デーモンロード『生欲の王』④
「今のうちに追撃を入れろ!」
カシード達は、倒れたシャーロットに対して一斉に攻撃を加える。
多重的な攻撃が着弾すると、衝撃とともに砂埃が舞い上がった。
「やった!」
クラリーヌが歓喜の声を上げるが、煙が晴れると、服が破け傷だらけのシャーロットが立っていた。
その体は、黒いオーラに包まれており先程とは雰囲気が違う。
『シャーロット、少しは使えると思ったけど、期待はずれね。
それにしても食欲の王よ。
なぜわらわの邪魔をする?』
誰だ?
いや、考えるまでもない。
ネックレスから声が聞こえる響くような声。
生欲の王か。
『こいつはワシを倒したからの~。
お主に倒されるとワシが弱いみたいでなんかいやじゃ』
『そなたは昔からそうね。
つまらぬプライドや目先の事ばかりしか見えてない』
『お主に言われたくないわい』
『まあよいわ。その男に使われているだけの様だし、わらわが本気を出せば何も出来まい』
操られたシャーロットが手をあげると、巨大な魔力が集中していく。
「これは、やばそうね……」
「フィーナ達は逃げろ!」
リュナの言葉に反応して、声を上げる。
しかし、食欲の王は落ち着いた調子だ。
『んー大丈夫じゃろ。
本当は嫌じゃがワシが守ってやる。
お主は、気にせず攻撃せい』
「大丈夫なのか?」
『はようせい。ほおって置くほど、面倒なことになるぞ』
今はこいつを信用するしか無い。
剣を構えながらシャーロットに向かい突進する。
「ご主人様危ない!」
フィーナの声が聞こえたが、構わず全力で走ると、俺の接近を迎撃するように、生欲の王は魔力が開放させた。
「ほんとに大丈夫なんだろうな!」
『大丈夫じゃ』
俺に向かって巨大な光弾が襲うが、当たる直前に粒子に成りサークレットに吸い込まれる。
「すごい! 攻撃を無効化するなんて」
リゼットが感嘆の声をあげる。
『なんてこと!』
生欲の王は驚きの声を上げつつも、第二撃を与えようと手に力を集中する。
「やらせるかよ!」
まだ、魔力が溜まるには時間がかかるはず。
俺の方が早い!
『まって!』
待つものかよ!
生欲の王の悲痛な声を無視して剣を走らせる。
ガキン!
が、俺の剣は光の壁に阻まれて大きく弾かれた。
『ハハハハハ。
そなたは馬鹿なのね。最後の手段は取っておくものよ。
大した時間稼ぎにはならないけど、魔力は溜まったわ』
その言葉とともに、再び巨大な光弾が放たれる。
「食欲の王! たのむ!」
『無駄よ! 再び吸い込むには時間が必要なはず!』
「なに!」
『これは、まずいかも知れんのう』
食欲の王の呑気な声を飲み込むように、巨大な光弾が俺を襲う。
くそ!
俺はリゼットの恨みを晴らすことも出来ずに負けるのか。
いや、負けるどころではない、もしかしたら死ぬかもしれない。
覚悟した直後、俺の周りを結界が包み込む。
なんだ?
この結界は記憶にある。
「マッシュ! 無事だったの!?」
クラリーヌの声が後ろから聞こえてきた。
マッシュがアークデーモンを防ぐのに使った結界だ!
『今じゃ! 急げ!』
そうだ、驚いている暇はない。
今のうちに生欲の王を止めないと。
光弾が結界にぶつかり弾けると、再びシャーロット目掛けて剣をふる。
剣はシャーロットの脇腹に当たると、吹き飛ばされ地面にたたきつけられた。
デーモンロードの力のおかげかシャーロットはまだ息がある。
『そなたの様な奴に倒されるとは……。
くっ、女の体では体力の限界か』
立ち上がろうとするも、力尽き再び倒れる。
俺は彼女の前に立ちはだかると、剣を振り上げた。
「止めをさせ!」
誰かの声が聞こえる。
だが、同時に拒絶する心の声も聞こえた。
【彼女の命を奪うのはダメだ!】
『躊躇するなんて甘いわね!』
生欲の王は、その一瞬の隙を突いて魔法を放つ。
魔力の塊は、俺の体に当たると、強い光を発しながら激痛を与える。
「うおおおぉぉぉぉ!」
俺は雄叫びを上げながら、強引にネックレスを掴みとった。
『くっ! 力が抜ける。
何故じゃ? なぜなのじゃ!?
わらわがこんな奴に再び封印されるとは……』
最後の声を発すると、シャーロットを包んでいた黒い霧が晴れた。
「大丈夫か!」
みんなが心配して近くに駆け寄ってくる。
「もう大丈夫だと思います」
生欲の王は封印され、シャーロットは意識を失っていた。
そこかしこから喜びの声を上げる。
しかし、カシードがツカツカと俺のそばにやってくると胸ぐらを掴んだ。
「貴様! なぜ、止めを刺すのをやめた!!」
カシードの怒号がホール内に響く。
「わかりません……」
「わからんだと!?
あの躊躇のせいで、お主は死んでいたかもしれないんだぞ!!」
リゼットが俺とカシードの間に割り込む。
「ご主人様に何するんですか!」
カシードは、リゼットを見て困惑した顔をすると、乱暴に俺を突き放す。
「ムキになるなんて何年ぶりだ?」
「まるで若い頃のカシードみたいね」
レナルヴェとリュナの驚いた声が聞こえてきた。
「リゼットすまない。
恨みを晴らそうと思ったが出来なかった」
「そんな事どうでもいいんです。
ご主人様が無事でよかった」
リゼットが俺を強く抱きしめる。
こうして、デーモンロードとの長いようで短い戦いは幕を閉じた。