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訓練場と魔法院(後編)

 魔法院はレンガ造りで、小さな校舎のような形をしていた。


 所属している人は50人程度。

 初級魔法であれば授業で教わる事ができる。

 中級魔法を覚えるには、レベルの高い人に頼んで弟子にして貰うらしい。

 上級魔法は、使える人が院内では3人しかおらず、なかなか教えてもらう事はできない。

 そのため、中級以上の人たちは本を読んだり研究したりして独学で覚える。


「リゼットはいつ情報を手に入れたんだ」

「料理の買い出しのついでに聞いただけよ」

「ご主人様に喜んでもらうって張り切ってたにゃ」

「ティアーヌ! 余計な事いわないの!」


 顔を真っ赤にしている。


「リゼット、ありがとうな」


 頭をなでなでしてあげると、不機嫌な顔をしなからも素直に撫でられる。


 大き門をくぐり、両開きの木の扉を開けると小さな部屋だった。

 部屋の奥には受付らしき机があり入口も含めて四方には扉がついていた。


 奥の机には女性が座っている。

 メガネをかけて黒髪をポニーテールにした二十代前半に見える細身の美人だ。

 黒いベストとズボンを着てる姿はカジノのディーラーの様だ。


「はじめて利用するのですが、どうしたらいいですか?」

「貴方がユウキさんですね?」

「はい」


 彼女は俺たちの事を興味深げに眺める。


「青い鎧を(まと)った物腰の柔らかい魔法剣士と、凄腕の少女ネクロマンサー。噂に聞いた通りね」


 満足げにうんうんとうなずく。


「話は聞いているわよ。あなた達はこの施設を好きに使っていいわ。

 ただ、魔法使いには変わった人が多いから気を付けた方がいいわよ。

 折角だからワタシが案内してあげましょうか?」


「それはありがたい」


 俺はその申し出を快く受けるが、フィーナは俺に小声で忠告してきた。


「気を付けた方がいいです。この人、何か変です」


 リゼットも警戒していて瞬時に対応しようと身構える。

 部屋が重い空気になるが、受付の女性はにこにこしている。

 その緊張を破り、机の後ろにある扉が開くと、恰幅(かっぷく)のいいおばさんが出てきた。


「あら? ローリアナちゃん。また受付の真似事をしてたの?」

「だって、キャサリンが居なかったから代わりにやってあげたんだよ」

「そう言っていつも、お客様に幻術をかけて怖い思いをさせてるじゃない」

「普通に案内しても面白くないじゃん。別に命に関わることはしてないし」


 いやいやいや。

 怖い思いってなんだよ。

 それに命にかかわることって……。


「ごめんなさいね。

 彼女はここの上級魔術師のローリアナ。

 お客様にすぐにイタズラするの。

 すぐに戻ってきてよかったわ」


 どうやら、キャサリンと呼ばれた、おばさんの方が本物の受付らしい。


「ねえ、いたずらしないからワタシに案内させてよ」


 不安だ。

 落ち着いた女性に見えるが、明らかに中身は別だ。

 フィーナとリゼットの洞察力に感心する。

 俺が躊躇(ちゅうちょ)していると、ローリアナは腕を掴み引っ張って行こうとする。

 キャサリンに助けを求める視線を送る。


「もう何もしないと思いますから大丈夫ですよ。

 じゃあ、あたしは忙しいからローリアナちゃん案内お願いね」


 ローリアナは子供のよう小さくジャンプして喜ぶと小さめの胸をどんと叩く。


「やったー、わかったわ。ワタシに任せて」


 不安だ。

 フィーナとリゼットも不安げな顔をしている。

 なぜかティアーヌだけはにこにこしていた。


「じゃあ、付いてきて」


 彼女は返事も聞かずに右の扉を開くと、ずんずんと先に歩いて行ってしまった。

 仕方なく彼女を早足で追う。


 扉の先の廊下を歩いていると、授業の時間らしく廊下に並んだ扉の中から講師と思われる人の声が聞こえる。

 彼女は教室には目もくれず廊下の突き当たりにある階段を上がっていく。

 二階も一階と同じく廊下に扉が並んでいた。

 しかし、一階と違って話し声のようなものは聞こえない。

 空いている扉を覗くと、本や魔法石、得たいの知れない物が置いてあった。

 雰囲気から察するに研究室の様だ。

 廊下の突き当たりにある扉の前に立つと彼女は大きな声で呼び掛ける。


「ランセットちゃんあーそびーまーしょー」


 暫くの静寂な時間が過ぎた後、荒々しく扉が開く。


「アタシは忙しいっていつも言ってるでしょ!」


 出てきたのは、リゼットと同じぐらいの見た目の少女だった。

 青い髪を左右で三つ編みにしているが、所々ほつれているしボサボサ頭だ。

 前髪も長く目が隠れている。

 着ている青いローブはヨレヨレだ。


 そんな、彼女が両手を腰に当てて薄い胸を張ってを威圧している。


「今日はねー。凄いんだよ!

 噂の魔法剣士とネクロマンサーを連れてきたんだ」


 そう言うと、手を広げて俺達を紹介する。

 ランセットと呼ばれた少女は、リゼットに顔を向けると勢い良く近づいた。


「あなたが凄腕の少女ネクロマンサーね。

 子供なのにすごい魔法が使えるってもてはやされてる様だけど、アタシの方が絶対すごいんだから」


 ランセットが今度はリゼットの前で、先程と同じ様に腰に手を当てて胸を張り威圧している。

 背が小さい為、あまり怖くはなく、リゼットのように胸をなでなでしたくなってしまう。


 俺はロリコンじゃないので、ホントにはしないが。


「あなたは有名な上級破壊魔法を使う子供ね?

 あたしは中級魔法までしか使えないし、あなたの方がすごい才能をもってるわ」


 リゼットは呆れた顔で素直に負けを認めた。

 実際、12歳かそこらの年齢で上級魔法が使えるのなら天才少女と言えるのだろう。


「何よ! その余裕の表情! なんか気に食わないわね」


 あっさりと負けを認められたため肩透かしを食らい不満気な声をもらした。


「むー、勝負よ! アタシと勝負しなさい」

「勝負って何するのよ?

 まさか、戦う訳じゃないわよね?

 それに、あたしは既に敗けを認めてるのよ?」


「うー!」


 ランセットは唸りながら、ダンダンと音を立てて地団駄を踏むと、指を突きつけて叫んだ。


「そう言うことを言ってるんじゃないの!」

「そんな事より、魔法を見せてもらおうよ。

 ネクロマンサーの召喚術も見たいし、どんな属性でも使える魔法剣士の魔法も見てみたい」


 ローリアナは、ランセットの(いきどお)りなど、全く気にせず期待した目で俺たちの方をみた。


「そんな事なんかじゃないわよ!」


  これじゃ魔法院の案内どころじゃない。

 二人をどうしようか悩んでいると、後ろから優しいおだやかな声が聞こえてきた。


「ホッホッホッ。騒がしいから来てみたら噂の方々が来ておったのか」


 振り返り姿を見てみると、年老いた魔法使いが立っていた。

 なぜ魔法使いとわかったのか。

 それは長い白髭を生やし、つばの大きいとんがり帽子と黒いローブ、長い木の杖を持っていたからだ。

 童話に出てくる様な姿をした魔法使いは、髭を擦りながら笑っている。

 その和やかな雰囲気にもかかわらず、ランセットとローリアナは緊張した顔で直立していた。


 さっきまでの騒がしさと全く違う。


 俺たちが不思議そうに老人と二人の女の子を交互に見ると、年老いた魔法使いはゆっくりと口を開いた。


「うちの子達が騒がしくしてしまって申し訳ないの。

 ワシはこの魔法院の院長を勤めさせてもらってるフークーリンじゃ」


 名乗ると、うやうやしく頭を下げる。

 それを見て俺もすぐに頭を下げた。


「初めまして、こちらで魔法を教えてもらいたくて来ました。

 ユウキと申します。彼女達は仲間のフィーナとリゼットとティアーヌです」

「ホッホッホッ、冒険者なのにしっかりとした若者じゃな。

 礼儀ただしいのは良いことじゃ。

 そうじゃな? ふたりとも」

「「はい、院長先生!」」


 二人は直立したまま身を固くして、声を揃えて返事をした。

 院長先生は愉快げに笑っているが、有無を言わせない雰囲気を感じる。

 フィーナたちも緊張している様だ。


「せっかくじゃ、ワシにも魔法を教えてくれんかね?」

「構いませんが、院長先生に教えられるようなことが私たちにあるかどうか……」

「魔法とは奥が深いものじゃ、どんなことにも学びはある。

 ここでは魔法を使いづらい、裏庭にいこうかの」


 院長に先導されて広い庭についた。

 裏庭は魔法の実験に使われてるらしく、地面の所々が焦げてたり、めくれていたり、奇妙な植物が生えてたりと乱雑とした不思議な空間だった。


「さて、まずは召喚魔法を見せてもらえるかな?

 アンデットの召喚魔法は珍しくてな。

 出来れば中級じゃと嬉しいのじゃが」


 院長はリゼットに向かって優しく声をかける。

 リゼットは少し躊躇(ちゅうちょ)して、俺に視線を投げ掛ける。

 俺は無言でうなずくと、リゼットはジヤイアントスケルトンを三体召喚した。


「すごいすごい!」


 ローリアナは、ぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。

 ランセットは、ふんっと不満そうな表情をしている。

 院長は、ふむと小さくうなずく。


「こんな大きなスケルトンを三体も出すとはなかなかの魔力じゃの。

 この魔法をどこで覚えたか教えて貰ってもいいかな?」

「四十年ほど前に田舎の村にやって来た魔女に教えてもらいました」

「名は?」

「メイヴェ」


 院長は目を細めて髭をしごく。

 何かを思い出しているようだ。


「ご存じなのですか?」

「ああ、昔馴染みじゃな」


 その表情には懐かしさと寂しさが現れていた。


「四十年前ってリゼットは何歳なのよ!?」


 ランセットが驚いた表情で聞いてきた。


「47才よ」


 まったく躊躇するそぶりもなくリゼットはあっさりと年齢を教える。

 ランセットは身体を震わすと肩を落として、がっくりとうなだれた。


「なんだ、随分年上なんじゃない。

 張り合って損したわ。

 研究室に戻る」


 寂しそうにとぼとぼと戻ろうとするが、院長に止められる。


「これこれランセット。

 魔法を見せてもらったんじゃ。

 お礼にお前も何か使ってみなさい」


 ランセットはやる気のない態度で手をかざすと、庭の中央に爆発が起こった。


 ボン!

 ドドトドドトドドト。


 爆発は断続的にしばらく続くと収束する。


「今のが上級破壊魔法のエクスプロージョンよ。

 範囲を抑えて使ったけど、本気でやれば魔法院が跡形もなくなるわ」


 簡単に使ってみたがすごい威力であることは明白だ。

 後で俺も真似してみよう。


「すごいにゃ!

 小さいのにかっこいいにゃ」


 ティアーヌはランセットに抱き着くと高い高いをするように持ち上げた。


「ちょっとなんなのよ!

 おろしなさいよ!」


 ティアーヌは全く話を聞かずに抱きしめると頭をぐりぐりと撫でる。

 ランセットは困りながらも少しうれしそうだ。

 院長は微笑ましそうに見るとすぐにローリアナに促す。


「次はローリアナがやってみい」

「はい!」


 ローリアナは自信ありげな顔で、腕をまくると手をかざす。

 すると、庭の地面から赤いドラゴンがせり上がってきた。


「ドラゴンを召喚? あり得ないわ!」


 リゼットが叫ぶと臨戦態勢を整える。

 フィーナも剣を抜くと俺をかばうように前に出た。


「違う、これは召喚魔法じゃないわね。

 ってことは、受付の女性が言ってた幻術?」


 リゼットは違和感に気づき、すぐに冷静さを取り戻す。


「ホッホッホッ。素晴らしい観察眼じゃ。

 その通り、ローリアナは上級変性魔法の使い手で、特に幻術を得意としておる」

「凄い、予想以上よ。

 思った通りあたしには変性魔法が合ってそうだわ。

 召喚魔法と組み合わせれば色んな事が出来そう」


 リゼットは感心しながらも自分ならどう使うかを楽しそうに考えてる。


「どう? ワタシも凄いでしょ? もっと色んなこともできるのよ」

「ああ、すごいな。こんなのを見せらせたらみんな腰を抜かすよ」

「幻術だと思って(あなど)らぬ方がいいぞ。

 人は幻と思っていてもドラゴンの炎のブレスをあびれば熱く思うものなんじゃ。

 身体が反応して火傷をすることもある」


 軽く見ている俺に戒めるように説明する。

 確かに聞いたことがある。

 人間は思い込みによって実際に無いものも本当にあるように感じることがある。

 俺が好きだった幽体離脱(明晰夢)の様に。


「すみません。その通りですね。

 幻でも命に関わることはあります」

「素直に謝れるとは凄い若者じゃな。

 頭も良さそうじゃ」


 院長は驚いた後で、にこにこと笑う。


「さて、今度はワシの番じゃな。

 とは言ってもワシは二人ほど強力な魔法は使えん」


 そう言うと両手の手のひらを上に向けて俺たちに見せてきた。


「院長先生あれをやってくれるんですか?

 やったー」


 ローリアナは子供のような笑顔ではしゃぐ。

 興味をもって手のひらを覗いていると、右手から火が、左手から水が出ると渦を巻いて立ち上る。

 しばらくすると、火と水は絡むように螺旋を描き出す。

 それは、蛇のように空中をくねくねと動くと、中国の龍の様な姿に変わった。

 龍は俺の方に顔を近づけると炎の舌をチロチロと出し威嚇したかと思ったら、水を吐き出した。


 うお!


 俺は顔に水がかかり、驚いて手でぬぐうと火と水の龍はいなくなっていた。


 みんなの拍手が巻き起こる。

 ローリアナもランセットもフィーナもリゼットもティアーヌも拍手をしている。

 それほどの感動があった。


「どうじゃ?

 初級魔法のトーチとウォーターでもこんなことが出来るんじゃ」

「二つの魔法を同時に操ることなんて出来たのね。

 しかも、あんなに自由自在に操るなんて」

「難しいことなのか?」

「出来るなんて発想もなかったけど、右手で文字を書きながら、左手で絵を描くようなものね」


 それは難しそうだ。

 しかし、出来たら面白い技術でもある。

 好奇心で試して見る。 


 右手にトーチの火をだす。

 これは簡単だ。

 左手でウォーターを出してみる。

 出た。

 水を出してから火が不安定になるが、両手でそれぞれ魔法を使うのはそれほど難しくはなさそうだ。


「ご主人様が何でもできるのは知ってたけど、そんなことも簡単にできちゃうのね」

「ご主人様すごいです」

「すごいにゃー」


 リゼットは呆れ顔で、フィーナとティアーヌは感激した顔で俺を見ている。


「すごーい。院長先生と同じことが出来る人なんて初めて見た」

「ホッホッホ。ユウキくんにも何かしてもらおうと思っていたが、その必要もなかったの。

 その技を覚えられた者は何人かいたが、見ただけで真似できた者は初めてじゃ」

「アタシだってできないのに、剣士ごときが出来るなんて!」


 ランセットはティアーヌに抱えられたまま、悔しそうに足をバタバタさせた。

 どうやらずっと抱えられていたようだ。


「剣の上級スキルを一日で覚えたというが、ひょっとして魔法も真似できるのかね?」

「多分できます」


 エクスプロージョンは危険なので、幻術のドラゴンを出してみる。

 ローリアナを真似して庭の中央に手をかざして意識を集中する。

 すると、地面からドラゴンが出てきた。

 俺の作ったドラゴンは薄く半透明でサイズも小さい。

 精度の上ではローリアナに劣るがそれでも幻覚を見せる事ができた。


「魔法のアイテムでも使ってたりするのかね?

 もしくは特殊な薬を飲んだとか」


 院長は興味深そうに聞いてくる。


「いえ、気がついた時には出来るようになってました。

 私自身なぜ出来るのかはわかりません」

「これはセンスが良いという次元を超えてそうじゃな。

 生まれながらのスキルを持っているのかもしれんな」


 髭を扱きながら思考を巡らせている。

 しばらくの沈黙の後、院長はハッと顔を向ける。


「おっといかんいかん。

 いつもの癖で考えこんでしもうた。

 時間を取らせてすまなかったな。

 今日は面白いものがたくさん見れた。

 感謝するぞ」

「いえ、こちらこそ珍しい物を見せてもらいました。ありがとうございます」

「それで、魔法を学びたいそうじゃが、誰が何を学ぶのかね?」

「にゃーは、この子に破壊魔法を教えてもらいたいにゃ」


 ティアーヌはランセットを抱えたまま嬉しそうに言うが、ランセットは迷惑そうな顔をしている。


「なんで、アタシが教えなきゃいけないのよ。

 だいたいあなたプリーストでしょう?

 破壊魔法は使えるの?」

「使えないから基本から教えてほしいにゃ」

「なんでアタシが、って言うかいい加減おろしなさい」


 バタバタ暴れるが、ティアーヌは離す気はないらしい。

 院長は少し考えると、にこやかに笑う。


「それは名案じゃな。

 ティアーヌさんに破壊魔法を教えてあげなさい」

「え! なんでアタシが教えなきゃいけないんですか?」

「研究ばかりでは学べることも少ない。

 これはお主のための勉強でもある。

 その娘を立派な破壊魔法使いに育て上げてみい」


 不満な表情をしているが、院長先生には逆らえないらしく、仕方なく了承する。


「良いんですか?」

「まあ、駄目だったらその時、考えればよい。

 して、リゼットさんはどうするかな?」

「あたしは変性魔法を覚えようと思います。

 召喚魔法とうまく連携させれば戦いの幅を広げることが出来ると思うんです」

「変性魔法ならワタシが教えてあげる」


 ローリアナは、リゼットの手をにぎると満面の笑みを浮かべる。


「ほぉ、ローリアナが教えるというのか?

 それも面白いの、どうじゃリゼットさん?」

「あたしは魔法の基礎は知ってますし、ローリアナから教えてもらったほうが効率が良いかもしれません。それに……」 


 リゼットは横目でローリアナをちらりと見る。


「彼女のことは少し気になります」

「そう肩を張らずに遊び相手をする気持ちでやればよかろう。では、そろそろ戻ろうかの」


 リゼットの肩を軽く叩くと建物の方に歩き出した。

 少し歩いた後、思い出したように振り返る。


「おお、忘れておった。

 ユウキくんは教えて貰う必要もないじゃろ。

 適当に院内を歩き回って人の魔法を見て練習でもしたら良い」


 そう言い残して、ホッホッホと笑いながら建物の中に戻っていった。

 それからしばらく院内を案内されたが、二人では満足に案内する事が出来ず、結局キャサリンに案内される事となった。


……


 家につき、夕食を済ませ体を拭いてもらい寝る準備をする。

 寝る前には三人にトーチとウォーターの魔法を教えた。

 教えると言ってもただ単に使ってみせるだけだが。


「さて寝るか」


 俺はベッドに横たわると目をつぶる。


「あれ? 今日はしないんですか?」


 フィーナが不思議そうに声を上げた。

 不思議に思うのも当然だ。

 リゼットを仲間にした日を除けば一日だって欠かしたことが無い。


「今日は朝からティアーヌに搾り取られたから元気がなくてな」

「ご主人様がですか?」


 リゼットが驚いたような声を出す。

 元気が無いのも本当だが二人には見捨てられたからな。

 ちょっとした仕返しだ。


 フィーナとリゼットの鋭い目線がティアーヌに突き刺さる。


「に”ゃ!」


 ティアーヌは恐怖に身を震わすと耳を伏せた。


「ティアーヌを責めるんじゃない。

 お前達も止めなかったんだからな。

 とにかく今日はゆっくり休もう」

「そうですね」


 フィーナはすごく寂しそうな顔をした。

 リゼットは顔には出さないがやはり残念そうだ。

 ティアーヌは縮こまってしまってる。


 ちょっと可哀想な事をしたかな?

 いやいや、これは仕返しなのだから心を鬼にしないと。


 寝ようと再び目をつぶる。

 いつもと同じようにフィーナとリゼットを抱えるような格好で寝ているが、二人共いつもより密着している気がする。

 しばらく静かにしていたが、フィーナが切なそうな吐息を出しながら俺の胸をなでて、さらに足を絡めてきた。

 つられてか、リゼットも俺の胸をなでる。

 これでは気になって寝るどころではない。


「触れてると寝られないのだが」

「あっ、ごめんなさい」

「やだ! あたしったら」


 フィーナとリゼットはすぐに手を引っ込める。

 が、フィーナは絡めた足はそのままだ。

 しばらくすると今度は足を絡めたまま腰をもじもじさせる。

 荒くなった吐息も首筋にかかるので微妙にくすぐったい。

 リゼットも落ち着かなそうにもぞもぞと動いている。

 どうやら、しないと収まりがつかない様だ。

 二人共気づかないうちにすっかりエッチな体になってしまったらしい。


 そんな事を考えてると、嫌でも元気になってしまう。

 それに気づいたフィーナは「あはっ」と小さく喜びの声をあげて元気になったモノを触ってくる。

 リゼットもフィーナの動きに気づくと触りだした。


 そこまでされては気持ちも入って、我慢できなくなってしまう。

 勢い良くフィーナに覆いかぶさる。


「触られたら寝られないではないか。

 フィーナにはお仕置きが必要だな」

「お仕置きしてくださるんですか?」


 フィーナは何故か嬉しそうにしている。

 すっかりお仕置きを気に入ってしまったようだ。

 困ったものだ。


 リゼットもティアーヌも期待のこもった視線を俺に投げかけている。

 かわいくもエッチな少女たちに、俺が勝てるわけもなかった。


【あとがきおまけ小説】

 ジョジゼルは嬉しそうに師匠レナルヴェに話しかける。


「ユウキと親友になる約束をしました!」

「おお、そうか。良かったな」

(まさか本気にするとは思わなかったが、面白からいいか)

「これで将来はユウキと……うふふふふ」


 ジョジゼルはユウキとの将来の幸せを思い描き、剣の腕を磨くのだった。


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