休日のひととき(前編)
ティアーヌの作った朝食の麦パンとオムレツ、じゃがいものポタージュが湯気を立ち上らせる。
それを前にして高らかに宣言する。
「久しぶりにお風呂に行こうと思う」
久しぶりとは言っても一週間だ。
この世界では一週間という概念は無いが、日本にいた時の習慣から丁度良く感じられる。
「ご主人様の病気が治ったばかりだし、それがいいわね」
「お風呂ですか。嬉しいです」
「やったー、洗いっこするにゃ」
みんなお風呂が大好きだから大喜びだ。
「早くにお風呂に入って、オーダーメイドした服を取りに行って、それからは趣味の時間だ」
「趣味の時間……ですか?」
「ああ、みんな自由な時間が持てなかっただろ?
たまには好きな事ができる時間があってもいいと思ってな」
「ご主人様はどうするの?」
「俺は趣味が無いからな。ゆっくりしてるよ。出来ることがあれば手伝うぞ」
趣味が明晰夢だったから、今はやりたいことが無い。
三人と一緒にいるだけで楽しいし、十分満足している。
「じゃあ、私はご主人様と二人っきりで一日を過ごしたいです!」
フィーナがテーブルから乗り出して、満面の笑みで言ってきた。
「ダメに決まってるでしょ! それなら、あたしだって……」
「にゃーも二人っきりで過ごしたいにゃ」
「むー」
二人から言われて、残念そうに椅子に座り直す。
「二人っきりの時間はまた今度な。で? 何かやりたいことはあるか?」
「にゃーは、もっと家を使いやすく、華やかにしたいにゃ」
「あたしもやりたい事があるわ」
リゼットが含みのある笑顔で答える。
こういう言い方をした時には、何をするかは教えてくれない。
「私は何をしましょう……。趣味と言っても剣の練習ぐらいしかありません」
「そうか。なら、俺に稽古をつけてくれないか?」
「稽古をつけてもらうのは私の方だと思いますが、ご主人様がよろしいなら、付き合います」
「それもダメ! ご主人様は病み上がりなんだから激しい運動はだめよ」
「元気になったから大丈夫だろ」
「ダーメ!」
「わかったわかった」
母親の様に怒られてしまった。
フィーナは、腕を組んでうーんと唸っている。
かと思ったら、嬉しそうに勢いよく顔を上げた。
「そうだ! ご主人様の装備を強化したいんですがいいですか?」
「それなら、お願いしたいぐらいだ」
フィーナは整備が上手だから安心だな。
どんなふうに強化されるのか期待できそうだ。
「よし! やることも決まったみたいだし、早速お風呂に行こう」
……
……
「ご主人様は、病み上がりなんだから体を洗ったらすぐに湯船につかるのよ」
銭湯の個室用脱衣所で、服を脱ぎ終わるとリゼットが言ってきた。
「え? いやいや、お前たちの体を洗わないといけないだろ」
「自分で洗えるから大丈夫です」
「洗ってもらえないのは残念にゃ。でも、ご主人様の健康が一番だにゃ」
この子達は、いったい何を言っているんだ……。
一番大切な時間が無くなったらお風呂に来た意味がないじゃないか。
「いや、それは外せない。体を洗うのは大切な時間だ」
「わがまま言うんじゃないの」
「ご主人様の言うことは聞きたいですが、体を壊したら大変です」
「そうだにゃ。専属治療魔術師として見過ごせないにゃ」
ティアーヌは、いつから俺の専属治療魔術師になったんだ。
「でも……」
「ダメ!」
リゼットは、いつから俺に逆らうような子になってしまったんだ……。
「だけど……」
俺はおやつを取り上げられた子供のような目でリゼットを見てることだろう。
彼女は、わがままな息子を相手にする母親の如く、諦めたように大きなため息をついた。
「仕方ないわね……。寝る前に体を拭かせてあげるから、それで我慢して」
「私も今日は拭いてもいいです」
「体を拭いてもらうのは久しぶりだにゃ」
フィーナとリゼットは顔が真っ赤だ。
ティアーヌは嬉しそうにはしゃいでいる。
体を拭かせてもらうのは、久しぶりだ。
「わかった。それなら我慢しよう」
「我慢と言いながらも、ニヤニヤしてるにゃ」
「こんなにうれしそうなご主人様、久しぶりです」
「まったく……」
残念そうな表情をしたつもりだったが、顔に出ていたらしい。
どうやら俺はポーカーフェイスが苦手の様だ。
「いっちばーんにゃ!」
「うおっと」
風呂場に入ると、石鹸を体につけるのもそこそこに、ティアーヌが抱きついてきた。
一番最初に俺の体を洗えてご満悦な表情のティアーヌ。
そんな彼女の思いとは裏腹に、残りの二人は恥ずかしそうにゆっくりと石鹸を体に塗り、寄り添うように抱きついてくる。
お返しに洗い返してあげる――という理由を言い訳にイラズラすると――嬉しそうに反応するのが楽しい。
至福のひとときも終わり先に湯船に浸かる。
三人は俺に背を向けて並び体を洗い出す。
うむ。
これはこれで良いな。
三人の美少女が楽しげに話しながら体を洗っているのを眺めるのは、女風呂を覗いているような背徳感があってグット。
たまに横から胸が見えるのもチラリズムがあってナイス。
一人は、胸が小さすぎて全く見えないが……。
おっと、リゼットがジト目で睨みつけてきた。
なぜ考えていることがわかってしまうのだろう。
長年の経験なのか女性の感なのか。
顔の汗を拭うふりをしてごまかした。
……
「リゼットは膝の上ね」
体を洗い終えたリゼットは、言うまでもなく俺の前に座る。
小さな体のリゼットは抱きかかえるとすっぽりと収まってしまう。
フィーナとティアーヌも自然と俺の左右に浸かる。
前はフィーナとティアーヌの胸ばっかり触ってたら、リゼットがご機嫌ナナメになってしまったからな。
今回は、リゼットをゆっくりと堪能することにしよう。
小さな胸やお腹の柔らかな感触を楽しむ。
「ご主人様はホントエッチ」
と、言いながら嫌がりはしない。
そんな風にリゼットとイチャついてると、左右から腕を絡ませてきた。
「二人共、胸があたってるぞ」
フィーナは恥ずかしそうにうつむきながらも腕をギュッと締め付ける。
「にゃーの感触はどうかにゃ?」
ティアーヌは、わざとムニムニと押し付けてくる。
そんな二人を見て、リゼットは俺の方に向き直ると首に腕をまわす。
「もぉ、ご主人様はおっぱいに弱いんだから」
不機嫌な表情をしながらも、首に回した腕を引き締めると、小さいながらも柔らかい乳房が俺の胸との間でムニッと潰れる。
自然と顔が近くなり、お互いに言葉を発する必要もなく口づけを交わした。
途端に左右の腕の締め付けが強くなる。
「あー、リゼットだけズルいにゃ」
「私もしたいです……」
こうして、お風呂での至福のひとときが過ぎて行った。