ダンジョン再び④
「アークデーモンは、倒すのが難しのか?」
走りながらボードウィンに問いかけると、苦々しげに答える。
「二体なら俺のチームでもなんとかなる。
だが五体は絶望的だ」
上級冒険者でも二体が限界だと言うのなら俺らが加勢しても難しそうだな。
ましてや、俺のチームでレベルの高いリゼットが戦える状態じゃない。
デーモンロードを放って置くのは気になるが、援軍を待ったほうが良さそうだ。
あと100メートルで出口。
上空を黒い影が通り過ぎる。
「逃がさんよ」
アークデーモン達が俺達の前に舞い降りた。
「くっ」
道を塞がれたか。
「俺が抑える。みんなは逃げろ!」
ボードウィンが吠える。
「俺も手伝う。フィーナ達はリゼットを連れて逃げてくれ」
「ご主人様を置いては行けません」
「にゃー達も戦うにゃ」
「フィーナもティアも何を言ってるんだ!」
「そうよ……、あなたを置いてはいけないわ……」
「リゼットは戦える状態じゃ無いだろ! いつもの冷静さはどうした!?」
「いいえ、アタシ達はユウキが逃げない限り戦うわ」
「クラリーヌまで!!」
「言い合っている暇はないぞ!」
ボードウィンは叫ぶと自己強化の技を使う。
腕の筋肉が見る間に膨れ上がった。
リゼットを抱えたまま、剣を使うのは無理か、仕方ない魔法を使うか。
エクスプロージョンを放つと、大きな爆発がアークデーモン達を襲う。
激しい衝撃はとともに砂埃が舞う。
だが、爆発が終わった後にも、アークデーモンはしっかりと立っていた。
「やっぱり魔法は効きが悪いか」
「あら、随分強力な魔法が使えるのね。
ますます興味が出てきたわ」
後ろからはシャーロットがゆっくりと近づいてくる。
「前はアークデーモンで、後ろはデーモンロードか……。絶体絶命だな」
「ええ、前門の虎、後門の狼ってやつね」
バルパスがつぶやくと、ショゼットが頷きながら剣を握り直す。
その目は、まだ諦めてはなさそうだ。
「おいらこんな所で死にたくないよ」
「俺たちシーフが撹乱して隙を作るしかねーな」
ジュリアンが弱音をはくが、カジミールがいつに無くまじめに答えた。
「みんな突っ込め!
出口まで行けば安全だ。
一人でも多く生き残るぞ!」
ボードウィンの合図で、全員がアークデーモンの横をすり抜けようと走りだす。
アークデーモンは攻撃の姿勢を取ると、マッシュがアークデーモン達の中心に突っ込んだ。
「大丈。俺が動きを抑える。みんな逃げろ」
いつもの淡々した静かな口調で話すと、大きな盾を掲げる。
すると、マッシュを中心にアークデーモンを包み込むように巨大な結界が展開された。
「今のうちに逃げろ」
アークデーモンはやっきになって結界を攻撃する。
「あれは、本来は防御用の結界ね」
「ってことは、中のマッシュは無防備なのか!?」
メイジのディアナが無言で頷く。
アークデーモンも気づいたらしく、マッシュを攻撃し始める。
マッシュは、苦悶の表情を浮かべながら懸命に結界を維持している。
「やめろ! 死んでしまうぞ!!」
「大丈夫でやんす!
マッシュが死ぬことはありやせん!
すぐに撤退してくだせぇ!」
出口からピエールが大声で叫んだ。
「ピエールの言うとおり。
俺は大丈夫。
早く行って下さい」
血みどろになりながらも懸命に盾をかかげていた。
「わかった! すぐに助ける」
身を切るような思いで、アークデーモンから集中攻撃を受けるマッシュを後ろに出口に向かう。
「くっ、待ちなさい!」
シャーロットの声が聞こえたが、結界の外まで逃げ出した。
「ここまでくれば安心でやんす」
ピエールが一息入れるとボードウィンが結界を叩く。
「この結界は本当に大丈夫なのか?」
すると、魔術師達が自信ありげに答えた。
「扉を封印していた結界をそのまま転用したものです。
少なくともしばらくは大丈夫です」
「それよりマッシュは本当に大丈夫なのか!?」
俺は気がきではなかった。
もし、マッシュに何かあったらと考えると胸が苦しい。
「もちろん大丈夫でやんす。
それより、すぐに助っ人を呼びに行きやしょう。
あっちと、魔法院の方々はすぐに街に戻りやす。
あんさん方は結界に異常がないか見ていてくだせえ」
「お前だけで大丈夫か?」
敵が弱いとはいえダンジョンを戻るんだ。
危険が多い。
「それなら大丈夫だ。俺達が護衛につく」
パルパスが声を上げた。
「どうせ俺達ではデーモンロードはおろかアークデーモンにすら太刀打ち出来ない。
だから、半分が護衛につく。
残りの半分は、ここに残って黒騎士とユウキ達のフォローに回る」
「わかりやした。それで行きやしょう。
なるべく急いで戻ってきやすが、一日ほどかかるかもしれやせん。
もし、デーモンロードが結界を突破するようでしたらすぐに逃げてくだせえ」
そうして、ドラゴンファングのパルパス、カジミール、ディアナが護衛について、援軍を呼ぶ事になった。
………
「ねぇ、悪いようにしないからここを通してよー」
シャーロットが結界の内側から猫なで声を出す。
魔術師たちの言ったとおり、シャーロットも結界を通ることができないようだ。
「ちっ、全く忌々しいぜ。
本当にあんなバケモノ達をお前は倒したのか?」
「封印をしただけだ。
それに、前はアークデーモンなんて出てこなかった」
「そうだな、俺達もインプやオーガぐらいしか戦わなかったからな。
すまん、緊張の連続で疲れた。少し休もう」
ボードウィンは、洞窟の壁にもたれかかると、ズズズとずり下がるように座った。
「ああ、俺も疲れたよ」
フィーナ達が休んでいる場所に向かう。
リゼットは、憔悴した雰囲気で毛布の上に寝ていた。
「大丈夫か?」
リゼットの前に座りながら声をかけると、顔をそむけてしまった。
「ごめんなさい。あたしのせいで危険な目に合わせてしまって」
「気にするな。それに、今は休むことを考えてくれ。
いや、むしろピエールと一緒に砦に戻ったほうが良かったか。
すまない、そこまで気が回らなかった」
「あたし、邪魔かしら……」
「いや、そういうことでは……」
「そうよね。あんな話を聞かされたら嫌いにもなるわよね……」
「違うんだ。そういうことじゃな……」
「あの人とは何もなかったの!
ただ、捕らえられて無理やり結婚をさせられそうになっただけ!
信じて!
お願い、あたしを嫌いにならないで!!」
リゼットが泣きながら、すがりついてくる。
たまらずに抱きしめた。
「バカだな。俺がリゼットを嫌いになるわけ無いだろ」
「お願い、ご主人様と一緒にいたいの。
あたしを一人にしないで……。
もう一人きりになるのは嫌……」
「変な事を言ってすまない。
俺もリゼットと一緒にいたい。
俺にはリゼットが必要なんだ」
リゼットの震える小さな体を強く強く抱きしめた。




