┗外伝:クラリーヌとメイドたち(Bパターン)
今回は試しに、同じ話を2パターンで投稿しています。
Aパターンは、今までと同じライトノベル的な短めで読みやすい書き方。
Bパターン(この話)は、通常の小説のように一文が長めで詳しい描写をした書き方。
お好きな方(もしくは両方)を読んで下さい。
なお、今回は試しに書いただけですので、今後も今までどおりの書き方を続けていくつもりです。
一人で部屋に戻ったクラリーヌは、自分の装備の整備を終わらせ、体を水で拭いてスッキリした後、体の綺麗さとは裏腹にベッドの上で悶々(もんもん)としていた。
ベッドは、従者用にもかかわらず肌触りがよく柔らかかったが、野宿の地面や、硬いベッドに慣れている彼女にとっては、安らぎを与えるものではなく、不安を与える効果しか無かった。
「あー、もう! あの子たちいつまでユウキの部屋にいるのかしら!」
ドアを少し開けると、いつでも隠れられるように気をつけながら、向かいにあるユウキの部屋のドアを確認する。しばらく眺めていても一向に開く気配はない。彼女は、一時間ほど前から同じことを繰り返していた。
「整備なんてそんなに時間かからないでしょ……」
ベッドに身を投げ出すと、誰に言うでもなく言葉を吐き出して、刺繍の入った高級そうな枕を力なく二度三度叩く。そんな彼女とは真逆に機嫌のいい三人が、和気藹々(わきあいあい)と部屋に入ってきた。
「ずいぶん遅かったじゃない」
枕から顔を上げて言った恨めしげな言葉は、二時間以上も一人で待たされた事を考えれば当然であった。
ユウキは最初、短く終わらせるつもりであったが、冒険による高揚と、戦闘でほとんど活躍できなかったフラストレーションにより元気が有り余っていた。その元気は当然のごとく彼女たちにぶつけられる。むろん、彼女たちにとって迷惑な事ではなく、『新しい地でご主人様とスキンシップ出来ないのではないか?』という、心配を軽く吹き飛ばし、ダンジョン攻略の不安を忘れさせ、さらにはご主人様に対する情愛をより一層募らせるほどだった。
彼女たちが楽しげに話しながら部屋に入ってきたのも、ユウキとのスキンシップのおかげであり、クラリーヌのいるパーティーで、『ご主人様との距離が離れてしまうというのでは無いか?』という不安が杞憂であった事に対する安心感も大きかった。
「こんな遅くまでユウキの部屋で何をしていたの?」
初めの問いかけが、恨めしげな物言いであることに気づいたクラリーヌは、今度はなるべく優しい声になるように、気をつけながら聞いた。それは、彼女たちに当たるのが不当であると考えると共に、エロディットからの忠告を思い出し、彼女たちとはなるべく仲良くしたほうが、ユウキとの距離を縮められるという理性が働いたからであった。
クラリーヌの問いかけに対して、ティアーヌは最初の恨めしげな声など忘れて、脳天気に答える。
「みんなで装備を綺麗にしてたにゃ」
三人とも鎧などの装備品は外しており前に抱えていた。胸の大きなティアーヌは抱えているメイスとリングメイルのせいで、豊満な胸が不自然に押し上げられていた。その姿は、ユウキが見たらさぞ興奮した事であろう。
「それにしたって、時間がかかったわね」
クラリーヌは、なおも自然になるように努めながら素直な疑問をぶつける。
「後は、ご主人様のマッサージをしていました」
フィーナが屈託のない笑顔で答えた。
「そんな事までしてあげてるの?」
「はい! ご主人様を癒やすのが私達の喜びですから」
フィーナの言っているマッサージとは、ご主人様とのエッチな行為の事なのだが、世間とズレている彼女にとって、どちらも気持よくさせるという意味で同じ事だった。純粋すぎる彼女の言葉は、クラリーヌに普通のマッサージをしたのだと信じさせる事に成功した。これが、理知的なリゼットや、欲望の多いティアーヌであれば裏の意味を考えられた所だろう。
「マッサージって、そんなに時間がかかるものなのかしら?」
他人のマッサージなど経験のないクラリーヌには、どれほどの時間がかかるのかなど想像が出来ない。しかし、リゼットは、それだけで二時間以上の時間をかけるのはあまりに不自然だと感じ、あえて自分から説明することにした。
「他には、今後についてどうするか相談もしたわね」
これは、ある意味では間違いではないが、本当の所は、朝のキスと夜のスキンシップは継続して行おうと言う約束をした程度で、その時に砦の兵士やクラリーヌに怪しまれないようにするにはどうしたら良いかという、ユウキ達には死活問題ではあるが、他人から見たら至極くだらない相談事であった。もちろん、彼女たちにとって、夜をご主人様と別のベッドで過ごすことさえも身を切るような寂しさを感じるので、とても重要な事ではあるのだが、客観的に物事を判断するリゼットにとっては、ほとんどウソを言っている様なものだと考え、心のなかではクラリーヌに申し訳ないと思っていた。
「ふーん? あ、ごめん呼び止めちゃったわね。ゆっくりしたら?」
相談については、納得の行く回答ではなかったが、自分の呼び止めによって、彼女たちが部屋の入り口近くで、装備品を抱えて立ち尽くしていることに気づき、休むように促した。
彼女たちは、各々(おのおの)、装備品を置いた後に、ネグリジェに着替えてベッドに寝転ぶ。
「あれ? 体拭かないの? 汗で気持ち悪いでしょ?」
彼女たちは、ユウキの部屋ですでに体を拭いた後だったので、何気なくベッドに身を投げたが、知るはずもないクラリーヌは単純に疑問を口にした。フィーナはあまり気にしておらず、ティアーヌにおいては面倒くさいとまで思っていたが、リゼットは冒険の後に、体を拭かずに寝る様に見えるのは不自然だろうと考え二人に声をかけた。
「そうよね。汗かいちゃったし、フィーナとティアーヌも体を拭きましょう」
実際、ユウキとの夜の激しい運動を終えた彼女たちは汗をかいており、体を拭くことは全くの無駄というわけではなかった。それどころか、いつも以上に激しいご主人様からの責めたてに、息も絶え絶えになっていた彼女たちにとって、健康管理という意味では、ありがたい提案だったろう。
リゼットは、壁際に桶が3つ重なっているのを見つけ床に並べると、ウォータの魔法を使い水を貯め始めた。ティアーヌもそれに習い、魔法で水を注いでいく。
「へえ、二人共、ウォータが使えるんだ。あたしも入れてもらえばよかったわ」
砦には、体を洗うための水場があったが、男しかいないので開放的になっており、クラリーヌがそこで、裸になる事など到底無理で、桶に水をためて、長い廊下をこぼさないように、神経を尖らせながら歩かなければならなかった。
「ええ、ご主人様に教えてもらって最近使えるようになったの」
期間が短かったため、チート能力を持つご主人様ほどジャバジャバと水を出すことはできないが、それでも魔法使いとしての才能があるリゼットはジャーっと水を出せるまでにはなっていた。ティアーヌは、パシャパシャと出す程度しか出来てはいなかったが、これはセンスが無いわけではなく、むしろ普通の人に比べれば遥かに感がよかった。
二人のウォータの魔法により見る間に一つ目の桶に水が貯まる。
「フィーナ、先にどうぞ」
「ありがとう」
見ているだけだったフィーナは、感謝をしながらネグリジェを脱ぐと、桶とともに備え付けられていた体を洗うためのタオルを水につけて体を拭き始めた。
その様子を見ていたクラリーヌは、彼女の裸体を目にして、感嘆のため息をつく。彼女の体は、普段から鍛えられているため引き締まっており、かつ適度につけられた脂肪は、体のメリハリをはっきりさせてた。
ボリュームがあるにも関わらず形よく上を向いている胸と、引き締まりながらもしっかりとした丸みのあるお尻は、キュッと締まった腰をより目立たせていた。元々、健康的な美しさを持ったフィーナであったが、ご主人様と愛しあうことで官能的な美しさが加えられ、より魅力的な体になっていたのだ。
フィーナの体に見とれていると、今度はティアーヌが体を拭き始める。
クラリーヌは、彼女と比べれば自分の方が魅力的だろうと考え、フィーナで失った自信を取り戻そうとしたが、出てきたものに呆気に取られる。それは、暴力的なまでに豊満な胸だった。
元々大きくはあったがご主人様との夜を過ごす度に、それはさらに大きく成長していた。クラリーヌは、ローブの上からでも大きいことは予想できたが、直接見ると想像以上だった。
しかも、ゆったりとしたローブを着ているので、体型もふくよかなのだと考えていたが、その実体はしっかりとした引き締まった肉体だった。もちろん、フィーナに比べれば筋肉も少ないし、脂肪も多いのだが、それでも普通の女性に比べれば遥かに筋肉があり引き締まっていた。その為、適度な脂肪が女性的魅力を引き出しており、大きな胸と相まって非常に誘惑的な雰囲気を醸し出していた。
その体の主がタオルで拭き始めると、大きな胸はユサユサ、プルプルと暴れまわりクラリーヌは唖然とするしかなかった。もし、この場にユウキが居たら歓喜してじっくりと眺めたことだろう。
最後に、ようやく水を入れ終えたリゼットが、服を脱ぎ始めた。
クラリーヌはもう自信を失いたくは無いと考えつつも目を離すことはできなかった。それは、視界に入ってきたのが、透き通るような真っ白くきめ細やかな肌だったからだ。その肌は、ご主人様に誉められたことで、丁寧にケアをするようになり、より美しさを増していた。
長く美しい銀色の髪が体を覆うと、幻想的とも言えるきらめきを放ち、吟遊詩人でもいれば月の国の女神やら、花の世界の妖精だの歯の浮く言葉をいくつも紡いだだろうが、多くの言葉を持たないクラリーヌには、どこかの国のお姫様程度の事しか頭に浮かばなかった。
彼女たちが体を拭き終え、すっきりとした気持ちで再び柔らかなベッドに寝そべると、クラリーヌはようやく我に帰った。
「あなた達って、顔がかわいいのは知ってたけど、体も綺麗なのね……」
まさに、三者三葉の魅力を持つ彼女たちの中で、ユウキは誰が一番好みなんだろうと漠然と考えたが、答えがでるはずもなく直ぐに頭から追い出す。
「やだ、ずっとみてたんですか?」
隣のベッドでくつろいでいたリゼットが、恥ずかしげに返事をする。
リゼットは、あらかじめベッドの場所を決めていた。クラリーヌの隣がリゼットで、フィーナ、ティアーヌの順である。それは、ティアーヌが余計なことを言わないように離れた場所にすると共に、クラリーヌとダンジョン攻略の相談をする為でもあった。そんな思惑とは裏腹に、ベッドの上での初めての会話は、プロポーションの話だった。リゼットには予想外ではあったが、女性ばかりのチームで、話の中心が恋話のクラリーヌにとっては最も自然なことだった。
「あっ、同じチームで寝食を共にするんだから敬語はやめて」
クラリーヌは思い出したかのように言ったが、その顔は真剣だった。リゼットは、同じく真剣な表情で頷くと、すぐに柔らかい雰囲気に戻り話を続けた。
「クラリーヌの方が、よっぽどスタイルが良いじゃない」
普段からフィーナやティアーヌの体と自分の体を比べても、魅力的だと言ってくれるご主人様がいるリゼットにとっては、クラリーヌと違い嫉妬心など微塵もなく、ただ客観的意見をのべたにすぎなかった。
「そうですよ。鍛えられた腕の筋肉とかすごく美しいです」
フィーナが輝きに満ちた目でクラリーヌの二の腕を見つつ、筋肉の話をしたのは、ご主人様に褒められたプロポーションを他人と比較することに一片の興味もなかったからで、幼い頃より強くなることをひたすら目指していた彼女にとっては、筋肉の方がよほども興味があったからだ。
「あ、ありがと」
突然の筋肉の話題にあっけにとられていると、ティアーヌが体を起こした。
「クラリーヌだけにゃー達の裸を見てズルいにゃ。クラリーヌもかなりのプロポーションを持ってると思うにゃ。見せるといいにゃ」
ティアーヌは、両手を頭の横に挙げて、ワキワキと動かしながら飛びかからんばかりのポーズを取る。二人と違い女の子的な感性をもつティアーヌは、純粋にクラリーヌの魅力的な体に興味があった。
クラリーヌは三人に嫉妬していたが、ティアーヌの思う通り、彼女の体も三人に引けを取らずに魅力的であった。
リゼットより少し大きいだけの背にもかかわらず、リゼットとは真逆に胸は大きめで、お尻もしっかりと丸みを帯びていた。プロポーションで言えば、この場の四人の中で最もバランスが良く、かつ女性的な感性を持ち、甘えた表情から、姉御肌な態度まで幅広くこなすだけの技術と魅力と器があった。
その器をいかんなく発揮して、時にユウキに甘え、時に引っ張っていけばユウキを落とすなんて造作も無い事だろう。実際にユウキは、宿で二人だった時に、魅力的なクラリーヌに興奮して襲う寸前だったが、クラリーヌは知る由もなかった。
「いやよ。三人を前にして裸になるなんて、女性だとしても恥ずかしいじゃない」
「自分はさんざんにゃー達の裸を見たくせに」
「はははっ、アンタ達がご主人様の所に行ってなければ、アタシの裸を見れたのにね」
ひとしきり笑うと、一変して真剣な表情でリゼットに詰め寄る。
「……ところで、三人ともなんでユウキにこれほどまでに尽くすの? 良いヤツだと思うけど、そこまでするなんて異常よ」
クラリーヌの疑問はもっともだった。いくら所有物になったとはいえ、ほとんどの場合は強制的な主従関係に過ぎず嫌っている方が普通だったし、仮に良好な関係を保っていたとしてもここまで尽くすというのは、この世界の人間にとってはあり得ないことだった。
「あたし達三人は、犯罪者になりそうな所をご主人様に助けてもらっただけじゃなくて、それ以上の恩があるのよ」
リゼットがどう話そうか迷っていると、フィーナが体を乗り出して勢い良く話し始めた。
それは当然で、彼女は、ご主人様の素晴らしさを話せる機会は少ないにもかかわらず、身に秘めた思いは溢れんばかりだったからだ。
「そうなんです! ご主人様は悪者に捕まっていた私の前に突然現れて、敵をバッタバッタと切り倒し、私が倒せなかった盗賊団のボスもあっという間に倒してしまったんです! その姿は、伝説の英雄のようでした!」
愛が溢れすぎているフィーナに続いて、ティアーヌも待ちきれないように話し始める。その行き過ぎた愛情は、言葉にしてもまだ表現しきれない感じで、体全体を大きく動かしながら話した。
「にゃーは、悪い奴らから逃げていたらご主人様にぶつかったにゃ! その後も木の上で寝てたら現れるし、最後はデーモンに乗っ取られたにゃーを救ってくれたにゃ。まるで、おとぎ話の王子様だにゃ」
体を必死に動かして、ひとしきり話し終えると、ストンと座り、手を組んでまるで祈るようなポーズを取る。しかし、それは神様を崇めているわけではなく、キラキラした目はまるで少女漫画の男キャラと化したご主人様を夢想していた。
二人の勢いのある演説を受けて、目が点の状態であっけにとられていたクラリーヌは、意識を取り戻すと、肘をついてリゼットに促した。フィーナとティアーヌの話はある意味で、彼女達らしいとは思ったが、冷静なリゼットがどんな思いで慕っているのか興味が出てきていた。
「リゼットはどんな感じなの?」
リゼットもクラリーヌと同様に二人の会話にあっけにとられていたが、話を振られ冷静さを取り戻す。
「あたしは、暗いダンジョンに篭こもりっきりだった所を連れ出してもらえたの。もし、ご主人様に出会ってなかったら、ずっと一人ぼっちでダンジョンにいたでしょうね。その後も、いい暮らしはさせてもらってるし、いつも気を使ってくれて優しいし。フィーナとティアーヌと一緒に入れて楽しいし。長く一緒にいればいるほど、感謝の気持ちばっかり溜まっていっちゃって、返そうと思っても返しきれないわね」
リゼットは、少し苦笑しながらも優しい表情で話した。クラリーヌには、普段の知っているリゼットとあまりにも雰囲気が違うため、フィーナとティアーヌとは別の意味で衝撃を受けた。
「私も一緒にいればいるほど、嬉しいことばかりで、もっとお役に立ちたいんですけど、全然立ててなくて……」
「にゃーもそうにゃ。でも、リゼットとフィーナはちゃんと役に立ってるにゃ」
「それは違うわ。ティアーヌはご主人様に料理が美味しいって言ってもらってるじゃない」
三人が、お互いを褒め合っているのを見て、クラリーヌは急に寂しい気持ちが襲ってきた。
「まあ、アンタたちがユウキに尽くす気持ちはわかったわ」
クラリーヌは、そう言うのが精一杯だった。
そんな、ドラマチックな出会いを自分もしてみたかった。
でも叶わない。
それでも、ユウキのことが好きになってしまったんだから仕方がない。
彼女たちは外見だけじゃなく、内面でも、ユウキに対する気持ちでも、自分より勝まさっているように思えて、自分がしぼんでいくような気分だった。




