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国境沿いの砦(中編)

 協力者を紹介してもらうために、荷物を置いた後、砦の中庭に行く。

 そこには、細身の男と、ずんぐりとした男の兵士が立っていた。


「ピエールとマッシュだ」


 ガリウムに紹介されると、細身の男が腰を屈めつつ愛想笑いを浮かべながら挨拶してきた。


「ピエールと申しやす。

 斥候が主な任務になりやすな。

 地図作りから食事の用意まで、冒険にかかわる事なら何でもやりやすよ。

 罠の解除などもできやすが……今回は必要なさそうでやすな」


 フィーナを見てニヤリと笑う。


「あ、戦闘だけは苦手なので、それは任せやす」


 面長で影のある顔の男は、背は俺より高そうだが、猫背で腰を低くしているため妙に小さく見えた。

 装備は、兵士にしては軽装で剣などの武器は携帯していない。

 その代り、腰に小さな袋をいくつもぶら下げていた。

 ぱっと見、衛兵とは到底思えないような姿は、盗賊と言われた方がすっきり来る。


 続いて、ずんぐりとした男が一歩前に出てきた。


「うす。マッシュです。力と体力には自信があります」

「ユウキ殿のチームには、前衛、特に防御力の高いメンバーがいないと聞いてました。

 盾役や荷物持ちとして使ってやってください」


 ガリウムが言葉の少ないマッシュに変わって説明してきた。

 マッシュは、盾役という言葉の通り、大きな盾を持ち分厚い鎧を着込んでいる。

 武器は金属製のハンマーらしく、地面に突き立てたそれは、重量により少しだけ土の地面に沈んでいた。

 ピエールとは対照的に背筋がピンと伸びているため、俺と身長が変わらないにもかかわらず大きく見える。


「こちらこそよろしく」


 俺の挨拶に、マッシュはビシッと敬礼し、ピエールはニヤリとした顔で答える。


「今後の事はユウキ殿に任せます。

 私は通常任務に戻りますので、なにか有れば遠慮なくピエールに言ってください」


 そう言い残すと、ガリウムは砦の中に戻っていった。



 さて、任せますと言われてもどうしたものか……。

 ピエールに実力があることは雰囲気からわかるが、明らかにあやしい感じがする。


「ちょっと、向こうで相談していいですかね?」

「ええ、結構でやす。

 どうぞ、心ゆくまで相談してくだせぇ」


 失礼とも思ったが、二人の雰囲気──特にピエールの存在は──は予想外だった。

 四人を連れて少し離れた場所に行く。


「いったいどうしたのよ?」


 クラリーヌがいぶかしげな表情で聞いてきた。


「いや、ピエールってヤツがあまりにも怪しすぎだから大丈夫かなって思って……」

「どこが?」


 クラリーヌはなおも怪訝けげんな表情で俺を見ている。


「どこがって、雰囲気とかヤバイだろ。フィーナは気持ち悪くなかったか?」


 フィーナを見てニヤリとしていたが、その表情はヘビのような雰囲気で少しいやな感じがした。

 が、当のフィーナはというと不思議そうな顔で俺を見ていた。


「なにがでしょうか?」

「表情とか態度とか……」

「フォーナは盗賊団にいたからあの手のタイプは慣れてるんじゃないかしら?」


 リゼットに言われて納得した。

 最近は普通の女の子っぽく感じていたけど、盗賊団で育てられたから周りはあんなのばっかりだったのかも知れない。


「あー、ユウキは、あの手のヤツが信用おけないってわけか。

 冒険者経験の少ないユウキじゃ仕方ないかもしれないけど、ああいうタイプは意外ときちんと仕事をこなすのよ?

 むしろ、疑うならマッシュみたいな無口なタイプか、ユウキみたいな嫌に丁寧なタイプね」

「えぇ!? 俺のほうがあやしい?」

「まあ、ユウキの場合には、天然過ぎて裏がないのがすぐわかるけどね」


 クラリーヌがクククッと笑うと、リゼットが腕を組んでウンウンと頷く。

 フィーナとティアーヌもニコニコしながら同意している。


 ……なんか、恥ずかしいぞ。


「裏が有るなら普通は隠すでしょ?

 ピエールみたいに表に出してるのは自分に素直な証拠よ。

 動きから見てもレベル高そうだし、いい仕事すると思うわ」

「なるほど、気にすることはないのか。

 リゼットとティアーヌも大丈夫か?」

「ええ、冒険者には、よくいるタイプね」

「大丈夫にゃ」


 どうやら俺の考えすぎらしい。


「安心したなら、さっさとダンジョンに行くわよ」

「もう行くのか? 準備とかいらないか?」

「まずは下見をするの。

 入口付近ぐらいなら探索済みでしょうし、今日は行ったことがある範囲まで行きましょ」

「わかった、そうするか」


 戻ると、ピエールが含みのある笑顔で迎えてくれる。


「どうでやすか?

 わっちは、信用置けそうでやんすか?」


 バレてる……。


「ええ、問題無いわ。

 ユウキはちょっと心配性なのよね」


 クラリーヌがすかさずフォローをしてくれた。


「脳天気なヤツより、よっぽど良いでやんすよ」

「さ、すぐにダンジョンに案内してくれ無いかしら、地下一階ぐらいは探索済みでしょ?」

「お見通しでやんすね。そうでやす。

 地下二階は少し潜りやしたが敵が強うそうでしたので、さぐる程度でやすな」

「では、ピエールさんとマッシュさんもパーティーに入れます」

「へへへ、さんづけで呼ばれるとこそばゆいでやんすね。

 呼び捨てで結構でやす。

 それから、パーティーは別々にしておきやしょう。

 お互い隠しておいた方が都合がいい事もありやしょう?」


………


………


 

 砦で軽い食事を済ませた後、ピエールに案内してもらいつつ、何もない丘を小一時間ほど歩く。

 たどり着いた先には、土の盛り上がりがあり、ぽっかりと穴が開いていた。

 その穴の近くに、木で出来た小さな小屋が立っている。

 小屋の前にいた衛兵はピエールを見つけると、ビシッと敬礼をした。


「ごくろうでやんす」


 ピエールは、警備の物に軽く挨拶をすると、こちらも向かずに、話しだす。


「ここでやす。

 たまにモンスターが現れやすが大して強くないので安心してくだせぇ。

 警備の兵士でも十分追い返せやす。

 あんさんがたなら余裕でやんすよ。

 あっちには無理ですがね」


 ケへへへへと、肩を揺らしながら妙な笑い声を出した。


「さて、洞窟に入りやすよ。

 先導は任せてくだせえ。

 あっ、モンスターが現れた時はお願いしやす」


 少し神妙な顔で俺を見る。


「ああ、任せてくれ」


 俺の返答に納得したのかニヤリと笑うと、腰の袋からランタンを取り出し入り口を照らす。


「今日のところは地下一階の奥まで行ってみやしょう。

 あまり道が広くないでやすので、一列がいいでやすかね?

 順番はわっち、マッシュが先に行きやすが、後の順番は任せやす」

「マッシュの後ろから、フィーナ、ティアーヌ、リゼット、アタシ、ユウキでいいわね?」

「ええ、それがいいわね」


 クラリーヌが力強く言うと、リゼットが同意する。


「俺は前の方が良いんじゃないのか?」

「後ろからモンスターが襲ってきた時に防御力が高いユウキが一番後ろに居た方が良いの。

 それに、ユウキなら一番後ろにいても魔法で援護が出来るでしょ?」

「ああ、なるほど」

「同じ理由で、後ろから援護がしやすくて防御力が高めなアタシが後ろから二番目、一番防御力が低いリゼットが真ん中ね。

 戦闘が出来て罠の解除ができるフィーナはマッシュの後ろ、回復や近接戦のフォローが出来るティアーヌが更にその後ろね」

「なるほどな。ピエールの件もそうだけど、クラリーヌがいてくれて助かったよ」


 ピエールに聞こえないように、気をつけながらクラリーヌにそっと礼を言う。


「と、当然よっ! 普段ダンジョンに入らなくったってユウキよりマシなんだから!」


 クラリーヌは俺から顔をそらし、そっぽを向くと、「行くわよ」と肩を怒らせて歩き出した。


「なんか、怒ってるみたいだけど、変なコト言ったか?」


 なぜ怒っているのかわからないので、リゼットに聞いてみる。


「……ご主人様って本当に、鈍いのね」

「え? どういうことだ?」

「なんでもないわ。さあ、行きましょう」


 ピエールは、そんな俺達を見て楽しそうにおどけた後、すぐに真剣な表情になり丁寧にダンジョンの入口を確認する。

 そして、手で合図をすると中に潜っていった。


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