冒険者達
「すでに集まってるな」
早朝、冒険者ギルドに着くと、3組の冒険者達がいた。
全員がスキンヘッドでメイスを持ち、法衣を着ている男の4人組。
全員が弓に革鎧という軽装の5人組。
戦士3人、僧侶、魔法使い、盗賊とバランスの良さそうな6人組。
5台の馬車の周りでは、衛兵たちが準備をしている。
俺達が着くと依頼者と思しき人が説明を始めた。
どうやら俺達を含めた4チームが参加者のようだ。
「皆様、お集まりいただき感謝します。
今回は街の衛兵からの依頼です。山にアンデットが多数発生し、村が襲われました。
このままでは被害が広がり街にまで影響する可能性があります」
村が襲われたという言葉に冒険者達がざわめき立つ。
「目的としては、アンデットの殲滅と生き残った村人の救助、アンデットが発生したダンジョンの調査と発生源の解消です。
今回の依頼は規模が不明なため成果報酬となります。
倒したモンスターの数と強さ、ダンジョンの難易度とアンデット発生の原因によって報酬額を後から決めます」
衛兵から依頼カードが配布され、成果報酬という言葉に気合を入れる声が聞こえる。
「原因が不明な以上、自分たちで解決が困難だと判断した場合には、中断して戻ってきても構いません。
その場合でも、調査費用として報酬をお渡しします。
また、万全を期すために後方支援として、衛兵が協力いたします。
衛兵は直接的な戦闘には参加しませんが、物資の補給や傷の手当等をさせていだきます」
今回の依頼は、わりと安全だとわかりほっとする。
危険だと思った場合は、逃げることもできるし、後方支援があるから最悪の事態に陥ることは避けられる。
他の冒険者達も経験者が多そうだ。
昨日のゴブリン戦の様な無様な戦いにはならないだろう。
「襲われた村の近くまで輸送します。
冒険者は馬車に乗ってください」
俺達は人数が少ないので、法衣を着ている4人組と一緒になった。
道中で4人組は一切話すことなく瞑想をしていたので、俺達も静かに休息を取る。
目的地に付くと、衛兵たちは忙しそうに拠点の作成に取り掛かった。
俺が拠点の設営に興味を持ち見ていると、バランスの良さそうなチームの戦士風の男が話しかけてきた。
身長180ぐらい、細身ながら筋肉質で赤髪を短く刈った誠実そうな青年だ。
「俺はドラゴンファングのリーダー、バルパスだ」
「俺はユウキ、こっちはフィーナだ」
「二人組とは珍しいな」
「冒険者になりたてで、メンバーが居ないのです」
俺は苦笑いをして答えた。
「おいおい、大丈夫か?
ルーキーが死んでいく所を見るなんてゴメンだぜ」
「二人共レベルは高いので足を引っ張ることはないと思います。
今回参加したのも、他の冒険者チームの戦を見せてもらおうと思ってのことです」
「それなら運が良かったな、俺達のチームも連携には自信があるが、あっちのチーム『風の射手』の連携は見事なものだ」
そう言って軽装をしているチームを見ると、彼らの一人がこちらに歩いてきた。
「なぁに? アタシ達のうわさ話?」
近くで見ると女性であることに気づく。
身長は150ほどの小柄で水色の長い髪を後ろで束ねており、背中には身長に不釣り合いな大きな弓を背負っている。
「連携が素晴らしいチームだと伺っていた所です」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。風の射手リーダーのクラリーヌ。よろしくね」
「まだ、冒険者になったばかりなので勉強させて頂きます」
「冒険者にしては真面目なのね。
高そうな鎧をつけてるし貴族のお坊ちゃんかと思ったけど、悪いやつじゃなさそうね」
「いえ、貴族ではないです」
「ふーん? 体もしっかりしてるし、顔もなかなかっこいいわね。
オネーサンが色々教えてあげようか?」
クラリーヌはイタズラっぽい笑顔で下から顔を覗き込んできた。
お姉さんとは言っても明らかに俺より年下だ。
バルパスも若そうだし、この世界で23歳という俺の年齢は年を取っている方なのだろう。
「ご主人様をからかわないで下さい」
フィーナが怒って割り込んできた。
「ご主人様? まあいいわ。半分冗談よ、半分ね」
フィーナを見て不思議そうな顔をするも、俺の方に向き直ってウインクを送ってきた。
フィーナは頬を膨らませて睨んでいる。
「まあまあ、これから一緒に仕事をする仲間だろ? 仲良くしよう」
バルパスが苦笑しながら二人の間に割って入る。
そんな感じでチームメンバーの紹介をしてくれた。
ドラゴンファングは、予想通りファイター三人、レンジャー、プリースト、メイジとバランスの取れたチームだった。
それとは逆に、風の射手は、サブスキルを分けているとはいえ全員が女レンジャーで武器が弓という偏った構成だ。
活動場所は、草原や森などの開けた場所に限定し、基本的にダンジョンには入らないらしい。
力の弱い女性なので、遠距離で安全に確実に倒していくのがモットーだそうだ。
「クラリーヌが言った通りなかなかいい男ね」
「いやぁ。そんなことないです」
「これからも仲良くしてね」
風の射手の女性たちに囲まれてしまった。
女に囲まれた経験のない俺は、顔を赤くしてオタオタとしてしまう。
女性たちは俺が目当てというより、女性に免疫のない俺と、そんな俺を見てむくれているフィーナをからかっている感じだ。
「所で、あの方々は?」
話を変えようと、法衣を着た4人組の方を見てバルパスに話をふる。
「彼らはギルダル教団の戦僧侶だな。
アンデットは彼らにとって、汚らわしい存在だから退治するために参加したのだろう」
「冒険者ではないのですか?」
「そうだ。だから冒険者としての連携は期待できない。
だが実力のあるプリースト達だし専門家だから頼りになると思う」
設営を終えた衛兵たちがやってきて、依頼の開始をお願いされた。
冒険者たちはチームごとに固まり村の方に歩いく。
まず動き出したのは、風の射手のチームだった。
村の周りにいるゾンビをいち早く発見すると100メートル以上離れた距離から正確に射る。
アンデット対策を施していると思われる矢を使い一匹に一本の矢で確実に倒していく。
「すごい弓の技術だな。一回も外していない」
「そうですね。それにすごく可愛らしい方々でしたね」
フィーナはまだむくれている。
「俺はフィーナの方がかわいいけどな」
その一言で機嫌が直った。
ヤキモチを焼いてくれるのは嬉しいが大変だな。
風の射手が村の入口付近のゾンビを掃討すると、ドラゴンファングが動き出した。
村に入ると、一体のソンビに対してファイター3人で確実に仕留めていく、レンジャーのカジミールは警戒しつつ家の中にモンスターや生存者が居ないか確認する。
プリーストのエルミリーとメイジのディアナは直接的な行動はしていないが、いつでもフォローに入れるように警戒を怠らない。
風の射手は、村には入らずに村の外のゾンビを掃討するようだ。
冒険者達は自分の役割をきちんと認識して仕事をしていた。
ギルダル教団は、他の冒険者などいないかのように一糸乱れぬ足取りで、ゾンビを見つけると素早く祈りを捧げ土に返していく。
まるで機械のような動きだ。
俺達もドラゴンファングに追随して村に入っていく。
ゾンビを見つけると俺は一太刀で、フィーナは二、三回の斬撃で倒していった。
「お前達も、なかなかやるじゃないか」
ゾンビを片付けたバルパスが警戒しながらも話しかけてくる。
「特に、ユウキの剣技はすごいな。
剣の訓練場にでも通ってたのか?」
「まあ、そんな所です」
「……言いたくなければ、言わなくてもいい。
俺達冒険者なんて言いたくない過去の一つや二つは当たり前だ」
しばらくすると、家の中を調べていたレンジャーのカジミールが戻ってきた。
「村の中のゾンビは全滅させた。
残念ながら生存者はいないようだ」
同じ頃に村の外に行ってた風の射手も集まってくる。
「外のゾンビも全部倒したわ」
ギルダル教団は村に対して鎮魂の祈りの歌を捧げている。
バルパスは悲しそうな表情で言った。
「酷い仕打ちだぜ、女も子供も全滅だ」
村の中は俺も見まわったが、ひどい有様だった。
女子供かかわらずゾンビに食い荒らされ腐敗した死体が放置されていた。
「こんな大量のゾンビ、どっから現れたのかしらね」
クラリーヌは呆れた表情だ。
「村の近くの洞窟から出てきたみたいだな。
昔入ったことがあったが広くはなかった。
おそらく、墓地にでもつながったのだろう」
「さっさと攻略しちゃいましょう。
あたし達は洞窟が苦手だからドラゴンファングの後ろからついていくわ」
「ああ、任せてくれ」
「あれ? ギルダル教団の方々はどこに行かれたのでしょう?」
さっきまで鎮魂の歌を歌ってたはずだがいなくなっていた。
「教団の方々にとって俺達は関係ないからな。
おそらく先に洞窟に入っていったんだろうぜ」
「大丈夫なんでしょうか?」
「普通は罠とかを警戒するものだがな。
奴らは金があるし、罠はずしの指輪とか持っているのかもしれない。
どちらにしろ俺達冒険者は冒険者のやり方でやるだけさ」
俺とフィーナを含めた冒険者は一緒になって洞窟に入っていた。
隊列は接近戦に強く経験のあるドラゴンファングが先頭、次にルーキーの俺達、風の射手は後方からの襲撃に備える。
洞窟の道はかなり広く3人が並んで歩けるほどの大きさだった。
先頭を進むレンジャーのカジミールはランタンを掲げると罠に警戒しながら少しずつ進む。
すでにギルダル教団が通ったらしくモンスターはほとんど残ってなかったが、カジミールは少しも警戒を怠ることなく罠やモンスターを探している。
しばらく進むと洞窟の奥にたどりついた。
「やっぱりダンジョンと繋がったみたいだな」
洞窟奥の崩れた壁を見ながら、やれやれという表情でバルパスが言った。
「まあ、さっきまでとやることは変わらないが、一層警戒を強めていくぞ。
どんなモンスターが出るかわからないからな」
ダンジョンの中は、石造りで綺麗に整備されており、道は洞窟よりやや広く魔法により照らされていた。
カジミールは今までと同様に、道を警戒しつつ、ひとつひとつダンジョンの部屋を確認していく。
部屋の中には宝のようなものはなく棺が並んでいるだけだった。
ほとんどのアンデットは教団によって倒されていた。
たまに現れるソンビやスケルトン、ゴーストなどのアンデットは冒険者が連携して難なく倒していく。
更に進んでいくと、10メートル四方の広間についた。
「教団の奴らが倒れているぞ!」
バルパスが声を上げると、ドラゴンファングは、倒れた教団員の元に走っていった。
俺達と風の射手は、部屋の入口付近に立ち警戒する。
「いらっしゃい、あたしの家へ勝手に上がり込んだネズミども」
部屋の奥から女の声が聞こえてきた。
見ると12歳ぐらいの少女が玉座のような椅子に座っていた。
「その者たちは、あたしのかわいいアンデットを殺したの。だから、お礼に殺してあげたわ」
アンデットに対する偏執的な感情と、少女の見た目とは一致しない大人びた物言いにゾッとする。
「あなた達も同じ運命をたどるのよ」
そう言うと同時に、倒れていた教団員が虚ろな表情で起き上がった。
さらに、ドラゴンファングのメンバーを囲むように十数体のスケルトンが現れ一斉に攻撃を開始する。
危機を察知するとバルパス叫んだ。
「お前たち撤退だ! 逃げろ!」
言うより早く、いつの間にか放たれた火炎の玉がドラゴンファングを中心に炸裂する。
ドラゴンファングは全員、瀕死の状態でスケルトンの攻撃を必死に受け止める。
「逃げるよ!」
風の射手のメンバーは少しも躊躇することなく逃げ出した。
逃げ出しながらも、動かない俺とフィーナを見ると叫んだ。
「アンタ達も生き残りたいなら逃げなさい」
しかし、俺は逃げるつもりなど少しもなかった。
冒険者としては間違った行動なのだろうが、ドラゴンファングを見捨てる事など出来なかった。
意識を集中するとドラゴンファングを中心にサークル・ヒーリングを発動する。
ドラゴンファングのメンバーの傷が癒えると同時に、ゾンビとなった教団員とスケルトンが崩れ去った。
サークル・ヒーリングが上手く行ったことに安堵しつつ叫ぶ。
「はやく、こちらに来てください」
歴戦の冒険者達は俺が言うよりも早く行動していた。
入り口に向かい全速力で走る。
「バカね。ここはあたしのお腹の中。
逃げれるとでも思っているの!」
少女が叫ぶと、逃げたはずの風の射手が戻ってきた。
「囲まれた! 大量のアンデットがこっちに向かっているわ!」
風の射手のメンバーが怪我をしているのを見ると、プリーストのエルミリーが素早く癒やしの魔法をかける。
「どうする? これじゃ逃げられねーぜ」
レンジャーのカジミールは諦めたように苦笑した。
「何か手段があるはずだ考えるんだ!」
バルパスは、青ざめた表情をしながらも打開策が無いか模索する。
俺は冷静に言った。
「あの女は俺がなんとかします。
ドラゴンファングは後方のアンデットを抑えてください。
風の射手は、適宜状況に合わせてドラゴンファングと俺の支援をお願いします。
フィーナはここに残って広間からモンスターが出ないように抑えて」
フィーナにアイアンアーマーをかけると広間の中に入っていく。
「わかりました。ご主人様」
「中級の回復魔法を使いこなす凄腕の剣士か……。
キミならなんとかしてくれるかもしれんな。
頼んだぞ!」
バルパスは通路の奥に向かって走りだした。
「あら? あなた一人であたしを倒せると思っているのかしら?」
「同じことを言ってやるよ。
お前一人で俺を倒せるつもりか?」
完全にハッタリだ。
自信なんて微塵もない。
やるしか無いんだ。
「バカにして! 死ね!」
3メートルを超す3体のスケルトンが床から現れる。
手には巨大なシミターと盾を持っている。
「どう? ジャイアントスケルトンよ。
今度はヒーリングなんて効かないわ」
俺は回復耐性を教えてくれたことに感謝しながら、サモン・ファイアーリザードを念じる。
炎をまとった1メートルほどのトカゲが5匹現れた。
「ならこっちは火トカゲだ」
「ありえない。回復も召喚も使いこなすなんて!」
ジャイアントスケルトンに、ファイアーリザードをけしかける。
炎に弱いらしくジャイアントスケルトンは炎のブレスを受けて苦しんだ。
その隙に、一直線に少女の元まで走りだす。
「わかった。
あなた剣士の格好しているけどホントはビショップなんでしょ?
だったらストーンゴーレムね」
玉座の左右にあった2メートルほどのヒョウに似た彫像が動き出すと俺に襲いかかってきた。
俺は右のストーンゴーレムが攻撃するより早く切り裂く。
しかし、同時に繰り出されたもう一体の攻撃が目前に迫る。
瞬間、ストーンゴーレムに三本の矢が刺さり炸裂した。
ストーンゴーレムは吹き飛ばされて床に叩きつけられる。
「ビンゴ! アタシ達だってやれるんだから!」
後ろからクラリーヌの声が聞こえた。
俺は振り返らず、走る勢いを殺さないまま少女に肉薄し剣を振り上げる。
その瞬間。
「まいった。あたしの負けよ」
少女は両手を上げると、あっさりと降参の意を示した。
「アンデットの動きを止めろ」
俺は剣を上げながら隙がないように冷静に言い放つ。
「すでに止めてるわよ」
横目で見るとストーンゴーレムの動きは止まり、ジャイアントスケルトンが崩れ去るところだった。
「何やってんの! 殺しちゃいなさい!」
クラリーヌが叫ぶが、その声を無視する。
「名前は?」
「リゼットよ」
「なぜ、村を襲った?」
「村って何? そんなもの襲ってないわよ」
「なぜ、アンデットを使役する」
「あたしの趣味と労働力よ」
「ここで何をしていた?」
「何をしていたって、ここあたしの家なんだけど。
あなた達こそ賊じゃないの?」
「賊? 俺達は冒険者だ」
「何しに来たのよ?」
「アンデットの発生の根源を絶ちに来た」
「いつの間にアンデットを使っちゃいけない法律なんて出来たのかしら?」
「法律なんてのは知らないが、ゾンビを使って村を襲っただろ」
「だから、村なんて襲ってないったら」
会話が咬み合わない。
どういうことだ?
こいつは村なんて襲ってないと言う。
嘘を付いているのか?
見た目は子供のようだが話し方は大人のそれだ。
つまらない嘘を付くとは思えない。
では、手違いがあった?
たまたま何かが起こった?
俺は混乱する頭を整理すると一つの疑問を持った。
「ダンジョンの壁が崩れて洞窟と繋がったのは知っているか?」
「え? 壁が崩れたの? 大変! 直さなくちゃ」
「そこからソンビが大量に出てきた」
「あー」
リゼットは視線をさまよわせると、事態を飲み込んだようだ。
「ひょっとしてあたしのソンビたちが村を襲っちゃったってこと?」
「そうだ。だからゾンビを発生させた元を断ちにきた」
「あたし殺されるってこと?」
「そうよ! あなたなんて殺してあげる!」
クラリーヌが怒気を込めて言い放つ。
いつの間にか他の冒険者達も近くまで来ている。
「すまない。クラリーヌ、話だけでもきちんと聞きたい」
「アンタほんとにアマちゃんね」
「事態を解決したのはユウキだ。
しかも、俺と俺の仲間たちの命を救った。
だからユウキの言うとおりにしよう」
バルパスが俺を擁護するように言ってくれた。
ドラゴンファングのメンバーはリーダーの意見に従うと言ってくれている。
「バルパス、何カッコつけちゃってるのよ?
アタシ達だってユウキに感謝しているわよ!」
クラリーヌは不満げな表情で顔をそらすと腕を組む。
どうやら、風の射手のメンバーも俺の意思を尊重してくれるようだ。
「悪いことをしないと誓うなら殺しはしない」
「別に悪いことをしたいなんて思ってないわよ。
村を襲っちゃったのは事故よ。事故」
事故という言葉に悩み、バルパスに目線を送る。
バルパスは俺の意図を汲み取り答えてくれた。
「本人に意思が無いにしろ、多数の死者を出したことは事実だ。
犯罪者として処罰されるのは免れない」
「じゃあ、あたしは犯罪者として、この男に捉えられたってことよね?」
リゼットは俺を指差した。
「そうなるな」
俺は答える。
「なら、あたし、あなたの所有物になるわ。
殺されるのも、投獄されるのもまっぴらだもの。
それに、回復と召喚の魔法を使いこなす剣士なんて興味深いわ」
俺も所有物にするというのは、考えていた事だった。
村を壊滅させたとはいえ故意ではなかった。
俺達を襲ったのだって正当防衛みたいなものだ。
そんな人を、殺したり投獄させるのは忍びない。
日本の言い方をするなら情状酌量の余地ありというやつだ。
「わかった。お前は今から俺の所有物だ。
その代わり、すぐに壁の修復とダンジョン内のアンデットを停止しろ」
「えー」
「それができないなら所有物にはできない」
「わかったわよ」
しぶしぶとだが了承した。
「みんな、すまない。そいうことになった」
冒険者達の方を向いて俺は頭を下げる。
「さっき言ったろ、お前の意見に従うって」
「あーあ、とんでもないアマちゃんルーキーが冒険者になったものね。
でも、あなたのこと、好きになっちゃったかもしれない」
その言葉に反応してフィーナがクラリーヌを睨む。
「い、いやあね。半分冗談よ。半分ね」
冒険者達はいっせいに笑った。
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それから、リゼットはアンデットを使い壁を修復して、ダンジョンを休眠状態にした。
数多くいるアンデットを完全に止めるのは無理らしい。
その後、リゼットを連れて衛兵が待機している拠点まで戻り、事件の全貌を説明する。
報酬は検討の上、後日支払われるという話になり解散となった。
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「今回は世話になったな」
バルパスと力強く握手をする。
「こちらこそ色々と勉強になりました」
「おいおい、ゾンビ退治の英雄に言われても皮肉にしか聞こえないぞ」
ドラゴンファングのみんなが笑う。
「また一緒に仕事をすることになったらよろしくな」
そう言ってドラゴンファングは帰っていった。
「アタシ達も行くわ。今度デートしようね」
風の射手の女性たちは、カッコ良かっただの強かっただの言いながら投げキッスを残して去っていった。
……フィーナが怖い。
「さて、俺達も帰るか」
「はい、ご主人様。でも、こんな素性の判らない者を所有物にして本当に良かったのですか?」
「こんなとは失礼ね」
「あの状況ならこうするしかなかったからな」
「あたし、強いし頭もいいから絶対役に立つわよ。ご主人様」
「ご主人様はやめてくれないか」
「あら、そう呼ばせてるんじゃないの?」
「フィーナが勝手に言っているだけだ」
「ご主人様は、ご主人様です」
「じゃあ、あたしも勝手に呼ぶわ。ご主人様」
俺はため息をつくと、フィーナとリゼットと共にいつもの宿屋に帰っていった。