ダンジョン再び①
「短い休みだったな」
早朝、みんなと買い物ついでにデートでも楽しもうと思っていた。
が、神殿の入口の封印を解く準備が出来たとかで、すぐ砦に戻ることになった。
ちくしょう。
久しぶりにお風呂に行こうと思ってたのに。
クラリーヌ洗いたかった……。
「あれ? あそこにいるの、ドラゴンファングじゃない?」
集合場所である砦の中庭にいくと、クラリーヌがまぬけな声を上げた。
指差す先を見ると、確かにバルバス達がいた。
向こうも気づいたらしく近寄ってくる。
「よお、ダンジョン攻略は順調らしいな」
「ああ、なんでここに?」
「ギルドの依頼に決まってるだろ?
しかし、来てみたらユウキのチームがすでに探索を終えてて、先に行くには神殿の解錠を待たなきゃいけないって話じゃないか。
まあ、すでに解錠の準備ができたようだから急いで来てよかったけどな」
「ああ、俺らも準備ができたって言われて急いで戻ってきたんだ」
「ユウキ達は、転送の魔法陣を使わせてもらってるらしいな。
いいよな、優遇されてるやつは」
「なんかすまん」
そうか、バルパス達は街道を通って来たから到着が遅れたのか。
「ハハハ、冗談に決まってるだろ。
俺達もダンジョンの確認がてら神殿の入口まで行ってみたけど、あれはすごいな。
お宝がワンサカ有ること間違い無しだぜ。
今頃、他のチームも急いでこっちに来てるんじゃないか?
俺たちは先に来といてラッキーだった」
「他の冒険者はいないのか?」
「ああ、黒騎士の連中も来てるぜ。
どうやら、お前に対抗心を燃やしているみたいだな」
視線の先を見ると、前に酒場で因縁をつけてきた黒い鎧を着た男が立っていた。
黒騎士チームと言っても、黒いのはリーダーだけで、他のメンバーは至って普通の格好だ。
様子を見ていると、ジョゼットが不審そうに話しかけてきた。
「それよりさ~。
ちょっと気になってるんだけど。
なんで、風の射手のリーダーがユウキと一緒にいるのよ?
風の射手はダンジョン専門外でしょ?」
ジョゼットは挑発的な態度をとっているが、クラリーヌは涼しい顔で受け流す。
「ユウキみたいなルーキーじゃダンジョン攻略は荷が重いだろうと思って、手伝ってあげてるの」
「それなら、あたし達が来たから大丈夫よ。
ドラゴンファングはダンジョン攻略が得意なんだから」
弾かれるようにクラリーヌが俺の腕に抱きつくと逆に挑発的に言い返した。
「そうは行かないわ。だって、アタシはユウキと付き合うことになったんだから」
「は?」
ジョゼットを含めて、ドラゴンファングのメンバーが驚いた顔をしている。
そりゃそうだ。
「本当なの?」
「まあ、本当だ」
「なんだろう? すっごく負けた気分だわ」
ジョゼットががっくりと肩を落とす。
一方のクラリーヌは勝ち誇った表情だ。
「まあ、なんだかよくわからないが、おめでとうと言っておこう」
バルパス達も状況がうまく飲み込めないらしく、目を白黒させてようやく声を出した。
その、妙な空気を散らす様に、黒騎士のリーダーが話しかけてきた
「ダンジョンの探索はお前たちが、やったようだな。
だが、神殿のお宝は俺達がいただく」
威圧するように仁王立ちしている。
その後ろから背の低い男がひょこっと顔を出して小声で話しかけてきた。
「ごめんねー。ボードウィンって気難しいけど悪いやつじゃないからさ、許してね」
装備からして盗賊か?
人懐っこい顔をしているが気をつけたほうがいいのかな?
っていうか黒騎士のリーダーってボードウィンって名前だったのか。
「そうそう、いつも無愛想だけどちゃんと他の冒険者を気遣ういいやつだから」
今度は、背の高いイケメンの男がキザったらしく長い髪をかきあげながら前に出てきた。
長剣を二本クロスするように背中に背負っている。
「私は華麗なる剣士のセッツァー。以後お見知りおきを」
俺を無視して、フィーナに挨拶するんじゃない。
そんな大げさな挨拶、映画かドラマでしか見たことないぞ。
それに、フィーナに色目を使うのをやめてもらおうか。
まあ、俺の背中に隠れちゃったけど。
「オイラを置いて名乗らないでよ。
オイラの名前はジュリアンだよ。
よろしくね」
「おい、お前たち。
ライバルと馴れ馴れしくするんじゃない」
ボードウィンが二人の襟を掴み後ろに引っ張る。
「ライバル認定とは高く評価したものですね。
まあ、ドラゴンをほとんど一人で倒したという噂ですから当然ですが」
灰色のローブの男が、メガネを人差し指でクイッてしている。
いかにも、勝率何パーセントとか言いそうな細身のインテリだ。
多分、魔法使いだろうな。
俺のことを珍獣かのように観察している。
「こらこら、そんなに見たら失礼ですよ。
まあ、調べたくなる気持ちはわかりますけどね。
私は僧侶のニルデン。
で、この魔法使いがアーリン、攻撃系の魔法が得意です。
後ろの大きいのが、アーマーナイトのガイです。頼りになりますが無口なのが玉にキズでね」
欧風の神官のローブを着た男がにこやかに話しかけてきた。
そして、後ろで無愛想に立っているガイと呼ばれた男は2メートルをゆうに超えた大男だ。
マッシュに劣らず分厚い鎧を着ていて、背中には大鉈とも思えるような巨大な片刃の剣をつけている。
「お前たちも勝手にチームの情報を漏らすんじゃない」
ボードウィンが腕を組んで不満気に声を上げる。
「まあまあ、良いじゃないですか?
これから、一緒に冒険するのですから仲間みたいなものですよ」
「確かにそうだかな」
納得している。
結構いいやつなのかもしれない。
「ええ、そうですね。
これから危険な場所に行くのですから仲良くしましょう」
と、同意しておこう。
その時、ピエールからの呼びかけが来た。
「みなさん、もうそろそろ出発いたしやすよ」
そこには、ピエールとマッシュの他に、紫のローブを着た男が三人立っていた。
俺達が集まると、彼らが鍵の封印を解く魔法院の魔法使いだと紹介された。
そして、隊列を組んで神殿の入口まで行く。
「さて、魔法院の方々、よろしくお願いしやす」
紫のローブを着た男たちが扉を調べ始めた。
「かなり強力な封印ですね。
でも、古い封印なのでなんとかなりそうです」
魔法使いたちは地面に円形の魔法陣を描くと中心にこぶし大の魔法石を置く。
さらに小さな魔法石を魔法陣の外側に等間隔に置いていく。
青だから変性魔法だな。
「これから扉の封印を解きます。
神殿内の魔物が外に出ないように、封印の魔力を、そのまま結界に利用するので、モンスターが逃げる心配は有りません」
「そんなことできるのか?」
リゼットに小声で聞く。
「あたしも初めて聞いたわ、魔法院の研究の成果なのかしら?」
魔法使いは続けて説明する。
「結界は合言葉を言う事で通れるようにしておきます。
合言葉は、『我の通行を許可せよ、アンテ』です。
忘れないようにして下さい」
三人の魔法使いは魔法陣を囲むように立つと、魔力を流し込んでいく。
扉が青く発光し、その光が魔法陣に力強い力を与えていく。
そして、魔法陣から立ち上るように青い光のガラスのような結界が発生した。
魔法使いたちは、疲れたのか肩で息をしている。
「術式は終わりました。
これで、扉は開くはずです。
結界はさっき伝えた合言葉で通れます」
試しに、青いガラスのような光に触ってみると、ほんのりと温かい壁があった。
「ありがとうございやす。
魔法使いの方はあっちが護衛しやすのでここで待っていてくだせえ。
では、冒険者の方々は入り口の調査をお願いしやす」
そう言われると、黒騎士ボードウィンがすぐに前に出てくる。
「わかった、俺が扉を開こう」
どうやら手柄が欲しいみたいだな。
まあ、別に構わないか、危険が減るなら嬉しいし。
「我の通行を許可せよ、アンテ」
ボードウィンと仲間達は、合言葉を言い結界を通ると扉の前に立つ。
「よし、開けるぞ」
ボードウィンが触れると、巨大な扉はひとりでに内側に開いていった。