強さ(後編)
困った。
しばらく、胸を貸すだけの気持ちだったが、クラリーヌが寝てしまった。
姿勢もつらいがなにより俺の理性がヤバイ。
さっきまでは突然の状況で頭が回ってなかったが、冷静に考えればかわいい女の子と宿屋で二人きりだ。
ベッドに座って抱きしめられている。
髪からはいい香りがするし、胸も押し付けられている。
この世界に来る前の女性に免疫のない俺だったら、理性を失って押し倒していただろう。
うう、どうしよう。
胸はフィーナほどではないが、けっこう大きいし弾力がありそう。
背はティアーヌより少し小さいくらいかな?
体が引き締まっていてすごい細いから胸がより大きく感じるな。
いかん、俺は何を考えてるんだ。
水色の透きとおる様なきれいな髪……。
髪を撫でるぐらいなら良いよな?
ためしに髪を触ってみる。
細くてさらさらとしてて気持ちいい。
クラリーヌが顔をグリグリと胸に押し付けてきた。
起きたのかと思ってびっくりして顔をうかがったら、まだ寝ているようだ。
ホッとして、また髪を撫でる。
今度は動かない。
大丈夫だな。
ってことは胸とかお尻とか触っても起きないかな?
おい俺、何考えてるんだ。
バレたら大変だぞ。
でも、ちょっとだけなら。
いやいや駄目だろ。
そんな葛藤をひたすら続けた。
……
クラリーヌが俺の胸から顔を離し、目をゴシゴシと擦る。
そして、ボーとした表情で俺の顔を見つめる。
三十分も経ってないだろうが、精神的には永遠に思えるほど長い時間だった。
彼女が起きてくれてホッとする。
「きゃっ! なんでユウキがいるの!?」
ドンと両手で勢い良く押されると俺はベッドに倒れ込んだ。
俺は自分の欲望に勝利した。
その代わり、精も根も尽き果てていた。
「あっ! ごめん、あたし寝ちゃってたのね」
クラリーヌはすぐに俺の腕を掴んで引き起こす。
「いや、ゆっくりできたみたいでよかったよ」
「……ひょっとして、ずっと抱きしめてた?」
「あー。……うん」
クラリーヌは顔を真っ赤に染めた後、視線をそらして早口でしゃべる。
「寝たら、お腹すいちゃった。ご飯食べて街でもぶらぶらしようか」
それから食事をして、ショッピングをしたが、あまり覚えていない。
ずっと、クラリーヌを襲わないように抑えるのに必死だったからだ。
クラリーヌは前のデートのように強引に近づいたりキスを迫ったりはしてこなかったが、俺が意識しっぱなしだった。
香り、しぐさ、胸やお尻やうなじ、とにかく彼女のすべてが可愛らしく魅力的に見えてしまっていた。
限界を迎えた俺は、襲いかかる寸前で、気分が悪いと強引に家に帰った。
彼女はすごく心配をしていたが、街中で襲いかかるよりはいいだろう。
……
家に帰るとメイド姿のフィーナが笑顔で出迎えてくれる。
「お早いお帰りですね。どうかしたん~~~~~~~」
俺は抱き締めると強引にキスする。
そのまま、ベッドに連れて行こうとして、思いなおす。
いやダメだろ俺、クラリーヌで溜まった性欲をフィーナで吐き出すなんてあまりにも失礼すぎる。
「いきなりごめん。ちょっと、休んでくる」
俺はフィーナに軽く頭をさげると、急いで寝室に向かう。
鎧を外そうとすると、後からついてきたフィーナが話しかけてきた。
「お着替えなら私がやります」
いつもの通り、フィーナが脱がしてくれる。
出来れば、自分一人で着替えたいが、頑固なフィーナは従ってくれないだろう。
あきらめて身を任せる。
「どうかしたんですか? 様子が変なのでしんぱ……」
フィーナが一点を見つめて固まった。
視線の先を追うと、俺のグレートソードが立派にそそり立っていた。
「あ、いやこれはだな」
恥ずかしくなり両手でかくして中腰になってしまう。
すると、彼女は俺の耳元に口を近づけてささやく。
「リゼットとティアーヌは魔法院に行っているので二人きりなんですよ。
だから、ご主人様にいっぱい甘えたいです」
そう言いながら俺の手をどかして、グレートソードを優しく撫でる。
俺の理性は簡単に吹き飛んだ。
……
……
目を覚ますと、ベッドの横にリゼットが仁王立ちしていた。
フィーナと激しく愛し合った後、そのまま寝てしまったらしい。
「帰りが遅くなるんじゃなかったのかしら?」
リゼットの目が怖い。
なんだかよくわからないが、焦って弁明する。
「いや、途中で気分が悪くなったから帰ってきたんだ」
「なんでフィーナと寝てるの?」
「えーと、看病してもらってたんだ」
「へー、看病するのに裸になる必要があったのかしら?」
自分とフィーナを見てみると二人共裸だった。
当たり前だ。
致した後にそのまま疲れて寝てしまったのだから。
返答に困っていると、リゼットがティアーヌに目線を送る。
するとティアーヌは弾丸のごとくしゃべる。
「ご主人様が遅いって言うからにゃー達は魔法院に修行に行ったにゃ。それなのにすぐ帰ってきてフィーナと交尾するとかどういうことだにゃ!? 部屋の中はすごい発情の匂いがするからかなり激しくやってたにゃ! ご主人様が早く帰ってくるならにゃー達も家にいたにゃ。ご主人様とラブラブしたかったにゃ。フィーナが独り占めとかズルいにゃ」
言い終わったあと、肩で息をしている。
ティアーヌには匂いでバレるから隠すだけ無駄だった。
「弁明はあるかしら?」
リゼットが仁王立ちのまま凄むが、背が小さいからちょっとかわいい。
それに、なんだかんだ言っているが、要するに俺と一緒にいたかったというのと、フィーナに独り占めされてヤキモチを焼いているという事なんだろう。
そう考えると、反省するとかよりも、愛おしさが勝ってしまう。
ヤキモチを焼かれて、むしろ嬉しい。
リゼットを抱きしめるとキスをする。
すこし驚いた顔をしたあと、ムスッとした表情に戻ったが、大人しくキスされている。
不機嫌な顔にキスをするというのも初めてだ。
でも、抵抗しないのが逆に可愛くて萌えるな。
「あー! リゼットもズルいにゃ」
今度は、ティアーヌにキスする。
ティアーヌはむしろ待ってましたという感じで、すぐに受け入れると抱きしめてきた。
「キスぐらいで、ごまかされませんからね」
仁王立ちで怒った表情を崩さないようにしているが、口元がほころんでいる。
「これからいっぱい愛してあげるから許してくれ」
リゼットの腕をつかむと自分のそばに引っ張る。
特に抵抗する事もなくベッドに上がると素直に俺に抱きしめられた。
窓から差し込む光の様子を見るとまだ、3時か4時過ぎと言った感じか。
まだまだ、楽しめる時間だ。
……
……
……
あれからじっくりたっぷりと三人を愛でた。
途中で、フィーナが軽い食事を作ってくれたが、ベッドの上で食べた。
それ以外の時間は三人を相手する。
特にリゼットとティアーヌはフィーナを相手した分を埋めるようにじっくりと相手した。
「ご主人様の体力はすごいにゃー」
ティアーヌは満足気な表情で俺の左腕に頭をのせる。
外はすでに暗くなっていた。
「リゼットは満足できたか?」
リゼットは右腕に顔を埋めて隠すと答える。
「ご主人様はどうしてそういうこと聞くのよ」
「念の為にね。もし、満足していないならもっとしてあげるけど?」
「もう腰がガクガクよ。こんなにいっぱいされて満足しないわけ無いでしょ」
そう言って体を寄せると俺の頬にキスをしてくる。
「ご主人様の隣で寝られないのって寂しいですね」
満足気な二人とは対照的にフィーナはすこし暗い顔をしている。
「そうだにゃ、にゃーはずっと寂しかったにゃ」
ティアーヌは体を寄せて俺の胸を手で撫でながら、鼻をヒクヒクさせている。
昨日から寝る場所をローテーションすることになった。
なので、リゼットが右側、ティアーヌが左側、フィーナはリゼットの後ろだ。
「フィーナはずっと俺の隣で寝てたからな、今日は我慢してくれ」
リゼットをのせた伸ばした右腕でフィーナの頭を撫でる。
彼女はその手をつかむと頬に持って行き愛おしそうに両手で握りながら頬ずりする。
「今日はこれで我慢します」
照れた笑いを俺に向けてきてくれた。
少しは寂しい思いも解消されたようだ。
【あとがきおまけ小説】
ルンルン気分で家に帰るクラリーヌ。
「機嫌がいいね」
「ん? 鎧とか妙に綺麗だけど、ひょっとしてモンスター刈りはしなかったの?」
「ああ、エロディットにペレニック。今日は宿屋に行って二人きりで過ごしちゃった♡」
「へー、ユウキとやったんだ。おめでとう。でも、ちょっと悔しいかも」
「クラリーヌにしては随分大胆は行動に出たのね。関心したわ」
「え?」
クラリーヌのマヌケな顔を見て、二人の表情が驚愕に変わる。
「ひょっとして……。宿屋で二人きりになって何もしなかったの!?」
「あっ……」
(よくよく考えたら、男を宿屋に連れ込むなんてはしたなすぎじゃない。
っていうか、あの状況で襲われないってどういうこと!?
いや、ユウキのことだから、あたしに気を使ってたに決まってるわ。
決してあたしに魅力がなかったわけじゃないわよね? うん)
「クラリーヌ、女として見られてないんじゃないの?」
「エロディット、はっきり言い過ぎ」
「うわー!!!!!」
クラリーヌの苦悩はまだまだ続くのだった。