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異世界の一日(14:00)

 彼女たちとの楽しい時間を過ごしていると、突然ドアが荒々しく叩かれた。

 昼のひとときを邪魔されて、少し不機嫌になりながらも俺は玄関のドアを開ける。

 そこには、冒険者チームドラゴンファングのリーダーであるバルパスが立っていた。


「よかった。いたか」


 後ろには、メンバーたちもいる。


「揃ってどうしたんですか?」


 少し焦った様子を不思議に思いたずねた。


「マフムード大森林のモンスターが大量に森から出てきて暴れている。

 ヘタしたら街に被害が出るから冒険者ギルドが緊急招集をかけているんだ。

 それで実力のある冒険者を集めている所だ」

「ドラゴンファングでも手に負えないとは大事の様ですね。わかりました。すぐに準備します」


 リゼットとティアーヌが装備を整えるのを待ってからモンスターがいる場所に向かう。

 森林の近くの平原で、いくつかの冒険者チームが戦っていた。


「衛兵たちはいないんですね」


 俺が不思議に思い疑問を口にすると、リゼットが教えてくれる。


「衛兵は街の中の治安を守るのが主な仕事なの。

 だから、人数は多いけど冒険者と比べると弱いし、モンスターとの戦いは慣れてないわね。

 もちろん、この間のデーモンロードの様な緊急時には街の外でも戦うけどね」


 バルパスが補足する。


「それに、こういう事態は俺達にとっては稼ぎ時だからな。

 みんな率先して参加するんだ。

 だけど、今回は数が多い上に上級冒険者が参加していなくて苦戦しているんだ」


 ジョゼットが続けて話す。


「だからユウキを呼びに行ったってわけ」

「ちょっと、ドラゴンファングもユウキたちも、早く手伝ってよ!」


 風の射手のリーダーであるクラリーヌが焦った様子で訴えてきた。

 風の射手は全員が弓の使い手なので遠距離戦が得意だ。

 しかし、今は前線の冒険者たちの脇をすり抜けたモンスターが近寄らないように必死になっている。


「俺達は風の射手が接近されないように前線で抑えるから、ユウキ達は数を減らしてくれ」


 そう言ってドラゴンファングのメンバーたちはモンスターに向かって走りだした。

 数を減らしてくれと言われても、これだけの大規模戦は経験が無いので何をするべきなのか思いつかない。


「リゼット、どうしたら良いと思う?」


 困った時には、リゼットに聞けばだいたい何とかしてくれる。


「見たところゴブリンやコボルト、オークにオーガが100匹ってところかしら。

 いろいろいるけど強いモンスターはいなさそうね。

 オークの大群を相手にした時と同じだわ。

 召喚して倒せばいい。

 ご主人様はあたしの召喚魔法を真似れるから前より戦力は2倍ね」


 リゼットは高レベルのネクロマンサーだ。

 ゾンビやスケルトンを大量に召喚できる。


「しかし、他の冒険者達が驚かないかな?」

「デーモンロードの時に一角を任されたくらいだからみんな知ってるでしょ。それより、急がないと怪我人が出るわよ」

「そうだな。冒険者なら俺達の噂は聞いてるか」


 会話が終わるとリゼットがアンデットを召喚していく。

 合計で60体のモンスター達だ。

 俺もリゼットの召喚魔法を真似る。

 リゼットと同じ数まではいかないが、45体のモンスターを召喚する。


 その光景を見た若手の冒険者達が喝采を上げていた。

 

「蒼い魔法剣士のユウキとネクロマンサーのリゼットが参加するぞ」

「これで楽勝だな」

「初めて見るけどすごい数だな」

「ああ、これなら俺達が無理する必要はないな」


 アンデットが進軍し始めると、前線を担当していた若手の冒険者達は邪魔にならないようにと、後方に回ってフォローをし始めた。


 モンスターはアンデットを相手に善戦をしていた。

 アンデットは数が多いが一体一体は弱い。

 それでも、他の冒険者達の協力のおかげで確実にモンスターの数を減らしていた。


「おい、やばいぞ」

「何だあれ?」


 優勢だった戦いの中で冒険者達がざわつき始めた。

 前の方で戦っていたバルパスたちも急いで戻ってきた。


「まずいぞ。アースドラゴンだ」

「強いのか?」

「ああ、ドラゴンの中では弱い方だが、それでも俺達中級冒険者では難敵だ。

 倒せるだろうがこちらに相当の被害が出るぞ。

 街に戻ってき救援を呼ぶ必要があるな」


「ご主人様がいるから大丈夫よ」


 焦った様子のバルパスにあっけらかんとリゼットが言う。


「確かに、ユウキならデーモンロードを倒した実績があるが……」

「危険です」


 フィーナが心配そうに言ってくる。


「大丈夫よ。ご主人様を信用しなさい。それに、ドラゴンはすぐそこまで迫ってるわよ」


 見ると召喚したアンデットの群れはドラゴンに蹴散らされていた。

 ジャイアントスケルトン5体がかろうじてドラゴンの進行を止めている。

 他のモンスターは、ドラゴンを見て逃げてしまったようだ。


「俺で本当に大丈夫なんだろうな?」


 小声でリゼットに確認する。


「大丈夫、アースドラゴンは火も吐かないし、ただ力が強くてウロコが硬いだけだから、ご主人様なら楽勝よ」


 小声で答えた後、思い出したようにティアーヌに話しかける。


「あっ、ティアーヌは守りの魔法と回復をお願いね」

「わかったにゃ」


 今まで出番のなかったティアーヌは喜々として防御魔法をかける。


 うーむ。

 冒険者達からは期待の視線が集まってるし、リゼットが言うなら危険も無いのだろう。


「俺に任せて、みんなは危険だから援護だけ頼む」


 内心の心配は表に出さないように力強く宣言する。


「わかった」


 ドラゴンファングのメンバーは後ろに下がりながら他の冒険者に援護するように言って回っている。

 ジャイアントスケルトンもドラゴンに倒されて、すぐそこまでドラゴンは来ていた。


 ドラゴンは高さは5メートルほどで四本足の首の長い恐竜の様な姿をしていた。

 アースドラゴンという名前だけあって羽は小さく空は飛べないようだ。


 他の冒険者達が弓や魔法、剣のスキルで遠くから攻撃する。

 多少はダメージが入っている様子でドラゴンは嫌そうに体を震わす。


 そして、片方の前足を大きく上げると踏みつけようとしてきた。

 大きいため迫力はあるが動きはそれほど速くない。

 難なくかわすと足を斬りつける。

 ウロコが硬いと言ってたが、剣の性能のおかげか力が強いからか簡単に切り裂けた。


 足が太いため大した深手ではないらしく、勢い良く蹴りつけてきた。

 いきなりのことで反応できずに蹴り飛ばされる。


 ぐおっ!


 三メートルほど、吹き飛ばされる。


 いってぇ!


 痛いが、すぐにティアーヌが回復魔法をかけてきて痛みが消える。

 それほど大きいダメージではない。

 ティアーヌがいるし死ぬことはないだろう。


 うーむ。

 剣で戦っても勝てそうだけど体がでかいから時間がかかりそうだな。

 ドラゴンも痛みで暴れるしヘタしたら他の冒険者に被害が出てしまう。


 どうやって戦うか少し考える。

 ふと、昨日魔法院で見せてもらった上級破壊魔法のエクスプロージョンを思い出した。


 やってみるか。


 そう考え、ドラゴンの頭に向けて手の平を向けると、エクスプロージョンを念じる。


 バーン!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド。

 

 激しい爆発が発生したが、ドラゴンは本能によってかわしたらしく顔の横が少し焼けたが致命傷ではない。

 その後に断続的に繰り返される爆発を体で受けて耐える。

 それなりにダメージは入ったようだが、まだ元気だ。


「ゴオオオオオオオオオ」


 怒り狂ったドラゴンが突進して来た。


 それなら、ジョジゼルから覚えたパワースマッシュはどうだ!


 剣から衝撃波が出るとドラゴンにぶち当たる。

 重量のあるドラゴンを吹き飛ばすほどではないが突進が止まりぐらついた。


 いまだ!


 ドラゴンの頭に向かってエクスプロージョンを放つ。

 爆発によって焼けるがドラゴンはなおも耐える。

 そして、俺に向かって再び突進し始める。

 しかし、続く連続した小さな爆発の連鎖がドラゴンの体を襲う。

 爆発の衝撃によってドラゴンの体が左右に揺れる。

 それがしばらく続くとついに力尽きたドラゴンは大きな音とともに地面に倒れ込んだ。


 後ろを振り返ると、フィーナ達は嬉しそうにすぐに近寄ってくる。


「さすがご主人様ですね」

「すごいにゃー。ランセットが使っていたエクスプロージョンかにゃ?」

「あたしの予想通りだったわね」


 冒険者達も大きな声をだして喜んでいた。

 俺も勝つことが出来てひと安心する。


「ドラゴンを倒すとはすごいな。勝利の祝いだ! 今日は奢らせてくれ」


 バルパスも喜び祝ってくれている。

 他の冒険者も俺の体を叩きお礼を言ってくる。


 しかし、勢いでドラゴンを倒してしまったが俺は後悔していた。

 デーモンロードとの一件があるとはいえ、あまり目立った行動はしたくない。

 できれば、ひっそりと目立たず暮らすのが俺の希望だ。


 冒険者仲間たちには強く誘われたが、話のネタにされるのもあまり好まない。

 惜しまれながらも約束があると、酒場は断って魔法院に行くことにした。


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