高熱
目を開けると見知らぬ天井だった。
あれ?
ここ、どこだっけ?
頭がぼーっとして、記憶が曖昧だ。
えーっと、会社から帰って明晰夢、見ようとしてたんだっけ?
でも、俺の家じゃないな。
「ご主人様、どうかしましたか?」
黒髪の女の子が、俺の顔を心配そうに覗きこんできた。
何この子、すげーかわいい。
誰だろう?
看護婦かな?
ひょっとして、明晰夢を長期間見すぎて病院送りになったか?
ネットでそんな人がいたって書いてあったしな。
でも、今、ご主人様って言ってたような?
いや、聞き違いだよな……。
とりあえず、元気な様子を見せるために起き上がろう。
と思ったら、左腕が重い。
見てみると、さっきの子と同じぐらいかわいい茶髪の子が、俺の腕を枕にして眠っていた。
顔の距離がめちゃめちゃ近い。
え?
どういうこと?
添い寝されてるの?
視線を下に向けるとネグリジェのような服を着ている。
すげぇ巨乳だ。
いや、このサイズなら爆乳だな。
どう考えても看護婦じゃないよな?
うー、頭がまわらない。
体もだるくて熱い気がする。
「ご主人様、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
今度は、幼い女の子が覗き込んできた。
銀髪の美少女だ。
ロシア人とかヨーロッパ人かな?
っていうか、こんなかわいい子たちに囲まれる状況なんてあるわけないよな?
やっぱり、ご主人様って言ってるし……。
そうか、これは夢だな。
明晰夢に違いない。
それなら、何しても問題ないな。
右手で銀髪の子の頭をつかむと、引き寄せてキスする。
ちょっと驚いた様子だったが、大人しくしている。
やっぱり、夢だな。
そうじゃなかったら、抵抗されているはずだ。
「あー、私まだキスしてないのに……」
黒髪の子が残念そうに声を上げた。
しばらくキスしてると、銀髪の子は目を見開いて勢い良く離れた。
ああ、もっとしてたいのに……。
でも、この感触は前に感じた事があるような……。
頭がくらくらする。
「ご主人様が熱いわ! 熱があるの?」
銀髪の子は焦りながら、額に手を当てて体温を確認してきた。
「やっぱり熱がある。大変!」
「ご主人様に熱があるにゃ?」
騒がしさに、茶髪の子も起きたようだ。
改めて見るとめちゃくちゃかわいいな。
「えっ! どうしたらいいんですか?」
黒髪の子がどうしたら良いか分からずに、わたわたと手を振る。
なんか微笑ましい。
あれ?
俺に熱があるのか?
夢の中で熱にうなされるなんてあるのか?
「とりあえず、頭を冷やすにゃ、水を汲んできてほしいにゃ」
「わかった」
黒髪の子は急いで部屋から出て行った。
「何の病気かしら? 重い病気じゃないわよね?」
茶髪の子が手をかざすと手が光り、だるさが少しとれた。
医者のように、胸に手を当てたり、目を見たり、心音を聞いたりしてきた。
こんなかわいい子に色々と触れれるとすごいドキドキする。
「疲れから来る熱だにゃ。しっかりと冷やして安静にしていれば大丈夫だにゃ」
「ほんとうに大丈夫でしょうね?」
「教会で病人の看護もしてたから間違いないにゃ」
「そう……。助かったわ。あたしじゃ原因までわからないもの」
なんだか分からないが、あまり心配をかけるのも申し訳ない。
そう思って起き上がろうとするが、すぐに制止された。
「寝てなきゃ駄目にゃ」
「そうよ、ご主人様に何かあったら大変だもの」
「水を汲んできました」
黒髪の子がタライにいっぱいの水を床に置く。
「今度は、お薬とすり鉢を買ってきてほしいにゃ」
そう言って、メモを書いて黒髪の子に渡した。
「はい、お金も忘れないでね」
「急いで買ってきます」
黒髪の子は疾風の如くの速さで部屋から出ていった。
無駄がなく静かだ。
その動きに見とれていると、銀髪の子が俺を起こして、服を脱がそうとしてきた。
うー。
女の子に服を脱がされるのは恥ずかしいな。
っていうか夢だからいいのか……。
いや、夢なら熱があるわけないし……。
いかん、混乱してきた。
「自分で脱げるから大丈夫です。ここは病院ですか?」
「びょういん? ってなんだにゃ?」
茶髪の子が不思議そうにキョトンとした。
「えっ? じゃあ、ここはどこですか?」
「ご主人様! まさか、記憶をなくしたの! あたしが誰かわかりますか?」
銀髪の女の子が顔を近づける。
近い。
そして、すごいかわいい。
「ごめん、キミみたいな可愛い女の子が知り合いにいたかな?」
恥ずかしさで顔を逸らしながら言うと、二人の女の子が暗い顔になる。
「ご主人様! にゃーも忘れちゃったにゃ?」
「うーん。思い出せない。くらくらして頭が回らないんだ」
「こんな病気ってあるのかしら?」
「聞いたことないにゃ……。とにかく、汗を拭いて安静にしてもらうにゃ」
彼女たちが俺の体を拭くてくれる。
自分でやると言っても、拒否されてしまった。
「頭を冷やすから、ご主人様は安静に寝ると良いにゃ」
「うん。ありがとう。寝ればすぐに良くなると思うから大丈夫だよ」
しばらく休んでいると、黒髪の子が戻ってきた。
買ってきたものは錠剤ではなかった。
草や木の根のようなものだ。
漢方なのかな?
茶髪の子は手際よく、薬草と木の根をすりつぶし水に溶かす。
「ちょっと苦いけど、我慢するにゃ」
ちょっと所ではなくかなり苦い。
そして、すごくまずい。
危うく、むせて吐き出すところだった。
「これはとんでもない味だな」
「体にいいんだからちゃんと飲むのよ」
銀髪の子は幼い外見に、似つかない母親の様な表情と口調で俺に言ってきた。
それは、俺を不思議と安心させた。
薬を飲んで横になると、薬のおかげかすぐに眠りについた。
……
……
気が付くと、真っ白な空間にいた。
また、女神か?
そう思ったが、近くに青と緑のモヤがあった。
女神の時には光だったから違うか。
「…………俺……い…力を……るん…ろう…」
「……人様…頑………る」
「あ……………ってるの…… …とイ………チャし…るだけ………いか」
「大………信……」
「ま……お前……うんだ……間違い………だろ……ど」
モヤ達が話しているようだが、途切れ途切れの電話のように聞き取りづらい。
「あの、あなた達は誰ですか?」
モヤ達も俺の存在に気づいたようで、こちらに視線を向けた。
実際に、目があるわけではないが、なんとなく見られている感じがする。
「…れ… ………として…俺……気……てくれ…… さ……と力…解…し……れよ」
何か語りかけているようだが、やっぱり聞き取りづらい。
「あの、聞き取りづらいんですが……」
モヤは、もぞもぞと近寄ってくる。
「………様…見……ない」
「何……………喜……よ」
「……少……時間………」
やっぱり聞くのは無理みたいだ。
……
……
目を開けると見慣れた天井だった。
フィーナが覗き込んでくる。
いつものおはようのキスかと思い待っているが、一向にキスしてこない。
「私が誰か分かりますか?」
「? フィーナだろ?」
「良かった。私は覚えててくれたんですね」
不思議に思い起き上がる。
「あれ? リゼットもティアーヌもなんで服着ているんだ?」
寝起きならネグリジェのはずだ。
というか、周りを見ると明るい。
寝過ごしちゃったのか。
「あたし達も思い出したんですね?」
「良かったにゃー」
ティアーヌが喜びながら俺の額に手を当てた。
「熱も下がってるにゃ。薬が効いたみたいだにゃ」
「熱?」
あっ!
なんか思い出してきた。
朝、熱のせいで記憶が混乱していたみたいだ。
あと、変な夢を見たような気がするけど……。
こっちは、思い出せないな。
「ああ、朝のことは思い出した。迷惑をかけたな」
「迷惑だなんて……。ご主人様が良くなって本当に良かったです」
フィーナは目を潤ませて俺の手を両手でキュッと握った。
「はいはい。嬉しいのはわかるけど、ご主人様はもう少し休んだほうが良いわ」
フィーナは残念そうに俺から離れる。
まだ、だるさが残っていたので、大人しく横になった。
【あとがきおまけ小説】
「そういえば、あたしが誰か分からずにキスしたのよね……」
「そうだにゃ! ご主人様は誰とでもいきなりキスするのかにゃ!?」
「見知らぬ女性にいきなりキスするのは良くないと思います」
「いや、あれは、夢かと思ってたんだよ!」
「ほんとうかしら」
三人から冷たい目で見られた……。