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休日のひととき(中編)

「うっふーんだにゃ」


 ティアーヌが、右手を腰に左手を後頭部に当てて、胸とおしりを突き出す。

 帰りに受け取った新しいメイド服が、随分と嬉しいようだ。

 体に合わせて作ったメイド服は、フィットしていて動きやすいのだろう。

 さっきから色々な悩殺(?)ポーズをとっている。


「どうかにゃ? にゃーの魅力にメロメロだにゃ?」


 俺はその様子を微笑ましげに眺める。


 腰回りが絞られて体のラインが美しくはっきりと見える。

 その分、大きな胸がより大きく見えた。

 猫耳と子供っぽい屈託の無い笑顔から愛らしい雰囲気を出すはずが、強調された胸による女性らしさと合わさって、アンバランスな魅力を際立たせている。

 

「胸は苦しくないか?」

「大丈夫だにゃ」

 

 そう言いながら、自分で胸を持ち上げた。

 ドーンと突き出た胸につい手が出そうになるが、自重すると「触ってもいいにゃ」と、心を見透かしたように、俺の顔を満面の笑みで覗き込んでくる。


 可愛すぎるだろこの野郎。


 俺が見透かされた心に恥ずかしさを覚えていると、抱きついてきてわざとらしく胸を押し付けてくる。

 頭をなでてあげると、「にゃー」っと小さく唸りながら俺の胸に顔をグリグリと擦り付けてきた。


「ご主人様どうかしら?」


 声のした方を向くと、着替えを終えたリゼットが、恥ずかしそうに、うつむきながら立っていた。

 外見が幼い彼女にも似合う大人びた雰囲気、というコンセプトで作った服は、赤い情熱的なドレス。

 頭につけたフリル付きのカチューシャにはバラの形をしたアクセサリがついており、胸元にも同様のバラの花が咲いている。

 肩は空いており、スカートは膝が隠れる程度の長さ。

 結婚式や社交ダンスで着るようなやつだ。


「街中では着られないけど、ご主人様の前で着てみたくて作ってもらったの」


 上目遣いで照れた笑いを俺に向ける。

 子供っぽい見た目だと思っていたが、大人びた服を着ると、顔立ちがすごく綺麗であることを思い知らされた。

 透き通った白い肌と大きな目、整った顔立ちは、アンティークドールの様な、具体的に言ってしまえば、ローゼ○メイデンの○紅の様な大人びた可憐さがあった。


「ご主人様?」


 じっと見つめている俺の顔を不思議そうに覗き込んでくる。


「え? ああ」


 美しさに思わず見とれてしまった。

 なんとなく気恥ずかしくなり顔をそらして頭を掻く。


「すごく似合っているよ。綺麗すぎてびっくりした」

「ようやく『きれい』って言ってもらえた。『可愛い』って言われるのも嬉しいけど、やっぱり歳相応に『きれい』って言われたいもの。すごく嬉しいわ」


 よっぽど嬉しかったようだ。

 少し目を潤ませている。

 ティアーヌに離れてもらいリゼットを抱きしめると、そっと胸に顔を寄せてきた。


「私も作ってもらえばよかった。不公平です」


 嬉しそうな二人とは対照的にフィーナは不機嫌だ。


「自分で服に興味が無いって言ったんだろ」


 うっ、と言葉に詰まるが「でもでも」と子供のように恨めしそうな視線を送ってくる。


「わかったわかった。今度はお前の服を作ってもらおう」

「絶対ですよ」


 俺の手を両手でギュッと握りしめ、真剣な表情で言ってきた。


 さて、せっかく新しい服を着てもらったんだし、もっと堪能したい。


「リゼット。新しい服をじっくりと見せてくれ」

「はい……」


 そう言って、手を取るとすぐに察し、恥ずかしそうにうつむきながらついてくる。


「ティアーヌも後で呼ぶから、メイド服のままでいてくれ」

「わかったにゃ」

「あの……。私は……」


 フィーナがオロオロとしながら心配そうに聞いてくる。


「安心しろ、後で呼ぶから」


 そう言うと、心底ホッとしたように息をはいた。


「二人は趣味の時間だ。家事はやらずに好きなことをしてていいぞ」


 言い残して寝室に入ると、リゼットをベッドの縁に座らせて自分は床に座る。

 リゼットは不思議そうな表情をしていた。

 いつもなら、真っ先に体をまさぐるんだから当たり前だろう。


 しかし、今の俺は彼女の美しさを堪能したいと思っていた。

 ドールやフィギュアにあまり興味はなかったが、美しい人形を手に入れた心境とおそらく同じ。

 リゼットの銀色の髪に、赤い薔薇がえる。

 今は日の光が当たっているが、月明りに照らされればキラキラと輝いてより美しくうつるだろう。


「笑ってみてくれないか?」


 困惑の強めるリゼットに注文をつけると、ぎこちない笑顔を返してきた。

 もともと表情が固い彼女に、とつぜん笑ってと言えば、そうなるのは当然か。


 しばらく、見つめあっていたが、恥ずかしくなってしまったのだろう、頬を朱色に染めて顔をそらしてしまう。


「いつものご主人様じゃないみたい」

「綺麗な物を眺めたいと思うのは、万人が共通するものだと思うけど」

「そんなクサイこと言って」


 馬鹿にされたと勘違いしたのか、すねたように口をとがらせる。


「本心だよ。リゼットは可愛い服が似合うと思っていたが、上品な服のほうが似合うな」

「ほんと?」


 花が咲いたような明るい笑顔になった。

 こんな表情は初めて見る。


「ああ、このままずっと眺めていたい気分だ」


 その言葉に、喜びつつも、困惑したような複雑な表情になる。


「ご主人様……抱きしめて」


 リゼットが両手を広げる。

 彼女がこんな事を言ってくるのは珍しい。

 膝立ちになりながら無言で抱きしめた。


「さっきの言葉、うれしい。けど、ご主人様の体温を感じれる方がもっと嬉しいわ」


 悩ましげな表情を浮かべた彼女がうるんだ瞳で見つめてくる。

 俺はそれに答えるように優しくキスすると、ゆっくりと赤いドレスに手をかけた。


……


……


 さっきからティアーヌのファッションショーが繰り広げられている。

 俺はその様子をベッドに座りながら眺めていた。


 彼女は少しおどけながら体をひねると、スカートが服の魅力を体現するようにふわっ舞う。

 落ち着きのない彼女にとっては、動きやすい服がよほど嬉しいのだろう。


「この服なら家事もやりやすいにゃ」


 そういえば、メイド服って作業着なんだよな。

 忘れてた。


「でも、ご主人様は前の服のほうが良いみたいだにゃ」


 胸元の生地をひっぱって前のメイド服を再現しようとしている。

 引っ張られた服によって、胸がいびつに歪んだ。


「そんなことすると、折角の形の良い胸がもったいないぞ」

「うふふふふ。にゃーの胸は形がいいにゃ?」


 にまにまと笑いながら、俺の顔を覗き込んでくる。

 直接的に聞かれると答えるのに照れる。

 俺は顔をそらし、頭を掻いた。


 すると、彼女は俺の頭を抱きかかえる。


「うっぷ」

「ご主人様に堪能させてあげるにゃ」


 わざとらしく俺の顔に胸をグリグリと押し付けてくる。

 柔らかくて幸せだが少々息苦しい。

 ティアーヌを無理やり引き剥がすと残念そうに「むー」と唸った。


 その後、急に不安そうな顔をして俺を見つめてくる。


「どうした?」


 引き剥がされたのが、それほど嫌だったのだろうか?


「こんないい服を買ってもらってよかったのかにゃ?」

「どういうことだ?」

「ご主人様の所有物になってから、毎日が楽しいにゃ。

 いい服に、美味しい食事、それに……夜も優しくしてくれるにゃ」


 珍しく少し照れたように、しかし困惑した表情で話す。


「でも、悪事して所有物になったのに、こんないい思いをしていいのかって、不安になるにゃ……」


 彼女にしては随分と気弱な発言だ。


「俺は、別にティアーヌが悪いことをしたとは思ってない。

 それに、所有物とも思ってない」

「じゃー、なんにゃーはなんだにゃ?」

「その……、前にも言っただろ。……恋人のような物だ」


 どうにも気恥ずかしくて言いよどんでしまう。


「本当かにゃ?」

「本当だ」

「なら、抱きしめてほしいにゃ」


 彼女に言われるまま、立ち上がると優しく抱きしめる。


「もっと、……ぎゅっとしてほしいにゃ」


 言われたとおりに強く抱きしめる。

 胸に顔を預けながら言ってくる声は、少し震えているようだった。


「ずっと放さないでほしいにゃ」


 俺は、彼女の震えが収まるまで抱きしめ続けた。

 

……


……


「ティアーヌに選んでもらったのですが、変ですか?」


 驚いている俺を、フィーナは心配そうに見ている。

 何を驚いているのかって?

 それは、スカートを履き、頭にリボンをつけているフィーナに、だ。

 いつもならスボンを好んで着るし、リボンなども恥ずかしがって付けたがらない。

 それなのに、今は過剰なほど可愛らしい格好をしている。


「いや、かわいいよ」

「そう言いながら笑ってるじゃないですか。やっぱり変ですよね?」


 恥ずかしそうに急いでリボンを取ろうとする彼女を、慌てて止める。


「ごめんごめん。変だから笑ったんじゃないんだ」

「じゃあ、なぜですか?」


 どう言おうか悩んで躊躇するが、うまい言葉が見つからず素直に話すことにした。


「二人が新しい服を着てたから頑張って着飾ったんだろ? それが、かわいくて笑ちゃったんだ」

「やっぱり脱ぎます」


 恥ずかしそうに服を脱ごうとするフィーナを、慌てて制止する。


「せっかく着たのにもったいないよ」

「だって笑うんだもん」


 涙目になりながらうつむく。

 勇気を出した行為を笑ってしまったのはいけなかったか。


「ごめん。俺の為に一生懸命になってくれて嬉しいよ」

「私はご主人様のためならいつも一生懸命です」

「そうだったな」


 俺は言葉を交わすのをやめて抱きしめた。

 フィーナも黙って、俺の背中に手を回してきた。


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