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盗賊ギルドと魔法院(中編)

「さて……、邪魔者もいなくなりましたし案内しますわ」


 リュナは楽しそうに歩き出す。

 その足取りは軽やかだが、動きに隙がなく足音もしない。


「ご主人様、彼女は強いです」


 フィーナがすぐに忠告をしてくれる。


「ああ、わかってる」


 その動きから只者でないことは俺でもわかる。


 幾つかの部屋を案内された。

 鍵開け、罠はずし、聞き耳など様々な技術を訓練するための練習部屋だ。

 鍵開けや、罠はずしは、不思議な器具や装置が色々あり見てるだけで楽しかった。

 思わず子供のようにはしゃいで、道具の使い道を聞いてしまったほどだ。

 リゼットに子供っぽいと指摘されて恥ずかしかった。


「ここが、戦闘訓練場です。シーフなどは主にダンジョンや屋内などで障害物を駆使して戦うので、色々な物が置いてあります」


 剣の訓練場とは対照的に、家具や壁があり見通しが悪くなっていた。

 映画のセットのように、広間の中に吹きさらしの部屋がある。


「なるほど、ここで戦うならフィーナでもジョジゼルに勝てるかもしれないな」

「あら? 剣聖の弟子に勝つつもりなんですか? さすがに難しいと思いますよ」


 リュナが黒色の長い三つ編みを揺らしながら楽しそうに笑う。


「そうなんですか……。やはりレベルの高い戦士は強いんですね」

「そうよ。ご主人様は自分を基準に考えすぎね。フィーナは強いけどさすがにあのレベルで戦うのは無理よ」 


 リゼットが呆れた顔で忠告してきた。


「まあ、わたくしみたいに高レベルのアサシンなら出来ますがね」


 リュナは余裕の表情だ。


 高レベル…‥。

 ってことは見かけによらず年齢は上なのだろうか?

 それとも、若くして高レベルになれるほどの才能の持ち主なのか?


「ここで訓練したらフィーナも、もっと強く慣れそうだな」

「はい。ご主人様は普通に戦えれば強いので、こういったご主人様が戦いにくい場所での訓練の方が良さそうですね」


 フィーナも納得したらしく嬉しそうな顔をしている。


「わたくしが稽古をつけてあげましょうか?」


 リュナが満面の笑みで言ってきた。

 しかし、フィーナは警戒している。

 気持ちはわかる。

 リュナは笑みを浮かべているが、どことなくわざとらしくイマイチ信頼していいかわからない。

 とりあえず、当り障りのない回答をして置くか。


「そうですね。機会があればお願いしたいです」

「わたくしはいつでもよろしくてよ。それとも、信用が置けないかしら?」

「あら? 意外と素直なのね。もっと、含みをもたせた話し方をするかと思った。それで? 見返りに何を要求するの?」


 リゼットが意外そうな顔をした後に、真面目な顔でリュナに問いかけた。


「ふふふ、駆け引きをするのがお好みかしら? 交渉事は人に聴かせるのは良くないですし、商談室に行きましょう」


 そう言って、複数の部屋が並ぶ場所の一室に案内された。

 十帖ほどの簡素な部屋でテーブルと椅子が置いてある。

 会議室のような雰囲気だ。


「防音も完璧でシーフが見張ってますし、この部屋で話したことは漏れることはないんですよ」

「それは便利ですね」

「普通は料金がかかるんですが、ユウキ様なら無料で使えますよ」

「ありがたい。今後は利用させてもらいます」

「ええ、ぜひそうしてください。ユウキ様は注目の的、いつどこで誰が聞いているかわかりませんからね。たとえ家だとしても……」


 えっ!

 まさか、家が監視されてるのか?

 まあ、聞かれて困るような話はないと思うけど。


「大丈夫よ。ギルドが貸し出してる家に対してそんなことする人はいないわ。少なくとも盗賊ギルドの人間はやらないわね」

「はい。私が知るかぎり家の周りで不審な人はいません」

「ね? フィーナが言っているんだから間違いないわ」


 良かった。

 秘密はともかく、夜の生活が筒抜けだったら恥ずかしくて死んでしまう。


「しかし、フィーナはそんなことまで判るのか。さすがだな」

「ありがとうございます」


 そんな俺達を見て、リュナは楽しそうにクスクスと笑っている。


「ふふふ、さすがに優秀なシーフがいるとわかってしまいますね」

「初めから、バレるとわかった上で言っているくせに。無駄な駆け引きなんてわざわざしなくて良いのよ」


 リゼットは呆れ顔だ。


「ごめんなさいね。ユウキ様の反応がかわいいから」


 どうやら俺をからかっていたらしい。

 なんか恥ずかしいな。


「ご主人様をバカにすると許さわないわよ」


 リゼット達は一斉にきつい目線をリュナに向けた。


「あら? ユウキ様は大切にされてるのね。申し訳ありません。別にバカにしたわけじゃないの。頭は良さそうなのに珍しいほど純粋な人なのでつい」


『純粋』という言葉にフィーナ達はウンウンと同意している。


 俺って純粋か?

 ただの馬鹿のような気もするし、むしろ欲望だらけのエロエロマンだと思うが。


「あら、随分話がそれてしまいましたね。わたくしの欲しいものでしたよね?」


 俺が褒められて上機嫌になっていたリゼットは、恥ずかしそうにすぐに表情を戻した。

 そして、俺の代わりにリュナと交渉してくれる。


「ええ、そうね」

「簡単ですわ。お金です」

「なんだ、そんなことなの」

「お金は大切ですわよ。ユウキ様みたいに強ければ簡単に稼げるかもしれませんけどね」

「あなただって、お金に困るようには思えませんけどね」

「お金はいくらあっても満足することはないんですよ」

「まあ、良いわ。そんなことで解決するなら問題無いわね。もっと変なことを要求されるかと思って心配して損したわ」

「お金って世の中で、一番重要で安心できるものですのよ。あなた達だってお金が目的と言われて安心したでしょ? だから良いのです」


 まあ、ちょっと前にお金が無くて困ったからな。

 大切なものであることは間違いない。

 でも、今はそれよりフィーナたちのほうが大切だからな。

 お金ならいくらでも賭けても良い。


 そんなことを考えながらフィーナたちを見ていると、リュナは楽しそうに笑った。


「リゼットさん達は、ユウキ様に愛されてますのね。うらやましいわ」


 う!

 なぜ考えていることが、わかったんだ。

 恥ずかしい。


「ご主人様をからかわないでくれる?」


 リゼットがジトッとした目線をリュナに向ける。


「あら、わたくしったらつい。かわいくて」


 うう。

 見た目は若いけどやっぱり年齢はけっこう上なのかもしれない。

 年上の女性に良いように扱われている気分だ。

 すげー恥ずかしい。

 さっさと会話を切り上げよう。


「まあ、ともかくお金でフィーナの指導をしてくれるなら問題無いです。あまり高額を請求されると困りますがね」

「ええ、商談は成立ですね。では、いつでもいらしてください。適切な指導をして差し上げますわ」


 部屋を出ようとした時に、リュナが思い出したように言ってきた。


「そうだ! サービスとして一つ情報を差し上げますわ。とは言っても、すぐに冒険者ギルドに張り出されるでしょうけど、最近国境付近でモンスターの湧き出すダンジョンが発見されたようですのよ」

「ダンジョンですか?」


 そういえば、まともなダンジョンなんて行ってなかったな。

 修行ついでに行ってみるのもいいかも。


「ええ、攻略をすれば多くの報奨金が貰えるでしょうし、気になるなら挑戦してみるのもいいかもしませんね」


 そんな感じで、案内は終わり受付まで戻ってきた。


「では、わたくしはこれで。失礼致します」

「ありがとうございました」


 挨拶が終わりリュナと別れると、カジミールが物珍しそうに俺に話しかけてきた。


「へー。リュナさんがあんなに楽しそうにしているのを久しぶりに見たな」

「そうなのか?」

「ああ、ユウキ達に何もなくてよかったぜ。心配の必要はなかったな」

「俺達を心配してくれたてたのか」

「当たり前だろ。冒険者仲間なんだから」


 カジミールはやっぱりいいやつだな。


「それにしても、リュナは心配するような人物なのか。俺にはそうは見えなかったけどな」

「ああ、敵対したら執拗に攻められるからな。まあ、いい人にはやさしい人だからユウキなら問題なかったな」

「そうなのか、警戒しすぎないでよかった」

「あとお金にがめついから、それは気をつけろよ」

「わかった。気をつけるよ」


 高額な請求はしないで欲しいとは言っといたが、俺はこの世界での金銭感覚がないからな。

 お金の交渉はリゼットに任せることにしよう。


 さて、午後は魔法院に行って研究の様子でも見てみるか。


【あとがきおまけ小説】

 ユウキ達を見送ったカジミールはリュナに話しかけられた。


「ユウキって子。面白いですわね」

「そうですか? まあ、強いのに腰が低いし、世間知らずって意味では面白いですがね」

「それが良いのよ。世間知らずなんて貴族ぐらい。でも、普通の貴族なら弱いか、偉そうか、もしくは両方か。どちらにしてもつまらないわ」

「ユウキの素性はわかりませんが、貴族ではないって話ですよ」

「ふーん。貴族でなくて、あんなに純粋なのね。ますます面白いわ」


 リュナは楽しそうな笑みを浮かべている。

 それは、いつもの作りものではない真の笑みだった。


 その表情を見て、盗賊ギルドの人々はみな驚きの表情を浮かべていた。


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