異世界の一日(20:00)
この時間ともなると外は月明りのみで真っ暗闇だ。
冒険者ギルドから借りた家は設備がいいらしく、魔法の明かりが設置してあった。
呪文を唱えれば、明かりを付けたり消したりできるので、電灯より進歩しているといえる。
ただ、電灯よりは明かりは弱く、部屋は薄明りで照らされていた。
家に着くと鎧を脱ぐ。
いや、脱がしてもらう。
自分でも出来るのだが、彼女たちは頑なに自分たちの仕事だと譲らない。
美少女たちに着替えさせてもらうのはハーレムの気分を味わえるが、気恥ずかしさが残る。
特に脱がしてもらった後に体を拭いてもらうのが恥ずかしい。
所詮、自分は日本人の庶民なんだと認識する瞬間でもある。
「ご主人様、今日は体が熱いですね」
「ああ、酒を飲んだせいかな」
最近は拭くことに熱がこもっているような気がする。
三人とも俺の体を見る目線が熱い。
拭き方も丁寧というよりはねっとりした感じだ。
いや、気のせいだ。
気にしないでおこう。
三人の目線や動きを気にしないように目をつぶりながら体を拭かれる。
服を着せてもらった後、喉が渇いたので居間に向かう。
「あら? 寝ないのかしら?」
「喉が渇いたからコップを取ってこようと思って」
「それなら、井戸に行ってくるにゃー」
「いや、魔法で出したほうが早いから」
水はウォーターの魔法で出せる。
だが、魔法を覚えるのもお金がかかるので、普通の人は井戸や川の水を使うらしい。
初級魔法のウォーターを使えるだけでも料理屋などでは重宝される様だ。
「ご主人様に水を出してもらうわけには行きません」
「魔法のほうが早いだろ」
こういった会話がよくかわされる。
何かと身の回りの世話をしたがるのだ。
「あたし達もウォーターが使えるように頑張ります」
俺が自分で水をだすのを見て三人ががっくりと肩を落とし残念そうな顔をする。
「気にするな、今でも料理作ってもらったり、掃除してもらったり十分頑張ってもらってるから」
以前よりは大分ましになったとはいえ、もっと肩の力を抜いてほしいな。
もちろん、尽くしてもらえるのは嬉しい。
……
「そういえば、お前達はお酒飲んでなかったな」
ベッドに転がりながらふと気になる。
「お酒を飲むとご主人様を守れませんから」
「まあ、フィーナはお酒が弱いけど、リゼットとティアーヌは大丈夫だろ」
「あたしも、前に醜態を晒しちゃったから酒場で飲むのはよしているの」
「あの時のリゼットは甘えてきてかわいかったな」
「言わないでよ」
顔を真っ赤にして睨んでくる。
リゼットは少し飲んだ程度なら大人の雰囲気を保っているが、酒が深くなるととたんに子供のように甘えてくる。
いや、子供のような態度を取りながらキスなどを要求してくる。
他人がいないところなら大歓迎だが、酒場では体裁が悪い。
「ティアーヌはなんで飲まなかったんだ?」
「二人とも飲んでなかったから遠慮したにゃー」
「別に構わないよな?」
「ええ、ご主人様が許すなら大丈夫よ」
「ティアーヌは風の射手の女性たちと話が合いそうだからな、飲んで仲良くなるといいよ」
「わかったにゃ。今度行った時にはみんなと仲良く飲むにゃ」
「しかし、今日は色々な事があった気がするな」
「お疲れですか?」
フィーナが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「お前達がいるから大丈夫だ」
ベッドの隣りにいるフィーナとリゼットを抱き寄せる。
二人共嬉しそうに頭を俺にあずける。
「むー」
ティアーヌが仲間はずれにされてむくれる。
フィーナの後ろにいるので抱きしめるには手が届かない。
代わりに頭をなでてやる。
「にゃーもご主人様の隣で寝たいにゃ」
とは言っても、俺の隣は二つしか無い。
「寝る場所も順番で変えてくか?」
その言葉にティアーヌはパアッと明るい顔をするが、フィーナとリゼットが複雑な表情をする。
「仕方ないですね」
「そうね」
「かなしそうな顔をするな。フィーナは俺の左側、リゼットは右側を楽しめるぞ」
フィーナはいつも右側が指定席。
リゼットは左側が指定席だった。
しかし、自分でもよくわからない慰めの言葉だ。
「そうですね。前から左側にも寝たいと思ってました」
「近くに入れない時が寂しいけど仕方ないわね。右側に寝られるならいいわ」
二人共それでいいのか?
自分で言っておいて納得したことにびっくりする。
と、同時にかわいいと思ってしまう。
フィーナ、リゼットと順番にキスをしていく。
ティアーヌに顔を向けると嬉しそうに近づいてキスをしてくる。
そして、改めてフィーナとリゼットを抱き寄せると、やわらかい体を撫でていく。
二人共お返しをするように俺の体を撫でる。
そして、恥ずかしそうにはにかみながら俺を受け入れてくれる。
これからが一日で一番の至福の時間だ。