ドラゴン族の英雄(中編)
「この分じゃ、剣神レナルヴェも大したことなさそうだな」
ゼノアは、担いでいた剣をまっすぐにレナルヴェに向けると、あからさまに挑発する。
「おお怖い怖い、倒されないように気をつけないとな」
とても怖がってるように見えないにやけ顔で、向けられた剣を手ではらう。
「それより、デーモンロードを倒したやつを探してるんだろ?
ちょうど目の前にいるぞ?」
「なに! この殺気の欠片もない気の抜けた男がデーモンスレイヤーだと言うのか?」
「そうだ。ユウキは、わたしなんかよりずっと強い」
ジョジゼルが、苦痛に呻きながら呟く。
勝てたのは、最初の一回だけだけどな。
「なら、こいつと戦いたい。構わないだろう?」
ゼノアは、レナルヴェに向かって問いかける。
俺は構うのだが。
それに、人の事をこいつ呼ばわりするのをやめてもらおうか。
「その前に確認したい。こいつは、魔法も使えるが使っても構わないだろうな?」
俺は構うのだが。
それに、人の事をこいつ呼ばわりするのをやめてもらおうか。
「もちろんだ。
戦いというものは技術をすべて尽くしてこそ意味がある。
なんだったらだまし討したって構わないぞ?」
ゼノアは俺に強い殺気を向けてきた。
こわっ、ゼノアこわっ。
そして、俺は構うのだが。
レナルヴェは、俺の事など全く無視して、大きな声で中庭にいる全員に言う。
「これから、さっきとは比べ物にならないほど派手な戦いが始まる。
訓練生は全員壁際に張り付いて少しも気を抜くな!
ヘタしたら流れ弾にあたって死ぬぞ。
それから、こんな戦いはめったに見られない。
しっかりと目に焼き付けておけよ!」
おいおい。
そんな壮絶な戦いが始まるのか?
壁際に後退する訓練生とは逆に、フィーナ達が小走りに近寄ってきた。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ぜんぜん、大丈夫じゃない」
「でしょうね。こんな意味のない戦いをする必要ないわよ」
珍しくリゼットがご立腹だ。
「まあ、せっかくの機会だし胸を借りるつもりで戦ってみよう。
レナルヴェの言いようじゃないが、英雄と戦えるチャンスなんてめったに無いだろうしな」
「ご主人様、ごまかさなくてもいいにゃ」
「そうね。大方、ジョジゼルの仇を取ろうとか考えてるんでしょ?
じゃなかったら、ご主人様が意味のない戦いをするはずないもの」
「そうにゃ、ご主人様なら無駄な戦いはしないにゃ。
笑いものにされても逃げるに決まってるにゃ」
最近は、リゼットだけじゃなくティアにも見透かされてるな。
「すまない……わたしのために」
ジョジゼルは涙目になって俺を見つめた。
だから、言いたくなかったのに。
「あまり気にするな。
さっき言ったことも半分は本音だからな。
さっ、危険だから下がっていてくれ」
「ご主人様、頑張ってください」
フィーナ達は、ジョゼットに肩を貸すと壁際に下がっていった。
さてと……。
ちらりと、レナルヴェに目線をむける。
腕を組んでいつものニヤケ顔で見守っていた。
いや、いつも以上に楽しそうに見える。
大方、この状況を利用して俺の実力を見極めようって事なんだろうな。
領主カシードといい剣神レナルヴェといい、どうもおっさんたちにいいように扱われているな。
これじゃ、クラリーヌの言ったとおりだ。
まあ、おそらくは俺にもなんかしらの特があることなんだと思うが。
なかったら、無理矢理にでも請求してやる。
「おい、いつまで待たせるんだ!」
ゼノアは、イライラした様子で俺を睨んできた。
いつの間にか少し距離をおいた場所に立っている。
「わかったわかった、早速始めようか」
アイアンアーマーの魔法を自分にかける。
さっき、不意打ちしてもいいって言ってたからな、好きなだけ魔法を使わせてもらおう。
「なんだ? 魔法が使えると言ってたから期待したが、初級の付与魔法じゃないか。
そんなのなら、ドラゴン族の戦士で使える奴はいくらでもいるぞ?」
侮っているのか、肩に担いだ大剣をポンポンと動かしながら見守っている。
構わずに、アイアンアーム、アイアンブーツ、マジックウエポンを順々にかけて行く。
「おーい、もういいか?」
ゼノアはつまらなそうに問いかける。
油断しているなら好き勝手させてもらおう。
スケルトンゴーレムを唱えると、俺の前に三体の巨大な骨のゴーレムが現れた。
「なんだ? そんな格好をしているから、てっきり剣士だと思ったがサモナーだったのか?
だが、魔法使いなら近寄ってしまえば余裕だ」
ゼノアは鼻で笑うと、俺目掛けて一直線にダッシュしてきた。
俺は、距離を取るためにバックステップをしながら、更にファイアーリザードを召喚する。
ゼノアは全く気にかけた様子もなく最短距離で俺に向かってきた。
更にコリを取りながら、マジックアローを叩き込む。
「付与魔法と、召喚魔法だけじゃなく破壊魔法も使えるのか!?」
さすがに驚いたようだが、それでも冷静さを欠くことなく大剣でガードしながら突っ込んでくる。
十本の光の矢はの幾つかは当たったが、大したダメージは与えていない。
「魔法の腕はなかなかの様だが俺の敵ではないな」
ゼノアは俺に肉薄すると、素早い剣撃を叩き込んできた。
辛うじて剣で受け止める。
「なんだと!?」
ゼノアは驚きながらも、正確に剣を打ち込んできた。
俺はギリギリながらも剣を打ち合わせる。
「これならどうだ!!」
大振りな一撃が繰り出される。
が、パリィで剣を大きく弾く。
確かに鋭い一撃だったが、ジョジゼルとの特訓のおかげでなんとか見切ることが出来る。
「バカな、魔法の腕だけじゃなく剣の腕も高いのか!?」
驚いて俺から距離をとるが、そこにはアイアンゴーレムと、ファイアーリザードが待ち構えていた。
しかし、ゴーレムの巨大なシミターとリザードのファイアーブレスを器用にかわしながら、再度突っ込んでくる。
ライトニング・ボルトをお見舞いしてやる!
青い雷光が一直線に走ると、まっすぐに向かってくるゼノアを貫通しながら中庭の壁まで到達する。
近くに訓練生がいたが上手く避けたようだ。
さすがに、ライトニング・ボルトは効いたか、少し速度が落ちる。
その次の瞬間、無数の斬撃が俺を襲う。
あまりの速さにガードが間に合わず何度も衝撃を受けながら後ろに吹き飛ばされた。
「どうだ? 効いただろ?」
ゼノアは得意気に言うが、ライトニング・ボルトのダメージが残っていたらしく技を打った後に地面に膝をつく。
「結構なダメージは貰ったが、お前も龍星光牙剣を食らえばただでは済まないはずだ」
確かに、すごいダメージだった。
ライトニング・ボルトを食らわせて無かったらやられてたかもしれない。
しかし、俺にはヒーリングがある。
ゼノアがダメージで動きが止まっている隙に、自分にヒーリングをかける。
「はっ! そんなダメージなんて俺には効かない」
ハッタリを効かせるためにわざと強気な態度で立ち上がった。
「バカな! 回復魔法まで使いこなすのか!!」
ゼノアは体をふらつかせながらも辛うじて立ち上がる。
と、突然大きな声で笑い出した。
「ハハハハハ!
さすがはデーモンロードを倒した男だ!
なんという規格外!
こんな楽しい戦いは初めてだ!!
だが貴様は俺には勝てない!!!」
ゼノアは三度目の突撃を仕掛けてくる。
しかし、ダメージのせいか先程に比べスピードはずいぶん遅い。
俺は、止めとばかりにライトニング・ボルトを放った。
その瞬間、ゼノアの体が赤い光を発し、異常な速度でライトニング・ボルトをかわすと、龍星光牙剣を繰り出してきた。
先ほどと同じ技であることは間違いないはずだった。
しかし、その威力、回数、スピード共に先ほどを大きく上回っていた。
俺は防御することも出来ずに、そのまま崩れ落ちた。