異世界の一日(12:00)
「おかえりなさい。ご主人様」
剣の訓練場から帰ってきた俺をメイド姿のリゼットが出迎える。
ティアーヌも出迎えてくれるが、買ったメイド服のサイズが合わなかったため私服だ。
「メイド姿のリゼットは本当にかわいいな」
リゼットの頭を撫でる。
最近ではリゼットの頭を撫でるのが癖のようになってしまった。
「むー。にゃーもメイド服、着たいにゃ」
ティアーヌが頬を膨らまして拗ねている。
「何日かしたら出来るから、それまで我慢しろ」
ティアーヌの頭をなでて慰めると、途端に機嫌がよくなりニコニコと笑った。
「私もメイド服着たいです」
フィーナも不満気な表情で訴えてきた。
メイド服はきちんとあるが、俺と一緒に剣の訓練場に行っているから着る機会が少ない。
「あなたは、いつもご主人様にくっついてるでしょ」
リゼットに指摘されても、フィーナは納得いかない表情をしている。
「まあまあ、定期的に休む日をつくるから、その時には嫌と言うほど見てやる」
その言葉に、三人ともほのかに頬を赤らめる。
エッチな想像でもしたのだろう。
まあ、エッチなことをするのは間違いなのだが。
「あ、お料理が冷めちゃうわ」
リゼットが体の前で手をパンと合わせる。
午前中の剣の稽古ですっかりお腹をすかせた俺は足早に食卓に向かう。
居間に行くと、テーブルの上には豪勢な料理が並んでいた。
この世界の食材は、基本的には地球と変わらない物が多かった。
主食はイモ類が基本だが、小麦も取れパスタやパンも普通に売られている。
特に商業都市であるこの街では様々な食材が手に入った。
だが、米という文化は無いらしく、ご飯が食べられないのだけは、日本人の俺にとって唯一の不満だ。
今日のメニューは、パン、ニョッキのトマトソース和え、ローストビーフ、イモのポタージュスープ、サラダ、鶏肉とイモと玉ねぎの洋風煮物、マッシュポテト。
デザートにりんごのトルテと紅茶があった。
洋風煮物とマッシュポテトはリゼットが作ったもの。
リゼットは田舎風のイモ料理が多いが、和食に近い味わいがあり俺のお気に入りだ。
その他のコース料理風の豪華な料理は、ティアーヌが作った。
ティアーヌは、教会での生活が長かったわりに、料理やファッションなど普通の女の子が好むような事が好きなようだ。
お菓子作りは自信があると得意気に言っていた。
量が多いが、フィーナもティアーヌもよく食べる。
俺は転生前は食べない方だったが、剣の稽古をしているせいか最近は妙に食欲がある。
食事はあっという間になくなってしまった。
「二人の料理はほんと美味しいな。毎日食事が楽しみだよ」
リゼットもティアーヌも俺に褒められて嬉しそうにしている。
「ご主人様にそう言ってもらえると作りがいがあるわ」
「もっと美味しいものを作れるように頑張るにゃ~」
食後のデザートにトルテと紅茶を楽しむ。
「ところで、お前達に給与を出そうと思うのだがいくら欲しい?」
今までは、必要な物を俺が買っていた。
しかし、働いてもらっている以上はきちんと報酬をあげたい。
「ご主人様には十分買ってもらってます。これ以上お金なんていらないです」
フィーナは頭と手をおもいっきり振って拒否した。
「でも、欲しいものもあるだろう?」
「にゃーは、家をもっと華やかにしたいにゃ」
「そうね、あたしも欲しいものがあるわ」
「だろ? 俺にいちいち言うのも手間だし、俺に言い難いものもあるだろう」
「でも……」
フィーナが心配そうな顔を俺に向けると、リゼットがフィーナに耳打ちをする。
すると、フィーナの顔が一気に明るくなった。
「はい、頂きたいです!」
「何を内緒で話したんだ? まあ、リゼットのことだから悪いことでは無いと思うが……。それで一ヶ月でいくら必要だ?」
「ホントは、ご主人様にきめて欲しいんだけど。お金の価値に疎いから仕方ないわね。そうね、銀貨5枚もあれば十分よ」
「わかった。じゃあ、銀貨10枚出そう」
「そんなに必要ないわよ」
「良いんだ。お前達には余裕を持ってほしいからな。余ったら貯めておけばいい。緊急で必要になる時もあるだろう」
「ありがとうございます。今まで以上に頑張ってお返しします」
フィーナが勢い良く頭を下げる。
「いや、今まで以上に頑張ったら逆に心配だ。むしろフィーナには趣味を持ってほしいな」
「私の趣味はご主人様の世話をする事です!」
体の前で両手をギュッと握りしめて真剣な眼差しで見つめてくる。
嬉しいが、ちょっと怖い気もする。
「そっ、そうか。まあ、ほどほどにな」
そんな会話をしながらゆったりとした時間を過ごした。