国境沿いのダンジョンB2F(後編)
地下一階は、何度か敵に出くわしたが、問題なく撃退。
二回目ともなると緊張もほぐれ短い時間で地下二階につくことができた。
地下二階の入り口近くの広場で休憩を取る。
「しかし、警戒するのもつかれるな」
楽だったとは言え、索敵に慣れてない俺はいつもの冒険以上に疲弊していた。
「フィーナの凄さが改めてわかったよ」
「そんなことないです」
フィーナが頬を赤くして照れる。
「そうよ、感謝しなさい」
クラリーヌが腰に手をやり、胸をはって偉そうにしている。
意味不明である。
「なんで、お前に感謝しないといけないんだよ」
クラリーヌは、ワザとらしく大きくため息を付く。
「はー、アンタそんなこともわからないのね。
ユウキが頼りないから、アタシも一緒に警戒してあげてるの!
みんなわかってると思うわよ」
「え? マジか!? みんな知ってたのか?」
フィーナと、リゼットが言いにくそうに短く返事をする。
ティアーヌは不思議そうな顔をしているので、わかってなかった様だ。
少し安心した。
「ね? 前に注意を払いながら後ろを警戒するのってけっこう大変なのよ」
肩を回したり叩いたりして、疲れた感をアピールしている。
「くそ、なんか悔しいな。
フィーナ、警戒の仕方を教えてくれ」
「アタシが教えてあげてもいいわよ?」
「いや、フィーナに教えてもらう」
にやにやとしているクラリーヌに教えてもらうのは腹が立つから、フィーナに教えてもらおう。
が、それは失敗だった。
すっかり忘れてたが、フィーナは、変なスイッチが入ると急に鬼教官になるんだった。
休憩の間中、罵られながら警戒の仕方を教わることになってしまった。
休憩も終わり本格的な探索が始まるため、みんなが意識を高める。
そして、ピエールを先頭に地下二階に入っていった。
地下二階の攻略は地味だった
モンスターは地下一階よりは数が多く、多少強いものの、連携の取れた俺達のパーティーの前では為す術がなかった。
実際、メンバー個々の強さを考えれば、ピエールを除けば一人でも対処できるレベルだった。
罠なんてものもあるわけではないし、危険な通路も存在しなかった。
ただ、通路は地下一階以上に複雑になっており、意味のない脇道が無数に存在し、マップ無しでは地上に出れるか心配な程だ。
しかし、それでも、虱潰しに探索することで、地下三階への道が見つかった。
「この先の通路は、より深くなってるようでやんす。
ここから先は地下三階でやんすね」
「そうか、まだ二階は全部行ってないと思うが、どうだ?」
行き止まりだらけの脇道をひたすら探索したが、まだまだ行ってない通路はあったはずだ。
RPGのように都合よく行き止まりに宝箱などあるはずもなく、ひたすら何もない行き止まりにうんざりする。
「大体、半分といったとこでやすな」
「やはり、マップは完成させなきゃダメだよな?」
「そうでやんす。ダンジョンの調査が目的でやすので、マップを完成させたいでやすね」
「ここで一旦休憩したあと、地下二階のマップを完成させよう。
みんなコンディションは大丈夫だな?」
「ええ、もちろん! まだまだ大丈夫よ」
クラリーヌが細い腕に、力こぶを作ってアピールする。
他のメンバーも体力はあるようだ。
休憩後、更にダンジョンを探索した。
探索は相変わらず堅調で、モンスターも危なげなく撃破しつつ、確実にマップを埋めていった。
「これで、最後の道でやすね」
行き止まりを目の前にして、ピエールがやれやれと一息ついた。
「うす! ご苦労さまです」
そのピエールを、マッシュが労う。
「みんな、お疲れ様。とりあえず地下二階は何事も無く踏破できた。
今日はこれまででいいだろう」
警戒しながらも地上に出ると、まだ昼過ぎだった。
砦に戻ると、ピエールとマッシュは報告に事務所に戻り、俺達は行くところもないので、食堂でくつろいだ。
「結構早くに終わったな」
「ええ、いい調子ね。ただ、深くなるほどダンジョンも広くなるし、敵も強くなると思うから今はこれぐらいがいいわ」
クラリーヌは、手に持ったお酒を一口飲むとぷはっといきを吐いた。
「まさか、砦にお酒があるとは思わなかったわね」
「ああ、そうだな。こんな場所じゃお酒ぐらいしか楽しみがないんじゃないか?」
「三人も飲めばいいのに」
クラリーヌは、つまんなそうにフィーナ達を見る。
お酒を飲んでるのは、クラリーヌと俺だけだった。
フィーナはお酒に弱いし、リゼットは醜態を晒してから酒を飲みたがらない。
ティアーヌは、お酒よりもジュースのほうがいいようだ。
「あたし達はいいわ。二人で楽しんで」
「しかし、アンタ達本当にユウキが好きなのね」
クラリーヌがテーブルに肘をついて、呆れたようにフィーアとティアーヌを見る。
それもそのはず、俺の左右に座っている二人は俺に腕を絡ませてベッタリとひっついていた。
リゼットは流石に遠慮してクラリーヌの隣にいるが、どこか寂しげというか、我慢しているように見える。
「二人共、今日は一体どうしたんだ?」
「内緒です」
「内緒にゃ」
フィーナとティアーヌは俺を挟んで声を合わせると、笑顔で「ね~」と意気投合していた。
「まあ、良いけどね。
まったく、アタシが良いって言ったからって、少しは遠慮してよね……」
クラリーヌは諦めたようにつぶやくと、酒を煽った。
どうやら、昨日の夜にクラリーヌと仲良くなることで、遠慮がなくなったようだ。
冒険中に、クラリーヌと楽しげに話をしてたのは良い事だ。
俺に対しても遠慮がなくなったのは、ちょっと周りの目が気になる。
ただでさえ、男ばかりの砦で、美少女だらけのパーティーは嫌でも目につく。
それなのに、彼女たちとイチャイチャしてたら殺意の眼差しを受けることだろう。
実際、食堂にいる料理担当と休憩中の兵士からすごい視線を感じる。
……
……
その夜、三人とスキンシップを終えた後ベッドの上でゆっくりとしていると、リゼットが遠慮がちに話しかけてきた。
「ご主人様に、こんなこと言い難いのだけど……」
「どうした? 気にせず言ってくれ」
「ご主人様と愛し合ってること。クラリーヌに言ってはダメなのかしら?」
はっきり聞かれると困る。
確かに隠す理由はない。
自分から『リゼット達とエッチなことしてます』何て言うのは明らかに変だ。
あまつさえ、いたしている現場を見られるなんてもっての他だ。
だから、特別自分から言わないようにしていた。
しかし、彼女たちと愛し合ってる――エッチな意味ではない――のは隠す必要は何もない。
困るとしたら、変な噂を立てられる事ぐらいだ。
逆に隠しておくことで、リゼット達を不安にさせてるんじゃないか?
『私達は、ご主人様が隠しておきたいほど、恥ずかしい存在』なんじゃないかと……。
「何でそんなことを聞くんだ?」
リゼットは遠慮がちに答える。
「人に聞かれた時どう答えるか迷うんです。
それに、クラリーヌには、マッサージをしてるなんて言ってるけど、嘘をついてるみたいで……」
そうだ。
彼女たちは、クラリーヌと一緒の部屋にいるんだ。
仲良くなったみたいだし、女の子同士の会話もあるかもしれない。
そこで、隠さないといけないのは、さぞ気分が悪いだろう。
別に隠す必要はないんだから、この際おおっぴらにしてもいいかもしれない。
リゼット達にやな思いをさせるぐらいなら多少噂になったところで我慢できる。
「わかった。なんとなく隠してたけど、別に何も問題は無いんだから言っても……」
そこまで、言って急に不安になった。
頭によぎったのは、クラリーヌが泣いている情景だった。
俺はよほどひどい顔をしたんだろう。
リゼットが、焦った様子で言ってきた。
「嫌なら無理に言わなくても大丈夫です!
変なことを言ってごめんなさい!」
リゼットの顔はとても心配しているようだった。
それを見て思う、クラリーヌとリゼット達、どっちが大事か?
もちろん、リゼット達だ。
俺に、ここまで尽くしてくれる彼女たちを裏切るなんて出来るわけがない。
でも、気づいてしまった。
クラリーヌに対しての気持ちを……。
「ごめん。言うのはいいんだ。不安にさせちゃったな。
ただ、気になるんだけど、今話してダンジョン攻略に影響は出ないかな?」
自分で言っていて情けなくなる。
これは、言い訳で、ただ先延ばしにしたいだけだ。
しかし、リゼットは、珍しくハッとした顔をした。
「あたしとしたことが、自分の事しか考えてなかったわ。
そうね。ショックを受けて冒険に出れなくなるかもしれない。
わかったわ。言うタイミングについてはご主人様に任せます。
あたしのお願いを聞いてくれて、ありがとう」
「ああ、タイミングがあったら言うよ、心配かけてすまなかったな」
無理やり笑顔を作っていたが、フィーナ、リゼット、ティアーヌ、クラリーヌ。
彼女たち四人の事が頭をグルグルしていた。