強さ(前編)
目が覚めてすぐに夢に出た女神のことを思い出す。
俺が勢い良く起き上がると、フィーナが驚いた様子で聞いてきた。
「ご主人様どうしたんですか?」
俺は急いでいたためフィーナの言葉を聞き流して、リゼットを揺り起こした。
「リゼット起きろ」
「なあに?」
眠そうな目をこすりながらムクリと起き上がる。
大きなあくびをすると目をつぶったまま体を揺らす。
「どうしたの?」
「夢に女神が出てきたんだ」
「女神? 寝ぼけてるの?」
そう言うと俺の頭を抱えてベッドに倒れる。
俺も一緒にベッドに倒れこむ。
「良い子は寝ましょうね」
子供をあやすように頭を撫でながらリゼットは寝てしまった。
俺の顔にはリゼットの小さな乳房のやわらかい感触。
とても幸せな気分だ……。
じゃない!
俺がリゼットを起こそうとすると、フィーナがリゼットを揺すった。
「リゼット、ご主人様が用があるみたいですよ」
するとリゼットは俺の頭から手を離し起き上がる。
「あれ? ご主人様起きてるの?」
俺も起き上がる。
「ああ、起きている」
「やだ! あたし寝ぼけてたわね」
「いや、そんなことは良いんだ。夢に女神が出てきたんだ」
……
「という夢だった」
夢について事細かに話す。
ただし、異世界から来たことについての話は伏せておいた。
話したところで問題は無いと思うが、一度ウソをついてしまったから正直に話すのは気が引ける。
「リゼットはどう思う?」
「どうって言われてもね。一回だけじゃ女神が本当に現れたのか、ただの夢なのかわからないわ」
たしかにそのとおりだ。
ただの夢の可能性もある。
でも、あれはどう考えても夢とは思えなかった。
「じゃあ、あれを夢じゃないとしたらどう思う?」
「うーん。
わからないことが多いわね。
なんという名の女神なのか?
デーモンロードとの関係は?
女神はなぜ封印されているのか?
あげればきりがないわ」
「記録には女神のことは書かれてないのか?」
「あたしが知っているのは400年前に現れたデーモンロードが封印されたという話だけよ。
ティアーヌのほうが詳しいんじゃないかしら?」
「にゃーが知っているのは、勇者がデーモンロードを倒して、4人の巫女が体を捧げ封印したという話にゃー」
「詳しい話はわからないのか?」
「勇者は封印した後、何も言わずに旅に出たから詳しいことはわからないみたいだにゃ」
「そうか。リゼットはどうしたら良いと思う?」
「元々ご主人様もあたし達も強くなろうとしてたんだから、言われたとおり強くなればいいじゃないかしら」
「まあ、そうだな。夢に神様が出るのは良くある話なのか?」
「たまに聞くわね。
でも、本当は悪い神様だったという話も聞くから気をつけたほうがいいわ。
一度、封印を解かなければいけない、というのは危険な気がするわね」
「たしかにな。そこは俺も気になっていた。
フィーナはどう思う?」
「やっぱり、ご主人様は、女神様に選ばれた人だったんですね」
フィーナは目をキラキラさせて夢見がちに俺を見ている。
かわいい。
が、聞いた俺がバカだった。
「ティアーヌは、愛の女神を知っているか?」
「愛の女神ティフィオーレは、にゃーの一番好きな神様だにゃ。
ご主人様と出会えたのは、きっと愛の女神と運命の神のおかげだにゃ。
でも、ずっと昔に運命の神ダマトムスラと駆け落ちして二人だけの世界に行ったはずだにゃ」
「デーモンロードとも関係ないのか?」
「この世界が作られてすぐの話だから、関係ないと思うにゃ」
「うーむ。よくわからないな。
あと、創造主ってなんだ?」
「創造主は神話のはじめに出てくる世界を作った者にゃ。
でも、それ以降は話に出てこないから、良く分からいなにゃ」
「あまり考えてもしょうがないわ。夢の事は気にしないほうがいいと思うわよ」
「リゼットの言うとおりだな。今まで通りにするか」
ぐー。
そこで俺の腹の虫が泣いた。
話に夢中になっているうちにお腹がすいたらしい。
「朝食の準備をしてもらえるか?」
「はい。でも、いつものをしていないんですが……」
フィーナが上目遣いに言いにくそうにしている。
いつものってなんだっけ?
俺が悩んでいると、リゼットがティアーヌに目線を送る。
ティアーヌはそれに反応して元気よく言った。
「おはようのキスをしていないにゃ」
ああ、女神に夢中ですっかり忘れてた。
いつもなら起きてすぐにフィーナ達からしてくるしな。
「して欲しいのか?」
フィーナに問いかけるとコクンとうなずく。
朝のキスは一方的なお願いだと思ったが、フィーナ達も気に入ってたのか。
なんか嬉しい。
と、同時に意地悪な心がもたげる。
「じゃあ、『キスして』って言って欲しいな」
リゼットが呆れ顔になった後にジト目で見てきたが、何も言ってこないので気づかないふりをする。
「ご主人様、キスしてください」
フィーナは顔を真っ赤にして上目遣いで要求してくる。
うおぉぉぉ。
たまらなくかわいい。
フィーナの頭を抱えるように抱きつくと頭をなでなでする。
体を離すと何も言わなくても、顎をあげて目をつぶる。
唇に軽くキスして離すと、「あっ」っと小さくつぶやいて不満気な顔をした。
どうやら濃厚なキスをご所望らしい。
もう一度キスをすると、俺を逃がさないように首に手を回してきた。
舌を入れ絡めあう濃厚なキスをする。
しばらく続けていたが、フィーナが首に回した手をほどかないのでやや強引に外す。
俺としてもずっとしてたいが、待っている二人を考えるといつまでも楽しんでる訳にはいかない。
顔を離すとボーとしたような上気した表情をしていた。
今度はリゼットの方を向く。
「リゼットにも言って欲しいなー」
ねだるように言うと、下を向いて「うぅ」とうめいた後、顔を真っ赤にして横を向いた。
「キスして。これでいいでしょ!」
顔をそむけたまま、ぶっきらぼうに言う。
リゼットの恥ずかしがり方は本当にかわいい。
これでこそリゼットだな。
と、腕を組み感動していると、横目で俺をちらりと見てくる。
そして、下から覗き込むように顔を近づけた。
「ねぇ。いまのじゃだめ?」
どうやら俺が納得していないんじゃないかと心配になったらしい。
二段階で攻めてくるとはなかなかやりおる。
がばっと抱きしめると頭をグリグリとなでる。
そして、強引に唇を奪うと舌をねじ込む。
相変わらず、なれない感じで舌をおずおずと絡めてくるところもかわいい。
リゼットの舌の動きに合わせて、ゆっくりと丁寧に舌を這わす。
口を離すと力が抜けたのか俺の胸にへたり込んできた。
しばらく休ませると恥ずかしそうに顔をそむけながら離れた。
最後にティアーヌの方を向く。
「キスしてほしいにゃー」
と言って俺に抱きついてキスしてきた。
相変わらずのティアーヌに苦笑しつつも受け入れる。
積極的に舌を入れてくるが、まだなれてなくてぎこちなさが残る。
猫族特有のザラザラとした舌の感触が好きなので、舌で舌を弄ぶようになぶる。
ティアーヌも嬉しそうに俺の舌を舐めてくる。
しばらく堪能して口を離すと、「うー」と物足りなそうに唸るが素直に離れていった。
「じゃあ、私とティアーヌは朝食の準備をしてきますね」
フィーナとティアーヌが寝室から出て行く。
と、すぐに俺の胸にリゼットが飛び込んてきた。
「どうした?」
少しらしくない態度に驚いて聞くと、恨めしそうに俺を睨んできた。
「ご主人様のせいで体がおかしくなっちゃったわ」
そして、俺の胸に顔をうずめて小声で言った。
「その……責任とってください」
俺は快く了承すると、リゼットを優しくベッドに寝かせた。
【あとがきおまけ小説】
「エロディットおはよー。ん? 何見てんの?」
「ああ、おはようペレニック。いや、クラリーヌが面白くってさ」
「え? 何あれ? 鎧着てるのに化粧してるの?」
「よっぽど、ユウキとのモンスターハントが楽しみだったみたいね」
「汗かいたらベトベトになって大変なことになるわよ」
「ねー。でも、面白いから言っちゃ駄目よ」
「エロディットって案外、意地悪だよね」
クラリーヌは冒険に行くにもかかわらず髪を整え化粧をするのだった。




