デーモンロード『生欲の王』①
目が覚めると、座った状態で寝ていたことに気づく。
何か夢を見てたような気がしたけど、なんだっけ?
イマイチ思い出せない。
「どこにもいかないで……」
下を向くと、俺の足に頭を乗せてリゼットが眠っていた。
そして、子供がイヤイヤをするように頭を振っている。
「大丈夫か?」
頬をペチペチと叩くと、ガバッと起き上る。
寝ぼけ眼で俺を見ると、安堵して抱きついてきた。
「良かった。どこかに行ってしまったかと思った……」
「リゼットを置いていくわけ無いだろ」
しっかりと抱きしめ返す。
「うーん、もう朝?」
クラリーヌが目をゴシゴシと擦りながらあくびをする。
起こしてしまったか。
周りを見るとフィーナ達は、俺に寄り添うように眠っていた。
左にはフィーナ、右にはクラリーヌ、背中にはティアがくっついている。
どうやら四方を彼女達に囲まれて寝てたらしい。
我ながらよくこんな状態で寝れたものだ。
それほど疲れてたのかもしれない。
「ご主人様……あの……」
目を覚ましたフィーナが、モジモジと指を絡ませてる。
「どうした?」
「おはようのキス……してもいいですか?」
こんなかわいい子に照れながら、キスしていいかと言われたら、したいに決まっている。
だけど、周りには他の冒険者もいる。
ただでさえハーレム状態で眠っていたのに、キスしてる所を見せつけるのはためらわれる。
「他の冒険者が見てるしな……」
つぶやくと、フィーナは悲しそうな表情になった。
そうだ!
毛布で隠してしまえばいい。
早速、リゼットが使っていた毛布を四人とも入るように頭から被る。
「これなら見られないだろ」
「ありがとうございます!
おはようございます。ご主人様っ」
薄暗い中、フィーナの顔がパアッと明るくなると、抱きつくようにキスしてきた。
すこし長めのキスを終えると、リゼットを抱き寄せる。
「ご主人様、おはよう」
「絶対離さないからな」
いつもより長めのゆっくりとしたキスをするリゼット。
つぶった目の端には小さな涙が浮かんでいた。
「おはようにゃ」
「ティアはどこでも変わらないな」
いつもどおり、元気いっぱいに抱きついてきた。
まるで口移しで貰ったかの様に、明るい気持ちになってくる。
濃厚なキスを終えるとクラリーヌの方を向く。
「ねえ。ほんとに、ここでするの?」
「嫌なら無理にとは言わないけど……イテテテテ」
太ももつねられた。
「ユウキは、ほんと女ゴコロがわからないわね」
そう言って、目をつぶると顎を上げる。
やっぱり、自分からするのは恥ずかしいのか?
黙って長めのキスをした。
毛布を外すと、そこには腕を組んだジョゼットが立っていた。
「仲が良いのは良い事だけど、時と場所をわきまえなさいよね」
クラリーヌが俺の腕を抱きしめながら言い返す。
「へへーん、うらやましいでしょ」
ジョゼットは握りこぶしを作ると、ワナワナと震える。
「いや、すまない。スキンシップは欠かさないようにしてるんだ。
それより、デーモンロードの様子はどうだ?
結界は大丈夫か?」
大きなため息をつくと、ジョゼットは眉をひそめた。
「結界は大丈夫なんだけどね。
見たほうが早いわよ」
神殿の入口に来て驚く。
「何だこりゃ……」
黒騎士達も今来たばかりらしく同じ様に驚いていた。
神殿の中はデーモンだらけになっていたからだ。
「ずっと見てたけど、どんどんデーモンが増えていったの~。
あたし、怖かったわ~」
エルミリーの妙に通る間延びした声が洞窟に響く。
「まったく、こうなる前に報告しなさいよね」
「え~、でも、結界は大丈夫だったし~」
ジョゼットが苛立たしげに言っても、全く動じた様子もなく相変わらずのほほんとしている。
「援軍が来てもどうにかなるのか?」
「どうにかしてもらうしか無いだろ。
少なくとも俺達にどうにか出来る問題じゃない」
俺の問にボードウィンがぶっきらぼうに答える。
「何にしろ援軍が来るのを待つしか無いな」
そう言い残して、休憩していた場所に帰ってしまった。
「まあ、彼の言うことも最もね。
見張りはあたし達に任せてユウキ達はしっかりと休んで」
ジョゼットに言われるままフィーナ達の元に戻ろうとすると、落ち着いた調子でドラゴンファングのファイター、ザールがやって来た。
「見張りはどうしたのよ?」
今は、エルミリーが神殿の入口を、ザールが洞窟への道を担当してたようだ。
「援軍が来たぞ」
あまりの淡々とした物言いに一瞬間があく。
「そういうことは、もうちょっと大変そうに言いなさいよ」
「まあ、大した話じゃないからな」
ジョゼットが呆れた調子で言うと、ザールの後ろから領主のカシードが現れた。
「え? わざわざ領主が援軍を連れて来てくれたの?」
ジョゼットが少々混乱しながらザールに問いかけると、ザールも困った顔をした。
「連れてきたというより、オレが援軍だ」
そんな事は、お構い無しのカシード。
「私は止めたんですがね」
ゆったりとした落ち着いた声の主を探すと、魔術師のシトが呆れ顔で現れた。
「普段の雑務で鬱憤が溜まってるんだろ。
いつものことじゃねーか」
その横にいた剣聖レナルヴェはいつものニヤけ顔だ。
「いつものことだから参ってるんですよ」
「シトはいつも気苦労が絶えないねー」
ため息を付くシトの肩を、盗賊ギルドのリュナが楽しげに叩く。
「ハッハッハッ。元冒険者にまともな奴なんていないからな」
笑い声を上げる男は、初めて見た顔だ。
長い金髪を後ろに束ねた、端正な顔立ちのスラリとした中年男。
耳が長く尖っているから、耳長族とかエルフ族なのかも知れない。
「エルダール様まで来てくれたんですか?」
突如、クラリーヌが目を輝かせて黄色い声を上げる。
エルダールさま~?
「エルダールって誰だ?」
クラリーヌに小声で聞くと、同じく小声で答える。
「え? ユウキって弓の訓練所に行ったこと無いの?
一撃必殺の異名を持つスナイパーよ」
その、エルダールがにこやかに握手を求めてくる。
「会うのは、初めてだね。
弓の訓練所で師範をやらせてもらってるエルダールだ。
噂はかねがね聞いているよ。
デーモンロードを封印し、ドラゴンを倒し、ドラゴン族の英雄といい勝負をしたらしいね」
「はあ、どうも……」
落ち着いた渋さを感じさせるいい男だ。
これが、大人の魅力というやつか。
圧倒されながらも握手を返す。
「みんなが無事でよかったよ」
最後に、パルパス、カシード、ディアナのドラゴンファングのメンバーが安心した様子で現れた。
他には居ない。
ってことは、援軍に来たのは、
領主カシード
領主お付の魔法使い、シト
剣聖レナルヴェ
盗賊ギルドのアサシン、リュナ
一撃必殺のスナイパー、エルダール
の五人だけか?