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強さ(中編)

 朝も日がだいぶ登った頃、クラリーヌとのモンスター狩りの約束を果たすために冒険者ギルドに来ていた。


「じゃあ、パーティーにいれるよ」

「……酒場でもそうだったけど、敬語やめたのね」

「ああ、冒険者で敬語は変みたいだからな。それとも、敬語のほうがいいですか?」

「そのままのほうがいいわ」

「じゃあ、あらためて。パーティー追加、クラリーヌ」

「入るわ」



クラリーヌ 19歳 女 LV 23

ジョブ レンジャー

HP 178

MP 68

スキル ボウマスタリー クリティカルショット イーグルアイ パワーショット クイックショット 野営 採取

装備 ウインドボウ 革の胸当て 革のブーツ 革の小手 鷹の目リング  



 年齢はジョゼットと同じでレベルは1高いか、リーダーは伊達じゃないな。


「ジョゼットにも言った事だけど、俺のステータスはあまり言いふらさないで欲しい」


 そう言いながら冒険者カードを渡す。


「なんでそんなに隠したがるのよ?」


 しかしカードを見た瞬間、驚きで目を見開き動揺した声を上げる。


「はぁ? え? これどういうこと?」


 俺とカードを交互に見る。

 信じられないといった表情だ。


「ちょっとこっち来なさい」

「え? ちょっと」


 驚く俺を無視して腕をつかむと、強引にギルドの裏手へと引っ張っていった。

 人がいないことを確認すると、建物の壁に背をつけて座り込む。


「いきなり座ってどうしたんだ?」


 ギロリと俺の事を睨む。


「あんた、冒険者になったばっかりじゃなかったの?」

「え?」

「だって、冒険者をやったことがないのに50レベルなんてありえないでしょ」


 普通ならそうなんだろう。

 だが、俺は普通ではない。


「クラリーヌなら判るだろ?

 俺も自分でわかってきたんだ。

 明らかに立ち振る舞いが冒険者として素人だ」

「そうよ。だからわけわかんないの。

 レベルがそんなに高いのに冒険者としては初心者。

 いや、そもそも23歳で50レベルってこと事態がありえないわ。

 どうしてそんなにレベルが高いの?」

「俺もわからないんだ」

「はぁ? バカにしているの?」

「違うんだ。俺はこの街に来る以前の記憶が無いんだ。

 だから、どうしてレベルが高いのかわからないんだ」


 クラリーヌは「はー」っと大きく溜息をつく。

 俺をキッと睨みつけ勢い良く立ち上がると、またもや俺の腕を掴み歩き出した。


「行くわよ」


 しかし、向かう先はモンスターのいる街の外ではなく中心部だ。


「おい。街の外に行くなら逆だろ」

「いいからついてきて」


 辿り着いた先はいつもとは別の宿付きの酒場だった。


「おい。ここ酒場だよな?」

「そうよ」


 クラリーヌは俺の困惑を無視してカウンターに行くと、店のおやじに話しかける。


「強い酒をビンごと頂戴。あと、コップが二つと部屋を借りるわよ」

「おう。これがうちのおすすめの酒だ。

 部屋は開いてる場所を好きに使いな」


 クラリーヌはお金を払い酒とコップを持つと二階に上がっていった。

 俺も仕方なしについていく。

 部屋は殺風景で、ベッドとサイドテーブルがあるだけだ。

 ベッドも安物の固くてボロいもので、金のない旅人や冒険者が使うような安宿だった。

 クラリーヌはサイドテーブルに酒とコップを無造作に置くと鎧を脱ぎだした。


「え? おい? 何するつもりだ」


 え?

 ええ?


 クラリーヌの突然の行動に自然とドキドキしてしまう。


「何突っ立ってんのよ。鎧つけたままじゃ、疲れるでしょ?」


 クラリーヌは鎧の下に着ていた厚めのシャツとズボン姿になる。

 そして、髪をまとめていたリボンをほどくと、髪をバサッと広げた。


 ん?

 いい香りがする。


 クラリーヌの髪からほのかに香水のような香りがした。

 顔をよく見ると、冒険に行くときのスッピンではなく、この間デートに行った時とは別のナチュラルメイクをしていた。


 かわいい。


 以前のデートの時のようなよそおった美しさではなく、戦っている時の凛々しい顔でもない。

 歳相応の女の子としての魅力がそこにはあった。


「なに見てるのよ? せっかく部屋取ったのに鎧つけたまま酒飲むの?」

「あ? ああ」


 俺はクラリーヌの顔に見とれていたのが恥ずかしくなり、そそくさと装備を外すと部屋の端に置いた。


「さあ飲むわよ」


 クラリーヌはベッドの縁に座るとコップに酒を注ぐ。


「酒なんか飲んだらモンスター退治に行けないんじゃないのか?」

「冒険者としての心得1! 体調や気分が悪い時には冒険には出ない」


 俺の顔に指をビシっと向けて宣言する。


「俺は体調も気分も悪くないぞ」

「あたしの気分が悪いの。いいから座ったら?」


 促されて隣に座ると、酒が入ったコップを渡された。

 一口飲むと胃がカッとなる。


 うわっ!

 なんだこれ。

 相当強い酒だな。

 舌がピリピリする。


「ドラゴンを一人で倒せたぐらいだからレベルが高いとは思ってたけど、そこまでとはね」


 ため息をつきながらつぶやくように話す。


「一人じゃない、みんなで協力して倒したんだ」


 俺をキッと睨む。


「そう言うごまかしはやめて。ほとんどのダメージはユウキが与えてたでしょ」


「……」


 酒をグビリと飲むとクラリーヌは深い溜息をついた。


「わかってないみたいだから言うけど、この街で一番レベルの高い冒険者でも40台後半よ」

「シルバーソードだっけ?」

「そうよ。でも、レベルは高いけど年齢も高いから一線からは退しりぞいている。

 自慢じゃないけど、19歳で23レベルならかなり高いのよ。

 風の射手は中級冒険者だけどメンバーの年齢はまだ20歳前後。

 これでも期待の若手冒険者って言われてるんだから。

 それなのに新米の冒険者がこんなに強いなんてね」


 返す言葉が見つからない。

 フィーナ達もジョゼットも驚きはしたが、すぐに受け入れてくれた。

 だから、クラリーヌがこれほどショックを受けるとは思わなかった。


「ごめん」


 なんとなく謝ってしまう。


「ううん、ユウキが悪いわけじゃないの。

 長年冒険者をやっていた自信が急になくなっちゃただけ」


 コップを弄びながら首を傾けて乾いた笑いを俺に向ける。

 疲れたような笑いが妙に色っぽくてドキッとした。


「クラリーヌは何年冒険者をやってるの?」


 聞くと、俺の脳天に手刀が降ってきた。


「いたい」

「女性に失礼なことを聞くもんじゃないの」

「だからって叩くことないだろ」


 彼女の手刀はけっこう痛く、目の端に涙を浮かべながら頭をさする。


 彼女の年齢が19歳なら15歳から冒険者をやってたとして4年ってところか?


「あ、今計算したでしょ?」

「え? していないよ」

「怒らないから何年だと思ったか先輩に教えてごらん」

「……4年?」

「ぶー。ハズレ」


 愉快そうに笑う。


「正解は10年でした」


 10年……。

 ってことは、9歳から冒険者やってるのか?


「9歳から冒険者やるのって普通なの?」

「普通なわけ無いでしょ。

 あたし達は育ての親が冒険者だから幼いうちから教えこまれたの。

 一人になっても生きていけるようにってね」


 育ての親ってことは本当の両親は亡くなったのかな?

 それに、『あたし達』か……。


 クラリーヌが、正面を見ながら考えている俺の顔を覗き込んできた。


「何考えてるのよ?」

「いや、べつに」


 あまり、プライバシーに関わる事を聞くのも悪いと思いごまかしてしまう。


「ユウキってすぐごまかすよね」


 すねたように唇を尖らせて、両手で持ったコップから一口お酒を飲む。


「両親って亡くなったの?」


 ごまかすのは悪い癖かもしれないと思い、遠慮しながらも聞いてみた。


「ああ、そのことね。あたし達、風の射手はみんな孤児みなしごなの。

 それを育ててくれたのが冒険者のサンドーラ。

 有名な冒険者でね。風の射手って名前も彼女の異名から取ったのよ」

「その人は強いの?」

「ええ、とっても強いわ。ユウキより強いわよ」

「それは、ぜひ会ってみたいな」

「無理ね。もう死んじゃったもの」

「そうか……」

「良いのよ。冒険者なんて死ぬの当たり前だし、60近くまで生きたんだから十分でしょ」


 この世界の平均寿命がどれくらいかは分からないが、おそらくそれほど高くはないのだろう。


 少しの間、お酒をちびちびと飲む無言の時間が続いた。


「なんかわかっちゃった」

「なにが?」

「あたし、サンドーラに憧れてたんだ。

 それで、同じ様に強いあなたにも憧れを持ってた」


 たまたま強い力を持ってただけだ。

 憧れを持たれるような男じゃない。

 そう言おうと思ったが、クラリーヌは話を続けた。


「でもね。あなたがデーモンロードを倒して、羨ましくなっちゃったの。

 自分は、あの戦いで目の前の敵を倒すことで精一杯だった。

 でも、あなたは敵の群れを軽く突破してデーモンロードを倒しちゃうんだもん」

 

「ごめん」

「また謝った。別にユウキは悪くないよ。最近、お酒ばっか飲んでたのもそのせいね」

「あれ? 酒飲んでるのは俺がデートに連れてってくれないからじゃないの?」

「え?」

「あっ」


 俺はバカか。

 本人の前で何言ってんだ。


「ばっ! 誰がそんなこと言ったのよ」

「いや、エロディットとかペレニックが……」

「あ、あの子たちなら言いそうね。ユッ、ユウキをからかったのよ」


 クラリーヌは顔を真っ赤にして酒を一気に飲む。


「そっ、そうだよね。俺もおかしいと思った」

「そうだ! 今日はモンスター狩りに行けなかったから別の日に行くわよ」

「ええ!? もう良いでしょ」

「だめ、ユウキは冒険者のこと何もわかってないんだから。

 先輩冒険者としてきちんと指導しなきゃね。明日行くわよ」

「俺も色々忙しくてさ」

「じゃあ、明後日」

「この間、領主に呼び出されて大変だったんだ」

「明々後日しあさって

「……わかったよ。5日後にしよう」

「今度約束破ったら許さないからね」


 前はいつとか決めてないし、約束破ってなんかないんだけど。


「わ・かっ・た・わ・ね」

「わかりました」


 俺が圧倒されて答えると、クラリーヌが倒れこんできた。

 焦った俺は体をひねって胸で彼女を受け止める。


「わっ! 突然どうしたの?」

「ごめん、ちょっと酔ったみたい」


 よくある誘い文句かと一瞬思ったが、クラリーヌは体を離そうと動いてまた俺の胸に倒れてくる。

 本当に酔ったみたいだ。

 よく考えたら当たり前だ。

 今飲んでいるのは相当強い酒だ。

 それを一気に飲めばいくら酒が強くとも酔っ払う。


「大丈夫か?」

「ごめんね。こんなになったのは久しぶり。

 こんなんじゃ先輩冒険者なんて言えないね。

 それに……ユウキみたいに強いと、あたしが教える必要ないかもね」


 俺の胸に両手と顔を預けながら自嘲気味に笑った。


「そんなことないよ。モンスターの攻撃方法とか弱点とかダンジョンの攻略法とか知らいない事はいっぱいある。

 クラリーヌはリーダーもやってるし、若い冒険者からも頼られている。

 俺には出来ないことだから尊敬するよ」

「……ありがとう。ユウキにそう言われるとすごく安心する」


 そう言うと、背中に手を回して抱きしめてきた。

 さすがに、この状況はまずいと思い体を離そうと手を肩に置くと、俺の顔を不安げな目で見上げる。


「ごめん。ちょっとだけこのままでいさせて」


 普段のクラリーヌからは考えられないほど弱気な表情だった。

 クラリーヌのコップを受け取ってベッドに置くと、安心させようと頭をなでた。


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