┗外伝:クラリーヌとメイドたち(Aパターン)
今回は試しに、同じ話を2パターンで投稿しています。
Aパターン(この話)は、今までと同じライトノベル的な短めで読みやすい書き方。
Bパターンは、通常の小説のように一文が長めで詳しい描写をした書き方。
お好きな方(もしくは両方)を読んで下さい。
なお、今回は試しに書いただけですので、今後も今までどおりの書き方を続けていくつもりです。
部屋に戻ったクラリーヌは一人、悶々としていた。
「あー、もう! あの子たちいつまでユウキの部屋にいるのかしら!」
ドアを少し開けると、向かいにあるユウキの部屋のドアを確認する。
出てきてもすぐに隠れられるように気をつけながら、しばらく眺める。
しかし、一向に開く気配はない。
彼女は、一時間ほど前から監視者の如く同じことを繰り返していた。
「整備なんてそんなに時間かからないでしょ……」
ベッドに倒れこむと、枕をボスボスたたく。
そうしていると、機嫌のいい三人が部屋に入ってきた。
「ずいぶん遅かったじゃない」
クラリーヌの恨めしげに問いかける。
遅かったのは、ユウキとの濃密なスキンシップのせいだった。
彼女たちが機嫌よく部屋に入ってきたのもスキンシップで満足したおかげである。
「こんな遅くまでユウキの部屋で何をしていたの?」
クラリーヌは、今度はなるべく優しい声になるように、気をつけながら聞いた。
彼女たちとはなるべく仲良くしたほうが良いと、エロディットに注意されたのを思い出したからだ。
ティアーヌは脳天気に答える。
「みんなで装備を綺麗にしてたにゃ」
三人とも鎧などの装備品は外して、前に抱えていた。
「それにしたって、時間がかかったわね」
クラリーヌは、なおも自然になるように努めながら素直な疑問をぶつける。
「後は、ご主人様のマッサージをしていました」
フィーナが屈託のない笑顔で答えた。
「そんな事までしてあげてるの?」
「はい! ご主人様を癒やすのが私達の喜びですから!」
「ふーん? マッサージって、そんなに時間がかかるものなのかしら?」
よく分からずに曖昧な返事をするクラリーヌに、リゼットが説明した。
「他には、今後についてどうするか相談もしたわね」
実際には、『朝のキスと夜のスキンシップはきちんとしよう』と約束しただけだった。
要は遅かった理由を誤魔化すための言い訳である。
「ふーん? あ、ごめん呼び止めちゃったわね。ゆっくりしたら?」
クラリーヌは、自分が声をかけたため、彼女たちが部屋の入り口近くで立ち尽くしていることに気がついた。
彼女たちは、促されるままに、装備品を置いた後、ネグリジェに着替えてベッドに寝転ぶ。
「あれ? 体拭かないの? 汗で気持ち悪いでしょ?」
彼女たちは、ユウキの部屋ですでに体を拭いた後だったが、クラリーヌは知るはずもない。
フィーナは、あまり気にしていなかった。
ティアーヌは、面倒だにゃーと、体をゴロゴロと転がす。
リゼットは、体を拭かずに寝る様に見えるのは、不自然だろうと考えてワザと二人に問いかけた。
「そうよね。汗かいちゃったし、フィーナとティアーヌも体を拭きましょう」
実際、ユウキとの夜の激しい運動を終えた彼女たちは汗をかいていた。
リゼットは、壁際に桶が3つ重なっているのを見つけて、床に並べるとウォータの魔法を使い水を貯め始める。
ティアーヌも真似て、水を注いでいく。
「へえ、二人共、ウォータが使えるんだ。あたしも水を入れてもらえばよかったわ」
砦には、体を洗うための水場があったが、男しかいないため開放的になっていた。
そんなところで女のクラリーヌが裸になるわけにはいかず、桶に水をためて、こぼさないように奮闘しながら長い廊下を歩くはめになった。
「ええ、ご主人様に教えてもらって最近使えるようになったの」
期間は短いが、リゼットは十分といえるほど魔法を使いこなしていた。
ティアーヌは、少ししか水は出せなかったが、普通の人に比べれば十分早い習得速度と言える。
二人の魔法により一つ目の桶に見る間に水が貯まる。
「フィーナ、先にどうぞ」
「ありがとう」
フィーナは、ネグリジェを脱ぐと、タオルを水につけて体を拭き始めた。
その様子を見ていたクラリーヌは彼女の裸を見て、美しさにびっくりした。
彼女の体は、普段から鍛えられているため引き締まっており、かつ適度につけられた脂肪は、体のメリハリをはっきりしていた。
さらに、ご主人様と愛しあうことで、官能的な美しさが加えられて、より魅力的な体になっていた。
フィーナの体に見とれていると、今度はティアーヌが体を拭き始める。
クラリーヌは、フィーナで失った自信を取り戻そうとしたが、出てきた豊満な胸に呆気に取られる。
服の上からでも大きいのは分かったが、着痩せしていたため更に大きい物を見せつけられた。
元々大きくはあったそれは、ご主人様との夜を過ごす度に大きく成長させていた。
そして、ティアーヌがゆったりとした服を着ているため体型がふくよかなのだと考えていた。
しかし、出てきたのは引き締まった体だった。
もちろん、フィーナに比べれば筋肉も少ないし脂肪も多い。
逆にそれが、女性的魅力を引き出しており、大きな胸と相まって非常に誘惑的な魅力があった。
最後に、ようやく水を入れ終えたリゼットが、服を脱ぎ始めた。
クラリーヌはもう自信を失いたく無いと考えつつも目を離すことはできなかった。
視界に入ってきたのは、透き通るような真っ白く決め細やかな肌。
その肌は、ご主人様に誉められたことで、丁寧にケアをするようになり、より美しさを増していた。
彼女たちが体を拭き終え、ベッドに寝そべると、クラリーヌはようやく我に帰る。
「あなた達って、顔がかわいいのは知ってたけど、体も綺麗なのね……」
三人ともそれぞれの魅力があるため、ユウキは誰が一番好みなんだろうと考える。
しかし、答えは出そうもないので、すぐに考えるのをやめた。
「やだ、ずっとみてたんですか?」
隣のベッドでくつろいでいたリゼットが、恥ずかしげに返事をする。
リゼットは、あらかじめベッドの場所を決めていた。
クラリーヌの隣がリゼットで、フィーナ、ティアーヌの順である。
それは、ティアーヌが余計なことを言わないようにする事と、クラリーヌとダンジョン攻略の相談をしたいからだった。
「あっ、同じチームで寝食を共にするんだから敬語はやめて」
クラリーヌは思い出したかのように言ったが、その顔は真剣だ。
リゼットは、同じく真剣な表情で頷くと、すぐに柔らかい雰囲気に戻り話を続けた。
「クラリーヌの方が、よっぽどスタイルが良いじゃない」
「そうですよ。鍛えられた腕の筋肉とかすごく美しいです」
「あ、ありがと」
フィーナの突然の筋肉の話題にあっけにとられていると、ティアーヌが体を起こした。
「クラリーヌだけにゃー達の裸を見てズルいにゃ。
クラリーヌもかなりのプロポーションを持ってると思うにゃ。
見せるといいにゃ」
ティアーヌは、両手を頭の横に上げて手をワキワキと動かしながら、飛びかからんばかりのポーズを取る。
クラリーヌは三人に嫉妬していたが、彼女の体も三人に引けを取らずに魅力的であった。
リゼットより少し大きいだけの背にもかかわらず、リゼットとは真逆に胸は大きめでお尻もしっかりと丸みを帯びていた。
プロポーションで言えば、この場の四人の中で最もバランスが良い。
ユウキを誘惑するのには十分すぎるスタイルだろう。
「いやよ。三人を前にして裸になるなんて、女性だとしても恥ずかしいじゃない」
「自分はさんざんにゃー達の裸を見たくせに」
「はははっ、アンタ達がご主人様の所に行ってなければ、アタシの裸を見れたのにね」
クラリーヌは、ひとしきり笑うと、一変して真剣な表情になり、リゼットに詰め寄る。
「……ところで、三人ともなんでユウキにこれほどまでにつくすの?
良いヤツだと思うけど、そこまでするなんて異常よ」
クラリーヌの疑問はもっともだった。
いくら所有物になったとはいえ、ここまで尽くすというのは、この世界の人間にとってはあり得ない事なのだ。
「あたし達三人は、犯罪者になりそうな所をご主人様に助けてもらっただけじゃなくて、それ以上の恩があるのよ」
リゼットがどう話そうか迷っていると、フィーナが体を乗り出して勢い良く話し始めた。
「そうなんです!
ご主人様は悪者に捕まっていた私の前に突然現れて、敵をバッタバッタと切り倒し、私が倒せなかった盗賊団のボスもあっという間に倒してしまったんです!
その姿は、伝説の英雄のようでした!」
フィーナに続いて、ティアーヌも待ちきれないように話し始める。
「にゃーは、悪い奴らから逃げていたらご主人様にぶつかったにゃ!
その後も木の上で寝てたら現れるし、最後はデーモンに乗っ取られたにゃーを救ってくれたにゃ。
まるで、おとぎ話の王子様だにゃ」
ティアーヌは、体を必死に動かして、ひとしきり話し終えると、ストンと座り、手を組んでまるで祈るようなポーズを取る。
その、キラキラした目は、少女漫画の男キャラと化したご主人様を夢想していた。
クラリーヌは、あっけにとられながらも、今度はリゼットがどんな気持ちを持っているのか興味が出てきた。
「リゼットはどんな感じなの?」
リゼットもクラリーヌと同様に二人の会話にあっけにとられていたが、話を振られた冷静さを取り戻すと、自分の話を始める。
「あたしは、暗いダンジョンに篭もりっきりだった所を連れ出してもらえたの。
もし、ご主人様に出会ってなかったら、ずっと一人ぼっちでダンジョンにいたでしょうね。
その後も、いい暮らしはさせてもらってるし、いつも気を使ってくれて優しいし。
フィーナとティアーヌと一緒に入れて楽しいし。
長く一緒にいればいるほど、感謝の気持ちばっかり溜まっていっちゃって、返そうと思っても返しきれないわね」
リゼットは、少し苦笑しながらも優しい表情で話した。
「私も一緒にいればいるほど、嬉しいことばかりで、もっとお役に立ちたいんですけど、全然立ててなくて……」
「にゃーもそうにゃ。でも、リゼットとフィーナはちゃんと役に立ってるにゃ」
「それは違うわ。ティアーヌはご主人様に料理が美味しいって言ってもらってるじゃない」
三人が、お互いを褒め合っているのを見て、クラリーヌは急に寂しい気持ちが襲ってきた。
「まあ、アンタたちがユウキに尽くす気持ちはわかったわ」
クラリーヌは、そう言うのが精一杯だった。
そんな、ドラマチックな出会いを自分もしてみたかった。
でも叶わない。
それでも、ユウキのことが好きになってしまったんだから仕方がない。
彼女たちは外見だけじゃなく、内面でも、ユウキに対する気持ちでも、自分より勝っているように思えて、自分がしぼんでいくような気分だった。