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異世界の一日(16:00)

 ドラゴンを倒した後、冒険者達からの酒場の誘いを逃れるように魔法院に来ていた。

 ティアーヌが破壊魔法を教えてもらうために、上級魔法使いのランセットの元を訪れる。


「ちょっと、何でこんな大人数なのよ」


 ランセットは、ドアの外にいる俺たちを見て嫌そうな表情をする。

 彼女は子供でありながら、上級破壊魔法が使える天才少女だ。

 顔はかわいいが、前髪が長く、髪はぼさぼさで、よれよれのローブを着ている。

 まるで疲れた研究員のようだ。


「今日は勉強の最初の日だからな、付き添いだ」

「まったく、ローリアナの相手だけでも大変なのに、なんでこんな猫族の相手をしなきゃいけないのよ」

「これから毎日遊びに来るにゃ」


 ティアーヌはランセットを気に入ったらしく、ここに来るのを楽しみにしていた。


「おいおい、遊びにじゃなくて破壊魔法を教えてもらいに来たんだろ」


 俺はあきれ顔でティアーヌに指摘する。


「いいのよ。ランセットみたいな子は子供らしく少しは遊んだほうがいいの」


 リゼットがティアーヌを擁護する。


「そうにゃ。魔法は遊びながら覚えたほうが楽しいし覚えるのが早いにゃ」


 ティアーヌがにこやかに答えた。


「そうだよ。もっとランセットは遊んだほうがいいよ」


 部屋の奥から騒ぎを聞きつけてローリアナが現れた。

 昨日と同じく、ディーラーのような黒のベストとズボンを着ている。

 体は細身で、身長は俺より少し小さい程度。

 見た目は美しい成人女性だが行動はまるで子供の様で、『見た目は子供、頭脳は大人』なリゼットとは正反対だ。


 まあ、子供っぽいという意味では、ティアーヌもそうなのだが。


「そんな所に立ってないで部屋に入りなよ」

「ちょっと、何でローリアナが決めるのよ。

 って、あんた達も勝手に入らないで。

 あー、ただでさえ狭い研究室なのに!」


 ランセットは文句を言って地団太を踏んでいるが、俺たちは無視して研究室に入る。

 研究室は広いようだが所狭ところせましと本が積み上げられ、正体不明の魔法の道具のようなものが置いてあった。


「すわって、すわって」


 ローリアナは床に置いてあった本を投げ捨てるようにどかすと座る場所を作った。


「ちょっと、貴重な魔導書もあるんだから丁寧に扱いなさいよ」


 貴重な魔導書を無造作に床に置いておく方が悪いと思うが、言わないでおこう。

 円を描くように適当に座って行く。


「うーむ。この人数だと場所が足りないな」

「なら、にゃーの膝の上にランセットが座ればいいにゃ」


 ティアーヌが足を投げ出して、太ももをポンポンと叩く。


「嫌よ。頭をなでたりするんだもん」

「じゃあ、ワタシがすわるー」


 そう言って、ローリアナがティアーヌの膝にすわる。

 ローリアナの方が身長が高いので少し不格好だがティアーヌは気にしていないようだ。


「ローリアナは素直な子だにゃー」


 ティアーヌが頭をなでなですると、ローリアナは「えへへへ」と言いながら喜んだ。


「その子は、子供じゃ……」


 ランセットは言いかけて、困ったように口をつぐんだ。


「それでもランセットの座る場所がないな……。俺の膝の上に座るか?」


 冗談のつもりで、ティアーヌのまねをして膝をポンポンと叩く。


「ワタシを子供扱いしないでよ!」

「子供じゃないのか? いくつなんだ」

「じょ、女性に年齢を聞くなんて失礼よ」

「どうせ、10歳とかでしょ?」


 リゼットがバカにしたような言い方をすると、ランセットは怒って反論する。


「ワタシは12歳よ! そこまで子供じゃないわ!」

「ご主人様、12歳だって」


 リゼットは勝ち誇った表情で俺に向かって言った。


「くっ! 誘導したわね!」

「そうやって、感情任せに乗ってくる所が子供なのよ」


 苛立っているランセットにリゼットは指摘する。

 ランセットは悔しそうに唇をキュッと噛み締めた。


「まあまあ、子供らしく俺の膝に乗ったらどうだ? 素直な方が、かわいくていいぞ」


 俺は場を和ませようとするがランセットは怒っている。


「アタシは子供扱いされるのが、死ぬほど嫌いなの!」


 すると、何故かリゼットが俺の膝に乗ってきた。


「あんな、わがままな娘はご主人様の膝の上に相応しくありません。

 もっと、素直で可愛らしい子だったら良いけどね」


 リゼットはなおも挑発するようにランセットに冷ややかな目線を送る。


「おい、リゼット。いいかんげんにしろ。まあ、これで場所があいたからそこに座ればいい」


 俺は先程までリゼットが座っていた、俺の隣の床を軽く叩く。

 ランセットは不満気な顔をしながらも大人しく座る。


「いいなー」


 フィーナが唇に指を当てながら小声でつぶやいて、リゼットの方を見ていた。

 かわいいが触れると余計ややこしくなりそうだからスルーしておく。


「そういえば、前に魔法の威力を弱めて使っていたけど、どうやったらいいんだ?」

「魔法使えるのに、そんなことも知らないの!?」


 ランセットは驚いた表情で俺を見てきた。


「普通は知ってることなのか?」

「ご主人様には、あたしが後で教えてあげるわ」


 リゼットがフォローしてくれた。

 しかし、ランセットは呆れ顔だ。


「ローリアナの幻術を真似てたぐらいだから、それなりのレベルと魔力をもってるはずよね?

 それなのに魔法の基礎も知らないのね」

「ああ、俺は人のまねが上手いだけで、魔法の基礎は知らないんだ。だから、魔法院に学びに来た」

「アナタは初級の授業を受けたほうがいいわ」


 なおも、呆れ顔のランセットは突き放すように言う。


「ご主人様をバカにするとゆるさないわよ」


 リゼットが怒った表情できつく言う。


「ティアーヌも初級の授業を受けたほうが覚えは早いわよ。それに、アタシは魔法の研究で忙しいの」

「昨日院長が言ってただろ『研究ばかりでは学べることも少ない。これはお主のための勉強でもある』ってな」


 俺はわざと院長の口調を真似て言った。


「ああ。もう、うるさいわね。アタシは一人で研究をしたいの!」


 ランセットは耳をふさぐと頭を振った。


「一人はだめにゃ!」


 突然、ティアーヌが声を張り上げた。

 突然のことに、みんなが驚きティアーヌを見る。


「ローリアナちゃん、ごめんね。ちょっとどくにゃ」


 ローリアナは少しおびえながら立ち上がった。

 そして、ティアーヌはランセットの前までゆっくりと歩く。


「ランセットちゃん。立つにゃ」

「なんでよ」


 ランセットは異様な雰囲気に気おされながらも強気に言う。


「立つにゃ」


 ランセットは黙って立ち上がる。

 すると、ティアーヌはランセットを強く抱きしめた。


「一人はだめにゃ。寂しいし誰も助けてくれないにゃ。研究ならにゃーが手伝うにゃ」

「アナタじゃ役に立たないわよ」


 先ほどの態度とは違い小さい声で、遠慮がちに言う。


「そんなことないにゃ。

 にゃーは難しいことはわからなくてもランセットの気づかなかった事を気づけるかもしれないにゃ。

 一緒に遊んで気分を変える事だって出来るにゃ」


 その言葉に、呼応するようにローリアナもいう。


「ワタシも手伝うよ。ランセットちゃんにはいつも助けてもらってるから」

「俺たちも教わる代わりに研究を手伝うというのはどうだ?

 これは大人の取引だ。

 リゼットも昔魔法の研究をしていたから新しい知識が手に入るかもしれないぞ」


 俺は、わざと『大人』という言葉を強調して言う。


「古い知識だし、分野が違うかもしれないけど、別の視点で見るのは新しい発見があるかもね」


 リゼットもフォローするように同意する。

 そして、みんなの目線がランセットに集まる。


「わっ、わかったわよ。そんなに言うなら手伝わせてあげる。

 どうせティアーヌに魔法を教えるように院長から言われているし。

 それなら見返りがほしいわね」


 動揺を隠しながら、すましたふりをして答える。

 なんとか、ランセットから魔法を学ぶ事ができそうだ。

 俺は心の中で安堵のため息をついた。



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