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異世界

 目が覚めると、昨日と同じ天井があった。

 良かった、現実世界には戻ってない。

 しかし、ベッドにはフィーナの姿はなかった。

 消えてしまったのでは?

 そんな不安を覚えながら起き上がる。


「おはようございます」


 彼女の声だ。

 声の方向を見ると確かにいた。


「昨日、装備の手入れしませんでしたね?

 剣に血がついたままでしたよ」


 ちょっと怒った感じで言いながらも、やさしい微笑みをくれる。

 早めに起きて、剣と鎧の手入れをしてくれたようだ。


 ベッドから降りると近づく。

 フィーナは無言でいる俺を不思議そうな顔で眺めた。

 俺は優しく抱きしめる。

 少しびっくりしてたが、無言で俺の背中に手を回してくれた。

 顔を近づけ、やさしくキスをする。


 キスを終えた後に目をまっすぐ見つめる。

 しばらく見つめあうと、恥ずかしくなったのだろう。

 顔を赤くして横を向いてしまった。


「今日はこれからどうするんですか?」

「村長の家に行こう。賞金をもらうのと、盗賊が残した物の整理をしなきゃな」


 剣と鎧を着て村長の家に向かう。

 村の広場には、村長と衛兵らしき人が話していた。


「ユウキ様、ちょうどよかった。

 衛兵の方々に、盗賊団の確認をしてもらっていたのです」


 村長が、にこやかに話しかけてくる。


「あなたが、ユウキ殿ですな?」


 衛兵の問いかけに、そうだと答えた。


「盗賊団だが、懸賞金がかけられているドガルナバ盗賊団に間違いないことが確認できた。

 それから、生き残った盗賊は、その後ろの女か?」


 村長からフィーナの事を聞いたらしい。

 俺はうなずく。


らえられた犯罪者は、らえた者の所有物になる。

 もし、犯罪者が再度犯罪を行った場合、所有者も責任が問われるので気を付けるように。

 また、犯罪者を国に引き渡さないと賞金は出ない。

 その女に関してはどうするか?」


 なるほど、ただらえただけでは賞金はもらえないのか。

 当たり前か、逃がしたらまた犯罪を犯す可能性があるんだからな。

 所有者に対する責任も、そのためのデメリットなんだろう。


 考えていると、フィーナが心配そうに、顔を覗き込んできた。

 俺は慌てて答える。


「この女に関しては俺が責任もって管理する」


 衛兵は頷くと、紙に何かを書きだした。


「この紙を冒険者ギルドに持っていけば、賞金がもらえる」


 盗賊団の詳細が書かれた紙を渡してきた。


「あと、盗賊たちの所持品についても、ユウキ殿の物になる」


 言っていることは、村長が説明してくれたことと同じだな。

 逆を言えば、村長は嘘をついたりごまかしたりしていないということだ。

 衛兵は一通り説明を終わると帰っていった。


「では、商人を呼びましたので、盗賊の所持品の確認をお願いします」


 所持品が並べられた場所に行くと、商人が説明しだす。

 盗賊の持っていたものには、それほど貴重品はなかったらしく、ほとんどが皮の装備とショートソードだった。

 一つだけ貴重品だったのが、そよかぜの指輪という少しだけ動きが早くなる魔法の指輪だ。

 その中から、フィーナの装備一式と、俺の剣と鎧以外の装備をもらい、他の装備は商人に買い取ってもらった。


 買い取りの料金と盗賊が持っていたものと合わせて、金貨が1枚と、銀貨12枚、銅貨52枚。

 あとは、ポーションが5個とトーチが10本、リュックサックが1つ。


――――――――――――――――

ユウキ

装備 両手剣(名前不明) 鎧(名前不明) 革の帽子 革の靴 革の小手 そよかぜの指輪


フィーナ

装備 ショートソード バックラー 革の鎧 革の帽子 革の靴 革の小手 ダガー×2

――――――――――――――――


 これが俺の全財産だ。

 一通りの整理が終わると、商人は街に仕入れに行くから馬車に乗せてくれるという。

 その言葉に甘えて街に行くことにした。


 村長に別れの挨拶とお礼をした後、馬車に乗って街へ向かった。

 街につくと、商人に冒険者ギルドの場所を教えてもらい別れる。


「賞金を受け取りに、冒険者ギルドに行くか」


 フィーナはおとなしくついてくる。


「昨日も言ったが、俺はこの国に来たばかりで知らないことが多い。

 冒険者ギルドでは何が出来るんだ?」

「冒険者ギルドは、名前の通り冒険者を支援するための場所です。

 装備品や道具の販売や、冒険で手に入れた宝石や貴重品の買い取り、宿の手配、仕事の請負と斡旋、後は賞金の支払いなどを行っています」

「なるほどな、冒険に必要な物ならとりあえず冒険者ギルドに行けばいいのか」


 冒険者ギルドにつくと、さしたる手続きもなく賞金が受け取れた。

 団長と盗賊11人で、金貨31枚と銀貨10枚。


「結構もらえたな」


 価値がよくわからないが、とりあえず言っておく。


「さて、これからどうしようか?」


 フィーナに聞いてみる。


「ご主人様の行くところであればどこへでもいきます。

 もし予定がないなら盗賊団のアジトはどうでしょう?」

「盗賊のアジト?」

「さっき賞金をもらった盗賊のアジトを知っています。

 私が住んでたところですから。

 そこに行けばアジトに残っていた副団長と盗賊3人がいるはずです。

 全員倒せば追加の賞金とアジトにある宝物がもらえて、一石二鳥だと思います」

「なるほど」

「あと、ついででいいのですが、私の持ち物もあります」

「フィーナの私物しぶつがあるなら、なおさら行ったほうがいいな」

「ありがとうございます」

「よし、案内してくれ」


 フィーナは言われると、ちょっと悲しそうな顔をした。


「どうした? 嫌だったか?」

「いえ、あの……。パーティーには入れてもらえないのでしょうか?」

「パーティー? フィーナはもう俺の仲間だろ?」


 何を言っているのかわからず質問する。

 フィーナは困惑した表情で聞いてくる。


「ご主人様は何者なのでしょうか?

 高そうな剣と鎧を持っていますし、貴族なのかとも思いましたが、貴族だろうと冒険者カードの存在を知らないとは思えません」


 冒険者カードが何なのかわからないが、普通は知っていることなのか。

 やはり、彼女にはきちんと話したほうがいいだろう。


 人の通りの少ない場所まで移動する。

 あまり、他人に聞かせる話ではない。

 しばし、どう答えるか考える。

 いつまでも『遠くから来た』で、ごまかすのは難しいだろう。

 それに、フィーナには、できるだけ正直に話したい。


 まずは、ここが夢かどうかだが。

 これについは、おそらく夢ではないというあたりはついている。

 リアルな戦闘、睡魔、そしてフィーナの存在だ。

 これらが夢だとは到底思えない。


 昨日は忘れていたが、夢であるか確かめる手段は簡単だ。

 夢を操作してみればいい。

 空を飛んでみるとか、食べ物を出してみるとか、美少女を出してみるなどだ。


 夢を操作しようと念じてみる。

 何も起こらない。

 もう一度、丁寧にゆっくりと意識を集中させる。

 やはり何も起こらない。

 つまり、ここは夢ではない。

 異世界だ。


 フィーナは実在する。

 確信が持ててほっとした。

 初めての恋人といえるような相手が妄想ゆめでなくてほんとに良かった。


 次は、どうやって説明するかだ。

 別の世界から来たというのはさすがに信じられないだろう。

 おかしな人と思われて嫌われたくもない。


 彼女は、長く考え込んでいる俺を心配そうに見ている。


「実は俺は記憶をなくしているんだ」

「記憶喪失なんですか?」


 記憶喪失というのはこの世界でも一般的らしい。


「昨日の盗賊団が現れたとき以前の記憶がない」

「では、なぜ盗賊団に向かっていったのでしょうか?

 それに、英雄がどうとかと言ってましたが……」

「それは、気が付いたときに天啓があったのだ。

 お前は英雄になる存在だと」


 とっさに答えてしまった。

 これもかなりおかしな発言だが大丈夫か?


「すごい剣の腕ですし、英雄になるべくして育てられたのかもしれませんね」


 そういう考え方もあるか。

 だけど、フィーナはちょっと変な子なのかもしれない。


「それと、記憶はないのだが、はるか昔の別の世界の記憶がある」

「前世の記憶ですか?」

「……そうなのかもしれない。

 なので、おかしな発言や、普通はないような知識があるかもしれない」

「わかりました。ご主人様は私を助けてくれました。今度は私が助ける番です」


 納得してくれてホッとする。

 単純な子でよかった。


 まあ、完全に本当のことを話したとはいえないが、かなりの部分を説明しただろう。

 もしかしたら、現実だと思っていた自分こそが、夢の存在だったのかもしれない。

 これについては、証明する手段など存在しないだろうな。


「とにかく、今の俺にとってはフィーナだけが頼みの綱だ」

「私に任せてください!」


 そう言われて素直に喜んでいる。


「では、盗賊団を倒すための準備をしよう。

 俺は何が必要かわからないから頼む」


 再び冒険者ギルドを訪れると、冒険者カード、依頼カード、食料、水、フード付マントなどを購入した。


「冒険者カードですが、これを使用するとパーティーの編成とか仲間のステータスの確認ができます」


 なんかRPGロールプレイングゲームみたいだな。


「カードを持って『パーティー追加、フィーナ』と言ってください」


 言われたとおりやってみる。

 フィーナが「入ります」と応える。

 そうすると冒険者カードにステータスが出てきた。


――――――――――――――――

ヤスナガ ユウキ 23歳 男 LV 50

ジョブ ヒーロー

HP 343

MP 332

スキル


フィーナ 17歳 女 LV 19

ジョブ シーフ

HP 121

MP 36

スキル 罠解除 カギ解除 隠密 バックスタブ

――――――――――――――――


「ジョブのヒーローとはどんな能力があるんだ?」


 聞きながら冒険者カードを見せる。


「50レベル!?」


 そっちのほうが気になるようだ。


「23歳でそんな高いレベルなんて信じられません」

「50レベルと言うのはすごいのか?」

「盗賊団の団長が32レベルのはずです。

 副団長が28レベル。

 それでも普通から見ればかなり強い人達です」


 俺は相当強い部類らしい。

 まあ、団長もノーダメージで倒したからな。


「ヒーローというジョブも聞いた事がないです」


 ヒーローは一般的な職業ではないのか、要するに英雄だものな。

 でまかせで言ったとおり英雄として生まれたらしい。


「普通はHPかMPのどちらかに偏るはずですが、ご主人様は両方共かなり多いようです」


 彼女のMPは36しかないから普通はそうなのだろう。


「スキルは何もないな」

「スキルはレベルが高い人に教えてもらったり、スクロールを読むことで覚える事ができます。

 MPの高いご主人様なら魔法も使えると思います」


 なるほど、スキルは学習式なのか。


「フィーナはシーフか、バックスタブ?」

「背後から攻撃できれば大きなダメージを与えられます」


 シーフというかアサシンのようなスキルだな。

 フィーナが言ってたことは本当のようだ。

 怒らせないように気をつけよう。

 後ろからバッサリなんてゴメンだ。


「まあ、そのへんの話は、また後で詳しく聞こう」

「そうですね。日が高いうちにアジトに行きたいので早速向かいましょう」


 街を出ると盗賊団のアジトに向かう。


 街道を歩いているとフィーナが手を握ってきた。

 びっくりして顔を見る。

 顔をそらしているが、頬がほんのり赤い。

 握り返す。

 もっと赤くなる。

 これはひょっとしてデートというやつなのか?

 行き先は盗賊団のアジトだがデートに違いない。

 やることは討伐だがデートに決まっている。

 人生で初のデートだ。

 歩くのがちょっとぎこちなくなってしまう。


 2時間ほど歩くと、山の中にある盗賊のアジトについた。

 山中は人目がないので、5回もキスしてしまった。


 遠くから見ると見張りが1人立っているのがわかる。

 こっちには気づいてないようだ。


「これから見張りの死角に行きます。

 合図をしたら草を揺らすなどして音を出してください」


 フィーナは音も立てずに、見張りから見えない位置に近づく。

 さすがに隠密のスキルを持っているだけはある。

 草が生い茂っているのに音がでないのは、技術ではなくスキルのおかげなんだろう。

 合図か来たので草をガサガサと揺らして音を立てる。

 見張りが様子を見に近づいてきた。

 フィーナに背中を見せた瞬間に一撃を与えると、見張りは崩れ落ちた。


 フィーナはやはり恐ろしい。

 怒らせないようにしようと心に誓った。


 手招きをして、来ても大丈夫だと合図してくる。


「流石だな」

「ありがとうございます」


 小声で話しながらも、フィーナは扉を調べてカギを開けた。

 自分の住んでた所とはいえ手際がいい。


「二人は不意打ちで倒します。

 副団長には不意打ちは効かないと思うので対処をお願いします。

 あと、副団長は団長と違って、シーフではなくファイターです。

 少し強いかもしれません」


 レベルは低いが戦闘に特化したジョブだから強いということか。


 しかし、そんな心配の必要もなかった。

 盗賊の二人はフィーナのバックスタブで一撃だし、副団長についても団長とほとんど違いがわからないレベルだった。

 フィーナが援護している分簡単に倒せた。


「なんの心配もいりませんでしたね」

「フィーナが手伝ってくれたおかげだ」

「いえ、ご主人様の剣の腕のお陰です」


 お互いに褒め合う。

 何となく照れくさい。

 抱きしめたくなっちゃう。


「そういえば依頼カードに記録されるんだったな」


 カードを見ると倒した相手の名前の色が赤くなっていた。

 依頼カードという魔法のカードを使えば、衛兵の確認がいらないらしい。

 カードのレンタル料に銀貨10枚いるが、返却すれば戻ってくる。


「冒険者ギルドで渡せば賞金がもらえます」

「お宝はどうする?

 数が多いから一度では運べそうにないが」


 剣や装備品など大きなものも多い。


「リュックサックを使えば大丈夫です」


 冒険用の袋は魔法がかかっていて、規定の個数なら大きさも関係なく入れられるらしい。

 アジトの中はフィーナが知っているので、あまり時間をかけずにお宝をいただく事ができた。


「フィーナの私物はあったのか?」

「はい、親の形見です」

「そうか」


 形見ってことは、両親は盗賊どもに殺されたのだろう。

 アジトに来てよかった。


 帰り道も手をつないで歩いた。

 4人も殺したがデートだ。


 街に帰る頃には日が傾き始めていた。

 冒険者ギルドに戻ると賞金をもらい不要な物を売る。


 手に入れたのは、金貨23枚と銀貨62枚、銅貨45枚、宝石の入った袋、硬化の指輪、あとは冒険に必要な雑貨が多数だ。

 宝石は売ってもいいが、持ち運びに便利らしい。


「もうすぐ日が暮れるので宿を取りましょう」


 冒険者ギルドでおすすめの宿屋を教えてもらい、食事をして部屋に入った。

 当然ベッドは1つだ。

 ちょっと狭いがそれぐらいが丁度いい。


「明日はスキルを調べたり、装備を見て回ったりしたいな。

 冒険者ギルドで仕事を探すのもいいか」

「今のお金でも数年は暮らせると思いますよ」


 そんな大金だったのか、まあ有名な盗賊団を殲滅したのだから当たり前か。

 しかし、これからもこの世界で生きなければならない。


「知識は早めに得ておかないと。時間を無駄にはしたくない」

「ご主人様は真面目ですね」


 フィーナは楽しそうに言うとキスをしてきた。

 山の中とは違うたっぷりと時間を掛けたキスだ。


「体を拭いてあげようか?」


 宿屋からお湯をもらってたので提案してみた。

 恥ずかしいからダメだと言われた。

 そのわりには俺の体はフィーナが拭くらしい。

 不公平だ。


 仕返しとして、体中をたっぷりとねぶってやった。

 もう入れてと懇願されてもじっくりと舐めまくってやった。

 俺が入れるまでに3回は絶頂を迎えていただろう。


 愛を確かめ終わった後に、横になっていると一日の事が色々と思い出される。

 俺が異世界に来ていること、フィーナが現実にいること。

 俺は生まれ変わったのだ、そして可愛い彼女もできた。


 俺はこの世界で生き抜こう。

 そう誓った。


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