国境沿いのダンジョンB2F(前編)
夢うつつの中で、唇に何かが触れる感触。
はじめは、ふんわりとして瑞々しい感じ。
しばらく間が空いて、小さめでしっとりとした感触。
三度目は、ぽってりとしていて吸い付くような感じだった。
不思議に思いながらも、だんだんと意識が覚醒する。
目が覚めると、ベッドの横には三人の美少女が立っていた。
「ひょっとして、俺が寝ている間にキスした?」
聞くと、フィーナが恥ずかしそうにうつむいた。
「わかっちゃいましたか?」
「ご主人様がいつまでも起きないからいけないのよ」
リゼットが照れながらも、強気な態度。
「いい感触だったにゃー」
ティアーヌは、満足気な表情で夢想状態だ。
「眠りを妨げなければ、別に構わないけどな」
ちょっと冷たい感じに言ってしまったが嬉しい。
恥ずかしいから態度にはださないけど。
「寝てる間のはおはようのキスにはならないぞ。もう一回だ」
喜んでいるのを悟りないように、わざと命令するように言う。
「もちろんです」
フィーナは元気に答えると、早速とばかりに身を寄せてくる。
貴族用のベッドのため、とても大きく4人が入っても十分な広さがあるほどだった。
俺は手を取ると、ベッドの上に引き上げた。
そして、体を抱き寄せる。
「おはようございます」
「おはよう」
フィーナが唇を合わせてくる。
受け入れると逃がさないようにきつく抱き締めた。
そうして、しばらく抱き合ってると、俺の服の裾がクイクイと引っ張られる。
リゼットがベッドに半身を乗せて、切なそうな顔で見上げていた。
俺は、その手を掴むとフィーナと同じ様に引き寄せる。
そして、フィーナから唇を離すと、リゼットにキスする。
そのまま抱き締めようとすると、リゼットは両手を俺の胸に添えて体ごと唇を引き離す。
何か嫌なことがあったのかとリゼットの表情を伺うと、困った顔をしていた。
「まだ、朝の挨拶をしてないわよ」
「誘ったのはそっちだろ?」
「そうだけど……。きちんとしたい……」
「わかったよ」
俺が頭を掻きながらもうなずくと、照れながら挨拶をしてきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
リゼットが首に手を回しながら優しくキスをしてきた。
受け入れると同じ様に背中に手を回して抱き締める。
しばらく静かな部屋に唇を会わせる音だけが響く。
すると、今度は既にベッドの上に上がっていたティアーヌが服を引っ張る。
頬を膨らまして恨めしそうに睨んでいた。
名残惜しいが、リゼットから唇を離すと、奪い取るようにキスしてくる。
「もう! ティアーヌったら、キチンと挨拶なさい」
怒っているのではなく、『仕方ない子』といった感じでリゼットが言うと、ティアーヌが唇をはなして、ペロリと舌を出す。
「ごめんなさーい。おはようございますにゃ」
言い終わると、すぐにキスしてくる。
「まったく……」
リゼットは不満のようだが、気にせず続ける。
さらに、片手でお尻をなで回しながら、逆の手で胸を揉みしだいた。
ティアーヌは、より強く唇を押し付けて来て、切なげに鼻息を荒くする。
「あー、ティアーヌいいなー」
フィーナが、お菓子をねだる子供のような声をあげた。
その声に反応して唇を離すと、ティアーヌは甘えたように胸元に顔を擦り付けてきた。
その頭を撫でながら話す。
「安心しろ、この後たっぷりと可愛がってあげるから、今日はフィーナの番だろ?」
毎朝、一人を相手にしていたが、今日はフィーナの番だったはずだ。
昨日は、クラリーヌが家に来てたから出来なかったが、この部屋ならバレることは無いだろう。
フィーナが、胸元で手を組んで喜ぶと、またしてもリゼットが遠慮がちに俺の服をクイクイと引っ張る。
「あ、あたしとティアーヌもダメかしら?」
「俺はいいがクラリーヌが変に思わないかな?
それに、時間も心配だ」
「クラリーヌは、昨日の夜に話し合って解ってもらったわ」
「え? ひょっとして話したのか?」
「そうじゃないの。
ただ、あたし達がご主人様のお世話に時間をかけてるってことは理解してもらえたの。
それに、今日は早めに起きたから時間も大丈夫よ」
だから、寝ているうちにキスしてきたのか。
「わかった。フィーナはいいのか?」
「はい、二人にもしてあげてください」
「しかし、急にどうしたんだ?
まさか、クラリーヌと喧嘩した訳じゃないよな?」
心配になり聞いてみると、リゼットが大きく頭をふった。
「違うの、クラリーヌはいい人よ。
ただ、あたし達が少し寂しくなっただけ……」
「本当になんでもないんだな?」
彼女たちが俺に隠し事をするとは思えなかったが、念のため少しきつい口調で問いかける。
三人は真剣な表情で頷いた。
「なら、何も問題はないな。
昨日は出来なかったし、俺もゆっくりとしたい気分だったから丁度良かった」
三人を不安にさせないように、少し大袈裟におどけて答えた。
「ありがとう……」
リゼットが小声で囁いた。
俺は、リゼットの頭を軽く撫でると、フィーナを引き寄せようとした。
「リゼットが最初がいいとおもうにゃ」
ティアーヌの発言とも思えない言葉に驚き、フィーナを見る。
「私もそれがいいと思います」
リゼットも驚いた表情をしている。
俺は二人の言うとおりにリゼットを抱き寄せた。
「ごめんね。一番年上でしっかりしなくちゃいけないのに……」
俺は、不安にならないように強くしっかりと抱き締めた。
……
……
日の出頃に、砦の中庭に集まり、日が登る前にはダンジョンの入り口についていた。
リーダーとしてしっかりとするように気持ちを引き締める。
「昨日は様子見をしたけど、本格的な探索を進めたいと思う。
目標を確認したいんだけど、今日は地下二階の探索でいいよな?」
みんなが了承の声を上げる。
「探索時の先導や判断はピエール、戦闘の指揮はクラリーヌがとってほしい」
「わかりやした」
「任せて!」
「探索中の索敵や罠の解除はピエールとフィーナが協力して行うこと。
緊急な事態の判断は各々でしてくれ、ただ最終的な判断は俺が行う。
マッシュは何かあったら前に出て、他のメンバーを逃がすための盾となってくれ。
ただし、殿は俺が行う。
問題ないな?」
全員に目線を送りながら確認する。
「殿は私がやります」
フィーナが強い決意で言ってきた。
「だめだ。
俺のほうが体力、防御力ともに高いし、自分で回復もできる。
生存する可能性が明らかに俺のほうが高い」
「そうね。あたしとしてもご主人様には安全でいてほしいけど、言っていることは正論だわ」
リゼットに言われてフィーナはおずおずとだが引き下がる。
フィーナは不満顔でリゼットを見ていたが、リゼットがコソッと耳打ちすると、フィーナは納得したようだった。
「では、ダンジョン攻略を始める」
俺の声を合図に、皆が昨日と同じ隊列を作りピエールが慎重に洞窟に入っていく。