盗賊ギルドと魔法院(後編)
「昨日の魔法院はどうだった?」
魔法院への道すがらリゼットに聞くと、ため息を付きながら答える。
「うまくないわね。
あたしは研究はできるけど子供の扱いがヘタだし、ティアーヌは研究が出来ないけど子供の扱いがじょうず。
結果的にあたしがランセットと、ティアーヌがローリアナと一緒に居る事が多いわ」
「それじゃあ、あべこべじゃないか」
本来は、上級破壊魔法使いのランセットがティアーヌに、上級変性魔法使いのローリアナがリゼットに教えるはずだ。
「そうなのよね。ランセットの研究はいまいち目標がはっきりしないし、ローリアナは子供だから人に教えるのがうまくないし、今後が心配だわ」
リゼットが改めて深い溜息をつく。
「基本的な学習は魔法院の授業を受ければ教えてもらえるから問題はないんだけど、上級魔法使いに教えてもらってる意味がないわね」
「そうか……、難しい問題だな。
だけど、あまり焦らなくても良いだろう?
すぐに上級魔法が使えるようになるわけじゃないし、
戦力としても今は十分だし」
「確かにそうね」
「にゃーは、あの二人と遊ぶのが楽しいにゃ」
悩んでるリゼットを元気づけるように、にこやかな笑顔で会話に入ってくる。
「そうだな。ティアーヌと一緒に肩をはらずに楽しんだら良いと思う」
リゼットが顎に手を当てて少し悩んだ後、勢いよく顔を上げた。
「じゃあ、あたしも研究したいことがあるんだけど良いかしら?」
「ああ、どんな研究だ?」
「『年を取らなくなった魔法』を解除したいの」
「ん? なぜだ? せっかく不老なのにもったいないだろう」
リゼットは困ったような複雑な表情を俺に向けてきた。
口を開けたり閉めたりして、言おうか迷っている。
「リゼットはご主人様と一緒に年を取りたいと思ってるにゃ」
リゼットに、助け舟をだすようにティアーヌが言ってくる。
そうか、年を取って俺がおじいちゃんになってもリゼットは今のままだもんな。
もちろん、若いままのリゼットなら大歓迎だが、本人としては複雑な気持ちだろう。
「すまん。リゼットの事を考えずに無神経なこと言ってしまった」
「ご主人様が謝ることはないわ。
昔のあたしは年を取らなくても別に気にしてなかったの。
でも、今は、その……。
すっ…好きな人と…一緒に年を取りたいと思うようになったの」
リゼットは顔を赤らめながら上目遣いで、俺の顔をうかがいながら言った。
「俺は今のままでもいいし、リゼットが望むなら年を取るのも良い。
年上に言うセリフじゃないけど、リゼットならかなりの美人になるだろうな」
お世辞じゃなく、かわいいリゼットなら美人になるのは決まったようなものだ。
大人の姿になったリゼットを想像しニヤニヤしてしまう。
「もう、ご主人様ったら」
リゼットは恥ずかしそうに俺の太ももをペシリと叩いた。
……
……
食事を終えてベッドに寝転ぶ。
今日は、右側にティアーヌ、左側にフィーナだ。
「ティアーヌは子供の扱いもうまいんだな」
魔法院でローリアナと遊んでいる姿を見てたが大したものだった。
子供と同じ視線に立ちながら、間違ったことは指摘する。
わがままなローリアナにきちんと教育をして、後片付けや簡単な勉強もさせていた。
「教会で子供の世話をしてたのが役に立ったにゃ」
照れくさそうに、頬を染めてポリポリと掻いている。
「料理も掃除もうまいし、すごい助かるよ」
その言葉に、普段から明るいティアーヌの表情がさらにパーッと明るくなる。
コロコロと変わる表情は見てて楽しい。
こっちまで元気になってくる。
「ご主人様の役に立てて嬉しいにゃ。もっとがんばるにゃ」
頭を撫でつつ猫耳をさわさわと触ると、顔をスリスリとこすりつけてくる。
「ティアーヌが来てから家の掃除が早く済んで、とっても助かってるわ」
「むー。私はもっと家事を頑張らないと」
リゼットは家事をそつなくこなすが、フィーナはかなり苦手だ。
小さな頃から盗賊団にいるから、家事とかを教えてくれる人はいないだろうし、やる必要もなかったのだろう。
「それにしても、ご主人様がいないと寝にくいわね」
リゼットはゴソゴソと寝やすい姿勢を探しているが、しっくりこないようだ。
「ダンジョンでは一人で寝てたんじゃないのか?」
「そうだけど、ご主人様と寝るようになってからすっかり体に染み付いちゃったみたいね」
まあ、俺も二人を抱えて寝るのが当たり前になっているから、一人で寝るとなると物足りないだろうな。
「ご主人様の腕枕は最高だにゃー」
ティアーヌが、俺の腕に手を這わせつつ頭をグリグリと押し付けてくる。
「一日ぶりだけど、懐かしい感じ。ご主人様と一緒に寝るとすごく安心します」
フィーナは、うっとりとした表情をしている。
家に帰ってから妙に機嫌がよく、ニコニコしていたがもしかして……。
「ひょっとして、今日機嫌がいいのは俺の隣で寝れるからか?」
「え? そんなに嬉しそうにしてましたか?」
フィーナの顔がかぁっと一気に赤くなる。
「そっ、そうです。昨日はすごく寂しかったので、夜が待ち遠しかったのです……」
最後の方は消え入りそうな声でつぶやくように答えた。
まさか、それほど楽しみにしてくれていたとは、なんて可愛いやつだ。
フィーナの体をギュッと抱き寄せると、目をつぶって体をすり寄せてきた。
「あたしも明日はいっぱい甘えてやるんだから」
不満気な表情のリゼットがぼそっと、そんなことを言った。
寝る場所をローテーションさせることで、俺の隣で寝ることの価値が上がったらしい。
平等にするために始めたことだが、妙な効果があったようだ。
隣で寝れないリゼットは可哀想なのでいつもよりじっくりと愛してあげた。
これからは隣で寝れない子にはじっくり愛してあげるようにしよう。
そうすれば、少しは寂しさも紛れるだろうから。