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旅立ちの前(後編)

「ねえ。あたしも一緒について行っていい?」


 玄関の外に立っていたクラリーヌの第一声だった。


「え? 何処に?」

「ダンジョンに決まってるでしょ……」


 恥ずかしげに、もじもじとしている。


 え?

 どういうこと?

 風の射手は森や草原が主戦場で、ダンジョンは苦手だから挑戦しないはずだが。


 俺が突然の事に返事を言え無いままでいると、早口にまくし立ててきた。


「あのね。家に戻ってユウキがダンジョンに行くことを話したらね。突然、エロディットがユウキに付いて行けって言ってきたの。あたしもびっくりして、なんでって聞いたんだけどね。ペレニックが最近のクラリーヌは、戦闘に集中してなくて危なっかしいって言ってね。ベルナンドもちょうどいいからユウキのパーティーに入れてもらって鍛え直してこいっていうの。風の射手のリーダーである、あたしがいないと心配なんだけどって言っても、ジスレニスは、あたしがいなくて大丈夫って言うの。で、冒険用の道具を無理やり持たされて、ユウキとダンジョン攻略が終わるまでは帰ってくるなって、無理やり家の外に出されたの。ひどいでしょ?」


「……つまり、どういうことだってばよ?」


「えーと、『風の射手』から追い出されちゃった」


 かわいげに、舌をペロッと出して照れた笑いを浮かべている。


「いやいや、笑い事じゃないだろ。

 なんだかよくわからないけど、リーダーを追い出すなんてありえないだろ。

 俺が文句を言ってやる」

「ダメダメ、あの子たち意外と頑固だから。

 それより、パーティーに入れてもらえないかな?

 もちろん、ダンジョン攻略の間だけよ。

 ユウキとダンジョン攻略に成功したらチームに戻っていいみたいだから。

 嫌なら無理にとは言わないけど……」

「えっと、俺は構わないけど。三人の意見も聞かないと……」

「私たちは、ご主人様の意見に従います」


 フィーナが相変わらずの従順さを発揮してくれた。


「ほんとに?

 フィーナありがとう!

 ユウキはどう?

 本当に大丈夫?

 無理しなくていいんだよ。

 ダメなら宿屋に泊まってごまかすし」


 なんだかクラリーヌらしからぬ愁傷しゅうしょうな態度だ。

 いつもの強引さが感じられない。


「さすがに、宿屋に泊まってたらバレるだろ。

 クラリーヌがいてくれれば心強いし大歓迎だよ」


「ほんと!

 ありがとう!

 フィーナもリゼットもティアーヌも、これからよろしくね」


 クラリーヌは満面の笑みを浮かべ、俺の後ろにいる三人に勢い良く頭を下げた。

 いきなりの展開に若干気圧されつつも、さっきまでのイライラがなくなっていくのを感じていた。


……


……


「ティアーヌの料理美味しかった」


 夕食を食べ終えてクラリーヌは満足気だ。


「こんな美味しい食事が毎日食べられるなんて、ユウキは幸せものね」


 さっきからクラリーヌはメイド姿の三人をほめちぎっている。

 もちろん、女の子同士で仲良くしてくれるのは、ありがたい。

 しかし、いつもの彼女からはちょっとイメージが違う気がする。


 いや、今の俺はそれどころではない。

 クラリーヌは追い出された。

 ということは、今日はこの家に泊めなければならない。

 そうなると、俺は三人と一緒に寝る事ができない。

 三人としている事をクラリーヌに知られたら気まずいし。


 うーむ、どうするか。


 部屋は三つあるから、クラリーヌはベッドが一つの部屋に泊まってもらうか。

 俺も普段使わない部屋で寝て、三人はいつも使ってる寝室を使ってもらおう。


 今日は、お預けになってしまうが仕方ない。


 そう決めて、俺達はそれぞれの部屋で眠りについた。


……


 寝れん!

 ベッドに入って一時間ぐらい経つけど、悶々として全然寝れない。

 毎日の日課になっているスキンシップが取れないと、体力がありあまってしまう。

 スクワットや腕立て伏せをしてごまかそうとしたが、逆に目は冴えるばかりだ。

 こうなったらクラリーヌに気づかれないように、三人が寝ている部屋に行くしか無い。


 夜の暗い中、こっそりと寝室の前にやってきた。

 なんか夜這いをしている気分だ。

 クラリーヌに見つかるかもというドキドキ感で心臓がヤバイ。


 そっと、ドアを開けて寝室に侵入する。

 三人共もう寝ちゃったかな?

 そうなら今日は諦めるしか無いよな。

 さすがに起こすのは可哀想だし。


 そんな、心配を他所に声が聞こえてきた。


「リゼットの言う通りご主人様が入ってきたにゃ」

「よくわかりましたね」

「ご主人様のことだから一時間もすれば我慢できなくなるに決まってるもの」


 どうやらリゼットにはお見通しだったようだ。


 俺達は、クラリーヌに見つからないように声を潜めながら愛しあった。

 秘密の行為という感覚が、いつもより燃え上がらせた。






【あとがきレベルではない、おまけ小説】


「あの子、ほうけちゃってどうしちゃったの?」


 椅子に座って虚空を見つめるクラリーヌを、心配そうに眺めながらペレニックがエロディットに問いかける。


「デートから帰って来て、ずっとあんな調子なのよね。なんか、ユウキが国境近くのダンジョンに行くからしばらく会えないんだって」

「え! ただでさえ最近、仕事に集中してないのに、あんな調子じゃ一緒に依頼なんて出来ないわよ……」


 呆れた声を出すペレニックにエロディットは無言で肩をすくめる。


「一緒にダンジョン攻略できれば少しはマシかもしれないけど、あたし達には無理だしね」

「それ、いいわね」


 エロディットが、名案だと言うように手を叩くとクラリーヌに近づいた。


「ねえ、一緒にダンジョンに行けばいいんじゃない」

「何言ってんのよ。あたし達にはダンジョン攻略なんて無理よ」


 慌てながら制止するペレニックに、エロディットが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「だからさ、クラリーヌ一人だけでダンジョンに行けばいいのよ」

「は? なにそれひどい。それこそ自殺行為よ」

「違うの。ねえ、クラリーヌ。あんた、ユウキのチームに入れてもらって一緒にダンジョンに行ったらいいのよ」


 エロディットとペレニックが騒がしくしてても、ホケっとしていたクラリーヌの目に段々と光が戻る。


「え!」

「ああ、それは名案ね。ねえ! 二人もいいよね」


 ペレニックが嬉しそうに、ベルナンドとジスレニスに問いかける。


「ああ、今のままだと怪我に繋がる。それならいっそのことユウキの所に武者修行に行ったほうがいい」


 ベルナンドは腕を組んで答えると、しばらくの思慮の後自分の言葉に大きく頷いた。


「いや、でもリーダーのあたしがいなくなったら困るでしょ」


 突然の提案に慌てたクラリーヌは、ジスレニスに助けを求めて視線を投げかける。


「正直、クラリーヌのフォローが大変だったのよね。それなら四人になって依頼のレベルを下げたほうがマシね」


 冷静な表情のジスレニスが突き放すように言うと、クラリーヌは更に慌てた。


「どれだけ期間がかかるかもわからないのよ」

「いつもの強引なクラリーヌはどうしたのよ。ユウキのパーティーに入れば親密になるチャンスも増えるわよ」


 ペレニックが言うと、エロディットがニヤニヤとやらしい笑みを浮かべる。


「そうよ。ダンジョンの暗闇で驚いたふりをして抱きついたり、同じ宿に泊まるならいっそのこと夜這よばいしちゃえばいいのよ!」

「よばっ! 何言ってんのよ!! そんなこと出来るわけ無いでしょ!!!」


 エロディットの過激な言葉にクラリーヌは驚いてかぶりを振る。

 しかし、クラリーヌの意見を無視して、ベルナンドとジスレニスは、彼女の荷物をまとめ上げていた。

 それを確認すると、ペレニックとエロディットがクラリーヌを無理やり立たせて、玄関まで背中を押していく。


「ちょっと、冗談でしょ!? リーダーを追い出すなんて何考えてるのよ! それに、ユウキも入れてくれるかわからないし」

「大丈夫、大丈夫。ユウキなら追い出されたって言えば入れてくれるよ。経験豊富なレンジャーならユウキのパーティーにもぴったりだしね」


 エロディットは、玄関のドアを開けるとクラリーヌを外に追い出した。


「わかったわよ。行けばいいんでしょ」


 諦め顔のクラリーヌは大きくため息をつきながらみんなを眺める。


「あたし達は心配しないで、ユウキと仲良くなるのよ。この際だから処女あげちゃいなさい」

「あっ、あたし処女じゃないし!」


 真っ赤な顔で反論するが、四人とも和やかな表情だ。


「がんばれ」


 ベルナンドは短く言うとクラリーヌの肩を勢い良く叩いた。

 痛さで涙目になりながらも、荷物を受け取る。


「あ! ユウキのパーティーの女の子とは仲良くしなきゃダメよ」


 ペレニックが心配そうに忠告する。


「同じパーティーになるんだったら仲良くして当たり前でしょ?」

「そうじゃないの。

 彼女たちがユウキを取られないように、意地悪してくるかもしれないでしょ?」


 ペレニックがクラリーヌの鼻の頭に指をつきつける。

 それを、払いながら呆れた声を上げた。


「あんなに人の良さそうな子たちが、そんな事してくるとは思えないけど」

「あまーい。女は男が絡むと人が変わるのよ」


 横で聞いてたエロディットがしたり顔で、クラリーヌの鼻の頭に指をつきつける。


「とにかく、下手したてに出て彼女たちに取り入るの。

 彼女たちはユウキの事を、ご主人様としたってるから嫌われると厄介よ。

 逆に、仲良くすればユウキとの仲を取り持ってくれるかもしれないし」


 ペレニックの言葉をクラリーヌは考える。

 彼女たちが意地悪してくるのは想像できないけど、仲を取り持ってくれるのはあるかもしれない。


 そう結論づけたクラリーヌは、フィーナ達と仲良くなる決意をした。


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評価をつけていただいたら嬉しくて投稿が早くなると思います。
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