ドラゴン族の英雄(前編)
「ねぇ、ほんとにするの?」
「いつもしてますよ?」
「ご主人様起きちゃうわよ」
近くで聞こえる小声の会話で目が覚めた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
いつも通り、フィーナがおはようのキスをくれる。
「ほんとにした」
クラリーヌが驚きの表情で呟いている。
口を両手で覆っているが、顔は真っ赤だ。
「おはよう」
「おはよう」
今度はリゼットがちょこんと、触れるか触れないかのキスをしてきた。
「わっ、リゼットまで」
「じっと、見られてると恥ずかしいわね」
クラリーヌは、顔を赤くしてキャーっと騒いでいる。
彼女の反応は新鮮で楽しいが、少しは慣れて欲しい。
「おはようにゃ~」
「おはよう」
ティアは、まったく気にせず濃密なキスをして来た。
「うわ、あんなに舌をからめてる」
顔を両手で覆っているが、指の間からガン見している。
実況されると、さすがに恥ずかしくなってきた。
「ご主人様、名前呼んでにゃ」
ティアは、唇を離すと上目使いでねだってきた。
「好きだよ、ティア」
「にゅふふふふ」
にまにまと笑みを浮かべると、胸に顔を擦り付けてくる。
「ティア?」
リゼットが不思議そうに首をかしげる。
「ああ、そう呼んで欲しいと言われてな」
「みんなもティアって呼んでいいにゃー」
「あー、そうだ!」
クラリーヌが突然、大声をあげる。
「どうしたんだ?」
「アタシは、絶対ユウキの事ご主人様って呼ばないからね!」
「お、おう。俺は別に構わないけど……」
クラリーヌは俺のあっさりとした返答に狼狽える。
「え? アンタが呼ばしてるんじゃないの?」
「俺はそう思われてるのか……。
この際だから言っておくが、俺はフィーナ達にご主人様と呼ぶなって言ったこともあるし、使用人とかメイドとか所有物とか、そんな風には考えてないって言ったこともある」
「じゃあ、何なのよ?」
「こっ、恋人だ」
なんか、真面目に言うとすごく恥ずかしい。
三人も顔を赤らめている。
「なら、朝のキスも好きでしているの?」
皆がうなずく。
まあ、初めはフィーナに、お願いしたんだけど。
「わかったわ。じゃあ、キスしていいわよ」
クラリーヌは、真っ赤な顔で目をつぶった。
あれ?
俺がキスするのか?
でも、それ聞くと怒りそうだな……。
まあいいか。
黙ってクラリーヌに軽いキスをした。
「それだけ?」
「不満なのか?」
「その、ティアみたいなキスしてもいいわよ……。うん、許してあげる」
許してあげるなんて言っているが、して欲しいだけじゃないのか?
と思ったんだが、言うと怒りそうなので、やっぱり黙っている。
もう一度、キスをすると舌をからめる。
クラリーヌは、たどたどしくぎこちない動きで、舌を動かす。
緊張が少し解けたのを確認すると、激しく口の中をねぶる。
クラリーヌは、ビックリして口を離そうとするが、頭をつかんで逃がさない。
俺の肩を強くつかんで、んーっと唸るが構わず続けると、軽い痙攣をしてガクンと崩れ落ちた。
倒れないように体を支える。
「だっ、だれがそこまでして良いって言ったのよ~」
クラリーヌは、涙目で息を整えながら抗議の声をあげる。
「すまん、ちょっとやり過ぎたかな」
軽いお仕置きのつもりでだったか、クラリーヌには刺激が強すぎたらしい。
クラリーヌをベッドに寝かせると、フィーナが羨ましそうに声をあげる。
「クラリーヌだけずるいです。私も……激しく……してほしいです」
「そうよ!えこひいきはいけないわ」
「にゃーも!」
三人とも恥ずかしそうにしながらも、期待の込めた目を向けてくる。
結局、三人にも激しいキスをするはめになった。
まあ、嬉しいからいいけど。
……
……
クラリーヌは、風の射手のメンバーに報告するために、自分の家に戻ることになった。
「たぶん、向こうの家に泊まると思うわ。
みんなに、根掘り葉掘り聞かれそうなのよね」
クラリーヌは、ゲンナリしながらも嬉しそうに帰っていった。
そして、俺達も中間報告するために、剣の訓練場に向かう。
訓練場に着くと、中庭の稽古場からざわめきが聞こえてきた。
不思議に思い中庭に行くと、ジョジゼルが吹き飛ばされて、仰向けに倒れる瞬間が目に入ってきた。
さらに、黒い影が倒れた彼女に襲いかかる。
え!?
ジョジゼルがやられてるのか?
しかも、更に追撃するみたいだしヤバくね?
すぐに剣を抜くと、急いで襲撃者の間に割って入る。
「大丈夫か?」
「……ユウキじゃないか。無様なところを見られたな」
どうやら大した怪我ではないようだ。
「ふん、剣神の弟子だと聞いたから期待していたが、とんだ見当違いだ」
見ると、大柄だが中性的な顔の男が立っていた。
大きな剣を携え、綺麗に磨かれた赤く分厚い鎧を着ている。
そいつは、長い銀髪をバサリと手で払うと俺を睨む。
「なんだ、お前は? 勝負の邪魔をする気か?」
「もう決着はついただろ。女を執拗に攻撃するなんて男のやることじゃないぞ」
「勝負に男も女も関係あるのか?
それに、勘違いしているようだが俺は女だ」
中性的なイケメンかと思ったら女だったのか。
よく見ると分厚いと思った鎧も胸の形に膨らんでいるな。
それにしても、女にしては腕も足もすごい筋肉だ。
「まあ、だからといって男に助けられるような腑抜けではないがな」
ジョジゼルは、蔑んだような目で見つめられて、悔しそうに地面を叩く。
「くそっ」
「いやー、噂のドラゴン族の英雄ゼノアがどれほど強いかと思ったが、想像以上だな」
レナルヴェが乾いた拍手をしながら、いつものにやけ顔で楽しそうに近づいてきた。
おいおい今度は英雄のご登場かよ?