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異世界の一日(18:00)

 酒場への誘いを断ったものの、やはり冒険者同士交流を深めたほうがいい。

 そう思い直し、腰が引けながらも酒場を訪れた。


 イールダの酒場は、数ある酒場の中でも、冒険者達が好んで集まる場所だ。

 常に誰かしらの冒険者達がたむろしており、モンスターやダンジョンの情報が飛び交っている。


 そんな、荒くれ者の集まる酒場のドアを開けると目線が集まった。


「おお、ドラゴンスレイヤーのユウキがやってきたぞ」

「やっぱりかっこいいな」

「一人でドラゴンを倒すなんてどんだけ強いんだ」


 酒場がざわつく。


 あーあ、やっぱり来なければよかった。


 入るのをためらってしてしまう。

 転生前はなるべく目立たないように生きてきた。

 だから、目立つというのに慣れてない。

 できれば、平穏に目立たず暮らしたい。


「ご主人様が話題になってますね」

「まあ、ドラゴンを倒せばそうなるわよね」

「ご主人様なら当然だにゃ」


 三人とも嬉しそうにしている。


「俺は目立ちたくないんだがな。あーあ、リゼットに乗せられて面倒なことになったぞ」


 俺は頭を抱えてかぶりを振る。


「なに? あたしのせいなの?

 あのままだったら、冒険者に死人が出てたわよ。

 最悪、町にも被害が出てたかも。

 ご主人様はそれに耐えられたかしら?」


 それを、言われるとつらい。

 たしかに、俺の気分が悪い以外は何の被害もない。

 俺がちょっと頑張るだけで、他の冒険者達が安全ならばもちろん戦う。

 知り合いが死ぬところなんて想像さえしたくもない。


「うっ、その通りだよ」


 深いため息をつく。


「入り口に突っ立たまま何してんだ? こっち来いよ」


 ドラゴンファングのレンジャー、カジミールがビールの入ったコップを持ったままで俺の近くにやってきた。

 カジミールに誘われるまま、ドラゴンファングと風の射手のメンバーが集まっている席にすわる。


「ドラゴンスレイヤーの来訪だぞ」


 カジミールはおどけた感じで酒を掲げる。

 冒険者たちはつられて乾杯をした。

 酒場全体がお祭り騒ぎだ。


「はー。ドラゴンスレイヤーとかやめてほしいんだが」


 大きくため息をつくと、ぼそりとつぶやく。


「なんだ? 名誉なことじゃないか。まあ、飲めよ」


 パルパスが笑いながら肩をたたくと、酒の入ったコップを俺に手渡した。


「俺は目立ちたくないんだよ」


 諦め半分の言葉を吐き出すと、酒をぐいっとあおる。


「一人でドラゴンに立ち向かっておいて、目立ちたく無いなんてよく言うよ」

「あれは仕方なくだし、みんなも一緒に戦っただろ。一人じゃない」


 バルパスと話していると、後ろから声をかけられた。


「お前が、ユウキか?」

「ああ、そうです。初めまして……じゃないですね。デーモンロードの時に一緒に戦った人ですね」


 後ろを向くと真っ黒な鎧に身を包んだ屈強で頑固そうな男が立っていた。

 男は見下すような目で俺を見ると、馬鹿にしたような口調で話しかけてきた。


「下級ドラゴンを倒したぐらいで調子に乗るなよ?

 あれぐらい俺のチームなら余裕だ。

 しかも、7チームで協力して倒したらしいじゃないか」


「ええ、ドラゴンを倒せたのはみんなの協力があったおかげです。私は手伝っただけです」


 正直、そういう風な話にしておきたかった。

 噂に尾びれなんかついたら厄介だ。


 しかし、その言葉に男は悔しそうに顔をゆがめる。


「とにかく、俺はお前をドラゴンスレイヤーだと認めないからな!」


 男はそう言い残して酒場から出て行ってしまった。


「なんなんだ?」

「この街で2番目に強い冒険者チーム『黒騎士』のリーダーだ」

「いつもあんな調子なのか?」

「有力な新人が現れると絡んでくるんだ。

 弱い奴は相手にしないからある意味では認められたということだ。

 普段は酒場に来ないからユウキに合うために来たんだな」


 わざわざ俺に合うために普段来ない酒場に来たのか。


「難儀な人だね」


 それからも若手の冒険者が、どんなスキルを使ったのかだとか、握手してくださいとか、強くなる秘訣を教えてくれとか、ひっきりなしにやってきた。

 適当に流して話したが終わった頃にはくたびれていた。


 やっぱり酒場になんか来なきゃ良かった。


「やっと開放されたわね。久しぶりに酒場に来たんだから一緒に飲もうよ」


 ぐったりとしている俺にエロディットが色っぽいしぐさで、横から首に手を回して抱きついてきた。


「酒くさっ」


 あまりの酒臭さに思わず口に出てしまった。


「なによ、失礼ね。臭くなんて無いわよ」


 そう言って俺の顔に息を吹きかけてくる。


「ひょっとして、ドラゴンを倒した後からずっと飲み続けてるのか?」

「そうよ。と言ってもまだ2時間ぐらいでしょ?」

「お前らほんとに酒好きなんだな」

「ははは、酒が嫌いな冒険者なんて黒騎士ぐらいさ」


 バルパスが笑って答える。


「まあ、その中でも風の射手の奴らは特に酒好きだけどな」

「なによー。まるで私達が酒乱みたいじゃない」


 パルパスの呆れ顔にエロディットが講義の声を上げる。


「確かに、酒乱になったリーダーはいるけどさ」


 エロディットの目線の先には風の射手のリーダー、クラリーヌがぐったりテーブルに突っ伏していた。


「あれ、クラリーヌか? どうしちゃったんだよ」

「ユウキのせいなんだから、なんとかしてよ」


 ため息を付きながらも俺に向かって抗議の視線を向ける。


「俺のせい?」

「理由は本人に聞いてよ」


 そう言って両手で俺を押す。


「お前何したんだ? クラリーヌは大切な冒険者仲間だし実力者だ。俺からも頼む」


 パルパスは真面目な顔になりながら言ってきた。

 仕方なくクラリーヌの突っ伏している席の近くに行くと、隣りに座っていたペレニックが気をきかせて席を譲ってくれた。

 彼女も困っていたらしく、席を立つ時に「お願いね」と言われてしまった。


 隣りに座ったは良いがどうしたら良いんだろう。


 酒を飲みつつ横目でクラリーヌの様子をうかがっていると、急に顔をこちらに向けた。


「何しに来たのよ?」


 テーブルに倒れたまま顔だけをこちらに向けてしゃべる。


「いやあ、クラリーヌに会いたくて」

「くさいセリフ。だいたい、あんた酒場に誘ったのに断っだじゃない」


 唇をとがらしてすねたように言う。


「あれは、魔法院で魔法を教えてもらう約束があったから」 

「ふーん。最近は剣の訓練もしているみたいね」

「ああ、少しでも強くならないとな」

「ジョゼットと訓練するのは楽しい?」


 ジト目で俺を見ながらなじるように言ってくる。


「はあ? どうしたんだよ一体」


 わけのわからない態度にだんだん苛立ってきた。


「あたし、ずっと待ってるんだけど」


 クラリーヌが目をそらしてぼそっと言う。


「へ?」


 俺の隣に座っていたジスレニスが小声で耳打ちする。


「ユウキ、クラリーヌとモンスター狩りに行く約束してたでしょ?」


 あっ! そういえば約束してた気がする。

 デーモンロードとの戦いからいろいろあってすっかり忘れていた。


「デーモンロードとの戦いの後、忙しくて暇が作れなかったんだ」


 焦っているため早口になってしまう。


「ジョゼットと剣の訓練してたくせに」


 ああ、俺のバカ。

 さっき話してたじゃないか


「明日なら開いてるから明日行こうか?」

「本当でしょうね?」

「もちろんだ」

「なら許してあげる」


 勢い良く起き上がると酒をあおった。


 はー。

 よかった。


「ドラゴンスレイヤー捕まえた」


 安心していると、エロディットが後ろから抱きついてきた。


「何だいきなり」

「ユウキと飲むの久しぶりだからね。今日は飲むわよ」


 ジスレニスも俺を逃すまいと腕に抱きついてきた。


「そうだぞ。冒険者のくせに酒場に来ないからな」


 カジミールもおどけながら俺のコップに酒を注いだ。


 それから冒険者達と酒を飲んで騒いた。


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