出て行った。
「リゼットとクラリーヌは、こっちに来て。一緒に寝よう」
「はい」
「なんか偉そうだけど、言うことを聞いてあげるわ」
リゼットは素直に、クラリーヌは不満顔をしながらもベッドに上がる。
二人は俺の両脇に来ると、俺の腕を枕にして寝転んだ。
「嫌なら無理にとは言わな……イテテテ」
「まったく、こりないわね」
何度つねられても言いたくなっちゃうな。
照れるクラリーヌが可愛くて。
「クラリーヌは、風の射手に戻るのか?」
「何よ急に」
「いや、もし戻るなら一日中一緒に入られるのって今日だけなのかなって」
「いつも冒険に出てるわけじゃないし、暇な時には一緒に居てあげるわよ。
……そんな寂しそな顔しないでよ。
アタシだってずっと一緒にいたいんだから」
珍しく、いや、初めてクラリーヌからキスをしてきた。
それは、すごくやさしくて、とても控えめだった。
「ね? 今日はずっと一緒にいてあげるから。
ゆっくりと楽しく過ごしましょ?」
「ああ、そうだな。せっかく一緒に入られるんだから勿体無いな」
今度は俺の方からキスすると、フィーナとティアが戻ってきた。
「あー、キスしてる」
「にゃー達は家事をしてたのにひどいにゃ」
二人とも急いでベッドに上がる。
「すまないな」
「「ムー」」
二人とも頬を膨らませると、仕方ないといった感じでリゼットとクラリーヌの後ろにそれぞれ寝転ぶ。
四人だとどうしても、二人は離れる形になってしまうな。
そうだ!
「リゼット、俺の上に寝てくれないか?」




