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国境沿いの砦(後編)

 ダンジョンの中は薄明かりで照らされ、ランタンを持ってなくても歩けた。

 壁は土で出来ており苔が生えていて、その苔が淡い光を放っている様だった。


「この洞窟でやすが、どうやら溜まった魔力が行き場を失って出来たようでやすね」

「そうみたいね。

 出来たばかりの洞窟なのに光魔苔コウマゴケがたくさん生えているし、光も強め。

 魔力の濃度が高いのね」


 ピエールの説明に、リゼットが納得したように解説をする。


「魔力で洞窟が出来るのか?

 それから、コウマゴケってなんだ?」

「地下に溜まった魔力が出口を求めて穴を開けて洞窟を作るときがあるの。

 光魔苔コウマゴケは、魔力を食べて増えるコケよ。

 魔力を取り込むときに光るから、光る強さでその場にある魔力の強さがわかるの」

「魔法石は魔力の結晶だから、魔力でできた洞窟の奥にはたくさん落ちてるわ。

 その代わり、魔力を餌にするモンスターが集まるから危険も多いけどね」


 リゼットの言葉に、クラリーヌが苦笑しながら続けた。


「ありゃ? 詳しい人がいやすね。

 ダンジョンは経験が少ないと聞いてやしたが、あっちは必要なかったかも知れないでやんすね」


 二人の解説にピエールが肩をすくませながら苦笑する。


「おっと、無駄話はここまでやんすね。

 うわさのモンスターの登場でやんす。

 マッシュ、皆さんたのみやすよ」


 敵に見つからないように、ランタンの明かりを操作しながらマッシュの後ろに身を隠す。


「うす!」


 マッシュは短く答えて、肩に乗せてるハンマーを握りなおすと、盾を掲げて前に出る。

 じりじりと間合を詰めると、四匹のインプが洞窟内をひらひらと飛んでいた。


「じゃあ、行くわよ」


 クラリーヌが小声で合図をすると、つがえていた矢を放つ。

 それは正確にインプの頭部に当たり、そのまま洞窟の壁に突き刺さった。

 矢を放つと同時に、マッシュとフィーナは間合を詰めており、素早いフィーナが滑るように突きを入れると二匹目のインプはあっけなく力尽きた。

 一拍遅れて放たれたマッシュのハンマーはヒラリとかわされたが、後ろに控えていたティアーヌのメイスがガツンと当たりヘロヘロと地面に落ちる。

 最後の一匹は、クラリーヌの二発目の矢で倒された。


「俺達の出番は無かったな」

「頼もしい限りね。

 フォロー役に徹して大丈夫そうだから安心したわ。

 狭い場所だとネクロマンサーは役に立から心配してたんだけど」

「召喚してもじゃまになるだけだものな。

 それにしても、クラリーヌは2匹も倒すしダンジョンが苦手とは思えないな」

「ダテに長年冒険者やってないわよ。

 それに、風の射手は全員がレンジャーだからダンジョンが苦手なだけ。

 マッシュみたいな前衛がいてくれれば、ヘタな戦士より役に立つわよ」

「細長い洞窟で後ろから攻撃できるのは強みだものな」

「そういうこと、だからユウキはうしろだけ警戒していればいいわよ」


 その後は、細長い洞窟をひたすら進んだ。

 脇道がアリの巣のように張り巡らされていたが、ピエールの話ではすべて行き止まりだそうだ。

 何度か戦闘があったが敵が低レベルなこともあり楽勝だった。


「流石でやんすね。

 地図作りに専念できそうで安心しやした」


 5度目の戦闘が終わった後、ピエールはおどけるように言うと、通路の先の下り坂を指差した。


「ここまでが、地下一階でやんす。

 この先は一段深くなってやして、ちょっと見たところ敵も少し強くなっているようでやんした」

「とりあえず、戦闘の連携含めて問題なさそうね。

 久しぶりのダンジョンで疲れちゃったわ」


 楽勝とはいえ中心になって戦ったクラリーヌは、かなり神経を消耗しているようだった。


「俺もヘトヘトだ。今日はここまでにするか」


 戦闘では出番が少なかったとはいえ、後ろを警戒するだけで、こんなに疲れるとは思わなかった。


「じゃあ、戻りましょうか」


 洞窟を出て、砦に戻る頃には日が傾いていた。


「では、あっちらは報告がありやすんで、失礼しやす」

「うす! 失礼致します」


 ピエールはひょこひょこと、マッシュはのっしのっしという感じで、砦の事務所に消えていった。


「さて、お腹も減ったし食堂に行きますか」


 砦には小さな酒場のような物があり、指定時間であれば食事をすることが出来た。


「味はまあまあね。

 ダンジョン攻略中って考えれば贅沢は言えないか」


 クラリーヌがつまらなそうに、野菜のたっぷり入ったスープを口に運んでいる。

 砦の食事だけあって酒場や、ましてやティアーヌの作った食事とは雲泥の差だった。


「また、ティアーヌ達の作った料理が食べたいな」


 不意に表情を明るくしてティアーヌに話しかける。


「にゃはは、うちに来れば、いつでも食べさせてあげるにゃ」

「こら、ご主人様を無視してかってに約束しないの!」


 リゼットが、ティアーヌを小突く。


「いや、ティアーヌ達が良いならいつでも食べに来ていいよ。

 今日も冒険中に随分助けてもらったからな」

「どう? 役に立つでしょ?」

「ああ、知識もあるし指示も的確だし、戦闘でも判断が早い。

 風の射手のリーダーをやってるだけはあるな」

「なんだったら、このチームでもリーダーをやっちゃおうかしら」


 そう言われてドキッとした。

 流れで俺がリーダーをやっていたが、実力で言えばクラリーヌの方がよっぽども適任だ。

 もしくは、知識、経験共に優れているリゼットにやってもらう方が的確な指示が出来るんじゃないか?


「こらこら!

 そこで悩まないの!

 冗談に決まってるでしょ。

 三人とも心配しちゃってるじゃない」


 見回すと、フィーナ、リゼット、ティアーヌが心配そうな顔で俺を見ていた。


「いや、言われたとおり、クラリーヌかリゼットの方が知識も経験もあるしリーダーに合ってる気がする。

 っていうか、俺はリーダーって器でもないしな」


 クラリーヌが深い溜息をつく。


「アンタがそんなんでどうするのよ。

 それに、リーダーに必要なのは知識や経験じゃないわよ」

「じゃあ、何だよ?」

「人望よ」

「人望? それこそ俺にはないだろ」


 クラリーヌが更に深い溜息をつく。


「ユウキがそんなにバカだったとは思わなかったわ。

 あのね! みんなアンタの事が好きだから付いて行ってるの。

 このパーティーはユウキがいるから成り立ってるのよ。

 そんなこともわからないの?」

「そうですよ! 私たちはご主人様がいなかったらバラバラです」

「リゼットよりご主人様の方がいいにゃ。やさしいし頼れるにゃ」

「ティアーヌに言われると、あたしが優しくないみたいに聞こえるけど……。

 まあ、言ってることは正しいわね。

 あたしは、フォロー役が合ってるわ。

 みんなご主人様がいたから集まったんだから、リーダーはご主人様がやるべきね」

「ね?」


 クラリーヌが、それ見たことかと言わんばかりの笑みで、視線を送ってくる。

 そう言われると照れるが、みんなが俺が良いというなら一生懸命やろう。

 そもそも、ダンジョンに行くと決めたのも俺なんだから責任は取らないといけない。


「すまない。単純に考えすぎていたみたいだ」

「わかればいいのよ。

 アタシ達には頼っていいんだから気楽にね」

「ああ、ありがとう」


 重い空気から一転、ティアーヌの気楽な声が響く。


「クラリーヌは、ご主人様の事が好きだから集まったって言ったにゃ?」

「え? え!

 いや、あの、違うから。

 それは、あなた達の事で、アタシはエロディット達に追い出されて仕方なしだから!」


 クラリーヌがアワアワと慌てながら否定する。


「照れなくてもいいにゃ。ご主人様は魅力的だから仕方ないにゃ」

「違うって言ってるでしょ!」


 その後も食事が終わるまで、赤い顔で「違うからね!」と、しつこく何度も言われた。


………


………


「あれ? なんでユウキの部屋に入るの? アタシ達はこっちでしょ?」


 俺の後についてフィーナ達が部屋に入ろうとするのを、クラリーヌが不思議そうに聞いてきた。


「えーと、ご主人様の装備を外したり……」

「装備品の整備はあたし達がやってるのよ」


 ティアーヌの言葉を遮って、リゼットがフォローする。

 ナイズだリゼット、何を言い出すかわからないからな……。


「なに? ユウキはそんなことまで、この子たちにさせてるの!?

 冒険者なら自分の装備ぐらい自分でやりなさいよね!」

「違うんです。

 私たちは好きでやってるんです。

 少しでもご主人様の役に立ちたいから」


 憤慨したクラリーヌをなだめるように、フィーナが俺との間に入る。


「ほんと?」


 不思議そうな顔のクラリーヌに、三人とも頷く。


「わかったわ。じゃあ、アタシは部屋に戻ってるから」


 手をひらひらさせながら、従者用の部屋に入っていった。

 俺もホッとしつつ部屋にはいる。


「ごめんなさい。いつものクセで自然にご主人様の後に付いて来てしまいました」

「いや、いいんだ。どうせ、三人とも部屋に呼ぶつもりだったしな」


 申し訳無さそうな顔をしていたフィーナの顔が、パアッと明るくなる。


「では、夜まで一緒にいて良いんですね」

「ああ、クラリーヌに変に思われない程度にな」


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