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異世界の一日(8:00)

 この世界の朝は早い。

 魔法の光による明かりは存在するが、高価で裕福でないと買えないようだ。

 だから、街の人々は日が昇る前に起きて日が暮れると寝てしまう。

 俺が家をでる頃には、街は活気にみちていた。

 人口1万人というアリノール国の大都市であるブルージュは、商業都市であるがゆえ特に活気があるという話だ。

 朝から商人が活発に呼びこみをしている。

 俺は高価そうな剣と鎧を持っているからか、貴族に間違われて商人によく呼び止められる。

 そんな街の喧噪から逃れるように、城壁の近くにある剣の訓練場に来ていた。


 訓練場には冒険者や衛兵など多くの人が訪れている。

 そのため、都市の中心部とは違った熱気が溢れかえっていた。


「まだまだだな」


 犬族の女剣士に為す術もなく打ちのめされた俺は、剣の訓練場の稽古場で大の字で寝転ぶ。

 稽古場とは言っても中庭の様なものだ。

 寝転ぶと草の香りがするし、かすかな風がほてった体に心地よい。


 ジョジゼルが立ったまま俺を見下ろして言う。


「ユウキは、スキルや筋力、スピードは申し分ないが戦いの組み立てが出来てないな」


 レベルや能力値で言えばジョジゼルより俺のほうが上だろう。

 格闘ゲームに例えれば、強キャラを使っているようなものだ。

 だが、プレイヤー連続攻撃コンボや立ち回りを知らない初心者だ。

 俺の攻撃はかわされ、硬直刈りをされ、連続攻撃コンボを受ける。

 ジョジゼルは剣士としての実力も高いので、『小足見てから昇竜余裕でした』状態だ。


「俺の戦い方が下手なのはわかるが、ジョジゼルも強すぎだ。

 これだったらジョゼットと訓練した方がいいんじゃないか」


 ジョジゼルは剣の訓練場の師範であり、剣の達人の剣聖レナルヴェの弟子だ。

 背は俺より高く褐色の肌を持ち筋肉質。

 女性らしく胸もお尻も大きいが、顔は凛々しくて女性にモテそうに見える。

 子供の頃から剣一筋で生きてきた彼女にかなうわけがなかった。


「なら魔法を使ったらいいじゃないか。

 回復魔法以外は使ってないのだろう?」


 確かに、俺は魔法を使ってない。

 ただ、俺の持っている初級の付与魔法による強化なんて使っても意味ない。

 元々ステータスの上では俺のほうが高い。

 かと言って召喚魔法や破壊魔法を使い出したら、それは剣の訓練ではない。


「俺は剣の訓練をしにきているんだ。お前に勝ちたいわけじゃ無い」


 少しムッとして上半身だけ起き上がり言い返すと、腰に手を当て顔を近づけて言ってくる。


「言っておくがな、お前のほうが剣速、威力ともに高いんだぞ。

 初めて戦った時には、わたしも勝てなかっただろ」

「うっ、わかっているよ」


 気圧されて無意識に体を引いてしまう。


「じゃあ、なぜ今、わたしに勝てないか?

 それは、わたしがお前の癖を覚え対策を考えたからだ」

「それもわかってる」

「わたしの動きに慣れろ。

 どうしたら隙をなくせるのか。

 どうやったら反撃できるのか。

 考えて勝つイメージを持て。

 そうすれば、近いうちに剣で対等に戦えるようになる」


「やれやれ、ずいぶんなシゴキだな」


 異世界に来る前の俺だったらすぐに逃げ出していただろう。

 でも、俺はこの世界で努力すると決めたし、努力する意味も見いだせた。

 だから、こんなつらい課題も耐えられる気がする。


「わたしはこうやって教わって来たからな、他のやり方は知らない。

 ……ところで、フィーナという女性は彼女なのか?」


 ジョジゼルが顔を真っ赤にして聞いてきた。

 先程までは、強気な態度のせいか実際より大きく見えた体が、縮こまって小さくなって見える。

 表情もキリッとした顔から恥ずかしそうな顔になり妙にかわいい。


「え?」


 突然の質問にびっくりしてしまう。

 フィーナを含めた三人は、社会的な立場としては俺の所有物だ。

 三人とも不本意ながら犯罪者になってしまった。

 それを助ける手段として、俺が責任を持つ代わりに俺の物になる。

 彼女たちとは同意の上、そういう関係になった。


 だが、俺は異世界では奴隷のような存在である所有物としては接していない。

 まさに、彼女の様に扱っている。


「そうだ」


 聞かれれば同意するしか無い。

 違うと言ってしまうのは彼女たちに申し訳ない気持ちがある。


「やはりそうか、ユウキほどの男なら一人や二人いても不思議はないな」


 実際には三人だけどな。


 心のなかでツッコミを入れてしまう。

 この世界では、強い冒険者や強い権力を持つ貴族などが、複数の嫁を持つことは普通の事らしい。

 だから、三人と彼女になった所で誰からもとがめられることはない。


「なんで、そんなことを聞くんだ?」

親友ライバルの事は知っておきたいんだ!」


 語尾を強くして言ってきたが、理論がむちゃくちゃだ。


「さあ、休憩は終わりだ。次はもっと厳しく行くぞ」


 そう言いながらも笑顔で俺に手を差し出す。

 俺は困惑しながらも手をにぎると勢い良く立ち上がった。


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